はじめに
独立行政法人農畜産業振興機構では、加工用食肉の需要動向を的確に把握するため、社団法人日本ハンバーグ・ハンバーガー協会(以下「協会」という。)にハンバーガー販売企業食肉需要動向調査を委託している。このたび、平成17年度の調査結果をとりまとめたので、紹介する。
本調査は、協会加盟チェーンの実績を基に、日本のハンバーガー業界における協会会員シェア係数(日経流通新聞平成16年外食売上高ランキングなど参照し算出)をもって日本全体の動向を推計したものである。
外食市場は、客単価減も、客数増で売り上げ増加
平成17年の外食産業の市場規模は、社団法人日本フードサービス協会の調査によれば、全店ベースの売り上げが前年に比べ2.2%増、既存店ベースでは0.8%のマイナスながら前年よりも2ポイント改善された。特に秋以降の伸びが顕著であった。客単価は前年のプラスから再び1.2%のマイナスに転じたが、客数の伸び(全店で3.4%、既存店で0.9%)が大きく、売り上げ増加につながった。
このうち、ハンバーガー業界を含む洋風ファストフード業態は、不採算店のとうたが一段落し店舗数が0.2%の減少にとどまる中で、全店客数が8.4%増と大きく伸びたため、売り上げが2.4%増と前年の増加率を上回った。既存店では、客数が7.6%増と全業態中飛びぬけた伸びを示したが、売り上げは1.6%増で前年よりも伸び率が低かった。客単価の5.5%の下落は全業態中で最も大きく、他のほとんどの業態が上昇する中で全体の数字を押し下げる結果となった。
なお、総務省の家計調査報告によると、平成17年の外食支出は前年に比べ若干減少した中で、ハンバーガーの項目は前年の支出の伸びをさらに上回り6%強の増加となっている。
他業態との競争激化と原料高
ハンバーガー業界の全体的な動きとしては、各チェーン間の差別化志向がより明確になり、おにぎりやうどんなどハンバーガー以外の分野のメニュー開発が盛んであった。
また、競合するコンビニでは有名料理店との共同企画によるお弁当の開発、コーヒーチェーンではフードメニューの強化も進み、業態を越えた競争もますます激しいものになっている。
原材料を巡っては、米国産牛肉輸入停止の長期化が、豪州産牛肉はもちろん、代替原料の高騰も招きメニュー編成や仕入価格の上昇による企業収益に大きな影響を与え続けた。豚肉に関しては、セーフガードの発動は回避されたものの、加工用原料の手当てがひっ迫し、高価格が続いた。また、鳥インフルエンザ発生の世界的な拡大が止まらず、ブラジルからの輸入集中が進んだ。
なお、ハンバーガー業界では17年7月にガイドラインが制定された外食の原産地表示についても、積極的な取り組みが続けられるなど詳細な情報開示が行われ、また、食育基本法の制定を受けて、食育に関するサイト開設や小学校への出張授業などの取り組みもさらに充実してきている。
メニュー、店舗の多様化、高級店舗も展開
業態を越えた競争が激化する中で、ハンバーガー以外にも手を広げたメニューの拡大に加え、高級店舗を展開するチェーンもあり、メニュー、サービス、店舗の多様化が進んでいる。
企業別に見ると、マクドナルドでは、4月に9種類の100円メニュー導入をはじめとする一連の新施策で、新たな顧客開拓を目指し客数の大幅な伸びに結び付けたほか、秋以降も定番商品の大きな見直しが行われた。
モスバーガーでは、ファストカジュアル※店舗「緑モス」への転換が進んだほか、創業当時の復刻版店舗やバリアフリー対応、店内完全禁煙の次世代型店舗をオープンさせるなど個性あふれる店舗作りが盛んに行われた。創作料理メニューの開発も引き続き行われ、特に「緑モス」専用のごちそう的なメニュー導入が積極的に行われ独自ブランドの確立が進んだ。
また、会員以外では、ロッテリアが経営陣を刷新して、高級業態店舗「プラス」のメニューや一般店での高価格商品の導入の一方で、中食需要向けにテイクアウトメニューに和食セットを導入するなど、店舗の二極化を進めている。
さらにファーストキッチンでは、メニューの多角化を進め、ごはん、うどん、ピザとハンバーガーの主食4本柱で大人の食事需要に応えられるレストランを目指しているが、ここでも単品過去最高価格のハンバーガーメニューが発売された。
ドリンクに力を注いで独自のカフェ傾向にあるフレッシュネスバーガーでも、高価格のハンバーガーを年明け以降連続で導入している。
高級化、客単価の上昇傾向のなか、100円という低価格帯のハンバーガーでファミリーレストラン系の「イート・ラン」が新たに参入した。
売り上げは下期好調で通年では 1.4%増
