◎調査・報告


平成18年度畜産物需給関係学術研究情報収集推進事業
畜産用おが粉の需給に関する研究

鹿児島大学 農学部
教授 遠藤 日雄


1.はじめに

 本研究は、これまで等閑に付されていた畜産用おが粉の需給(流通構造)について、畜産業および製材業が盛んな宮崎県都城地区を対象に、その実態を明らかにし、併せて今後の課題について若干の考察を加えたものである。

 おが粉は製材過程で必然的に発生する副産物であり、その利用(処理)方法がなかった時期には、製材業にとっておが粉は「厄介もの」であった。しかし、おが粉が家畜用敷料として利用されるようになると、おが粉生産(製材業)と消費(畜産農家)の間に介在する流通業者が形成されるようになった。やがてこの流通業者は単に生産と消費の橋渡しにとどまらず、例えば、家畜のふん尿処理などを担うなど、さまざまな付加価値部門を併設するようになる。本研究ではその実態についても言及した。


2.おが粉の種類と集じん方法

 おが粉の種類は製材用の帯鋸(おびのこ)と丸鋸(まるのこ)によって2種類に分類される。このほかモルダ(木工面取り盤。回転する垂直主軸とテーブルからなり、主としては工作物の側面を曲線削りまたは溝削り加工する木工機械)による製材品の修正ひき過程でおが粉が発生するので、都合3種類のおが粉になる。3種類の中では帯鋸(おびのこ)製材過程で発生するおが粉が最も良質で、次いで丸鋸(まるのこ)おが粉、モルダおが粉の順になっている。ただ、モルダおが粉は乾燥処理された製材品ひき過程から発生するので含水率が低い。従って、畜舎で飛散するため、畜産農家ではあまり歓迎されないのが実状である。そのため帯鋸(おびのこ)製材と集じん装置を同じにして両者を混ぜることもあるが、コストがかさむという難点がある。

 製材過程で発生したおが粉は、集じん装置によってサイロに集められる。サイロが満杯になると迅速に流通業者がトラックで購入する(引き取る)のが製材経営にとって必須条件である。おが粉がサイロからあふれると周辺に散布し、製材作業の停止を余儀なくされるからである。


3.宮崎県都城地区の森林・林業・木材産業の概要

 宮崎県の森林面積は58万9,000ヘクタールで、このうち人工林は36万4,000ヘクタールである(人工林率61.8%)。人工林の大部分はスギである。こうした充実したスギ人工林資源を原料基盤として、宮崎県のスギ素材(丸太)生産量は毎年100万立方メートル前後を維持しており、以下の大分、熊本、秋田3県の60万立方メートルグループを大きく引き離している。

 宮崎県の木材登録(平成17年度)によれば、同県の製材業者は203であるが、このうち都城地区の製材業者は48で県全体の23.6%を占めている。また、宮崎県の5森林計画区(流域)別の製材工場を出力階層別にみると、都城地区を含む大淀川流域の製材工場数は100工場あり、しかもそのうち150.0キロワット以上の大規模工場が31工場稼働している。以上のように、都城地区は有力なスギ材産地である。従って、同地区で発生するおが粉の量は極めて多いことがうかがい知れる。


4.都城地区におけるおが粉の需給

 『宮崎県木質バイオマス活用ビジョン』(平成17年)によれば、同県のおが粉発生量7万4,905トンのうち7万4,884トンが利用されており、「ほぼ全量が家畜敷料として利用されている」ことがわかる。また『ビジョン』によれば、宮崎県では年間24万2,731トンの製材端材が発生しているが、その内訳はおが粉が7万4,907トン、端材が10万8,869トン、樹皮(バーク)が5万8,955トンとなっている。そして、これらの活用は都城地区を含む大淀川流域は14万9,647トンと最も多い。


5.都城地区におけるおが粉製造の実態

 以下では都城地区の典型的なおが粉製造・販売として位置づけられるT木材(株)を紹介する。

(1)製材の概要とおが粉の発生 
 T木材(株)の製材工場はスギ丸太を年間約6万立方メートルを消費する、わが国でもトップクラスの量産製材工場である。製材工場は足場板を製材する工場と、柱角、間柱を製材する工場に分かれているが、ここでは後者を事例として取り上げる。

