◎地域便り


北海道 ●放牧酪農の理想郷を目指して
       〜天北・放牧ネットの活動〜

北海道/余川 達也


 環境と調和した酪農の推進や、飼料自給率の向上に対する意識の高まりから、古くて新しい技術である「放牧」が見直されつつある。

 天北地域(宗谷支庁を含めた道北北部一帯)は、道内でも有数の草地型酪農が展開されている地域だが、こうした豊富な草地資源を背景にした放牧酪農が古くから行われているところでもある。この草地型酪農の原点ともいえる放牧酪農について議論を深め、放牧を採り入れている酪農家のネットワーク化を図ることを旨として、平成18年1月、天北・放牧ネット(会長:猿払村 小泉浩さん、会員約40名)が発足した。

 日常の活動は、e-mailを活用したメーリングリスト上で議論を行うという形をとっており、メンバーは天北地域の放牧酪農実践者や関係機関職員ばかりでなく、農業・畜産関係の研究者や学生、一般消費者まで、広く全国各地からさまざまな立場の人々が参加している。会の活動目標として、技術・環境・人材・情報の4つのキーワードを掲げ、それぞれ「放牧技術の向上」、「自然と酪農との調和」、「新規就農者のサポート」、「天北からの情報発信」といったテーマで、日々熱い議論が交わされている。

 また、セミナーの開催も積極的に行っており、平成18年9月には社団法人日本草地畜産種子協会とタイアップして、猿払村で全国規模の「天北放牧テクニカルセミナー」を、また平成19年4月には日豪EPA交渉をテーマにした勉強会を豊富町で開催し、今後も継続して技術セミナーなどの開催を計画している。

 本会は、会の活動目標の一つとして「新規就農者のサポート」を掲げているのが特徴である。これまで放牧といえば、理念を語る場はあっても技術を体系的に習得する場が少なかったこと、さらに、放牧を導入する環境が整っているにもかかわらず、天北地域からの情報発信が決して豊富ではなかったことなどが指摘されてきた。こうしたことを省み、本州府県などから放牧酪農を志向して北海道にやってくる新規参入希望者などに対し、明確な技術的指針を与え、精神的な受け皿となるべきとの考えから取り組もうとしているものである。このことは、セミナー開催時に放牧相談を受け付けたりすることで具体化させているが、放牧酪農に夢をもつ若者が一人でも多くこの天北地域を目指してこられるよう、今後より大きな動きとなることが期待される。

 緑の大地でゆったりと牛が草を食む。そんな北海道の原風景ともいえる放牧酪農であるが、天北ではごく当たり前のこんな風景をこよなく愛し、守り広めようという天北・放牧ネット。今後の活動が注目されている。


天北放牧テクニカルセミナー現地視察

放牧風景(稚内市抜海村クトネベツにて)

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