◎専門調査レポート


稲わらなどの中間生産物の有効活用に貢献する組織

岡山大学大学院環境学研究科 教授 横溝 功

はじめに

 周知の通り、平成12年3月に92年ぶりに宮崎県と北海道で口蹄疫が発生した。その後の迅速な防疫対策で、同年9月には、わが国は口蹄疫清浄国に復帰した。この感染源の可能性の1つとして中国から輸入した稲わらが挙げられ、それまでの輸入稲わら依存から国産稲わら利用への転換が進められることになる。ちなみに、平成15年度の飼料用稲わら供給量のうち、85%が国産で、15%が輸入稲わらであった。また、平成17年5月に中国で口蹄疫が発生し、中国産稲わらの輸入が一時停止された。(なお、平成18年11月に一定の条件を充足した稲わら加工品について、一時停止措置が一部解除されている。)

 以上のように、15%分の輸入稲わらを国産稲わらや稲わら以外の輸入乾草で代替しなければならない。従って、国内の稲わらをいかに有効に活用できるかが、わが国の畜産経営、中でも肉用牛経営にとって重要な課題である。わが国で生産される稲わらの量は、年間に約900万トンであるが、飼料用に用いられているのは、約100万トンで1割強にすぎない。700万トン弱が、水田にすき込まれている。

 しかし、国産稲わらを有効活用する仕組みを作ることは、並大抵のことではない。多くの肉用牛経営は、規模拡大を進め、家畜飼養にかなりの労働力をとられ、稲わら集草に時間を割けないのが現状だからである。そこで、国産稲わらのマーケットを確立することが肝要である。稲作農家も主産物である米の価格が低下して、収入が減少しているので、稲わらが副産物収入になれば、稲作農家にとっても個人や集団で集草するメリットは大きい。

 本稿では、稲わらのような中間生産物のマーケット確立の先進事例を取り上げ、そこから得られる教訓を明らかにすることとする。第1に、肉用牛繁殖農家が中心となって、稲わらの供給だけではなく、稲作・飼料作のコントラクターの機能を発揮している大分県の中山間地域にある(有)グリーンストック八幡と、第2に、耕種農家が中心となって、わらの供給を行っている大分県の平野部にある(有)グリーンスマイル大分の事例を取り上げる。アプローチの方法としては、両組織の生成の歴史的経緯、展開、および課題を明らかにする。また、両組織のサービスを利用している畜産農家の評価も踏まえながら、両組織から得られる教訓を明らかにし、各地に萌芽している同様な組織への情報提供としたい。

 

(有)グリーンストック八幡の展開

1 有限会社成立の経緯

 大分県玖珠郡玖珠町は、大分県の西部に位置し、熊本県と県境を接している。典型的な中山間地域である。それ故、高齢化が進んだ地域でもある。農業では、肉用牛の繁殖が盛んである。昭和50年代から、互助的に、高齢繁殖農家に対して、ヘルパー活動が行われてきた。このヘルパー活動をベースに、昭和58年には、山下地区で、肉用牛の後継者グループが集まり、「山牛会」を発足させる。

 当該地区では、繁殖牛飼養において、共同牧野を利用した放牧が取り入れられている。しかし、放牧を利用した子牛の価格は安いので、この対策を考えるために、勉強会を開催する。さらに、山下地区では、高齢者や女性の労働力が主力で、舎飼における粗飼料の確保が難しい状況にあった。そこで、昭和63年に、山牛会でタイトベーラなどを導入し、粗飼料の収穫調製作業を代行することになる。


(有)グリーンストック八幡の繁殖牛舎

 以上のような流れの中で、平成6年6月に、八幡農業生産組合を設立することになる。その後、入会地関係の調査で、当地を訪問していた福田晋氏(現九州大学大学院農学研究院)のアドバイスで、法人化の準備を進めることになる。そして、構成員3人で、平成10年6月に(有)グリーンストック八幡を設立するのである。

 以上のように、コントラクター事業の実績を積み上げて、法人化がなされたことが分かる。


(有)グリーンストック八幡のメンバーと筆者
(左から山口氏、梶原美行氏、梶原龍生氏)

2 組織と事業

 構成員は3人で、当初、300万円の出資を行っていた。現在は、各自200万円ずつの出資金で600万円である。構成員の概要は、表1の通りである。代表は、梶原美行氏である。

表1 (有)グリーンストック八幡の構成員の概要

 なお、収穫調製作業を請負うコントラクターだけでは、構成員3人の労働力に対して、事業量が少ないので、コントラクター+肉用牛飼養の2本柱で取り組むことになる。平成10年10月に、(有)グリーンストック八幡(以下、グリーンストックと略す)が、3人の所有する繁殖牛を買い上げる。当初、39頭の繁殖牛でスタートさせ、現在、95頭の繁殖牛の飼養頭数になっている。また、コントラクターの作業の中には、後述のように稲作部門の作業受託も含まれている。この事業の多角化路線が、グリーンストックの大きな特徴である。

