◎地域便り


徳島県 ●傾斜地放牧の先駆者

徳島県/福井 弘之


 現在、遊休農地に繁殖牛を放牧する事例が全国的に増えているが、約25年前に自らの判断で、それも急傾斜地の棚田に牛を放牧し、見事なシバ草地を完成させた藤原久義さん(64歳)。徳島県西部の吉野川上流に位置する三好市で、阿讃山脈の中腹東斜面という極めて条件の不利な地において、昭和55年に和牛の肥育経営を開始した。しかし、このような土地条件では牛舎の増設が難しいことから、昭和57年に繁殖経営へ転換した。その翌年、父親の二朗(じろう)さんから、畦草(エサ)を担いで急な坂道を歩くのが辛いので、牛を棚田に放したいという切実な提案があり、思いきって放牧を開始した。当初は牧草不足や脱柵に苦労し、増頭は考えていなかった。平成9年にシバ放牧を研究している高知県の上田孝道さんに出会って、シバ草地の良さを知り、シバ草地造成方法の指導を受けた。その後、地道に畦半のシバを放牧地に移植する作業を3年繰り返した。5年後にはシバ草地が完成し、草量が増したので増頭した。


 藤原さんは、牛や草の状態を絶えず把握しており、お互いのバランスを考えて放牧時間を調節し、シバ草地が荒れるのを防ぐため、季節放牧(5〜11月)を行っている。放牧牛はストレスのない健全な状態が保たれている。よって、疾病発生率も低く、診療・医薬品費が一般的な繁殖経営に比べかなり低い。

 現在、放牧地は3.5ヘクタールに及んでおり、繁殖牛を22頭飼養し、年間15頭の子牛を出荷している。所得率は50.1%と非常に高い農業収益を誇っている。このような、産業が成り立ちにくい山間地でありながら、好成績、高収益を得ていることから、中央畜産会などが主催する平成18年度全国優良畜産経営管理技術発表会において、農林水産省生産局長賞(優秀賞)、中央畜産会長賞(優秀賞)、全国肉用牛振興基金協会会長賞(優秀賞)を受賞した。


 今後は、現状の経営規模を維持し、親子放牧や近隣の遊休農地を借りて自給飼料の増産を計画しており、より一層の省力化、コストの削減を目指している。



78枚の棚田跡地で放牧

20年かけて造成した草地
 

急傾斜でも牛は平気


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