★ 機構から


平成17年度「畜産業務について意見を聞く会」を盛岡市で開催

総括調整役 飯田 道夫 


はじめに

 当機構は、平成15年10月1日に独立行政法人として発足以来、その業務運営の適正・効率化、透明性の確保を図るため、「畜産業務について意見を聞く会」を毎年度開催してきている。

 平成17年度は、11月17日に、盛岡市で開催し、東北各県の各畜産分野代表7名、岩手県畜産関係団体代表10名、農林水産省、東北農政局、岩手県農林水産部などから多数ご参加いただき、現下の畜産をめぐる課題と当機構の畜産業務や行政に対する幅広いご意見・ご要望などを伺った。以下、本会の概要を報告する。

平成17年度「畜産業務について意見を聞く会」出席者

(畜産関係団体代表)

○東北各県畜産関係団体代表
 (社)青森県配合飼料価格安定基金協会理事長
 岩手県新いわて農業協同組合専務理事
 宮城県農業協同組合中央会会長
 秋田県畜産農業協同組合連合会代表理事会長
 (株)山形県食肉公社代表取締役社長
 福島県酪農業協同組合代表理事組合長
 岩手県農業協同組合中央会副会長

○岩手県畜産関係団体代表
 全国農業協同組合連合会岩手県本部本部長
 (社)岩手県畜産協会副会長理事
 (社)岩手県配合飼料価格安定基金協会会長理事
 (社)岩手県農業公社施設建設部長
 (株)岩手畜産流通センター代表取締役社長
 岩手県ブロイラー事業協同組合常務理事
 岩手県養鶏協会副会長
 岩手県短角牛振興協議会会長(岩泉町長)
 (社)葛巻町畜産開発公社専務理事


(敬称略)
布施 正治
福田  稔
木村 春雄
加藤 義康
古内 藤一
植田 英一
鈴木 哲郎


小林 英男
菊地 清彦
高橋 靖忠
岩崎  貢
金濱 孝造
櫻田 圭一
浅沼 克男
伊達 勝身
鈴木 重男

 

「意見を聞く会」の概要

1 あいさつ

 冒頭、当機構の菱沼副理事長から、本会参加者へ御礼を申し上げ、本会の趣旨を「いわば1日農畜産業振興機構というつもりで現地の問題意識を十分お聞きして着実に業務に取り組んでいく」旨のあいさつを行った。

 次に、農林水産省生産局畜産部の清家畜産企画課長より、本年3月に策定した酪農・肉用牛近代化基本方針等に基づく担い手対策と自給飼料基盤強化の必要性、米国産牛肉輸入再開問題、鳥インフルエンザ問
題、WTO交渉問題、予算・財源などに関する最近の情勢説明を含むあいさつが行われた。

 また、東北農政局の平野局長より、東北における畜産の重要性と東北農政局の飼料自給率向上と肉用牛生産拡大に向けた取り組みの紹介、機構の畜産業務の質的向上を期待する旨のあいさつが行われた。

 続いて、岩手県農林水産部の今泉部長より、岩手県での会議への参加者を歓迎するとともに、岩手県の畜産振興への取り組みの紹介などのあいさつが行われた。


盛岡市の会場


2 機構の業務実績、評価などの説明

 当機構の門田理事より、機構の畜産業務に関する中期目標・中期計画、評価の仕組みと最近の実績評価の概要説明と、最近の畜産業務の実施状況として、加工原料乳生産者補給金交付業務、指定乳製品等のカレント・アクセス、肉用子牛生産者補給交付金交付業務、指定食肉の価格安定業務の説明を行った。続いて、塚田理事より、学校給食用牛乳供給事業に対する補助、畜産業振興事業、情報収集提供業務の概要を説明した。

3 地域の畜産振興上の課題と関連する機構の業務について

 東北各県の畜産関係代表者の意見の一部を紹介する。

○ 布施正治氏
 (社団法人青森県配合飼料価格安定基金協会理事長)


(1)採卵鶏経営は全国的に横並びの技術水準となっている。今後は、生産性の競争よりもコスト、安全性、付加価値を高めた差別化をいかにスピーディーに確立するか経営者の真価を問われる時代を迎えている。

