★ 機構から


地域ブランド「京都ぽーく」の挑戦

食肉生産流通部 食肉課 安井 護


1 地域ブランド「京都ぽーく」

○補助事業を利用してブランド展開

 京都府の豚の飼養戸数は23戸、飼養頭数は19,803頭と10年前の約半分となっている。しかし、ここ数年、戸数はほぼ横ばいで推移し、16年の飼養頭数は前年よりも増加している。戸数の下げ止まりと頭数の増加、この背景には、養豚農家の子豚生産から加工品の製造販売までのしっかりとした活動があるようだ。

 当機構の畜産業振興事業の一つに地域養豚振興特別対策事業がある。この事業は名前のとおり、それぞれの地域が抱える養豚に関する課題に対して、どのように対応すればよいかをそれぞれの地域が考えて、行う事業に対して機構が支援するものである。
今回、同事業を利用して、地域ブランドを確立し、「京都ぽーく」により、養豚生産の底上げを進めている現地を訪れる機会を得たので、その活動を報告する。

京都府の豚の飼養戸数・頭数の推移

○京都ぽーくとは

 京都府では、昭和58年から京都府畜産研究所(現:京都府畜産技術センター)が地域ブランド豚肉の開発に取り組み、優良な系統豚の組み合わせと能力調査を重ねてきた。その結果生産された銘柄豚が、平成3年に「京都ぽーく」と名付けられた。具体的には、他県の系統豚であるランドレース種と大ヨークシャー種を導入、増殖し、F1生産用およびF1種豚として、農家に供給している。

図1 京都ぽーくの流れ

 また、止め雄のデュロック種(D♂)についても、国などから導入し、増殖して農家へ供給している。

 農家は、これら優良な種豚を導入して、京都ぽーく豚を生産し、飼養管理マニュアルに沿って肥育し、出荷する。飼養管理のポイントは、次のとおりである。

 (1)出荷日齢の目安  195日
 (2)出荷時体重の目安 110キログラム
 (3)給与飼料の指針
    肥育後期仕上げに大麦圧ペンおよび食品残さとしてのパンくずを30%以上(うち大麦圧ペン10%以上)添加した飼料を60日以上給与

 また、京都市中央卸売市場第二市場(京都食肉市場)において、と畜処理され、格付けは並以上とされる。平成16年の生産頭数は2,187頭であった。

 銘柄豚肉ハンドブック((財)日本食肉消費総合センター)によると、銘柄豚肉は全国で255報告されているが、近畿圏では京都ぽーくと奈良県産豚肉ヤマトポークの2事例だけである。

図2 京都ぽーくの生産


2 食品残さ利用でコスト低減

 現在、京都ぽーくなどの銘柄豚肉を生産している農家は5戸、母豚頭数660頭と京都府全体の37%を占めている。これらのうち、4戸の農家が京都市の北西、京丹波町で、飼料コスト低減のため、共同でパンの耳などを加工し、飼料として利用している。

○4戸で共同運営

 布団工場跡の建物を利用して、食品残さを共同で飼料化している丹波高原飼料組合(京丹波町)は、平成13年に4戸の農家の任意組合として結成された。

 京都府内のパン工場や菓子工場からパンの耳や賞味期限切れなどのパン、お菓子の裁断くずなどを購入し、組合の工場で乾燥、粉砕して各自が飼料として利用している。パン工場へは毎日トラックで、原料を受け取りに行っており搬入量は平均で1日7トン、乾燥・粉砕してできるパン飼料は5トンとなる。

 飼料としての需要は、夏は少なく、秋に多くなるが、パン工場からの受入量は、あくまで先方の生産の都合によるので、「夏に少なくして欲しい」とか、「秋にはもっと欲しい」などの無理は言えない。パン工場の都合に応じて、出てくる量をそのまま受け入れている。

図3 パンなどの食品残さの利用の流れ

○原料に応じて異なる工程

 受け入れる原料は、(1)食パンの耳(サンドイッチ用に型抜きした残り)、((2)賞味期限切れなどの袋詰めされたパン、(3)お菓子(小麦粉を使用した細い棒状のスナック菓子)の製造時に発生する裁断くずの3種類である。

 (1)食パンの耳
    そのまま乾燥機にかけて水分を飛ばした後に粉砕する。
 (2)袋詰めパン
    ビニールの袋を機械で破ってから、乾燥機にかけて粉砕する。出来上がりを見ると菓子パンのアンやチョコなどが小さく残っている。
 (3)お菓子の裁断くず
    乾燥しているので、そのまま粉砕するだけ。お菓子の搬入は週に1回である。

 工場のラインは(1)と(2)が同じで、(3)は乾燥工程がないので別ラインとなってる。また、(3)の菓子原料は油脂や糖分が含まれるので栄養価が高く、主にほ育ステージで使う場合が多い。

図4 パン飼料の生産工程

(注)「扱う予定はない」は、もともと取り扱いのない社である

○農家それぞれが工夫して利用

 パン工場に支払う残さの代金は1キログラム当たり1円、工場で生産された飼料は1キログラム当たり15円で構成員に販売し、運営コストを賄っている。

 組合(工場)の運営は共同で行っているが、パン飼料の使い方は各自が工夫を凝らしている。農家は、まず、飼料メーカーにパン飼料との配合に合う基礎飼料を作ってもらう。そして、発育ステージに応じて、パン飼料と基礎飼料の割合を変えて、自家配合している。

