◎調査・報告


いまどきの牛乳事情

酪農学園大学食品流通学科 教授 細川允史


1 飲料消費動向と牛乳

 総理府が実施している消費者の1世帯当たり年間消費動向を示す家計調査年報(平成17年)によると、飲料単体では、牛乳が1位で、18,862円を消費(支出)している。次いで果実・野菜ジュース9,274円、日本茶5,615円、コーヒー4,758円、コーヒー飲料3,156円、炭酸飲料2,640円、ミネラルウオーター2,029円、乳酸菌飲料975円の順になっている。これでみると、牛乳は結構飲まれているということになる。

 そこで、アンケートを実施した。対象は、学生と一般消費者で、学生は酪農学園大学の食品流通学科と食品科学科の学生、それに札幌学院大学の学生で合計300名である。また、一般消費者は、札幌・江別の消費者約80名と、東京の消費者(東京地域婦人連絡協議会会員)80名、合計160名である。アンケートのやり方は、1週間の毎日の飲料を記録できるシートを配って、毎日記録してもらった。その結果は、家計調査と大きな差があった。また、学生と一般消費者の差も大きかった。それを表にすると、表1のようになる。

 これを見ると、まず牛乳は学生では飲料の第1位である。なお、学生の内訳では酪農学園大学の学生は札幌学院大学の学生よりも牛乳摂取量がかなり多い。しかも、学生のアンケート数300のうち、札幌学院大学の学生は200名と3分の2を占めている。それでこの数値と言うことは、酪農学園大学の学生の牛乳摂取量は非常に多いと言うことになる。さすがというべきか。一方、一般消費者の飲料の第1位は日本茶で他を圧している。

表1 アンケートに見る飲料別の1週間の摂取比率(%)

 一般消費者でペットボトルでない、湯を注いで飲む形式の茶が多いのは、高齢者は家庭にいて、始終茶が飲める環境にあるし、勤めている人も職場で茶を入れて飲めるからで、学生は逆に、そのような機会が学生生活では少ないからと考えられる。

 その代わり学生は、ペットボトルを始終携行し、飲んでいる。したがってペットボトル系の飲料が高い比率となっている。このことは、ペットボトルの利用ができない牛乳には不利となっていて、その改善で牛乳消費がもっと増える可能性があることを示している。コーヒーなども大人の飲料で、学生が喫茶店などで飲むのも経済的になかなかできない。

 今回、1週間分を記帳してもらうという従来にないアンケートをしたまとめを見ると、家計調査の結果と大きな相違がある。どうも生活実感からは、筆者のアンケート結果の方が、実態をより正しく捉えているように思う。なお、今回のアンケートデータについて年齢別クロス集計など、より詳細な分析を実施中で、近いうちにまとめる予定である。

一般消費者の飲料消費動向
(アンケート結果)


学生の飲料消費動向
(アンケート結果)



2 アメリカの牛乳事情断片

 アメリカでの牛乳事情はどうかというと、ニューヨーク州やニュージャージー州などの東北部州の統計によると、炭酸飲料が43.8%、ボトルドウオーターが21.6%、牛乳が17.8%、ジュースが11.8%、スポーツドリンクが3.5%、茶が1.6%、となっていて、コーラなどの炭酸飲料の消費量が圧倒的に多い。この点は日本と大きな差がある。また、年々消費が伸びているのは、ボトルドウオーターとスポーツドリンク、そして茶系飲料である。炭酸飲料は、近年、糖分が多く肥満との関係が指摘されて、2004年までは毎年0.5%前後は伸びていたが、2005年にマイナス0.6%と、初めて減少に転じている。

 牛乳は2000年以降では、2002年に対前年比プラス0.3%となったほかは、毎年0.数%ずつは減少傾向にある。もっともニュージャージー州政府(農業省)によると、牛乳消費拡大キャンペーンの効果で、2006年は少し上向いているという。

