★ 農林水産省から


今後の豚改良増殖体制について


 

1 はじめに

 農林水産省では、平成17年3月に平成27年度を目標年度とする新たな家畜改良増殖目標を公表するとともに、同年10月には、目標を着実に達成するための改良増殖体制強化に関して「家畜改良増殖推進検討会報告書」を取りまとめたところである。

 一方、「同報告書」取りまとめ以降、豚改良増殖をとりまく情勢は変化しており、特に税源移譲(注)により国が都道府県における豚改良事業の取組みを把握することが困難となり、都道府県をはじめとする改良機関の連携が希薄になることも懸念されている。このため、関係機関の役割や連携のあり方を再整理し報告書の具体化を推進することを目的とし、今般(平成19年3月30日)、「豚改良体制整備中央推進検討会」を開催し当面の行動計画等について検討を行ったので、その検討内容等を紹介する。

(注)税源移譲とは、納税者(国民)が国へ納める税(国税)を減らし、都道府県等に納める税(地方税)を増やすことで、国から地方へ税源を移すこと。これに伴い、18年度以降、これまで国が交付金により助成していた優良種豚導入等の改良増殖事業は廃止され、都道府県が自主財源により取組んでいるところ。


2 豚の改良増殖に係る各種会議の位置づけ

 「豚改良体制整備中央推進検討会」は、「家畜改良増殖推進検討会報告書(17年10月)」の具体化を目的として農林水産省が主催し、豚改良機関、養豚生産者、学識経験者等幅広く関係者を委員として任命して開催したものである。ここでの検討結果を踏まえ、

(1) (独)家畜改良センターは、「豚改良増殖推進委員会(仮称)」を開催し、センターの業務に係る課題を中心に関係機関との連携に係る調整と検討を行い、

(2) 畜産草地研究所は、「豚の新育種技術に関する研究会」を開催し、国及び都道府県、農業団体、民間等の豚改良関係者により、閉鎖群育種をはじめ豚の育種技術に関する研究の推進を検討することとしている。

(3) また、これら各種会議における検討内容については、農林水産省が、都道府県の行政担当者等を対象とした全国会議において、周知を図ることとしている。

 

豚の改良増殖に係る各種会議の位置づけ



3 豚改良増殖の現状と課題

 「豚改良体制整備中央推進検討会」においては、当面の行動計画を検討する前に、現状と課題について共通認識を得るために、資料「豚改良増殖の現状と課題」に基づき議論を行った。概要は以下のとおりである。

(1)わが国の純粋種豚の能力

【現状】
(1) 繁殖能力を雌系のランドレース種についてみると、3週齢時育成頭数は、過去20年間で9.1頭から9.7頭と改良がみられるが、概ね横ばい傾向となっている。(図1)

図1 繁殖能力の推移(3週齢時育成頭数:ランドレース種)

資料:(社)家畜改良事業団「家畜改良状況調査」、
    15年以降は豚の遺伝的能力評価
注:12年以前は2週齢時の成績

(2) また、産肉能力を雄系のデュロック種についてみると、1日当たり平均増体量は、過去20年間で749グラムから923.6グラムと改良がみられるが、最近では伸びが鈍化している。(図2)

図2 産肉能力の推移(1日当たり平均増体量:デュロック種

資料:(社)日本養豚協会「豚産肉能力検定」
注:2年までは旧検定方法による

 また、豚の能力(繁殖能力)について、わが国と豚肉輸出国の平均値で比較すると、デンマークが1腹当たり産子数が多いなど能力が高い傾向がみられるが、米国、カナダについてはわが国と同程度となっている。(表1)

表1 豚の能力の国際比較

資料:日本については、(社)家畜改良事業団「家畜改良状況調査年次成績(LW、WL平均値)」、農林水産省「畜産物生産費」米国、カナダ、デンマークについては、Danish Pig Production 「Costs in International Pig Production 2002」

【課題】
 繁殖能力については、遺伝率が低く改良が困難ではあるが、生産性向上のために重要な要素であることから、今回の検討会においても、(独)家畜改良センターで雌型系統造成を検討してはどうかとの意見も出されたところであり、今後、関係機関が一体となって取組む必要がある。