 例えば、代表の北側勉さんは、パン飼料とトウモロコシなどを加えた基礎飼料とを半分ずつにして使っている。基礎飼料は肥育前期と後期の2種類あるが、パン飼料の配合割合は50%で同じだ。

 基礎飼料40円なので、単純に考えれば1キログラム当たり25円のコストダウンとなっている。

 しかも、出来上がった豚肉は、肉色は浅く、鮮やかで、小麦主体となることから、脂肪交雑が入りやすいという。

 菓子パンが多いとか、パンの耳が多いとか、投入原料によって、飼料の品質が異なってくるのではないか。それによって、肉質に変化がないか。との問いに北側さんは、肉質に変化が出るほどの影響はないとの答だった。

飼料配合の例

○北側さんの養豚経営

 母豚520頭を飼う代表の北側さんは、昭和49年に大阪府堺市から当地に移動してきた。父親が、大阪府堺市で養豚をやっていたが、そこはお兄さんが継ぐため、北側さんは当地で養豚を始めた。都市近郊型の「残飯養豚」を身近で見ていて、何とか食品残さを利用して、コストダウンできないかと考えていた。

 そんな中でパン工場の残さの話を聞いて、その利用を考え、農場の一角に小屋を造って製造を開始した。その後、利用希望者が増えたため、共同組織を作って布団工場の跡に移ったそうである。

中央が北側さん

 

3 地元の豚肉製品を地元の人に

○京都の農家と一緒にやる

 「京都で生産された豚肉を京都の消費者に食べて欲しい。そんな製品を京都の農家と一緒に作っていきたい」と、意気込みを語るのは有限会社京都特産ぽーく社長の片山昭彦さん。自身も以前、養豚をやっていた片山さんは、おいしい豚肉をそのまま、加工品にして消費者に届けたい、そんな気持ちで京都ぽーくを利用した加工品の生産に取り組んでいる。

 京都ぽーくの加工品生産は平成6年度に今とは別の組織でスタートしたものの、いったんは様々な事情からとん挫してしまった。しかし、養豚農家から「再び、自分たちの豚肉を自分たちで加工して、自分たちのブランドで売りたい」との強い熱意から、平成12年度に農家など4者が出資して今の会社を立ち上げた。現在ではハム、ウィンナー、焼き豚など21品目の加工品を製造・販売している。

 現在のところ、出荷農家は出資者でもある2戸で、京都市場でと畜された後、枝肉を買い入れて施設で部分肉カット後に加工している。

○京都の人に食べてほしい

 製品に添付するシールは、以前、いかにも京都らしい五重塔と大文字の送り火をあしらったものであった。今は、絵はなくて「京都丹波で生まれた銘柄豚京都ぽーくを使った手作りハム!!」とそのものずばりの表現である。以前のシールの方が京都らしくていいのではとの問いに片山社長は、「うちのハムは、お土産にするのではなく、京都の人にこそ食べてほしい。だから、シールも変えました」

 地元産の豚肉を地元の人に届けたいという気持ちを強く感じた。

 今では、販売先も広がり、大阪や兵庫などへも出荷されている。

旧シール
 
新シール
 

○原料が足りない

 京都特産ぽーくが、買い入れる枝肉は1週間に20〜30頭。片山社長自らのトップセールスで、ブランドが定着し、販売量も安定してきた。加工品だけでなく、生肉での販売も開始したことから、もっと販売量を増やしたいところだ。だが、肝心の豚肉の生産が現状では需要に追いついていない。今後の生産拡大が、課題となっている。


4 ブランドは約束

 失礼ながら、京都府はいわゆる「畜産県」ではないし、その中でも養豚が盛んでもない。京都で養豚といっても、多くの読者は「へぇ」という感想を持つかもしれない。紹介した京都ぽーくの取り組みは、養豚農家が「自分たちが地元で作った豚肉を地元の消費者に食べてほしい」という素直で強い気持ちを持ち続けたことがきっかけとなっている。

 国産の強みは、生産現場と消費者までの距離が短いことである。そして、ブランドとは高く売るためのものでは決してなく、消費者に対する約束と言えよう。つまり、われわれは、こういう豚をこういう方法で飼育して、届けていますという約束。約束を守ることがブランド価値を高めることであり、約束を破ったときはそれ相応のペナルティーを受けることとなる。

 今、京都ぽーくでは、生産情報の記録、公表を目指して検討を進めている。行政主導ではない生産者自らがブランドとしての価値を高める動きとして注目できる。

 今回、京都ぽーくの事例を紹介した。補助事業がその成功の一助となっているのであれば、幸いである。

 最後に調査に当たっては、京都府農林水産部畜産課佐々木敬之さん、社団法人京都府畜産振興協会田中浩文さんにお世話になった。記して感謝申し上げたい。


(参考資料)
(社)中央畜産会 畜産会経営情報190号(2005年9月15日)
「おいしさと安全をいつまでも」小島安雄((社)京都府畜産振興協会)

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