★ 機構から


牛肉流通に関する一コメント

理事 門田 正昭


1 はじめに

 農業政策上の最大の課題は、先進国の中で最低水準にあるわが国の食料自給率を今後10年の間に5ポイント向上させることである。計画では牛肉の自給率目標は39%(基準年に同じ)であるが、飼料自給率の向上と併せて望ましい食料消費の姿として示された消費量水準(一人一年当たり6.2キログラムから7.7キログラムに増加)の達成がポイントとなっている。これとともに国内生産水準(牛飼養頭数)を増加させることとなる。いずれにせよ、食料自給率目標達成のためには、食生活上重要な位置を占める牛肉も重要な役割を果たすことが期待されているわけである。

 一方、BSEによる米国産牛肉輸入問題が続く中で、輸入の再開が確実視されるようになった昨年末以降も国産牛の市場価格(生体価格、枝肉価格)は堅調に推移した。再開決定が需要期になったこともその理由の一つかもしれないが、流通関係者には、しばらくの間、価格は高値で推移すると見通すものも多いようだ。
今後、WTOでは4月末のフルモダリティ決定、7月末の譲許表案提出のスケジュールが明示されているが、生産・流通面での「交渉結果への対応」、さらには今後一層強く求められる「安全・安心の確保」に応えていくことが、自給率向上にとって極めて重要である。そこで効率性確保などの観点から、あらためて牛肉流通の現状と課題について簡単に整理してみた。


2 牛肉流通の姿は? 

 牛肉流通を概観すると、これまでの日本人の「食生活の変化」と生産サイドの「産地の特化」を背景に、産地と消費地の遠隔化、その結果としての広域流通化の道を歩んできた。物流面では生体流通から枝肉流通、部分肉流通(さらにはコンシューマーパック)へと高度化してきた。(ただし、高級和牛については、現在もなお個体間の品質格差(価格差)が大きいなどの理由から生体のまま消費地に出荷されるものも多い。)このような中で、流通は卸売市場経由と食肉センター経由のものが大宗となっている。

 ところで牛肉流通の特徴は、野菜などと異なり、と畜場での解体に始まり部分肉、精肉といった加工過程を伴うところにある。さらに、食肉は細菌汚染を受けやすいため衛生保持に特段の配慮が必要な食品であるとともに、BSEなど食品としての適否について検査が行われることも流通上の重要な特徴となっている。

 卸売市場経由の流通は、併設のと畜場などで解体、枝肉にされた牛肉が、取引後、卸売業者、小売店へと流れて行くものである。食肉センター経由は生産者団体、食肉加工業者などが産地の食肉センターにおいてと畜後、枝肉から部分肉に処理され、量販店など消費地で販売されるものが代表的な形態で、と畜頭数の5割弱を占めている。なお、食肉センターは既存の零細と畜場の統廃合を進める中で設立されてきたもので、と畜から部分肉処理加工までの一貫処理と冷蔵施設を持つ総合的食肉処理施設である。もう一つの流通チャネルは専門小売店などが地場のと畜場で処理し地場消費など向けに販売するもので、近年そのウエイトは低下傾向で推移している。

 生産者からと畜場までの肉用牛の流通ルートは農協、家畜商の手を経るなど種々である。

 

3 価格形成は?

 以上のような流通システムの中で、価格形成はどのように行われているか。ところで先に見たように牛肉の流通上、卸売市場は食肉センターと並んで非常に重要な役割を果たしている。品揃えや集分荷といった物流の拠点でもあるわけだが、価格形成の面でもこの卸売市場での枝肉取引の役割は大きい。取引は牛肉の格付けや需給状況を踏まえ、生産者から販売を委託された卸売業者と買い手である仲卸業者、専門小売業者、加工メーカーなどとの間で、公開の価格形成(セリ)により行われている。その平均取引価格、取引数量などは随時公表され、透明性の一層の確保が図られている。つまり、需給を反映したスピーディーな価格形成システムとして重要な役割を果たしているのだ。

 また、このようにして形成された価格は市場外流通の指標価格としての役割も果たしており、食肉センターやと畜場において相対で行われる取引は、格付け結果やこの卸売市場で形成された価格を参考に値決めが行われている。また、部分肉については財団法人日本食肉流通センターが部分肉流通の場を提供するとともにそこでの相対取引結果についても定期的に公表が行われているところである。

 卸売市場経由率は約2割とほかの生鮮食品と比較して低い。これは、食生活の歴史からみて牛肉は近年大きなウェイトを占める様になった食品であり、卸売市場を経由する流通体制はほかの生鮮食品よりも後から整備されてきたこと、一方で、供給量の過半を占める輸入品は卸売市場をほとんど経由しないことなどがその理由と考えられる。しかしながら、例えば、青果卸売市場がセリによる現物取引から予約型の取引へとそのウエイトを大きく変えてきているのに対し、牛肉の取引ではセリ比率が9割程度と極めて高いのが特徴となっている。卸売市場は牛肉という品質のばらつきが大きく、単価が高いという特性をもつ商品の、需給を反映した透明度の高い公正な価格形成の合理的な仕組みとして定着していると考えられる。

 一方、セリ取引では対応が難しい、量販店などの大口需要者のニーズ(定価、定時、定量、定品質な商品の大量取引)への対応は、食肉センターが機能分担している。両者の機能分担が牛肉流通の一つの大きな特性でもある。

 なお、食肉センター経由のものは部分肉で流通しており、流通効率化に大きく寄与している面も見逃せない。(輸送コストの軽減化に関して言えば、生体流通のコストを1とすると部分肉の場合は0.5弱(農林水産省試算))さらに衛生管理面でも細菌感染などのリスクを軽減するという大きな効果も併せ持っている。


4 今後のあり方は?

 今後、国産牛肉が海外と競争していくためには、品質の向上に加えて、流通面では、牛肉処理・流通の各段階での効率化の一層の徹底と地産地消の取り組みや有機畜産物などのこだわり商品に対する多様な消費ニーズに即応できる仕組み作り(多面的な流通システム整備)が必要と考えられる。併せて、トレーサビリティ制度を軸として、消費者への情報提供内容、方法の充実をさらに徹底させていく必要もあるだろう。

 その中で、卸売市場、食肉センターは生産と消費をつなぐ、流通の川中という両者の橋渡しの位置にいることを再確認し、産地との連携を一層進めて、消費者ニーズに即応した産地づくりに貢献していくことが求められるであろう。主体的な役割が期待されているのだ。すなわち、今後は流通の中間主体が産地や消費サイドとの接点をより強固に確保し、両者の連携を進める必要がある。川中からの働きかけを通じて、川上の地域の基幹産業である畜産業の発展に貢献すると同時に、流通の効率化を進めつつ、川下では輸入品との競争の中で、国産の消費拡大を通じて食料自給率の向上に寄与していくことが求められるのである。


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