◎今月の話題



家畜排せつ物の資源化利用について

(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所
 研究管理監 羽賀 清典

バイオマス賦存量2億数千万トンの中でも、家畜排せつ物(家畜ふん尿)は約9千万トンと多い量である(http://www.maff.go.jp/biomass/index.htm)。表1に示すような家畜ふん尿の資源化利用方法について、その課題と現状を概説する。

表1 家畜ふん尿の資源利用方法



1.肥料利用

 たい肥化技術は、わが国における家畜ふん尿処理利用の基幹技術である。欧米諸国が液状のふん尿(液肥)を基幹技術としていることと大きく違う。家畜ふんたい肥に関する課題は、臭気の発生が少なく、高品質で低コストなたい肥を生産し、流通利用することである。

 たい肥化は有機物を分解し安定化する技術である。分解物として臭気などが多く発生するのは宿命的ともいえる。そこで、悪臭の代表であるアンモニアを食べる新しい細菌(バチルスの一種)を見つけ出し、アンモニアを低減させ、これら関連成果をもとに臭気対策効果判定の手引き書を刊行した。また、有機物の分解性に基づくたい肥の品質評価方法も提案されている。

 家畜ふん尿の肥料利用のためには、窒素、リン酸、カリなどの成分が重要であり、緩効性リンを回収するMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)技術が開発されている。また、吸気式のたい肥化装置を考案し、排気中に高濃度・高純度のアンモニアを集め、臭気防除と同時に窒素源としての再利用に取り組んでいる。

 たい肥利用に関するアンケート結果をみると、たい肥利用者の要望は「高品質で、低コストのたい肥を、運搬・散布してくれるなら使いたい」ということである。一見、たい肥利用者側の一方的な要望にも思えるが、たい肥供給の畜産側が努力して実現できない課題でもない。畜産側が運搬・散布することによってたい肥を広範囲に供給している成功例も散見される。最近では有機農業・有機農産物などが注目され、さらにエコファーマーの増加もあって、たい肥利用が活発である。ぜひとも畜産から多くのたい肥を供給したい。


2.エネルギー利用

  エネルギー利用には表1に示すように、直接燃焼、熱分解ガス、石油化、たい肥の発酵熱の回収、メタン発酵の5つの方法があり、研究も多く行われた。最近ブームのメタン発酵との関連で、水素発酵も注目されている。

 家畜ふん尿の特性や、自己完結型の低コスト処理を考慮すると、ブロイラーふんの直接燃焼と、酪農や養豚のメタン発酵が実現性ある方法であろう。ブロイラーふんは鶏舎から搬出された時点で水分30%くらいに乾燥し、鶏ふんボイラーによる燃料利用が直接可能である。鶏舎暖房用の重油使用量を70〜80%節減でき、焼却灰は肥料利用できる。ただし、煙、粉じん、悪臭や有害成分などの発生が問題点である。

 家畜ふん尿のメタン発酵法は歴史ある技術である。しかし、欧州における成立要件と比較すると、わが国のメタン発酵処理は独特の課題を抱えている。1つはバイオガスのエネルギー利用の定着であり、2つ目にはメタン発酵後の処理液(消化液)の液肥利用である。これら課題に対して、北海道地域での先進的な取り組みが評価できる(北海道バイオガス研究会など)。

 ふん尿からのバイオガスの生産可能量を試算してみた。乳牛約170万頭、豚約970万頭を対象とし、肉牛280万頭はメタン発酵に適さない飼い方が多いのでここでは試算に入れない。年間約13億立方メートルのバイオガスが採れる計算になった。東京ドームの容積が124万立方メートルであるから、バイオガスは東京ドーム約1,000杯分になる。また、わが国の年間石油消費量の0.16%に相当する。


3.飼料利用

 飼料利用は、肥料利用のようなう回的な資源化ではなく、畜産の範囲内での資源化である。しかし、家畜の体内で消化されたふんには栄養分はあまり残っていない。言い換えれば、未消化部分を残すような飼料給与方法は極めて不経済かつ不合理といえる。このように、飼料利用は自己矛盾をはらんだ方法であるが、試験研究例は数多くある。

 飼料化するときの衛生問題などから、加熱乾燥や微生物などの処理が必要になる。焼却灰ならば衛生的に問題が少ない。採卵鶏ふん焼却灰のカルシウムとリンの比率は約2:1であり、肥育豚やブロイラーの要求比率に近いので、その利用可能性が追及されている。


4.そのほかの利用

 炭化処理があるが、経費の低減と炭化物の用途の拡大が課題である。また、マッシュルームの栽培は一部実用化されている。


5.まとめ

 家畜排せつ物の資源化利用は、現状ではたい肥利用が中心であり、一部メタン発酵などのエネルギー利用が行われている。資源化ばかりに夢中になり、新たな二次汚染を産まないよう留意しなければならないが、資源への変換技術を駆使することが環境保全技術に直結することも多い。資源循環型社会を迎える中で、重要な視点である。


はが きよのり

プロフィール

神奈川県生まれ。1973年4月 農林省畜産試験場に入省。以後、農林水産省農業環境技術研究所、農林水産省畜産試験場、(独)農業機構 畜産草地研究所において、家畜ふん尿などの廃棄物や排水の処理・資源化の研究に従事。博士(農学)。現在(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 研究管理監(運営・評価;畜産環境 担当)。主な共著書に、「どうする!?養豚汚水 ふん尿処理対策ブック」(監修・分担執筆 チクサン出版 2004年)、「畜産環境保全論」(共編著 養賢堂、1998年)など


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