(2)日本の養豚専業経営は担い手不足で立ち行かなくなるので、養豚関係事業についても、今後は、一定の飼養頭数規模以上で、従来の認定農業者の条件をさらに厳しくした内容をクリアしたやる気のある若者を担い手として絞り、集中的に対策を講じて、育成することが緊急課題である。

(3)平成7年度から実施している肉豚価格差補てん事業は、豚肉価格の低落によって生じる影響を緩和するために非常に有効な施策であり、当該基金の充実などについて一層の配慮をしていただきたい。

(4)配合飼料価格安定基金制度は重要である。生産者は、中国などの経済成長による膨大な資源輸入によって、配合飼料の原料穀物も原油と同じように高騰するのではないかと懸念している。生産者が安心して生産活動ができるような対応を今からお願いしたい。

(5)自給率の向上のため、生産現場での改革を進め、消費者ニーズに沿った良質、安価な畜産物の生産に励んでいきたい。


左から加藤氏、木村氏、福田氏、布施氏


○ 福田稔氏
 (岩手県新いわて農業協同組合専務理事)

(1)肉用牛生産者として、WTO農業交渉の動向、北米産牛肉輸入再開問題に大変注目し不安を抱いている。肥育生産者は、高騰し続けてきた素牛価格の影響を危惧しており、乳雄肥育牛と日本短角種肥育牛は輸入牛肉との価格競合は避けられないので、肉用牛肥育経営安定対策および肉用子牛生産者補給金制度により安定した経営が続けられるようお願いしたい。

(2)経営所得安定対策大綱が示されたが、中山間地域の耕作地の荒廃を防ぐためにも、転作田への牧草と飼料作物の作付や放牧を進め、肉用牛生産を推進することが今後の担い手育成の一手法と考えている。最大限生産コストの低減を図らなければならないと考えており、生産基盤対策への支援をお願いする。

(3)今後とも、地方特定品種生産振興対策、肉用繁殖雌牛導入対策などの事業の継続をお願いするとともに、低コスト牛舎施設設置対策や転作田の放牧化活用対策などの新事業を考慮し、平成19年度以降の地域肉用牛生産振興特別対策事業を継続していただきたい。

○ 木村春雄氏
 (宮城県農業協同組合中央会会長)


(1)宮城県の肉用牛・酪農経営は、後継者不足、環境問題などから小規模層での飼養中止がある。このため、中核農家などの規模拡大の推進や法人化による共同経営、水田放牧などによる飼養管理の省力化やヘルパー制度の充実による集出荷体制の整備に努めている。酪農の継続が困難な方には和牛の繁殖飼育を提案するなど、地域内での一貫経営の確立を推進していきたいと考えている。

(2)耕作放棄地、水田、林間などの放牧を行政と一体となって推進することも大きな課題である。また、規模拡大農家に対して補助事業のメニューを多くして、取り組みが容易にできる仕組みづくりを望む。

(3)粗飼料自給率100%への取り組みについて、豊富な稲わらの利用拡大、稲発酵粗飼料給与技術の確立、コントラクターなどによる組織育成をさらに進めていきたい。

(4)安全・安心な畜産物の供給に対する農家指導について、子牛市場とと畜における生産履歴の添付を基本に、生産過程における記帳、記録を推進している。消費者が求める情報を提供する仕組みとして、牛トレーサビリティ法による公表情報に加え、給餌情報などを保存することが重要である。特に、生産現場で日常的に記帳、記録ができるシステム構築が必要である。

(5)国際化が進む中、国内産地の明確な情報提供、流通における情報提供を通じて、粗飼料の自給率を高めながら、付加価値の高い国内産品の生産に努めることが重要である。

○ 加藤義康氏
 (秋田県畜産農業協同組合連合会代表理事会長)

(1)機構による地域肉用牛振興事業、家畜ふん尿処理施設の整備、食肉センターの整備など、畜産をめぐる諸情勢の変化に迅速に対応したきめ細かい支援対策は、地域の畜産振興に重要な役割を果たしている。

(2)秋田県の肉用牛の課題は、増頭対策を進めていくことである。資金力不足、労働力不足、後継者不在、施設などの確保難、ふん尿処理施設などの新規投資難、飼料基盤不足などの諸問題の対策に、県、関係団体などが連携して取り組んでいる。担い手の確保育成対策に引き続き支援をいただきたい。

