★ 機構から


「畜産業務について意見を聞く会」の開催 について

総括調整役 飯田 道夫


はじめに


 当機構は、平成15年10月に発足以来、毎年、中期目標などに基づいて畜産業務の効率化と質の向上などを図り機構の役割を適切に果たすため、畜産の生産から流通、加工、消費に至る各分野の代表者から機構の畜産業務全般について意見を聞く会を開催してきている。今回は、平成18年11月21日に各界の代表者10名の方々に参集いただき、御意見を伺ったので、その要旨を紹介する。

 

出席者(敬称略)

冨士 重夫 (全国農業協同組合中央会常務理事)

上野 千里 (全国酪農業協同組合連合会代表理事会長)

齋藤 浩禧 (日本養豚事業協同組合専務理事)

早川 久一 (日本食肉輸出入協会副会長)

寺内 正光 (社団法人日本食肉市場卸売協会会長理事)

小林 喜一 (全国食肉事業協同組合連合会専務理事)

大野  晃  (社団法人日本乳業協会会長)

増田 淳子 (ジャーナリスト)

矢坂 雅充 (東京大学大学院経済学研究科助教授)

南波 利昭 (社団法人中央畜産会専務理事)  


意見要旨

冨士 重夫氏
(全国農業協同組合中央会常務理事


(1)現下の最大の農政課題は日豪FTA/EPA問題であり、豪州から日本への輸入総額の28%は農林水産物で、このうち牛肉、牛乳乳製品、砂糖などわが国の重要品目は15%程度とみているが、豪州はFTA/EPAで全体の95%を関税撤廃、自由化だと主張しており、極めて例外・除外扱いは認めないという基本方針をもっている国なので、大変な危機感を持っている。先に牛肉、牛乳乳製品、砂糖などの重要4品目の直接的影響は4,300億円、関連産業まで含めると3兆円くらいの影響があると報道されているように、豪州は先進国で農業輸出国なので、これまで東アジアの国々とFTAを結んできたものとは全く違う。そういう豪州との交渉という問題については、機構も牛肉・牛乳乳製品を抱えているので、非常な危機感を持って対処していかなければならない。

(2)粗飼料自給率100%の目標達成に向かって稲わらの畜産利用など様々な努力をしているが、もう少しホールクロップサイレージに重点を置いた施策を戦略的に打っていくということも考えてはどうか。

(3)平成27年に1兆円とする農林水産物の輸出対策について、現在、農業の輸出はそれほどないので、機構で、農産物、特に牛肉・和牛、牛乳乳製品の輸出を支援するための環境整備、市場調査などの事業を仕組むことはできないか。

(4)バイオマスでメタンガスを発生させて、発電して牧場内で利用し、余った電力を売電する資源循環システムについて、施設コストが非常に高いので、メタンガスによる発電に対する支援などの一層の強化に取り組んでもらいたい。


上野 千里氏
(全国酪農業協同組合連合会代表理事会長)


(1)牛乳乳製品、特に飲用消費が予想以上に低迷しているので、酪農経営は厳しい環境になっている。生産者は脱脂粉乳の在庫を減らすなどの取り組みを行っており、追加拠出金を出して消費拡大に取り組んでいる。学校の健康診断に骨量の検査を加えるとか、一般消費者に対して牛乳乳製品の優れた栄養価と機能性の優れた食味としての認識を理解させるような積極的な消費拡大の事業について支援してもらいたい。

(2)米国でのエコ燃料の需要増加から配合飼料原料価格は最高価格をつけており、配合飼料価格が値上がりしたり、近く中国も輸入国となって、世界で穀物の奪い合いの時代が現実化してきているのではないかと心配している。

(3)自給飼料生産を増やしたいと思っており、特に西日本では転作田が湿田でエサづくりは非常に難しかったり、イノシシが増えてトウモロコシが作れないなど非常に問題点・課題は多いが、作付面積も単収も、もっと増加させていかなければならない喫緊の課題だと思っている。また、消費者は脂肪の高い牛乳を求めていないので、牛乳の脂肪取引基準について早く解決しなければならないのではないか。

(4)豪州は世界一の酪農立国で、日本の3千倍のほ場規模で、牛乳生産費は、日本の81円に対して豪州は27円で、乳質も優れている。わずか人口2千万人の豪州とFTAの交渉をするということ自体に非常に危険を感じており、FTA交渉そのものに絶対反対であり、何としても国を挙げて阻止していただきたい。


