★ 機構から


日本マーケットでのカナダビーフの販売戦略

食肉生産流通部 食肉課長 安井 護


はじめに

 日本の輸入牛肉マーケットは、米国産とカナダ産牛肉の輸入が再開されたものの、豪州産が9割弱と圧倒的なシェアを占めている。では、豪州以外は、どのような状況にあり、日本マーケットでどのような販売戦略を立てて、売り込みを図っているのだろうか。

 米国については、情報量も多く、また、本誌5月号でも報告したところであるので、今月号と来月号の2回に分けて、カナダ産、ニュージーランド(NZ)産の現状と販売戦略について報告したい。

 ピーク時の輸入量はカナダ産2万トン、NZ産4万トンで、シェアはそれぞれ3.4%、8.6%であった。カナダもNZも、それぞれ米国と豪州という世界の牛肉産業のビッグ・プレーヤーの隣国であり、いやが応にもその影響を受けているし、日本マーケットでも、豪州と米国との違いを打ち出しながら、競争して行かざるを得ない。

 そのような立場のカナダ、NZの日本での販売戦略を知ることは、日本各地で食肉の銘柄化を進めたり、販路拡大に取り組んでいる方々にも参考となることと思う。


カナダの輸出戦略

 平成17年12月、米国産と同時に、カナダ産牛肉の輸入が2年7カ月ぶりに再開された。輸入停止前の13年度に2万1千トン、シェア3.4%であった輸入量は、18年度に輸入停止前の約1割の2千トンにとどまっている(図1)。

図1 カナダ産牛肉の輸入量


 BSE発生に伴い、文字通りゼロからの再スタートとなったカナダの牛肉業界は、日本マーケットをターゲットにどのような販売戦略を立てて、販売量の拡大を目指しているのか。

 カナダビーフ輸出連合会の駐日代表坂本智成氏とマーケティングマネージャーの野村昇司氏に話をうかがった。


カナダビーフ輸出連合会
駐日代表 坂本 智成 氏
 

(機構、以下alic)最初にカナダビーフ輸出連合会の組織について教えてほしい。

(カナダビーフ輸出連合会、以下cbef)当連合会は昭和59年にカナダの肉牛産業の中心地であるアルバータ州のカルガリーで設立された。目的はカナダ産牛肉の米国以外のマーケットへの輸出振興である。特に北アジアに力点を置いており、同年日本にも事務所を開設し、現在、韓国、香港、中国、台湾、メキシコの6カ国に代表がいる。日本事務所のスタッフは3名だ。

(alic)予算は誰が拠出しているのか。

(cbef)カナダ連邦政府が約半分、残りは州政府と肉牛生産者。

(alic)平成18年のカナダの輸出量を見ると合計37万トンのうち、米国向けが8割と圧倒的である。また、生体の対米輸出も、と場直行牛が70万頭、肥育素牛が33万頭とかなりの頭数。そうした中で、わざわざ北アジアに力を入れなくても、米国向けに特化していればよいのではないか。

(cbef)平成27年(2015年)までに米国以外への輸出を50%以上にするというのがわれわれの目標である。米国は重要なマーケットだが、何事も一極集中は良くない。日本、韓国、中国などの北アジアマーケットは今後も高い伸びが見込める市場であり、ここでの輸出量を伸ばすことがカナダの牛肉産業にとって極めて重要だ。

(alic)輸出国を多様化することによって、売り手としての力を高めたいということか。

(cbef)そのとおり。売り先が米国だけだと、価格にしろ、売買条件にしろ、すべてが相手ペースになってしまう。他のマーケットがあれば、米国向けに条件が合わないときに、そこに販売することができる。また、部位の展開、つまり、ロインは米国向け、ばらは日本、韓国向け、ももはメキシコ向けと、それぞれの部位ごとに需要の強いマーケットに振り分けて、もっとも有利な条件で販売することもできる。