表2 (有)グリーンストック八幡の受託実績等の推移と主要な作業料金

 畜舎などの固定資産投資に関して、グリーンストックは、平成12年3月に、繁殖牛100頭規模の牛舎を建築する。事業費は、8,600万円であり、国・県・町の補助(畜産再編総合対策事業(中核的施設整備事業))で、自己負担は、3分の1である。また、平成14年に、繁殖牛40頭規模の牛舎を建築する。事業費は、1,500万円であり、県の補助で、自己負担は、2分の1である。さらに、平成16〜17年に、肥育牛50頭規模の牛舎を建築する。事業費は、900万円であり、県の補助で、自己負担は、3分の2である。以上のように、肉用牛飼養部門の頭数拡大を目指して、家畜の相場もみながら、段階的な投資を行っていることが分かる。

 ちなみに、平成17年12月31日の建物の帳簿価額は、約2,600万円であり、総資産約6,000万円の40%である。うまく補助事業を活用し、固定資産投資を圧縮していることが分かる。なお、事務所・牛舎の敷地の所有者は、構成員の梶原龍生氏であり、法人が梶原氏から借りている形になっている。

 また、グリーンストックの受託実績の推移は、表2の通りである。飼料作物収穫面積を、平成18年度に急速に伸ばしていることが分かる。

 永年牧草収穫は、主として、グリーンストックの近隣の中塚牧野(35ヘクタール)・田能原牧野(15ヘクタール)で行われている。例えば、中塚牧野では、13ヘクタールで収穫を行い、8ヘクタール分を、グリーンストックが作業料としてもらい、5ヘクタール分を、牧野の組合員に1ロール1,500円で販売している。なお、ロールの直径は1メートルである。田能原牧野では、8ヘクタールで収穫を行い、4ヘクタール分を、グリーンストックが作業料としてもらい、4ヘクタール分を、組合員に中塚牧野と同様に販売している。

 稲わらについては、ほとんどが販売に向けられている。集草は、グリーンストックの立地する玖珠町から約50キロメートル離れた宇佐市である。宇佐市へは、かなり以前から集草に行っていた。特に、平成16年は、玖珠町では、台風・長雨で稲わらが確保できず、宇佐市で30ヘクタールの稲わらを集草し、玖珠町で分配している。緊急時における、稲わらの調達で、グリーンストックは極めて大きな役割を果たしていることが分かる。

 稲作農家から、10アール当たり、4,000円で買い上げ、1個110キログラムのロール(直径1メートル)を3,600円で10戸の畜産農家に販売している。

 水稲の受託作業も、熱心に取り組み、稲刈りにおいて急速に面積を拡大していることが分かる。

 なお、繁殖牛や離乳後4カ月の育成牛は、平成17年度までは近隣の中塚牧野・田能原牧野で、周年放牧を行っていたが、18年度は、冬期の草量が少なく、冬期は舎飼になっている。なお、放牧料は、1日当たり100円であり、牧野組合の運営費に充当される。

 さらに、畜産農家に資材供給も行っている。例えば、古電柱の供給を行っており、多い年は1,000本も取り扱っていた。現在は、ラップフィルムの仕入れ販売に力を入れている。このように、安価な生産資材を畜産農家に供給することは、地域の畜産農家にとって大きな貢献になっている。ただし、グリーンストックが取り扱う生産資材は、JAが弱い分野で、JAの事業を補完する形になっている。


3 飼養管理、自給飼料、財務管理の特徴

 グリーンストックでは、舎飼での飼料給与方法は年間を通じて一定に保ち、好成績につなげている。具体的には、飼料給与は、朝6時と夕方4時に、各々2時間をかけて行っている。また、夜10時には必ず見回り、異常がないかどうかチェックを行っている。梶原美行氏は、家畜飼養における観察の重要性を強調している。サラリーマンによる牛飼いではなく、正しくプロによる牛飼いといえる。

 さらに、毎月、家畜衛生検査を行い、平成17年度には、平均分娩間隔12カ月を実現し、子牛販売頭数/繁殖牛飼養頭数が85%に達している。

また、グリーンストックでは、飼養している舎飼の肉用牛のために、飼料作を積極的に行っている。水田5 haを借入し、表作ではスーダンを、裏作ではイタリアンライグラスを作付けしている。なお、玖珠町の場合、飼料作の産地づくり交付金が、2万円であるが、耕畜連携としてさらに、1万3,000円がプラスされる。この3万3,000円は地主の収入になっている。産地づくり交付金には、担い手加算として、3,000円があるが、この部分がグリーンストックの収入になっているのである。