 同工場ではノーマンツインバンドソー(ツイン帯鋸(おびのこ)とツイン丸鋸(まるのこ)を組み合わせたもの)で平均末口径級18センチメートルの丸太から柱を主体に製材し、背板から間柱や野地板をひいている。従って、この製材過程で発生するおが粉が、同工場のおが粉の大部分を占める。

 製材された柱および間柱は人工乾燥に付された後、モルダで修正ひきされる。このため、このモルダひき過程でもおが粉(俗に言うカンナくず)が発生する。おが粉は製材過程、モルダひきそれぞれ独自の集じん装置でサイロに集められる。


製材過程で発生するおが粉

(2)おが粉の販売状況
(1)おが粉の販売価格
 おが粉の販売価格は、3トントラック1台、つまり製材過程で発生するおが粉の購入者がサイロからトラックに積み込む3トントラックを単位にして設定されている。T木材では3トントラック1台で1万1,000円で販売している。しかし、最近の外材需給がタイトになっているため、1万2,500円に値上げをする予定である。一方、モルダひきで発生したおが粉は3トントラック1台3,000円で販売している。

 T木材(株)によれば、おが粉の販売価格には季節性があるという。すなわち、夏季のおが粉の需要は少なく、冬季は多い。というのも、夏季は牛、豚、鶏などのふん尿を含んでも気温が高いため乾燥しやすいのに対して(さらに畜舎の中には扇風機がまわっている)、冬季は家畜の尿の量が多いのと乾燥しにくいからだという。

(2)おが粉の販売先
 おが粉の販売先は畜産農家を含む6社である。大部分はおが粉を扱う流通業者であるが、おが粉販売量の8割を占めているのはM通商である。つまり、M通商を基幹部分とし、ほかの5社で補完する販売体制をとっている。その理由は次のとおりである。

 すなわち、第1に、おが粉は製材過程で必然的に発生し、それを集じんすると時間が経つにつれてサイロは満杯になる。満杯状態を超えると、おが粉は周辺に飛散し、近隣の居住者に迷惑をかけることになる。従って、サイロが満杯になる直前におが粉を販売する体制(換言すれば、おが粉流通業者に引き取ってもらう体制)を確立しないと、製材業にとっては死活の問題になる。このため、T木材とM通商の間には、サイロが満杯になる前に引き取ってもらう(購入してもらう)といういわば「暗黙の了解事項」が成立しているわけである。こうした「暗黙の了解事項」はほかの小規模業者の場合は順守できない。というのも、畜産農家を含めたほかの業者は、その業者の事情(例えばおが粉が足りているとか、季節によって購入量が異なるなど)によって、おが粉の購入量、購入時期に違いが生じてくるからである。

 第2に、ではM通商とほかの業者との決定的な違いは何か。それはM通商がおが粉保管用の倉庫を所有していることである。これによって、需給動向に左右されることなくT木材からおが粉を購入することができる。

 第3に、M通商は倉庫を保有することによって、畜産農家とのおが粉取引価格交渉の主導権を掌握することができるというメリットを享受できる。つまり、例えば、冬季のおが粉の需要が増加するときは、値上げを提示することが可能になる。

 以上のような製材業とおが粉流通業者の取引関係は多くみられる。


6.宮崎県における畜産業の現状

 宮崎県は畜産業の盛んな地域である。畜産農家数は、乳用牛で飼養戸数465戸で全国第15位、九州で第2位(第1位は熊本県)である。肉用牛は飼養戸数が1万600戸で全国第2位、九州第2位(第1位は鹿児島県)、飼養頭数は27万900頭で全国第3位(第1位北海道、第2位鹿児島県)、九州では第2位である。養豚は農家戸数は662戸、飼養頭数90万3,400頭と飼養戸数、頭数ともに全国および九州第2位(第1位鹿児島県)である。採卵用鶏は飼養戸数84戸(全国第18位、九州第4位)、飼養羽数4,012羽(全国第22位、九州第3位)と少ないが、ブロイラーは飼養戸数394戸、飼養羽数1万8,437羽と圧倒的に全国第1位の座を占めている。