 また、輸入豚肉との差別化を図るため、近年、筋肉内脂肪含有量等の肉質改良の取組が行われているが、これらの取組を推進するためには客観的な数値指標の導入・普及が重要である。

(参考)豚の能力(飼料要求率)と収益性
 肥育豚の生体1kg当たり配合飼料給与量別の収益性をみると、給与量が少ない階層ほど流通飼料費が低く、これに伴い概ね所得が上昇傾向となっている。これは、改良により飼料要求率を低くすることで経営改善が可能となることを示している。(図3)

図3 肥育豚の生体1kg当たり配合飼料給与量別の収益性(全国・肥育豚1頭当たり)

資料:農林水産省「畜産物生産費調査」をもとに試算
注1:流通飼料費に占める配合飼料費の割合が50%以上、
   かつ、生体1kg当たり配合飼料給与量2.5kg以上の
   客体について集計
注2:4.5kg以上の階層は、繁殖めす豚頭数に占めるバー
   クシャー種の割合が平均で約21.2%と、他の階層
   (0%〜約5.3%)より高くなっており、これが1頭
   当たり粗収益の上昇要因と考えられる。

 

(2)豚の改良構造

【現状】
 わが国の種豚の供給は、公的機関が中心となって閉鎖群育種によって造成した系統豚が約2割、民間を中心とした開放型育種による種豚が6割、海外で育種し国内で増殖された海外バイブリッドが約2割となっている。(図4)

図4 豚の改良構造

【課題】
 系統豚の供給を行う公的機関や多くの民間種豚生産者においては、種豚供給ロットの多頭化が進んでおらず、大規模肥育豚生産者の種豚供給ニーズに対応しきれていないため、中小種豚生産者、公的機関等におけるグループ化や連携が必要となっている。

(参考)海外ハイブリッド豚の利用状況
 国内における海外ハイブリッド豚のシェアは、平成6〜8年頃まで増加傾向で推移してきたが、その後、種雄豚は微減傾向、種雌豚は微増傾向、肉豚は横ばい傾向となっている。

 近年、肥育豚生産者におけるハイブリッド豚の利用は、ハイブリッド豚間の交雑利用だけでなく、止め雄として、我が国の消費者ニーズに対応した肉質を求めて国内産の種雄豚を利用するケースもみられる。(図5)

図5 各飼養頭数に占めるハイブリッド豚の割合

資料:(社)中央畜産会「家畜改良関係資料」

<参考> 都道府県における豚改良体制の変化
(アンケート調査結果(44都道府県回答):平成18年6月)

(3)系統造成の実施状況

【現状】
 わが国の豚の系統造成は、国((独)家畜改良センター)、都道県、全農において実施され、昭和54年に最初の系統(ローズ:茨城県)が認定されて以来、これまで76系統が認定され、現在40系統が維持されている。

 また、実施機関別の造成状況は、国((独)家畜改良センター)が主に雄系品種を、都道県が主に雌系品種を造成しているが、近年、肉質に特徴のある肉豚生産を地域で取り組むために、都道県においても雄系品種の造成を実施するケースがある。(表2、図6)

表2 品種別系統造成状況(平成18年7月現在)

資料:(社)日本養豚協会調べ

図6 認定系統数および維持系統数の推移

【課題】
 系統豚については
(1) 都道県間の交流が難しく、他県への系統豚の供給が困難

(2) 都道県試験場の業務見直しが進み、従来どおりの規模の系統を維持することが困難となり、大規模生産者等の供給ニーズへの対応が困難

(3) 系統造成に携わる都道府県改良機関の間で連携が希薄

などの課題がある。

 このため、今後は、複数の改良機関の連携による系統造成、維持を検討するとともに、(独)家畜改良センターにおいては、系統豚利用者ニーズや各改良機関の事情の変化を踏まえて、今後の系統造成のあり方を検討する必要がある。

(4)豚の遺伝的能力評価

【現状】
 豚の遺伝的能力評価は、平成7年から(社)日本種豚登録協会(現(社)日本養豚協会)の事業として開始され、13年からは、畜産草地研究所が試行評価結果を参加農家に提供してきたところである。その後、平成14年には、(独)家畜改良センターが事業を引継ぎ、同年6月から、評価結果の参加農家への提供を本格的に開始した。

