食肉生産流通部 食肉課長 安井 護
はじめに 日本の輸入牛肉マーケットは、米国産とカナダ産牛肉の輸入が再開されたものの、豪州産が9割弱と圧倒的なシェアを占めている。では、豪州以外は、どのような状況にあり、日本マーケットでどのような販売戦略を立てて、売り込みを図っているのだろうか。 カナダの輸出戦略 平成17年12月、米国産と同時に、カナダ産牛肉の輸入が2年7カ月ぶりに再開された。輸入停止前の13年度に2万1千トン、シェア3.4%であった輸入量は、18年度に輸入停止前の約1割の2千トンにとどまっている(図1)。
図1 カナダ産牛肉の輸入量 BSE発生に伴い、文字通りゼロからの再スタートとなったカナダの牛肉業界は、日本マーケットをターゲットにどのような販売戦略を立てて、販売量の拡大を目指しているのか。 カナダビーフ輸出連合会の駐日代表坂本智成氏とマーケティングマネージャーの野村昇司氏に話をうかがった。 カナダビーフ輸出連合会 駐日代表 坂本 智成 氏 (機構、以下alic)最初にカナダビーフ輸出連合会の組織について教えてほしい。 (カナダビーフ輸出連合会、以下cbef)当連合会は昭和59年にカナダの肉牛産業の中心地であるアルバータ州のカルガリーで設立された。目的はカナダ産牛肉の米国以外のマーケットへの輸出振興である。特に北アジアに力点を置いており、同年日本にも事務所を開設し、現在、韓国、香港、中国、台湾、メキシコの6カ国に代表がいる。日本事務所のスタッフは3名だ。 (alic)予算は誰が拠出しているのか。 (cbef)カナダ連邦政府が約半分、残りは州政府と肉牛生産者。 (alic)平成18年のカナダの輸出量を見ると合計37万トンのうち、米国向けが8割と圧倒的である。また、生体の対米輸出も、と場直行牛が70万頭、肥育素牛が33万頭とかなりの頭数。そうした中で、わざわざ北アジアに力を入れなくても、米国向けに特化していればよいのではないか。 (cbef)平成27年(2015年)までに米国以外への輸出を50%以上にするというのがわれわれの目標である。米国は重要なマーケットだが、何事も一極集中は良くない。日本、韓国、中国などの北アジアマーケットは今後も高い伸びが見込める市場であり、ここでの輸出量を伸ばすことがカナダの牛肉産業にとって極めて重要だ。 (alic)輸出国を多様化することによって、売り手としての力を高めたいということか。 (cbef)そのとおり。売り先が米国だけだと、価格にしろ、売買条件にしろ、すべてが相手ペースになってしまう。他のマーケットがあれば、米国向けに条件が合わないときに、そこに販売することができる。また、部位の展開、つまり、ロインは米国向け、ばらは日本、韓国向け、ももはメキシコ向けと、それぞれの部位ごとに需要の強いマーケットに振り分けて、もっとも有利な条件で販売することもできる。 対日輸出戦略(alic)17年12月の輸出再開から、1年半が経つが、対日輸出量が増えていないのはなぜか。
図2 カナダ産牛肉の輸入価格(CIF) (alic)月齢確認は耳標で行っているのか。 (cbef)現在、耳標装着は法律で義務化されており、来年からはすべて電子耳標となる。ただし、耳標は家畜疾病対策が目的であり、生年月日の入力は任意となっている。もちろん、日本向けには生年月日が明らかで20カ月齢以下の肉牛だけが輸出される。なお、カナダは5月の国際獣疫事務局(OIE)総会でBSEステータスについて「管理されたリスクの国」とされた。 (alic)耳標装着システムへの任意の生年月日の入力は進んでいないのか。 (cbef)確かに生産段階での生年月日入力は進んでいない。生産規模が日本とは桁違いに大きく、現場で日付を把握して、入力するのはかなりの労力を要する。また、手間ヒマかけても、必ずしも日本向けに高く買ってもらえるとは限らないので、生産者も入力に乗り気でない。 (alic)では、今後も輸出量は現状程度か。 (cbef)ここに来て電子耳標の自動読み取りシステムなどの導入が進んできた。例えば、フィードロットの導入時に月齢証明が可能な牛だけを一つのペンに入れて肥育し、まとめて出荷し、と畜する方法や、パッカーでの生体受入時に電子耳標の月齢情報を読み取って、と畜、解体、部分肉処理までその情報を自動的に伝達するシステムなどである。やっと、日本向けの輸出態勢が整ってきたようだ。 日本市場の位置付け(alic)カナダの輸出戦略の中で、日本マーケットの位置付けはどのようなものか。 日本での販売戦略(alic)カナダ産の特徴は何か。
(cbef)「安全性」については、政府間で合意された輸出条件に従って行われており、日本に輸出されるものは当然、安全なものであるので、セールス・プロモーションでことさら「安全性」だけを訴える必要はないと考えている。
図3 14年度の部位別シェア
図4 18年度の部位別シェア
(alic)セールス・プロモーションでは、量販店と外食のどちらに力を入れているのか。 (cbef)現在は、量販店に力を入れている。理由は二つあって、量販店で直接、消費者に訴え、カナダビーフの認知度を上げることが、いずれ外食での需要増加に波及すること。2点目は、現在はチルドが8割と以前とは逆で、外食が安心して使えるフローズンの供給が少ないため、外食向けのプロモーション活動はしたくてもできない。 (alic)フローズンが少ない理由は何か。 (cbef)現在は日本向け適格牛が少なく、生産量が少ないため、パッカーがフローズン用の製品を保管するだけの余裕がないためだ。生産が増えてくれば、ファミリーレストランやホテルなどとタイアップしたカナダビーフ・フェアなどを増やしていきたい。 (alic)どのような量販店を対象にセールス・プロモーションをしているのか。 (cbef)もともと、輸出量が限られるので、全国に展開するナショナル・チェーンストアではなく、地方で20〜30店舗を展開するリージョナル・チェーンストアをターゲットにしている。 (alic)具体的には何をやっているのか。 (cbef)ユーザーからの申請に応じて、店内でのキャンペーンに使うチラシ、ポスターなどの販売促進用資材の提供や試食用スタッフの派遣などである。 (alic)外食向けに、フェア協賛以外にやっていることはあるか。 (cbef)最近始めたものに、若手シェフを対象に例えばクロッド(かた)などのあまり注目されていない部位を利用したメニューコンテストがある。「カナダ産牛肉ならどこでもいい」のではなく、人気部位以外の良さも知ってほしいとの思いがある。 (alic)直接、消費者向けのPRは行っていないのか。 (cbef)消費者向けPRで効果を得るためには、多額の費用をかけて、繰り返し繰り返し、やらなければならないので、今後、輸出量の増加に伴い拡充していきたい。 草の根ベースで、一つ一つ地域ごとのユーザーを攻略していくのがわれわれのやり方だ。 |
元のページに戻る