 このように宮崎県は畜産業が盛んであり、都城地区もまた畜産業の盛んな地域である。従って、飼養している家畜の排せつ物も多い。畜産業では、平成11年度に制定され、平成16年に完全施行された家畜排せつ物法(「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」)により家畜の排せつ物処理に規制がかかり、従来のような素堀りや野積みといった処理方法ができなくなったのである。さらに南九州地域では、土壌が窒素過多であることから、家畜排せつ物をたい肥化して土壌還元する方法以外の対策も必要とされる。そこで導入されたのが、畜舎に敷料を入れて、家畜の排せつ物を吸着させてそのまま燃焼処理するという方法である。畜産業の盛んな都城地区では、いきおいおが粉敷料の確保が畜産農家にとって極めて重要な課題になったのである。


7.おが粉流通業者の実態

(1)Z興業(都城市)
(1)概況
 Z興業は、おが粉を専門に扱う大規模流通業者である。昭和55年に現在の流通業を始めた。現在はJA宮崎の専属の流通業者である。宮崎県経済連から委託され、農協系大手食肉会社と提携して宮崎県南部のブロイラー農家のほぼすべてにおが粉敷料を販売している。取引している農家は90〜100軒であり、その8割がブロイラー農家である(残りは肉用牛および養豚農家)。

(2)おが粉取引の現況
 おが粉の流通は、契約している製材工場のサイロ下から自社のトラックでおが粉を積み込み、そのまま契約している畜産農家の畜舎に搬入するのが一般的なケースである。

 しかし、Z興業が、ほかの小規模おが粉流通業者と決定的に異なる点は、自社でおが粉保管用の倉庫を保有していることに加え、おが粉製造機を保有していることである。いずれもおが粉需要に弾力的に対応するためである。

 おが粉製造機は2基あり、製材工場から購入した製材端材(主として背板)を原料としておが粉を製造している。Z興業がおが粉製造機を導入したのは、1基目が平成14年、2基目が平成17年である。従って、おが粉需要に弾力的に対応することによって経営を安定化させる方向を目指し始めたのはここ数年のことである。

 おが粉取引の状況をもう少し詳しく述べると次のようになる。Z興業は36台のトラックを保有し、1製材工場当たり3〜4台のトラックでおが粉の運搬に対応している。取引している製材工場は10工場以上に上る。

 一方、自社のおが粉製造機の原料になる製材端材は1束当たり1,000〜3,000円で購入している。しかし、おが粉製造機で製造されたおが粉は樹皮が混じっていること、製材過程で発生するおが粉に比べて粒子が粗いため、畜産農家への販売価格は安いのが実状である。

 Z興業では、4種類のおが粉を畜産農家へ販売している。すなわち、(1)製材過程で発生するヒノキのおが粉(3,000円/立方メートル)、(2)製材過程で発生するスギのおが粉(2,600円/立方メートル)、(3)自社製造おが粉(2,400円/立方メートル)、(4)製材工場のモルダひきで発生するおが粉(カンナくず)(無料提供。量的には極めて少ない)。1日の平均取扱量は製材おが粉50立方メートル、自社製造おが粉50立方メートルの計100立方メートルである。おが粉販売農家は、せいぜい100キロメートル以内に立地している。

 以上のようにZ興業は、規模の大きいおが粉流通業者であるが、単なる流通業者として律しきれない側面がある。というのもZ興業は、おが粉販売農家(ブロイラー農家)に対して、おが粉敷料が鶏ふんで一杯になった場合、その鶏ふん敷料を鶏舎から取り出して新しいおが粉敷料と交換し、鶏糞敷料を処理工場まで運搬しているからである。おが粉販売にはそのコストも含まれているので、単なる流通業者の域を超えているといえよう。


サイロに集められたおが粉(おが粉流通業者によるおが粉の引き取り)

(2)W通商(鹿児島県末吉町)
(1)概況
 W通商の創業は昭和56年である。同社はもともと宅配業や引越し業を中心とした運送業を営んでいた。それが15年前から環境部門の経営にも乗りだし、その一環としておが粉の購入・販売事業にも着手したという経緯がある。

 環境ビジネスとしては、おが粉の販売(自社製造も含む)、建築解体材や外材梱包材の粉砕処理なども行っているほか、自社の敷地内に小規模な畜舎を設けて、新たな敷料の効果実験なども行っている(なお、W通商の事務所は鹿児島県末吉町にあるが、末吉町は都城市に隣接し、経済圏は都城地区に属する)。