 平成18年7月現在の参加農家累計数は、産肉形質で326戸、繁殖形質で561戸となっており、現在、(独)家畜改良センターを中心に参加農家拡大、血縁ブリッジ構築(注)等のための取組を行っているところである。

(注)信頼性の高い遺伝的能力評価を行うためには、農場間で種豚や精液の導入や提供を行い、農場間で種豚の血縁関係を結ぶ必要がある。このように農場間で種豚の血縁関係を結ぶことを血縁ブリッジの構築という。

【課題】
 (独)家畜改良センターを中心に、引き続き、参加農家拡大、血縁ブリッジ構築のための取組を推進するほか、血縁ブリッジが構築された特定地域内特定品種について、種豚ランキング提供の具体化を検討するとともに、改良ニーズを踏まえた新たな改良形質(肢蹄)の評価手法を検討する必要がある。

(5)登録制度

【現状】
 豚の登録は(社)日本養豚協会により、(1)純粋種6品種(ヨークシャー、バークシャー、ランドレース、大ヨークシャー、ハンプシャー及びデュロック)を対象とした種豚登録および子豚登記、 (2)能力検定合格豚を対象とした繁殖登録および産肉登録 が行われている。純粋種豚の登録頭数は、飼養頭数の減少や交雑利用の増加等から減少傾向となっている。

【課題】
 現在、登録制度に関しては、

(1) 子豚登記について、登録漏れ防止、作業の簡素化等の観点から、一腹全頭登記する仕組みへの見直しが必要

(2) 繁殖検定手続きと繁殖登録手続き(産肉能力検定手続きと産肉登録手続き)の一本化が必要

(3) 予備登記、予備登録の必要性についての検討が必要

(4) 遺伝的能力評価の推進と連動した仕組みが必要

などの意見がある。このため、(社)日本養豚協会では、都道府県の登録委託団体や主要な種豚生産者等から幅広く意見を聴取して見直しの検討を行っているところである。

(6)豚の人工授精

【現状】
 優良種豚を効率的に利用するためには、人工授精の実施が効果的であり、その実施率は、平成12年には20%だったものが平成18年には32.8%と増加傾向で推移している。また、子取り用雌豚頭数規模別の人工授精実施状況をみると、1,000頭以上の大規模経営においては、約95%の農場において人工授精が実施されている。(図7、図8)

図7 人工授精実施率の推移

資料:(社)日本養豚協会「養豚基礎調査全国集計結果」
注:実施率は、「自然交配と人工授精の併用」と「人工授精のみ」のみである。

図8 子取り用雌豚頭数規模別人工授精実施状況
(平成18年8月1日現在)

資料:(社)日本養豚協会「養豚基礎調査全国集計結果」


【課題】
 今後は、凍結精液の受胎率向上のための技術開発等により優良種豚の広域利用を一層進めることなどが必要となっている。

4 「家畜改良増殖推進検討会報告書」具体化のための当面の行動計画

 「豚改良体制整備中央推進検討会」においては、最後に事務局が作成した当面の行動計画(資料5)について説明があり、了承された。

 

5 おわりに

 今回の検討会では、「家畜改良増殖推進検討会報告書」の具体化に向けた推進体制を整えるとともに、最近の豚改良増殖をめぐる現状と課題について、共通認識を醸成したところである。いうまでもなく、重要なのは、今後、各課題に関して改良関係機関による具体的な取組みを実行していくことである。特に、遺伝的能力評価の参加拡大により、種豚の能力評価の精度向上、種豚ランキング等利用者ニーズに対応した育種資源情報の提供を推進していくことや関係機関の連携強化を図っていくことが重要であり、今後、これらの課題については、(独)家畜改良センターにおいて具体的な取組みを検討していくこととしている。

 農林水産省としても、引き続き、改良関係機関を対象としたアンケート調査などによる情報収集・提供や豚改良増殖体制強化のための全体調整を担っていくこととしており、関係者の皆様のご理解とご協力をお願いしたい。

 ※「豚改良体制整備中央推進検討会」の会議資料及び概要は、農林水産省畜産部ホームページ
http://www.maff.go.jp/lin/06kentoukai/index.htm
に掲載していますので、ご活用ください。


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