齋藤 浩禧氏
(日本養豚事業協同組合専務理事)


(1)日本の養豚経営にとってWTO、FTAなど国際化への対応が大きな問題であり、特に差額関税はきちっと堅持してもらいたい。

(2)生産性改善とコスト低減が日本の養豚産業にとっての課題であり、特に、慢性疾病が地域においては大きな影響を及ぼしているという問題があり、これを克服するために、国家防疫とともに、地域防疫をきちっと確立していくことが必要である。特に養豚現場の獣医師が非常に不足しているので、長期戦略に基づいた養豚獣医師の育成をお願いしたい。


(3)食肉処理経費の低減のため、食肉処理場の配置、処理能力の再編整備などについて議論していただきたい。併せて、豚の枝肉の上限の基準の引き上げも検討していただきたい。

(4)養豚業界における担い手の育成が大きな課題であり、認定農家制度と相まって、業界としてもバックアップの仕方を十分検討していかなければいけないと考える。

(5)養豚の環境問題について、ふん尿処理は整備されてきているが、地域住民の中で養豚が永続するには、におい対策が大きな課題となっているので、あらゆる角度からにおい問題を研究していただきたい。

(6)食品残さを有効に飼料に使っていくことについて、中小規模の農家や養豚家が非常に多いので、地域ぐるみで利用できる食品リサイクル施設の構築を検討していただきたい。

 

早川 久一氏
(日本食肉輸出入協会副会長)


(1)食肉輸入に関して、このところ米国産牛肉のBSE問題、豪州の干ばつ問題、豚肉差額関税違反問題、鳥インフルエンザ、ポジティブリストなどに囲まれて大変苦労している。また、最近、原油などの資源高が食肉貿易に大変な影響を与えている。原油高で潤っているロシアがEUからロイン系豚肉を買いだしたり、オイルサンドで沸くカナダのアルバータ州でと場、カット場の労働者不足から冷凍豚肉の日本向け輸出が抑制されたり、米国でのエタノール向け需要増によって飼料向けトウモロコシ価格が上昇したり、豪州産牛肉も日本より高値をつける韓国向けが優先されており、このままいくと、日本は食肉でも買い負けになるのではないか。機構の駐在員レポートにおいて、こうした海外の需要動向も分析してもらいたい。

(2)米国産牛肉の輸入は、これから来年3月くらいまではA40または21カ月齢未満の牛肉の発生量が減るので、正常化は早くても3月以降ではないか。また、豪州産牛肉は大干ばつで大変高値となっており、もう現在の価格では買えないというようなところまできて、輸入量は対前年比1割程度下がっている。そのような状況から、米国産牛肉の輸入再開はできたが、まだ本来の食肉の需給バランスの正常化にはちょっと遠いかと思う。

(3)鳥インフルエンザの影響で鶏肉加工品の輸入量が大変増えて、最近は鶏肉より多くなっているので、機構で鶏肉加工品の在庫量も調査して教えていただきたい。


寺内 正光氏
(社団法人日本食肉市場卸売協会会長理事)

(1)物の流れが変化してきており、鳥インフルエンザ、BSEなどいろいろな病気の発生によって、牛肉、鶏肉の消費量が大幅に減少し、豚肉の輸入が大変厳しい環境になってきたという状況の中で、国内の生産頭数が大変減り、各卸売市場においては、頭数を集めるのが大変厳しい環境になっており、取り扱い頭数は年々減少している。

(2)BSEの発生以降、「安全・安心の品物を」という国民の皆さんの要望のある牛の全頭検査と、枝肉から精肉への加工時に発生するせき柱の処理経費の補助を国の政策として継続していただきたい。併せて、最終処理の研究の成果を踏まえて、規制緩和を促進していただきたい。

(3)今一番問題になっているのはピッシング中止の問題であり、18年2月現在、中止している施設は79施設(49%)、中止していない施設は82施設(51%)となっている。19年度にはさらに54施設がピッシングを中止し、20年度中には全施設が中止することになるが、その実施に向けて、施設の改良や作業員に危険を伴わない機械の早期開発をしていただきたい。

(4)特に市場流通というのは、やはりもとになる牛、豚がいないことには運営できないので、食料安保の観点からも、日本の畜産物並びに農産物の自給率のアップに努力していただきたい。牛の体外受精卵や乳牛の活用などの方法を考えていただきたい。