対日輸出戦略

(alic)17年12月の輸出再開から、1年半が経つが、対日輸出量が増えていないのはなぜか。

(cbef)4点に整理できる。まず、1点目として、パッカーが月齢証明のできる生体を買う場合にプレミアムを払う必要がある。一方、主要な輸出品目は、ばら、肩ロースなどの4品目だけで、ここにプレミアムが上乗せされるのでどうしても割高になってしまう。

 2点目はパッカーの処理コスト。日本向けに特別に時間、場所を割いて処理しなければならないことが負担となっている。あるパッカーでは問題発生防止のため、カナダ政府の検疫検査前に全箱確認を行っている。

 3点目は、春に分娩が集中する季節生産のため、翌年の秋から冬にかけて20カ月齢以下の出荷が減少するので、輸出したくても十分な牛肉が生産できない。

 4点目は、輸出量が少ないため、売り手と買い手の間で値段がこなれてこない。買い手の日本のユーザーからは「価格がもう少し下がればもっと買いたい」と聞く。

図2 カナダ産牛肉の輸入価格(CIF)


(alic)月齢確認は耳標で行っているのか。

(cbef)現在、耳標装着は法律で義務化されており、来年からはすべて電子耳標となる。ただし、耳標は家畜疾病対策が目的であり、生年月日の入力は任意となっている。もちろん、日本向けには生年月日が明らかで20カ月齢以下の肉牛だけが輸出される。なお、カナダは5月の国際獣疫事務局(OIE)総会でBSEステータスについて「管理されたリスクの国」とされた。

(alic)耳標装着システムへの任意の生年月日の入力は進んでいないのか。

(cbef)確かに生産段階での生年月日入力は進んでいない。生産規模が日本とは桁違いに大きく、現場で日付を把握して、入力するのはかなりの労力を要する。また、手間ヒマかけても、必ずしも日本向けに高く買ってもらえるとは限らないので、生産者も入力に乗り気でない。

(alic)では、今後も輸出量は現状程度か。

(cbef)ここに来て電子耳標の自動読み取りシステムなどの導入が進んできた。例えば、フィードロットの導入時に月齢証明が可能な牛だけを一つのペンに入れて肥育し、まとめて出荷し、と畜する方法や、パッカーでの生体受入時に電子耳標の月齢情報を読み取って、と畜、解体、部分肉処理までその情報を自動的に伝達するシステムなどである。やっと、日本向けの輸出態勢が整ってきたようだ。


日本市場の位置付け

(alic)カナダの輸出戦略の中で、日本マーケットの位置付けはどのようなものか。

(cbef)有望な北アジアマーケットの中で、日本はかなめとなる国であり、重視している。BSEをきっかけに日本の牛肉消費のパイは、縮小しているが、いずれ回復すると見ており、その中でシェアを高めていきたい。

(alic)当面の目標は。

(cbef)平成19年6千トン、20年3万トン、27年には7万トンで輸入量の7〜8%のシェアが目標である。

(alic)具体的にどの部位を売りたいのか。

(cbef)現在の主要部位は、ばら、肩ロースなどに加えタンなどであるが、ロインをもっと売っていきたい。

(alic)ロインは、カナダでも、米国でも十分に需要があるのではないか。

(cbef)先ほど述べたが、販売先は一極集中ではなく、選択肢を持っていたい。米国がダメなら、日本へ、日本がダメなら米国へという具合に複数のマーケットを持つことで、売り手としての交渉力を強めたい。

(alic)ももは余らないのか。

(cbef)幸いメキシコが、ももの大きなマーケットとなっている。メキシコ向けは米国に次いで2番目で輸出量の16%を占めている。

(alic)日本向けには20カ月齢以下という条件があるので、フルセットでなければ売らないということはないのか。

(cbef)フルセットで買ってくれればうれしいが、そうはいかないだろう。日本マーケットは国産と豪州産のフルセットで基本的な牛肉需要を賄っており、需要を満たしていない、ばらなどの足りない部分を北米が供給する構造となっていると理解している。そんな中で無理にフルセットを売ろうとは思わない。