(3)秋田県は全国有数の豪雪地帯であり、通年営農が可能で、耕畜連携の要である畜産の果たす役割は非常に大きい。稲作と組み合わせると、夏場の農作業が忙しい時期の畜産経営の対応が問題なので、夏山冬里の積極的な推進を図っていく必要がある。日本短角種、褐毛和種に黒毛和種を含め、公共牧場利用のPRを積極的に進めていくことが必要ではないか。

(4)中国での口蹄疫発生による稲わら輸入停止により全国で稲わら確保対策が急がれているが、秋田県では、稲わら飼料利用率が3%にも満たない。コンバインで落とされた稲わらの有効活用が大きな課題となっている。ホールクロップサイレージ用稲は、現在の「あきたこまち」から専用種の「ふくひびき」への品種転換が今後の課題ではないか。

(5)北米産牛肉輸入問題については、消費者の十分な理解がなく再開されることに強い不安と懸念を持たざるを得ない。安全・安心を求める消費者のニーズに、畜産関係者、生産者団体として100%応えていかなければならないと思う。

○ 古内藤一氏
 (山形県食肉公社代表取締役社長)

(1)山形県食肉公社は、牛、豚のと畜解体と牛の枝肉販売を行っており、銘柄牛、銘柄豚という高品質食肉の販売拡大に努力している。県内の肥育牛に対する県内の子牛調達率が非常に低いので、対応策を考えていただきたい。

(2)安全・安心関係の現在の課題として、何とか平成18年度には牛のと畜におけるピッシングをやめる施設環境を整備したいと考え、様々な手法を検討している。豚については、抗生物質を使用しないまたは減投薬、無投薬などで肥育したものを重点銘柄として取り扱っている。日常的な衛生管理の徹底、細菌数の削減、異物混入対策などに取り組んでいる。

(3)現在、国産牛の価格が非常に高い相場で推移しており、国産食肉処理と販売を担う立場として、国産食肉価格が高くなることは生産者のためには大変メリットがある。しかし、消費の伴わないところに生産活動は活性化されないので、消費拡大のためには、ある一定量の安い食肉の流通は必要であろうと考えている。よって、銘柄化により国産食肉を確立して、食肉全体の消費量の拡大を図るとともに、安全を確保した上、価格の安い食肉の一定量の輸入は必要であろうと考えている。

(4)冷蔵庫の冷媒として使用しているフロンガスが地球温暖化対策のために使用できない時期が近づいていると感じている。アンモニアなどの冷媒に更新することに大変な投資が伴ってくるので、機構による補助について是非検討をお願いしたい。

○ 植田英一氏
 (福島県酪農業協同組合連合会代表理事組合長)

(1)酪農経営においてコスト削減が一番の問題である。これには農業だけでなく、工業関係、技術関係、機械器具関係、薬剤などの世界一の工業を農業に取り入れることにもっと真剣になってほしい。

(2)日本農業の徹底した再編、立ち上がりを、この際やらなければチャンスを逃すと思っており、酪農生産基盤の確保という面から水田、傾斜地の活用が重要だと思う。飛躍的な規模拡大が望めない東北地域では、山地酪農を含め多様な酪農形態を模索しながら、原点に返り、牛づくり、人づくり、草づくりを行っていくことが重要となる。また、乳牛改良、牛群検定などにも対応していきたい。

(3)酪農後継者対策について、第一には、後継者が意欲を持てるような環境づくり、高度な技術支援、経営的支援が重要である。次に、外部からの新規就農者として、酪農ヘルパーや牧場研修生、他産業からの転職組などの後継予備軍に対し、実践を通して実学を学ぶ体制づくりが必要である。

(4)酪農界は、1酪農家を育てることだけでなく、酪農基盤をどのように整備し、継続できる体制を構築するかに力点を置いた対策が必要ではないか。支援ネットワークにより、特別な経営者でなくても経営を発展できるような環境づくり、持続可能な経営基盤の確立のため、経営不振に陥った経営体から次の経営者・経営体へ継承できる体制づくりが必要と考える。