(5)和牛および黒豚の表示について、消費者から大きな関心を寄せられており、売るときには、買い手の皆さんに良く理解できるような表示にしていただきたい。

(6)と畜場の再編問題について、畜産においては必須の施設であり、それぞれの地域においていろいろな制約があると思うが、国産の牛肉ならびに豚肉の生産の確保のために整備していただきたい。


小林 喜一氏
(全国食肉事業協同組合連合会専務理事)

(1)食肉専門店など7千店の会員からなる全肉連としては、ここ十数年厳しい状況が続いており、中でもBSEが一番響いている。特に専門店では和牛の取扱いが多いが、和牛価格が非常に高騰している。価格が高騰したときに冷やす手段はなかなかない。その要因は、米国産牛肉が入ってきていないので、輸入牛肉のシェア10%を補いきれていないというのが現状である。

(2)全肉連の取り組みとして、各専門店の店頭で消費者にじかに触れる際に、肉の安全性についてよく説明したり、県連段階では消費者との交流会を開催している。今後、中央の段階でも、消費者団体の方たちに集まっていただいて交流会が開催できるようにお願いしたい。この際には、食肉流通に関係する各団体に集まっていただいて、「肉は安心して食べてもらえるのです。」ということなど言いたいことをまとめていきたい。また、神経根、胸腺の除去方法のようなことも説明して理解を得たらどうかと思う。

(3)近年は食肉消費総合センターの事業も食肉の知識普及の形になっているが、消費拡大のための宣伝に取り組んでいただきたい。


大野 晃氏
(社団法人日本乳業協会会長)

(1)牛乳乳製品の品質と安全性の向上は、乳業者の責務であり、協会としてもHACCPの普及と定着、正しい表示、法規制の順守などの徹底に取り組んでおり、機構から衛生管理体制強化のための各種研修会、講習会開催について補助の継続をお願いしたい。

(2)牛乳乳製品の消費拡大について、酪農・乳業界挙げて1日3回乳製品を摂ろうという「3‐A‐Day」運動を展開し、食育推進にも取り組んでいる。また、乳業者として、生乳使用の拡大、生処協調の下での輸入調製品から国産原料への切り替えを行っている。その生乳の需給調整に関して、機構から余乳処理対策への支援、チーズやクリームなどの需要拡大のための奨励金交付などの適時適切な支援を継続していただきたい。

(3)国際化への対応として、乳業事業の合理化・改善に積極的に取り組む必要があり、今後、WTO、FTAの進展によっては、乳業再編対策のハード事業に対する支援が必要になる場面も想定されるので、引き続き予算化をお願いしたい。

(4)環境・容器リサイクル対策の推進に乳業者の責務として一生懸命取り組んでおり、消費者、利用者に対する普及啓蒙に今後力を入れていきたいと考えている。

(5)カレント・アクセスの実行に当たっては、国内乳製品需給動向に即した品目の選定、SBSの拡大、入札ロットの小口化などの改善が行われているが、乳製品需給緩和の下で輸入した乳製品をさばくことが困難な場面も出ているので、需給が許す範囲内でバターや脱脂粉乳にSBSを適用できないだろうか。それによって、特殊な品目の需要者、TE輸入を行っている需要者などが新たに入札に参加することができ、カレント・アクセスの消化にも役立つのではないか。


増田 淳子氏
(ジャーナリスト)

(1)畜産は、母性そのものを育てる母なる産業、命を育てることによって成り立っている生命産業であると思う。今の子供たちに、「“命”とか“子供を育てる”ということがいかに親にとって大事で温かい気持ちなんだ」ということをわからせるために、畜産が果たさなければならないことはいっぱいある。酪農教育ファーム、ふれあい牧場などの取り組みをさらに一歩進めて、「命の教育」が畜産の担う食育であるということを施策の中に位置づけていただきたい。

(2)BSEの時に大騒ぎをしたが、のど元過ぎれば何とやらで、またも「畜産」というのが消費者から遠ざかってしまっている。消費者とか一般の人というのは、とらえどころのない存在なので、行政や機構のような団体から積極的に情報提供をしていく方法を知恵を出して考えていくことが大事だと思う。

(3)豪州とのFTA問題についても、私たちの今の食料自給率40%という食生活はまさに砂上の楼閣で、私たちの生活防衛型の今の食生活は豪州からの畜産物で随分支えられているという実態が消費者に全然伝わっていない。また、畜産物の消費が低迷したまま相変わらず回復しないというが、どこに100グラム800円の国産和牛肉を買える庶民がいるのだろうか、ひとえに価格の問題だろうと思っている。