日本での販売戦略

(alic)カナダ産の特徴は何か。

(cbef)国土は広大だが、カナダ産牛肉の品質はどこの産地であっても品質が均一であることが特徴であり、最大のセールスポイトである。その理由は、品種がヘレフォード、アンガスなどの優良な肉専用種であること、飼料が大麦とコーンであることだ。それが「おいしさ」につながっている。

(alic)店頭用のポスターを見ると、カナダの国のイメージとおいしさが前面に出ている。セールス・プロモーションでは、「安全性」については訴えていないのか。

(cbef)「安全性」については、政府間で合意された輸出条件に従って行われており、日本に輸出されるものは当然、安全なものであるので、セールス・プロモーションでことさら「安全性」だけを訴える必要はないと考えている。

(alic)プロモーション活動の基本的な考え方は何か。

(cbef)われわれは、輸入者、卸売業者、ユーザー(量販店、外食)の3者を橋渡しする触媒の役目を担っていると思う。

 例えば量販店に対しては、卸売業者に同行して、われわれがカナダ産牛肉の生産状況、衛生条件、品質など全体的なことについて訴える。卸売業者は、商売ベースの条件を提案する。こうして、両者でタッグを組んで営業を行っている。

 逆にユーザーから関心が寄せられれば、扱っている卸売業者、輸入者を紹介し、3者を結び付けて、一緒になって販売促進を行っている。

 また、直接、ユーザーと接点のある卸業者の営業所の担当者に集まってもらい、カナダ産牛肉について知ってもらうためのセミナーを開催している。

(alic)量販店向けと外食・業務向けの販売割合はどのようになっているか。

(cbef)はっきりしたことは分からないが、チルドは量販店向け、フローズンは外食・業務向けだと思う。以前は、輸入量の8割がフローズンのばらで、そのほとんどは外食の牛丼、焼き肉用であった(図3、4)。

図3 14年度の部位別シェア


図4 18年度の部位別シェア

(alic)セールス・プロモーションでは、量販店と外食のどちらに力を入れているのか。

(cbef)現在は、量販店に力を入れている。理由は二つあって、量販店で直接、消費者に訴え、カナダビーフの認知度を上げることが、いずれ外食での需要増加に波及すること。2点目は、現在はチルドが8割と以前とは逆で、外食が安心して使えるフローズンの供給が少ないため、外食向けのプロモーション活動はしたくてもできない。

(alic)フローズンが少ない理由は何か。

(cbef)現在は日本向け適格牛が少なく、生産量が少ないため、パッカーがフローズン用の製品を保管するだけの余裕がないためだ。生産が増えてくれば、ファミリーレストランやホテルなどとタイアップしたカナダビーフ・フェアなどを増やしていきたい。

(alic)どのような量販店を対象にセールス・プロモーションをしているのか。

(cbef)もともと、輸出量が限られるので、全国に展開するナショナル・チェーンストアではなく、地方で20〜30店舗を展開するリージョナル・チェーンストアをターゲットにしている。

(alic)具体的には何をやっているのか。

(cbef)ユーザーからの申請に応じて、店内でのキャンペーンに使うチラシ、ポスターなどの販売促進用資材の提供や試食用スタッフの派遣などである。

(alic)外食向けに、フェア協賛以外にやっていることはあるか。

(cbef)最近始めたものに、若手シェフを対象に例えばクロッド(かた)などのあまり注目されていない部位を利用したメニューコンテストがある。「カナダ産牛肉ならどこでもいい」のではなく、人気部位以外の良さも知ってほしいとの思いがある。

(alic)直接、消費者向けのPRは行っていないのか。

(cbef)消費者向けPRで効果を得るためには、多額の費用をかけて、繰り返し繰り返し、やらなければならないので、今後、輸出量の増加に伴い拡充していきたい。

 草の根ベースで、一つ一つ地域ごとのユーザーを攻略していくのがわれわれのやり方だ。


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