◎地域便り


岩手県 ●農畜産物の付加価値販売を実践 〜多田自然農場〜

調査情報部


 岩手県遠野市郊外の標高450メートルの自然豊かな場所にある(有)多田自然農場は、牛肉の輸入自由化を契機に、自ら生産する農畜産物を付加価値化する戦略で成功した事例である。

 農場代表の多田克彦氏によると、10年間の公務員生活の後、平成元年に借入金で200頭規模の酪農を開始した。しかし、牛肉輸入自由化により乳廃牛価格が急落し、経営が窮地に陥った。そこで、多田氏は「鉄鉱石で売るよりは鉄鋼で、鉄鋼で売るよりは自動車で売るべき」というトヨタ方式の付加価値化戦略に開眼し、乳廃牛を生体や枝肉ではなくハンバーグ、生乳でなくヨーグルトを中心とする加工品で売り出して成功した。しかも、ブランドは「責任の所在が明確であることが重要」という考えから、「多田克彦」という個人名をブランドとして販売展開した。その販売方法の話題性などで沢山のマスコミにも取り上げられ、一時は、委託製造分も含めて、売上高が年22億円にまで達したこともあるという。

 しかし、現在は、“私の原点は農業”ということで、生産に見合った農産物の生産・加工・販売を旨として、年間売上高1億5千万円程度に抑えて、あくまでも自然にやさしい、無理のない生産を心がけている。高温殺菌(75℃15秒)牛乳、ヨーグルト、プリン、手作りソーセージなどの畜産物加工品と5ヘクタールの農地からの有機野菜、不耕起栽培で米の生産をし、関東を中心に関西・九州地方にもその製品を販売している。

 同氏は、(1)生産するだけでは利潤は少ないので、これを加工・販売してこそ利潤が生まれる、(2)生産者は、その農産物を最後まで見届けるべき、(3)生産・加工・流通を自分一人で負担するのは非現実的であり、企業連携によりこれを実現すべき、(4)生産者は消費者からのクレームから逃げようとするが、クレームこそ価値ある情報源、(5)農産物を販売する場合、そのブランドがクレームに耐えられるか―が重要であるとしている。

 また、同氏はこのような個性的な生産活動とともに、地産地消や食育についても積極的に活動している。食育では、「おいしいものを子供たちに食べさせることが重要」として、フランス料理のシェフによる小学5、6年生を対象とした“キッズ・シェフ”という料理講習会、中学校でのバター作りの出前講習会などの活動をする一方、「地産地消は当たり前のこと」として、遠野市の産直店「風の丘」での乳製品などを直売している。

 農業を核とした新たなビジネスモデルとして注目に値する農場である。



産直店「風の丘」内の加工品販売

(有)多田自然農場代表 多田克彦氏

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