世界での存在感を増す中国の酪農乳業
国際酪農連盟日本国内委員会 |
平成18年10月18日〜23日の6日間、上海で開催された国際酪農連盟(International Dairy Federation,IDF)の年次会議ならびに第27回IDF世界酪農会議に参加した。率直な印象は飛躍的な速度で成長を続ける中国の酪農乳業の存在感が世界で急激に高まっていると感じた。開会式で、中国乳製品工業協会理事長の宋 崑岡氏が「各国政府の介入で乳製品の国際市場はゆがめられているが、それが改善されれば中国は乳製品の輸出国になる」との発言には正直いって肝を抜かれた感じを抱いた。さらに同氏は「IDF最大の関心事は牛乳がほかの製品に対抗できる競争力をもつことである」と指摘し、牛乳消費の減退が日本だけではなく、先進国共通の悩みになっていることの認識を示したことも注目された。 IDF年次会議と同時開催になった世界酪農会議では発展を続ける中国の酪農乳業事情が講演会やセミナーなどのかたちで紹介された。中国大手乳業メーカーの伊利乳業や光明乳業などの経営トップも登場した。急成長する市場でビジネスチャンスをつかもうと、世界各国の団体や企業から1,500人近い人達が参加した。会場には中国語と英語で「私には夢がある。それはすべての中国人、特に子どもが牛乳を毎日500ミリリットル飲むことだ」(温家宝首相)、と「子どもに牛乳を飲ませることほど良いことはない」(チャーチル元英国首相)などの言葉が大写しで掲げられており、中国の今日の姿勢をよく物語っていて印象深いものを感じた。 中国で酪農乳業が急速に発展したのは90年代末からであり、経済発展と政府の支援で2001年には生乳生産量が1,000万トンの大台を超え、日本を上回っていることは周知のとおりである。さらに、今年は3,000万トンに達するとの見方もされており、その勢いはとどまるところを知らない。しかしながら、衛生面では克服すべき多くの課題があることから、乳製品を輸出するまでにはかなりの時間がかかるであろうと専門家は指摘し、また光明乳業の品質管理担当者も「品質管理の向上には長い道のりが必要」と言っている。とはいうものの、今日の中国の勢いを考慮すると、衛生面での今日的劣勢も驚異的な速度で世界水準に追いつくのではないかというのが私の率直な感想である。 会期最終日に開かれた「乳製品の衛生と食品の安全及び国際貿易のための食品規格に関する特別講演」の中で、Astin氏が「中国の上海周辺の輸出水産業は、欧米型の汚染微生物増殖予想をモニタリングするコンピューターソフトウエアを導入して品質管理に取り組んでいる。」と述べたのを聴き、水産物で可能なら乳製品でもできるはずで、中国をなめてかかると痛い目に遭うのではないかとの危ぐを感じた。 このたびのIDF年次会議ならびに世界酪農会議が初の中国開催となったことは中国にとって格好の国威発揚の場を演出できたことは当然としても、酪農乳業界は大豆を筆頭とするほかの食材との競争、よりあからさまに言えばanti dairy coalitionといかに立ち向かうかが今日IDFが直面している大きな課題であり、そのために真のグローバル化に向けた取り組みを積極的に展開する意味からも、この会議はIDFにとって好都合の場であったと思う。 IDFはどちらかというと、これまでは欧米とオセアニア中心の組織だったが、最近はESADA(東南アフリカ乳業連合)を傘の下に入れるなどグローバル化に努めている。そうした中での中国開催は意義深いものであったと思うし、聴衆の反応も良好であったと思う。日本も今回、乳業メーカーや大学の研究者らが過去最多の9名が講演し、また、ポスターセッションにも数題の発表が日本人によってなされたことも高く評価したい。さらに、このたび、上野川修一日本大学教授(東京大学名誉教授)が、酪農・乳業分野で世界最高の賞であるIDF賞を東洋人としては初めて受賞されたことは、国際酪農連盟日本国内委員会にとって大きな慶事であった。この賞は、IDFが世界の酪農・乳業の発展に偉大なる功績を挙げた人に授与する権威ある国際賞であり、腸管免疫の機構解明とプロバイオテイクスの免疫賦活化作用についての上野川教授の業績が高く評価されたものである。授賞式に臨み、上野川教授の受賞はまさにわが国におけるミルクサイエンス分野の研究レベルの高さを示すものであるとの感慨を深めた。 |
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