(4)耕畜連携について、稲作農家の方はどうしてもまだ米を作るという思いが強くて、ホールクロップサイレージでも「飼料の稲ねぇ」というような思いがどこかに漂っている。お互い仲良くならないと耕畜連携というのは難しいという感じがした。そんなことからも、飼料自給率を向上し、それが全体の食料自給率の向上につながると言っても、消費者には伝わっていないということが残念である。


矢坂 雅充氏
(東京大学大学院経済学研究科助教授)

(1)牛乳消費の低下も踏まえ、なぜ日本で畜産が必要なのかと改めて問われている。牛乳は有害と書いた本が売れてしまうのは、牛乳・乳製品や酪農生産の現場を想像し、理解し得るような乳の文化が生活に定着していないからではないか。生産と消費の断絶感を縮める努力を行政も業界も行っていく必要があり、機構も大きな役割を果たしていただきたい。

(2)英国のキャトル・ムーブメント・サービスのように、消費者からの畜産・家畜さらには動物に関する様々な問合せに的確に答えられる総合情報センターが必要であり、機構は普段から海外情報も含め蓄積をしているので、一定の機能を果たすことに期待する。

(3)これから需要全体が減少していく中で、畜産物市場の安定化を図る需給調整はいっそう難しくなる。さらにEPAやWTOに対応して、畜産の分野でも環境保全をはじめとして多面的機能に配慮した新たな直接払いを模索していく必要がある。食肉では市場が需給調整機能を担っており、効率的で信頼性の高い市場を整備することが不可欠であろう。酪農・乳業では、業界・行政が連携を取りながら効率的かつ計画的に需給調整を行う方向に進んでいる。機構も業界・行政と連携して計画的に市場調整を担うとともに、とりわけ海外からの市場環境変化をモニタリングする役割を重視してほしい。

(4)生産効率の高い畜産経営だけが残ればよいという構造調整を進めていくと、最終的に日本に畜産はなくてもよいという考え方と重なっていく。畜産は環境、資源保全、地域経済などと多くの接点をもちうる産業なので、価格支持だけでなく、多様な畜産の展開を支援する施策を進めてほしい。

(5)日本は急ごしらえでBSE対策を講じてきた。ようやくBSE問題や食品リスクなどについて落ち着いた判断ができるようになりつつあり、畜産物の安全・信頼性確保対策は国の助成や検査などに依存した緊急時のシステムから、業界や民間事業者の自主的な活動・負担を基本とする平常時のシステム構築に向けて移行するという新たな課題に取り組む時期にある。そこではパニックを抑制するために設けられた規制の緩和、あるいは逆に実質的な機能として定着していない制度・規制などの監査体制強化といった対応が求められている。こうした転換が円滑になるように、機構による支援の視点も変えていく必要がある。


南波 利昭氏
(社団法人中央畜産会専務理事)

(1)畜産関係団体の状況については、県団体では財源の地方委譲によって予算が削減され、事業縮小や大幅なリストラを行う必要にせまられるなど一段と苦しくなっている。中央団体も程度の差はあれ、今後、同じような状況に追い込まれるのではないかと思っている。中央畜産会でも、公益法人改革を目前にして、職員構成の見直し、給与体系の見直し、独自財源の確保などに努めている状況である。

(2)日本の畜産の情報の取り組みが以前に比べて手薄になっていると感じている。今後予想される色々な問題に対処する上からも、情報を正しく把握することがとても大事であるので、畜産関係情報を含む情報業務全般について機構の一段の力添えをいただきたい。

(3)畜産団体に関して、中央団体の統合が遅れており、統合がいち早く進んだ県の大きな不満になっている。中央・地方の団体の連携、事業の効率化の観点から、中央についても、合理化、統合を進めるということが必要だと思う。これには、やはり事業を行っているところに音頭を取ってもらうのが一番実効があるので、国と機構に是非、畜産団体の再編統合のリード役をお願いしたい。

(4)畜産業振興事業について、業務の効率的な実施に今後とも配慮いただくとともに、事業成果を上げるために各団体が十分に活動できるように事業管理費などのあり方について配慮をお願いしたい。

(5)機構の運営に当たっては、中期目標、中期計画を達成するために創意工夫を大いに発揮して、評価にしばられた安全運転だけではなくて、日本の畜産のためにどのように役立ったかという成果を目指す運営をしてもらいたいと思っている。


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