(5)本当の牛乳の値打ちや食料としての牛乳の大切さ、日本型食生活の中で不足しているのは牛乳・乳製品である、といった基本的なことを食育や一般宣伝の中で、きちっと植えつけていくことが特に大切である。


植田氏、古内氏

4 意見交換

 以上の発表を受けて、引き続き、会場の出席者を含めて意見交換が行われた。この場では、牛肉価格の動向、粗飼料自給率100%への取り組みと稲わら利用、ホールクロップサイレージ、担い手育成、消費税、国際的食料確保、日本短角牛振興、耕畜連携、米国産牛肉輸入問題などについて活発な議論が交わされた。


岩手県畜産関係団体代表

※本会の議事概要は機構ホームページ(http://www.alic.go.jp)に掲載しています。


岩手県葛巻町における現地調査

 翌18日には、畜産現場で直接意見を伺うため、盛岡市の北方に位置する葛巻町を訪問した。

 葛巻町は、昭和55年度に農用地整備公団の北上山系草地開発事業に着手してから新農業構造改善事業などを活用して乳用牛と肉用牛の振興に取り組んでおり、今や、乳用牛1万1千頭、肉用牛14百頭へと拡大している。特に、葛巻町は、「ミルクとワインとクリーン・エネルギーの町」「東北一の酪農郷」をスローガンに、地球規模の課題である「食糧、環境・エネルギー問題」に貢献しながら地域振興を進める方針の下、牛飼いを主事業に地域循環型の牧場経営、地場産材の利用、クリーン・エネルギーへの取り組み(国、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、民間企業と連携した風力発電施設15基、太陽光発電施設、畜産バイオマス発電施設、木質バイオマス発電の整備)などを進めている。こうした業績により、葛巻町は環境大臣賞、文部科学大臣賞など数々の表彰を受けている。

和牛繁殖経営

 現地では、まず、葛巻町の野表農林課長から、町による様々な事業展開の経緯を伺い、「牛は絶対赤字を出さない。人が赤字を出す。」と経営面、人材育成の取り組みが重要との説明を受けた。

 そして、葛巻町葛巻江刈で和牛繁殖を営む下道初男氏の農場を訪問した。下道氏は、牛肉輸入自由化時に日本短角牛から黒毛和牛に切り替え、現在、成牛17頭、育成2頭、子牛12頭を飼育している。

 下道氏は、平均分娩間隔11カ月(葛巻町平均13カ月)という優れた繁殖技術と、放牧組合からの採草と、ふん尿還元による自作草地(2.3ヘクタール)の改良により粗飼料を100%自給して、収益を確保している。繁殖の秘訣は、「自然体であるが、産前産後の管理をしっかりやること、特に分娩後1週間以内にフォローができているかが重要」とのことであった。


下道氏の畜舎にて。右から下道氏、野表課長


くずまき高原牧場


 くずまき高原牧場は、昭和51年度に開設され、社団法人葛巻町畜産開発公社により運営されている公共牧場である。当牧場は、総面積273ヘクタール、うち牧草地212ヘクタールを有し、夏期3,000頭、通年2,500頭の乳牛を飼養している。当牧場において、中村葛巻町長と鈴木専務理事から発展の経緯を伺った。

 くずまき高原牧場では、「畜産事業を基幹に、やれることは何でもやってみよう」と、国の補助事業などを活用して、逐次、畜産やグリーンツーリズム関連施設などの整備が進められてきた。今や牛乳工場、チーズ工房、食品の尊さを学ぶ酪農教育ファーム、後継者の長期研修施設などの全14事業が展開され、これらの全部門が黒字経営という。これらの第三セクター全体での売上高は17億65百万円、純利益5千万円、従業員160名を擁し、名実ともに地域活性化の中心となっている。

 中村町長は、さらに、「環境に配慮した資源循環型の畜産を拡大していくためには、畜舎建設により山を崩さないようにする必要がある。このためには傾斜地を利用した4階建ての牛舎を建設し、屋根は太陽光発電にしたい」と今後の展望を熱心に語っていた。

 畜産振興と資源循環、関連分野との連携と地域振興への貢献、人材育成の大切さなど多くの示唆を得た一日であった。


中村葛巻町長

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