品質・素材に凝った高価格なハンバーガーへの挑戦は前年に引き続き活発な一方で、低価格帯の商品の参入や導入も見受けられ、商品の二極化が客数の大幅な増加に結び付いている。全体の売上高は上期が若干前年割れだったものの、秋以降は好調で下期が3.2%増、通年では1.4%増となった。
品目別には、本年度は低価格帯で画期的な集客効果をみせたチキンバーガーと秋に導入されたフィッシュ類の新メニューによって、チキン類とフィッシュ類が高実績を残した一方で、ビーフ類で販売終了となるメニューが出るなど低調気味であった。
ビーフ類は、前年比プラスの月が4カ月しかなく10.6%減、ポーク類は下期に回復をみたが前年からさらに落ち込み6.3%減であった。一方、チキン類は上期の大きな伸びから60.0%増、フィッシュ類は新製品の導入によって特に下期の伸びが大きく32.2%増、ナゲット類は10月を除き前年割れが続いて14.0%減であった。
この結果、アイテム別のシェアは、ビーフ類とポーク類が前年よりも減少し、一方、チキン類とフィッシュ類が大きく増えている。
売上高を季節別に見ると、ここ数年と同じ動きを示し、8、12、1月で高くなっている。外食全体の売り上げでは、秋以降の伸びが目立っているが、ハンバーガーについても同じ傾向を示している。
客足を左右する要因となる休日数、天候との関連性では、天候が前年よりも穏やかであったが、7月の気温が前年より低く雨も多かったことと冬の寒さや大雪の影響が挙げられる。また、秋の集客数・売り上げ増加の要因の一つには、前年秋の台風や大雨によるマイナス要因の反動があると思われる。
売上高季節変動(4月=100)
新メニューで増減するパティの需要量
ドリンク、ポテト以外の売り上げの47%を占めるハンバーガー類に使用されるパティ類は、外部から購入されるが、その需要量は、キャンペーンの実施品目による増減に加えて、新メニューの開発導入、メニューの切り換えによって大きく左右された。
種類別に見ると、ビーフ類は、16年6月から17年秋までマクドナルドが高級化を狙って新製品を導入したため、その反動から、年間を通じて前年比増の月が3カ月のみとなり、前年度1.4%の増加から14.7%の大幅な減少に転じた。
チキン類は、マクドナルドが4月から100円ラインナップにチキンバーガーを加えたことで、そのほかの新メニューも加えて特に上半期の伸びが大きく年間でも65%増と大きく需要量が増えた。
ポーク類は、モスフードで期間限定の新商品が導入されたが、前年に続き低調に推移し、40%を超える前年比減の月が3カ月を数え、28.5%減と大きく減少した。
フィッシュ類は、マクドナルドが期間限定で導入したメニューが定番化されるほど好評であったため、下期の実績が特に高く、年間で前年比、21.3%増となった。
また、ナゲット類は、マクドナルドがフィッシュフライメニューを秋に販売終了としたほか、クリスマスシーズン(12月)の需要が前年比約40%減となったこともあり、一転して25.0%のマイナスとなった。なお、全ナゲット中チキン類のシェアは90.4%(前年80.9%)、フィッシュ類は9.6%(同19.1%)を占めている。
パティ類全体としては、大きく実績を伸ばした昨年に比べて、約20%減となった8、2月をはじめ、前年実績を下回る月が多く、通年で10.0%減となった。
パティ類の原料となる食肉の使用量も同様の傾向となっている。
パティ類購入販売量
(注)企業がパティ類を外部から購入して、ハンバーガーなどとして販売した重量(バンズを含まない。)
パティ類購入販売量(前年比)
パティに使用された食肉の重量
パティに使用された食肉重量の月別推移(前年比)
終わりに
平成17年度のハンバーガー業界は、各チェーン間での競争に加え、コンビニなど他の業態との競争が激しくなる中、メニューや店舗の多様化を進めてきた。結果として、総務省の家計調査における外食支出は前年より若干減少した中で、ハンバーガーの項目は増加している。今後もハンバーガー業界が売り上げを増やしていくためには、新規商品開発、価格設定の変更などに加え、店舗の多様化などによりいかに消費者の来店動機を呼び起こすかが鍵になると思われる。
※ファストカジュアル:レストラン並みの高品質で商品やサービスを、ゆったりと落ち着いた快適な空間で提供する仕組みで、ファストフードのように手軽に利用できて、テイクアウトもできるという、カジュアルレストランとファストフードの双方の利点を生かした業態。
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