◎地域便り


秋田県 ●たい肥で活性化する米どころの循環型農業

秋田県/吉田 育男


 秋田県南部に位置する羽後町中心部から車で北西へ10分、牧草が広がる丘の上にその施設はある。施設の名は「羽後町堆肥センター」。畜産公害防止とたい肥供給による耕畜連携を目的に、町が事業主体となり平成12年度に設置された。管理棟、たい肥発酵棟、たい肥熟成・貯留棟が各1棟、尿処理棟2棟からなり、1日当たり15.5トンの家畜ふんと24.2トンの家畜尿が処理されている。運営には、町とJAで構成する「(有)羽後有機センター」が当たる。牛ふん、豚ふん、およびカントリーエレベーターから調達したもみ殻を原料に、年間3,700トン余りのたい肥を生産している。直線ロータリー方式により約40日間、その後、ローダーによる切り返しで約60日間かけて熟成されたたい肥は「羽後ユーキ」と銘打たれ販売されている。利用者からは、「肥料代の節約になる」、「地力が高まり収量アップした」、「追肥を軽減できた」などの声が聞かれ好評だ。羽後町が属する雄勝郡内であれば配達にも応じている。

 他方、町では環境保全型農業を推進する観点から、たい肥を活用した土作りを奨励している。特に管内のJAうごでは、すでに20年程前から一部のグループが有機質肥料を用いた無化学肥料・減農薬米生産に取り組んできたが、たい肥センター稼働がこれを後押ししている格好だ。さらに、多様化する消費者の要望に応えようと平成12年から出荷している「天恵米」(※)の生産にも大いに貢献している。健康な稲で、安全な米、おいしい米を生産しようとのコンセプトで、たい肥を10アール当たり1トン施用、化学肥料を慣行の50%以下に抑えている。「天恵米」として出荷されるのは、この中でも整粒歩合80%以上、食味値75以上などをクリアした最高品質の米で、消費者のウケも上々のようである。

 米どころの秋田県にあって、羽後町は比較的複合経営の進んだ地域だ。中でもスイカや羽後牛(黒毛和種)は町の代表的な産物として定着している。ほかに、トマト、キュウリ、花きなどの生産が大きな伸びを示しており、たい肥の需要は今後ますます増していくものと考えられる。畜産農家と耕種農家を結ぶ「羽後町堆肥センター」は、町の循環型農業推進の象徴としてさらにその存在感を増していくに違いない。

※「天恵米」は全農の登録商標


羽後町堆肥センター 全景

堆肥センター 発酵棟

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