1.はじめに
当機構は6月1日(金)、上州牛、上州麦豚など多くの銘柄牛、銘柄豚の産地である群馬県にて、消費者と生産者との現地意見交換会を開催した。
今回も全国的な消費者組織において、指導的な役割や活動を担われておられる方々に参加、出席していただいた。また、群馬県農業局畜産課をはじめ関係機関・組織の方々に協力をいただいた。
午前中は、赤城山麓にある(社)家畜改良事業団の家畜改良技術研究所を訪ね、牛肉トレーサビリティ施設を視察し、研究員の方々と意見交換を行った。
午後は、伊勢崎市において、黒毛和種の繁殖牧場と肥育牧場を訪ね、それぞれ生産者の方から生産・経営の概要、飼料価格の大幅な上昇など最近困っている問題を聞き、情報、意見交換を行った。
以下、これらの意見交換の概要を紹介する。
なお、消費者の方々は、佐波郡玉村町にある(社)全国食肉学校において、生産者組織の方々から、群馬県産の牛肉や豚肉の生産・供給の取組について説明を聞き、さらに、群馬県産「牛肉・豚肉」の直売所である「肉の駅」を訪ねた。
上州牛・上州銘柄豚とは?
(1)上州牛
群馬の肉牛は古くから風味の豊かな牛肉として知られていた。東京などの消費地では群馬産であったため、通称「上州牛」と言われ、親しまれていた。1976年以降、JA群馬経済連(現全農群馬県本部)を中心に県下の肉牛肥育農家の協議会により、和牛肉質等級「上」以上を「上州牛」と位置付けてきた。現在では、上州牛とは最長飼養地および最終肥育地が群馬県で、一定の基準を満たし、群馬県食肉卸売市場に上場される和牛と交雑種牛の総称である。平成19年2月:『上州牛』は特許庁より「地域団体商標」での商標権の取得が認められた。
(2)上州銘柄豚
上州銘柄豚のほとんどは、JAグループの契約農場が高品質豚生産のための専用指定配合飼料や飼育管理マニュアル・衛生マニュアルに基づき生産された豚肉であり、上州銘柄豚とはその総称。具体的には、「上州麦豚」(ハイポーク)・「上州麦育ち」・「奥利根もち豚」・「赤城ポーク」の4系統の豚肉の統一銘柄)、「赤城高原豚」、「はつらつ豚」、「クイーンポーク」、「吾妻高原ポーク」、「黒豚とんくろう」がある。
(社)全国食肉学校で群馬県食肉卸売市場の 萩原社長から地域ブランドなどについて聞く
黒毛和種 |
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和牛+交雑種 |
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(資料)群馬県食肉品質向上対策協議会公表資料 |
2.家畜改良技術研究所
研究所では、全国の食肉処理場でと畜された牛、年間約120万頭分の牛肉試料を受け入れ、保管して、その一部についてDNA型検査を実施し、牛肉トレーサビリティの検証などを行っている。
<意見交換の概要>
研究所:当研究所においては、トレーサビリティの裏づけとして、DNA解析技術を用いて個体識別を行っているが、日本全国の約170カ所の食肉処理場から、年間約120万頭の牛のサンプルが送付されくる。これだけ多くのサンプルを保管するに当たって、人為的ミスをできるだけ少なくするため、可能な限り人間が携わる部分を少なくしている。例えば、データを目で見て「打ち込む」のではなく、バーコードを利用し、自動的に「読み取らせる」ことを推進するなどしている。
消費者:牛肉トレーサビリティにおいて、個体識別を科学的に立証するためにDNA解析技術を使用していることはもちろんのことであるが、それに付随する業務においても、非常にシステム化されている印象を受けた。なるべく人為的ミスを少なくするよう努力されており、安心して牛肉を食べることが出来る。
消費者:個体識別に係る精度はどのくらいなのか?
研究所:0.999999999999で、9が12個の精度であり、ほぼ100%の精度の検査を行っている。すなわち、全世界で牛は約13億6千万頭いるといわれているが、全て検査しても同じDNA型の牛は現れないという精度である。牛の親子判定については、以前、「血液型検査」を行っていた際は、父権否定率は「0.9851」だったが、「DNA型検査」を行うようになってからは「0.9999」であり、こちらもほぼ100%の精度の検査を行っている。
消費者:3年間の保管期限の切れたサンプルはどのように処分するのか?
研究所:非常に重要な情報を持っているため、悪意を持って利用されないよう、当研究所が責任をもって焼却処分している。
試料受入施設と研究棟内部を見学
その後訪問した「肉の駅」で、店内設置の 機器によりトレーサビリティを照会・確認
3.小川牧場
小川恵弘さんは、乳牛48頭と、黒毛和種の繁殖牛110頭を飼養している。繁殖牛のうち50頭は次男が飼養している。
<意見交換の概要>
消費者:飼料畑を所有しているが、飼料は自給なのか?
生産者:粗飼料はおおむね自給出来ているが、配合飼料は外部から購入している。
消費者:牛群平均の分娩間隔はどのくらいか?
生産者:平均で13カ月前後である。
消費者:牛舎が清潔に保たれていると思う。
生産者:ある程度の労力がかかるが、畜舎を清潔に保つことで、子牛のストレスを出来る限り軽減している。ストレスが肉質に影響するという話もある。
消費者:昨今の飼料価格上昇をどう感じているか?
生産者:配合飼料は飼料メーカーから購入しており、輸入トウモロコシが主なので、約2〜3割程度、仕入価格が上昇している。食肉、牛乳などに価格転嫁することがすぐには難しいので、現在はわれわれ生産者が経営努力で価格上昇分を吸収している。恒常的にこの状況が続くと経営的に非常に厳しくなるため、消費者に現状の理解を得てもらいたいし、行政サイドにも効果的な対策をお願いしたいと考えている。
小川さん(右端)から牧場の概要を聞く
4.岡本牧場
岡本弘志さんは、黒毛和種の肥育牛110頭、繁殖牛5頭を飼養している。また、米麦を栽培する複合経営の農業者である。
<意見交換の概要>
消費者:子牛はどこから購入しているのか?
生産者:県内で購入しているものもあれば、東北地方、例えば岩手県から購入しているものもある。
消費者:肥育期間はどのくらいか?
生産者:だいたい9カ月齢の子牛を購入してきて、約20ヵ月肥育し、29ヵ月齢ぐらいで出荷している。出荷するときはだいたい700キログラムになる。
消費者:平均的な労働・作業時間はどれくらいなのか?
生産者:午前7時から午後6時ぐらいである。一般的な会社員と同じような時間と思う。
消費者:たい肥を作るため、牛床には何を敷いているのか?
生産者:木材(おがくず)チップを敷いている。1カ月に1回取替え、質の良いたい肥を作ることを心がけている。
以上のように、活発な情報、意見交換の後、各消費者代表の方から生産者に激励の言葉が送られ、閉会した。この現地意見交換会の開催に当たり、消費者代表の方々、生産者代表の方々、群馬県および関係機関・組織の方々の御協力を頂いた。厚く御礼申し上げたい。
岡本さん(右端)から牧場の概要を聞く
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