畜産振興部 畜産振興第二課 課長 鈴木 清之
わが国では近年、BSE(牛海綿状脳症)や高病原性鳥インフルエンザなど人畜共通の伝染性疾病が発生しているが、これらは食に対する消費者の信頼感に影響を与えている。畜産物への信頼・安心を確保するためには、常日ごろから消費者に正確でわかりやすい情報を多様な媒体を通じて迅速に提供することが大切であるが、畜産物の生産・加工・流通の各段階における衛生・品質管理対策を通じて、安全・安心な畜産物の生産・供給を確保することが極めて重要である。 より安心・安全な食肉処理へ−牛用殴打式スタニングシステム− また、と体搬出時に一定の横臥位が得られるよう、と体受台も新たに製作された。
さらに、現行の殴打式エアガンでは、骨の硬化した乳廃牛などで衝撃力不足がみられることから、エアの圧力やぺネトレーター(エアガンの殴打部)の大きさ・形状について見直した。現在、これらの機器を実際にと畜場に持ち込んでの試験が実施されている。 −パルス電流による不動体化装置− 1 開発の背景 前述したとおり、ピッシングの中止は、食肉業界の課題の一つとなっており、作業員の安全を確保するため、ピッシングに代わる新たな不動体化技術の開発が求められている。 2 開発の状況 ピッシングに代わる新たな不動体化技術として、スタニング、放血処理直後の牛にパルス通電による電気刺激を与える方法の開発が進められている。 パルス発生装置と電気刺激用電極からなる実証機を用いた約400頭の試験では、不動体化についてほぼ問題なく、肉質についても、現行(ピッシングを実施)と比較して、枝肉または部分肉の血班(スポット)発生率が下回るとの結果が得られている。 現在、処理工程の時間短縮を図るため、電気刺激の電圧やパルス周期の最適な組み合わせについての試験を実施するとともに、肉質への影響に対する調査が継続されている。また、前述した牛用殴打式スタニングシステムとの併用の効果についても調査が進められている。
|
|
この装置を使用した作業の流れ 従来の人手作業で、ろっ骨まで脱骨 ▼ 三次元計測 ▼ ロボットによる背骨のカット ▼ オリジナルハンドツールを使用し ボタン骨(乳頭突起)を除去 ▼ ナイフを使用し、棘突起および横突起を除去 ▼ 脱骨作業終了 |
−豚大腸のマル腸処理装置−
1 開発の背景
焼肉需要の増加に伴い、内臓などの畜産副生物の栄養的な価値や焼肉商材としての魅力が再評価されており、こうした中で、豚大腸のマル腸(腸を縦に切開せずに、表裏を反転させたもの)の商品化が増加している。より衛生的なマル腸の商品化を実現するとともに、処理作業の効率化を図るため、自動処理装置の開発が求められている。
2 開発の状況
開発の第一段階として、衛生処理の最大の課題である腸の内容物の分離処理について、腸の裏表を洗浄分離するため、大腸の構造上、形状の異なる部位4カ所を切断し、それを反転させてマル腸を製造する機器を製造した。
マル腸処理機 写真右側のノズルから吸引された大腸は裏返しの状態でタンクに集められる。 |
その後、第二段階として、結合組織などにより団子状になっている大腸から腸の内容物を分離し、1本のひも状にする自動装置を開発し、マル腸処理装置として組み合わせることで、全自動化装置として開発するとの方向で技術開発が進められている。
第一段階の腸を反転吸引するマル腸処理装置については、既に商用機が完成し、食肉加工場において活用され始めている。
と畜場や食肉加工場で使われる食肉処理の機械・設備は、用途や目的に応じて機能が細分化されるため、新技術を生かして開発された機械・設備であっても、その市場規模は決して大きくないのが現状である。このため、食肉処理技術の民間だけでの技術開発には、おのずと限界がある。
機構としては、この事業を通じて開発された技術が、と畜場や食肉加工場における衛生面での向上、作業負荷の軽減や省力化、食肉処理・加工コストの低減、消費者への安心・安全な食肉の提供に資することを期待している。
「食肉処理効率化技術開発事業」は、技術開発に関する基本構想などについての検討を行う「食肉処理施設技術総合改善推進事業(推進事業)」と実際に技術開発を行う「食肉処理施設総合改善効率化技術開発事業(開発事業)」の二つの事業から構成されている。
推進事業で設けられている技術開発推進委員会などで、より効率的・衛生的な食肉処理機械の開発および研究方法について検討を行い、開発事業ではその委員会と密接に連携を図りながら、食肉生産技術研究組合の組合員が分担して新たな食肉処理技術の開発を進めている。
この事業により開発された成果は、毎年、食肉産業展や開発成果発表会などで食肉関係者に紹介されるほか、財団法人日本食肉生産技術開発センターのホームページ(http://jamti.lin.go.jp)を通じてインターネットでも公開している。
なお、開発された技術を基に食肉処理に関する商用機が完成し、販売などで収益が上がった場合には、開発が終了した翌年度から5年間について、収益の一部を当機構に返還することとなっている。
平成17年度については、過年度から継続して開発を実施している10課題に加えて、今年度から新規に開発に取り組む7課題の計17課題の研究開発に対して補助している。
元のページに戻る