北海道ではバイオマスを利用したエネルギー利用は、先行的に家畜ふん尿を利用したバイオガス(メタン)プラント発電が実用化しており、26施設(発電まで行うもの)が稼働している。ここでは十勝管内士幌町内で一般酪農家3戸に実験的に導入されている中の士幌南地区の鈴木正道さん(38歳)の事例を紹介したい。
鈴木牧場の概要
昨年1月に父の鈴木洋一さん(64歳)は正道さんに経営を移譲しているが、平成16年度には「日本農業賞(個別経営の部)」で大賞を受賞するなど北海道屈指の酪農経営者である。昭和45年に酪農専業経営に転換以来、妻の玲子さん、長男の正道さん(現経営主)と力を合わせて、施設と飼養管理の近代化(フリーストール・ミルキングパーラー、コンピュータによる牛群管理・飼料給与システム)を早期に実現した。さらに米国より優良基礎雌牛の導入、また3.5ヘクタールの農場構内を作業道、生活道、牛乳搬出・牛群移動等の専用道に整然と区分して作業効率と安全性を確保、また美観重視の面から芝生化やアスファルト舗装、電線の地下埋設に取り組むなど、その先取・積極的な経営姿勢が高く評価されてきた。
現在の経営規模は、利用農地が65ヘクタール(自作地35.5ヘクタール、借地29.5ヘクタール)、飼養総頭数は380頭で成牛は210頭(搾乳牛は190頭)、育成牛が170頭。
生産規模は年出荷量で1,900トン、1頭当たり平均乳量は9,200キログラム/頭と高い生産性を実現している。
バイオガスプラント設置の経緯と発電実績
士幌町は平成15年に農業振興特別事業の一環として「バイオガスプラント実証試験」を実施、町内3戸の酪農家農場内にプラント(それぞれ別システム)を設置してその実証データを収集することとしたが、鈴木牧場はそのうちの1戸となり、16年からプラントを稼働させている。そのバイオガス発電のフローを概略図に示した。
このシステムにより発電した電力は、システム自体の内部消費と農場の消費電力に充当するが、これによって電力会社からの買電量を節減することになるが、時期、時間帯によって発電量が需要量を上回る時は、電力会社に売電する仕組みとなっている。
年間の発電量は約21万kWh(キロワット時)で、年間の電力料節減額は110万円程度と鈴木牧場では積算している。プラントのリース料等60万円/年とメンテナンス料等を160万円程度とすれば差引き約110万円の損失となるが、これより液肥の評価額や慣行のふん尿処理作業の軽減の評価分、さらに最近では某企業に対する環境権譲渡(約30万円)も具体化しているので、これらを控除するとこの赤字は相当程度圧縮されると語っている
また、この対応として現行の売電単価【平日・昼間の9.5円(冬季)、9.3円(冬季以外)、休日・夜間の4.3円/kWh】をヨーロッパ並みの20〜25円程度にすることとか、電力会社の料金設定システムの「デマンド契約」の改訂などが必要だと鈴木さんは強調している。家畜ふん尿のようなバイオマスから生産したエネルギーを高く買い取る政策の具体化が、鈴木さんのように真摯な実践活動を展開している農業者と地球環境を守ることになると考えられる。
バイオガスプラントの実証プラント。電気・熱エネルギーの生産、消化液は液肥として活用 |
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