1.はじめに
当機構が各道県の肉用子牛取引価格安定基金協会を通じて収集し提供している家畜市場での肉用子牛取引結果について、平成18年度の状況を中心に取りまとめたので報告したい。
なお、この取引結果については、市場で取引されるほとんどの肉用子牛を対象としており、農林水産大臣が四半期ごとに告示している指定肉用子牛の平均売買価格とは一致しないので留意されたい。
表1 平成18年度品種別肉用子牛市場取引頭数等
2.家畜市場での肉用子牛取引価格の動向
(1)全般的な概況
―18年度の肉用子牛取引価格は大幅に上昇、19年度に入り値下がり傾向―
近年の家畜市場における子牛取引価格は、牛のトレーサビリティ制度の義務化により国産牛肉の安全性に対する信頼の確保が図られたことや米国産牛肉の輸入停止などによる枝肉相場の高騰を受けて、好調に推移してきた。平成18年度は、米国産牛肉の輸入が一部解禁されたものの、市場に与える影響は少なく、引き続き好調な枝肉相場を受けて、子牛取引価格はさらに上昇し、主要な品種すべてで17年度を上回った。しかし、19年度に入ると、枝肉相場の低下等の影響から子牛取引価格も低下してきている。
肉用子牛取引頭数については、主要な品種である黒毛和種子牛の取引頭数が近年、おおむね36〜37万頭で推移しており、18年度も36万4千頭となった。品種ごとの取引頭数割合も大きな変化はなく、黒毛和種子牛が全体の8割近くを占め、乳用種との交雑種「交雑種乳」子牛が2割弱と続いている。
(2)品種別取引価格等の動向
次に、最も取引頭数が多い黒毛和種と、外国産牛肉と競合関係にある乳用種の雄子牛についての市場取引価格の動向をみる。
(ア)黒毛和種
○子牛取引価格、18年度は1頭50万円を超える
平成18年度の黒毛和種の取引頭数は、前年度比1.3%増の36万4千頭となり、昨年度に引き続き増加した。
また、雌雄合計の取引価格については、15年度に40万円を超え、それ以降も上がり続け、18年度は、前年度比4.3%高の50万9千円と50万円の大台を突破した。19年度に入ると、枝肉相場が前年度に比べ低下してきたことや飼料価格の高騰の影響から、子牛取引価格も低下してきているが、19年5月の価格は49万2千円と18年度の平均取引価格48万8千円を上回っており、依然として高水準となっている(図1)。
図1 黒毛和種 取引頭数および価格
○出荷日齢は短縮、体重は増加、素牛の増体系指向が顕著に
子牛の出荷日齢は徐々に短くなってきており、16年度は雌雄計で285日であったのが18年度は282日と、この3年間で3日間短くなっている。逆に出荷体重は増加傾向で推移しており、18年度の出荷体重は276キログラムと、3キログラム増加している。
この要因として、飼い直しなどによる肥育コストの増加を抑えたい肥育サイドの要望のほか、枝肉価格が好調に推移していることから、増体の良い系統の肥育素牛を導入する傾向が顕著になってきていることも考えられる。
なお、取引価格の上昇に伴って生体1キログラム当たりの単価も上昇し、18年度は前年度比3.1%増の1,843円となった(図2)。
図2 黒毛和種 出荷体重、出荷日齢の推移
○雌子牛の出荷が増加
雌雄別にみると、18年度の取引頭数は雄20万頭、雌16万5千頭で、17年度に比べ雄子牛は946頭増に対し、雌子牛は1,889頭増加している。雌子牛の取引頭数の増加については、前年度に引き続き、飼養農家の高齢化で将来肉用牛経営をやめる農家が増えたことによる出荷増も一因とみられる。出荷体重は雌雄とも増加、出荷日齢は雌雄とも短縮してきている(表2)。
表2 黒毛和種子牛の市場取引頭数、出荷体重、 取引価格、出荷日齢、取引単価の推移
○今後は、肥育農家の経営悪化により、子牛取引価格は低下か
子牛取引価格の動向を左右する一つの要素として、肉用牛肥育農家の経営状況がある。当機構が肉用牛肥育経営安定対策事業で算定した肉専用種の18年度第四半期(19年1月〜3月)の平均推定所得(生産費総額から家族労働費、自己資本利子および自作地地代を控除した額を粗収益から差し引いたもの)は20万3千円となっているが、以下述べるように費用の約6割を占める素畜費および同約3割を占める飼料費は、今後増加することとなる。
すなわち、素畜費については、子牛導入後、平均的な肥育期間は19.5カ月であるが、18年度第4四半期に出荷した肥育牛(17年5〜7月導入)の素牛平均価格が49万1千円に対し、19年1〜3月に導入された子牛価格は54万9千円と11.8%高となっている。
