消費・安全局 消費者情報官 食育企画係
石田 千草
1.食育白書についてそもそも食生活のあり方は個人の価値観や考え方に負うところが大きく、その自由な判断と選択に委ねられるべきものです。しかしながら、忙しい生活を送る中で食の大切さに対する意識が希薄になり健全な食生活が失われつつあるなど、食をめぐる状況は危機的とも言うべき状況に至っています。このようなことから、平成17年6月に「食育基本法」(以下「基本法」)が制定され、18年3月には、関係府省が連携をして、家庭、学校、地域における食育を総合的かつ計画的に推進するため、「食育推進基本計画(以下「基本計画」)が決定されました。「食育白書」は、基本法第15条注1に基づき、毎年、国会に提出することとされている法定白書であり、今回ご紹介する「平成18年版食育白書」は、法制定後初めての白書として、18年11月24日に閣議決定されました。この食育白書には、基本法の制定にいたるまでの背景や基本法施行後の食育推進施策の実施状況、食育の総合的な促進に関する事例がたくさん紹介されています。 2.食育推進にいたる背景と取組の本格化(基本法制定の背景) 昭和50年代半ばに実現していた、日本の気候に適した米を中心に水産物、畜産物、野菜などさまざまな副食から構成され、栄養バランスに優れた「日本型食生活」が崩れてしまい、近年、脂質の過剰摂取や野菜の摂取不足といった栄養の偏りが見られます。(図1,2) 図1 食生活の変化(食事のエネルギーに占める割合)
図2 日本型食生活のすすめ 朝食欠食に代表される不規則な食事も目立つようになり、男女ともに20歳代が最も欠食率が高くなっています。また、子どもの朝食欠食も2割弱に上っており、子どもを含め、増加傾向にあります。また、男性の30〜60歳代の約3割に肥満が見られる一方、20歳代の女性の約5人に1人が「やせ」となっており、若い世代を中心にやせている人の割合が増加傾向となっています。 世界中では、8億人を超える人々が飢餓や栄養不足で苦しんでいる中、わが国では食べ残しや食品の廃棄を大量に発生させています。食料の生産や加工などの場面と直接触れる機会が減少し、生産者と消費者の物理的、精神的な距離が拡大してきたことなどから、食という行為が動植物の命を受け継ぐことであること、そして、食生活は生産者をはじめ多くの人々の苦労や努力に支えられていることを実感するのが難しくなってきています。また、食料自給率が世界の先進国の中で、最低の水準にあります。この原因として、欧米化などの食生活の大きな変化により国内で自給可能な米の消費が落ち、その一方で、原料や餌となる穀物の大部分を輸入に頼っている油脂や畜産物の消費が増えたことなどが挙げられます。さらに、気候変動などの地球環境問題、人口増加など世界の需給に関する不安定化要素を考えると、食料自給率の向上を図っていく必要があることなど、食に関しては様々な大きな問題が指摘されています。 (食育を推進する上での基本的な方針) さらに、「朝食を欠食する国民の割合の減少」「学校給食における地場産物を使用する割合の増加」「『食事バランスガイド』などを参考に食生活を送っている国民の割合の増加」「教育ファームの取組がなされている市町村の割合の増加」「推進計画を作成・実施している自治体の割合の増加」をはじめとする9つの目標が掲げられるとともに、具体的に目標の達成に向けて取り組む事項が定められています。 「食育白書」では、平成18年9月現在で、11の都道府県において、食育推進計画が策定されていることが紹介されています。 3.農林水産省における取組食育の施策を推進している主な府省は、内閣府、文部科学省、厚生労働省、農林水産省ですが、ここでは、「食育白書」の中での農林水産省に関する記述について紹介することとします。 (1)学校、保育所などにおける食育の推進 (2)地域における食生活の改善のための取組の推進 図3 東海地域版食事バランスガイド 店舗での「食事バランスガイド」の普及・啓発の様子 (3)食育推進運動の展開 (4)生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化等 「酪農教育ファーム」のように生産者、学校などの教育機関、ボランティア等が連携した体験活動が各地で行われていること、また、食や農に対する理解をより一層深めるため、年間を通して複数回にわたった体験学習を実施する団体などが取り上げられています。「酪農教育ファーム」とは、消費者に酪農のことを理解してもらいたいという酪農家の願い、酪農体験を通じて子どもたちに食や生命の大切さを学ばせたいという教育関係者の期待、これら双方の思いが一致し、各地域において、自発的に誕生したものです。 「食育白書」では、コラムとしていくつかの事例が記述されていますが、酪農教育ファームの事例として、平成10年に山口県の小学校において、1年生の生活科の学習指導計画に、地域の教育ファーム認証牧場での酪農体験学習を組み込み、半年間にわたる体験学習を実施したことが取り上げられています。このような取り組みの結果、命の大切さなどについて、子どもたちの心に変化が生じたばかりではなく、酪農家自身も子どもたちとの交流を通じて、酪農が地域の人々に自然との共生を教える役割も担っていることを改めて実感したそうです。現在では、様々な分野で牧場を開放して、チーズ作り教室や職場体験学習などに取り組んでいるということです。 地産地消の主な取り組みとしては、「直売所や量販店での地場産物の販売」、「学校給食、交流活動、福祉施設、観光施設、外食・中食、加工関係での地場産物の利用」が挙げられ、さらに、農林水産省で策定した「地産地消推進行動計画」について関係府省庁連携の下、農業・商工・観光・学校給食等関係者が一丸となって地産地消の推進を図っていることが記述されています。 このほか、「食文化継承のための活動への支援等」の中では、地域の郷土料理や伝統料理に関する情報提供、また、「食品の安全性、栄養その他の食生活に関する調査、研究、情報の提供及び国際交流の推進」の中では、リスクコミュニケーションの充実、食品の安全性に関する情報提供、食育の推進を図るための基礎的な調査の実施、食品表示制度の普及・定着といった様々な取り組みが紹介されています。 4.最後に以上のように、「食育白書」では、政府の施策の状況だけではなく、地域での様々な食育の事例が紹介されており、全国各地で、さまざまな実施主体により、どのような取り組みがなされているのかといったことがわかる内容となっています。食育推進運動の展開に当たっては、国民一人ひとりが自発的に食育の意義や必要性などを理解し、国民運動として取り組んでいくことが必要です。また、国や地方公共団体をはじめ、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、その他の民間団体などを含めた幅広い範囲の関係者が食をめぐる問題意識を共有しつつ、家庭、学校、地域といった社会の様々な場において、積極的な取り組みがなされることが重要です。まずは、自分に何ができるか考え、行動することが大切です。「食育白書」を参考に最初の一歩を踏み出していただければ幸いです。 食育白書は、インターネットでも、本文が掲載されることになっています。ぜひご覧ください。 内閣府 食育白書 注1)食育基本法第15条 |
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