アメリカにおける飲料全体のシェア


「酪農学園大学」シンポジウム資料より抜粋

 ニュージャージー州では、生乳の生産者価格がキロ換算で24円程度で、生産者は安すぎて経営が成り立たないと嘆いている。州政府の話でも、かっては3,000あった牧場が、いま1,400ほどに激減している。州政府としては、流通に問題があるのではないかと、分析を進めていて、必要な対策をとりたいとしている。

 一方で、酪農家の中には、生乳価格が安いので、チーズに加工してニューヨークのファーマーズマーケットなどで高値販売をして成功している人もいる。

 

3 牛乳入手機会に関する考察

 牛乳をもっと飲んでもらうために、外出する機会を捉えて飲みたいときに容易に入手できれば手軽に消費拡大できるはずである。他の飲料は、自動販売機があって買い易いが、牛乳では今のところ、紙パック品以外はない。

 では、いつでも飲めるという環境にあれば、どんな飲料がもっとも飲まれるか。外資系のB社は、東京丸の内にあり、職場にドリンク軽食コーナーがあって、社員は誰でも自由に席を立って無料で飲むことができる。同社からヒアリングしたが、このような環境下では、牛乳はよく飲まれていて、社員100名程度で1日1リットルパックが50箱消費されると言う。一人500ミリリットルの消費で、これは標準より多いのではないか。同社はこの無料のドリンクコーナーに年間7,000万円の経費をかけている。

 飲む機会を増やすことは、牛乳消費にとって大切なことで、昔からある駅ホームのミルクスタンドは、電車が来たらあわてて菓子パンを牛乳で流し込む思い出とともにあった。もう少しゆっくり飲める店の構造、商品構成はできないものか。

 

4 プレミアム牛乳の登場と牛乳新時代

 「明治おいしい牛乳」を皮切りとして、「贅沢しぼり」、「森永のおいしい牛乳」、「牛乳が好きな人のメグミルク」、「よつば朝のミルク」、「軽やかしぼり」、「サツラク低温殺菌牛乳」(札幌周辺で入手できるブランドだけ列挙したので他意はありません)、「オーガニック牛乳」など、従来よりも高く売れるか新しい発想を取り入れるなど、牛乳も新時代に入ってきている。これまでは成分無調整として、殺菌方法くらいしか違いがなく、牛乳はほとんど商品差が出なかったといわれていた。だからスーパーの安値の目玉商品にされたわけである。これらのプレミアム牛乳はそれぞれ独自の製法と技術が裏づけとなっているが、まだまだ消費者はそのあたりの知識が乏しく、差をあまり感じていないようである。それでも安売りの目玉だった牛乳に付加価値が認められ、高めの価格でも消費者が買ってくれるようになることは、非常に重要なことである。これからもこのような斬新な発想の展開を期待したいし、消費者にも技術的特徴について理解を深めてもらいたい。

 また、牛乳を他の食品とブレンドして違った味で楽しむ考え方も広がっている。M社のバーモント酢との混合は、飲むヨーグルトのような味わいで、飲みやすく健康にもよさそうだ。ほかにもいろいろなブレンドのアイデアがある。このようなアイデアを広めて、牛乳をより多方面で活用できれば、ひいては有力な消費拡大になる。

 最後に、飲料に対する考え方について提起したい。食事については、国が食のバランスガイドというキャンペーンを展開している。いろいろな食品には多様な効用があるので、バランスを取って食べましょうということだが、その飲料版があってもいいのではないだろうか。つまり、牛乳、茶、コーヒー、その他のいろいろな飲料は、それぞれ別の効用がある。したがって、総合的に多様な飲料をバランスよく摂取しましょうということである。どの程度の摂取がもっともバランスがいいのかは、専門家のアドバイスに期待する。また、ブレンドという考え方は、飲料同志の垣根を取り払う効果がある。

 消費減少で危機に立つと、いろいろな知恵も出てくる。牛乳は人間の健康に欠かせない飲料であることは間違いないので、危機をバネに新境地を開く姿勢が大切だし、その芽が出ていると考える。関係者各位の努力に期待したい。


元のページに戻る