また、飼料穀物の9割を輸入に依存しているが、米国におけるトウモロコシを利用したエタノール需要の増加などから配合飼料価格が高騰している。
配合飼料価格安定制度により、その影響は緩和されているものの、今後の価格動向が懸念されている。
さらに、枝肉相場は17年度をピークに低下基調で推移しており、19年5月の枝肉卸売価格は、大幅に低下している。枝肉卸売価格が今後もこの水準で推移すれば、枝肉がA−3(キログラム当たり1,800円台半ば)に格付けられた場合、18年度に素牛を導入した肥育農家はその分については、採算が合わなくなる可能性がある。
また、19年5月の子牛取引価格は52万9千円と、ピーク時から大幅に下がったものの、その下げ幅は枝肉卸売価格ほどではない。
今後も飼料代の上昇懸念もあることから、枝肉相場の低下が続けば、子牛取引価格に対する下げ圧力が増すと考えられる。肉専用種の繁殖農家の一定の利益を確保するためには、その子牛の生産費40万円/頭(農林水産省発表「平成18年 子牛生産費」)が一つの目安となると考える。
(イ)乳用種(ホルスタイン)
○18年度の乳用種雄子牛の取引価格は大幅に上昇、19年度は低下傾向で始まる
乳用種(ホルスタイン)の雄子牛については、相対取引が中心であり、市場取引頭数は近年減少している。また、生乳の減産型計画が開始されたこともあり、平成18年度の取引頭数は前年度比11.8%減の1万4千頭となっている。
取引価格については、16年度以降は、牛のトレーサビリティ制度の導入などにより牛肉に対する安全性への信頼が向上したことおよび枝肉価格の上昇を受け、18年度は前年度比18.2%高の11万6千円となった。
19年度に入ってからは、枝肉卸売価格の低下により、5月時点で11万4千円と低下してきている(図3)。
図3 乳用種雄子牛 市場取引頭数及び取引価格の推移
○出荷体重、日齢とも上昇
乳用種雄子牛の出荷日齢は、17年度に減少したものの、18年度は黒毛和種を除く他の品種と同様増加し、228日となった。出荷体重も日齢の変化に伴い17年度は減少したが、18年度は279キログラムと増加した。取引価格が大幅に上昇した18年度の生体1キログラム当たりの取引単価は前年度比12.4%高の416円となった(図4、表3)。
図4 乳用種雄子牛 出荷体重及び出荷日齢の推移
表3 乳用種雄子牛の取引頭数、出荷体重、 取引価格、出荷日齢、取引単価の推移
○乳用種も黒毛和種同様、子牛取引価格の低下を懸念
肉専用種と同様に、肉用牛肥育経営安定対策事業における乳用種の18年度第4四半期の平均推定所得を見ると、3万9千円となっている。子牛導入後平均的な肥育期間は14.9カ月であるが、同四半期に出荷した肥育牛(17年10〜12月導入)の素牛平均価格が10万7千円に対し、19年1〜3月に導入された子牛価格は12万3千円と15%高である。
しかし、枝肉相場は今年に入って大幅に低下してきており、今後もこの価格で推移すれば、18年度に素牛を導入した肥育農家は、黒毛和種同様、将来、その分の採算が合わなくなる可能性がある。
19年5月の子牛取引価格は11万4千円と低下してきているが、枝肉相場も大幅に低下してきており、このような枝肉相場の低迷が続けば、飼料代の高騰などのコスト増もあり、今後の子牛取引価格に影響が及ぶことは避けられないとみられる。
3.おわりに
18年度の肉用子牛生産農家の経営状況については、枝肉相場の高騰を受け子牛取引価格が大幅に上昇した結果、おおむね良好であったといえる。
しかし、最近では、この状況に逆風が吹き始めてきており、枝肉卸売価格が低下してきている一方で、飼料価格が大幅に値上がりしている。このことにより、肉牛肥育農家がコスト負担に耐えきれず、子牛取引価格の引き下げ要因になってきているとみられる。さらに、米国産牛肉に係る輸入条件の見直し協議や豪州とのEPA(経済連携協定)の動向が今後の子牛取引価格にどう影響するか注目されるところである。
参考 道県別および市場別取引結果
平成18年度の道県別および市場取引結果を取引頭数別や取引価格別等に区分けし、その上位を掲載した。
(1)黒毛和種
(2)乳用雄子牛
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