(2)おが粉取引の現況
 W通商は製材業も兼営し、そこで発生したおが粉を販売している。また、これとは別におが粉製造機を2基設置しており、そこで粉砕されたおが粉を販売している。おが粉製造機にかける原料はすべて自社の製材過程から出る端材である。

 おが粉の販売先は畜産農家である。その内訳は、肉用牛農家と養豚農家が半々である。従って前述のブロイラー向け主体のZ興業に比べると、肉用牛、豚は1頭当たりの排せつ量が多く、おが粉販売量が多くなる。大規模な養豚農家になると、4棟で800頭におよぶ豚を飼育しており、1日当たりのおが粉販売量は平均140立方メートルに達する。おが粉の販売価格は運賃込み(すなわち畜産農家の畜舎搬入)で1立方メートル当たり2,000円である。これとは別に、畜産農家が自分のトラックでおが粉を購入するケースもある。また、販売農家が近距離の場合(約10キロメートル圏内)は販売価格から1,000〜2,000円サービスする場合もある。おが粉使用後の敷料処理も請け負っている。その大部分はバイオマス燃料にしている。

 ここではW通商が、前述のZ興業とは次の点で異なっている点に注目したい。それは、おが粉に付加価値を付けて販売していることである。特に、自社のおが粉製造機で製造したおが粉に放線菌や土着菌などを混入させている。これらの菌を混入したおが粉は、敷料が吸収した排せつ物の分解が菌によって促進されるため、清潔な状態をよりよく維持することが可能になる。また、短期間に排せつ物を分解するため、畜舎内の消臭効果が大きくなるというメリットももっているし、家畜に対するストレスの軽減や敷料の使用期間の長期化にもつながるという。しかも、敷料としての使用期間が同時に排せつ物の分解期間にもなるため、使用後に農業用のたい肥として利用することもできる。

 実際、W通商では、これらを商品化(農業用の豚ふんたい肥)して販売している。しかし、生産量が少量であるのが実状である。このため、W通商では、たい肥化用施設の拡充を行っている。また、利用率の著しく低い樹皮(バーク)を粉砕し、採卵用鶏の排せつ物吸着剤として製造・販売も行っている。


黒豚飼養に使っている放線菌や土着菌を混入したおが粉


8.おわりにー今後の課題ー

 以上のように、製材工場の製材過程から自然的に発生するおが粉は、その利用方法がなかった時期には、製材業にとって「厄介者」であったが、畜産農家のおが粉敷料として利用することによって需要と供給の関係が形成され現在に至っている。

 そしてその需給、すなわち、おが粉生産と消費をつなぐ主体はおが粉を専門に取り扱う流通業者である。しかも、流通業者の大部分は、おが粉を製材工場のサイロから引き取り、それを畜産農家の畜舎へ搬入するという流通業的側面を色濃くもっているが、ここ数年こうした性格を脱却して、地域循環という視点からおが粉(あるいはおが粉に付加価値を付けて)を取り扱う流通業者が出始めていることは注目すべきである。事例で挙げたW通商の活動がそれを示唆している。すなわち、今後、製材業と畜産業の活性化のためには、おが粉を取り扱う流通業者が単におが粉を敷料として畜産農家に搬入するだけでなく、おが粉の需給動向の把握、畜舎の衛生状態や環境問題を視野に入れた付加価値の高いおが粉の製造販売が可能な経営形態に脱皮していくことが求められている。新しい環境ビジネスとしてのおが粉流通業者の姿である。W通商はそのビジネスモデルになり得ると考えられる。

 以上の結果から、今後のおが粉需給に関する研究をさらに進めるためには、次の点が課題になろう。すなわち、第1は、製材過程で発生するおが粉利用の地域別特徴の解明である。都城地区の場合は、おが粉の利用が畜産業で行われているが、畜産業とは違った別の分野での利用もあるはずである(例えば、青森県のナガイモ貯蔵に利用するおが粉)。それを明らかにして、全国的視点からのおが粉需給の把握が必要である。

 第2は、おが粉を木質バイオマスという視点から捉え、木質バイオマスの有効利用の方向を探るという作業の必要性である。例えば、宮崎県ではおが粉をバイオマス発電に利用することなどが考えられている。いわばおが粉の新たな需要の可能性の究明である。


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