このように、放牧と飼料作を合わせると、繁殖牛の粗飼料は、ほぼ100%自給を達成している。購入の粗飼料は、子牛の分を購入するだけであり、トータルの粗飼料自給率は、95%になる。

 さて、構成員の梶原龍生氏が、パソコンの簿記ソフトを独学で学び、財務管理を行っている。特に、部門毎の財務管理を実施しているのが、グリーンストックの大きな特徴である。これによって、部門毎の経営成績が把握できることが大きい。各部門の見直しができ、経営改善につなげることができる。

具体的には、平成12年5月〜平成18年3月まで、関東に本拠地がある(有)A牧場の預託(繁殖牛)を実施していた。当初は、100万円の利益が出ていたが、平成16年頃から預託の条件が厳しくなり、経営成果が悪化することになる。平成17年度には、約325万円の欠損が生じることになった。そこで、グリーンストックでは、平成18年4月からの再契約をしないで、預託牛96頭を契約解除し、A牧場が預託牛を引き上げることになる。

 大きな赤字が出た背景には、A牧場が指定する飼料をマニュアル通りに給与せねばならないことが挙げられる。すなわち、安価な自給飼料利用のメリットが発揮できないのである。何れにしても、(有)A牧場の預託の契約解除に踏み切ることができたのは、部門別の財務管理を実施し、部門毎の経営成績を的確に把握していたからといえる。なお、預託牛引き上げ後の繁殖牛の調達は、JAによる預託が70%、外部からの購入が20%、自家産が10%である。

 4 今後の展開

 グリーンストックは、現在、家畜飼養における目標頭数を、繁殖牛100頭、育成牛10頭、肥育牛50頭としている。すなわち、現在の施設稼働率の向上を目指しているのである。


(有)グリーンストック八幡の肥育牛舎

 また、借地による水稲作にも力を入れようとしている。平成18年は80アールの作付けであるが、山下地区の現在の水稲作10ヘクタールについては、農家が高齢化しているので、3分の1の3ヘクタールは引き受けることになるのではと予測している。なお、当該地域の米の品種は、ヒトメボレ(早生)が80%、ヒノヒカリ(晩生)が20%である。

 さて、代表の梶原美行氏は、大分県コントラクター協議会の現会長であり、これを通じて新たな情報やビジネスチャンスを生み出している。具体的には、全農の紹介で、粗飼料の運搬事業を開始している。すなわち、熊本県阿蘇市一の宮町の酪農家が生産するロールを、大分県杵築市山香町の繁殖農家(繁殖牛80頭)に運搬しているのである。

 さらに、グリーンストックでは、290万円の不耕起は種機を、2分の1の補助で導入し、水田裏作のイタリアンライグラスの実験を開始している。これは、公共牧野が、更新時期に来ていることを見越して、将来、公共牧野の更新を請負作業として行うための布石である。

 長期的には、地域の高齢化する繁殖農家の支援として、民間のキャトルステーションとしてのサービス提供についても模索している。この事業の妥当性については、(社)大分県畜産協会のコンサルテーションを受ける予定である。

 以上のように、グリーンストックでは、新たな事業展開に向けて、着々と次の手を打っていることが分かる。

 

(有)グリーンストック八幡のユーザー −専業農家−

1 経営概況

 専業農家の宿利英治氏の年齢は、60歳である。27年間JAに勤務した後、平成6年に退職し、本格的に繁殖経営を開始している。夫人は、町役場に勤務した後、平成14年に退職している。この2人が基幹労働力(年間150日以上就農)である。常時雇用は1名である。

 経営形態は、個人経営である。平成19年1月1日現在の繁殖牛飼養頭数は、驚くことに90頭にも上る。育成牛は4頭である。本人の年齢が60歳であることと、繁殖経営に専従するのが12年前であることにかんがみると、90頭の繁殖牛の頭数は、驚異的である。残念ながら、農業後継者はいない。

 なお、90頭のうち10頭はJAの預託であるが、80頭は自己所有牛である。このように、短期間で増頭できたのは、廃業する繁殖農家から成雌牛を購入できたことによる。

 畜舎は、2カ所に持っている。自宅から車で20分の牛舎(青谷牧野の隣)と、10分の牛舎(須山)である。前者は、平成7年に、500万円の農業改良資金で建築した、フリーバーンとつなぎの牛舎である。こちらには、繁殖牛90頭のうち30頭を飼養している。


青谷牧野に隣接する牛舎内部(フリーバーンとつなぎ牛舎)


青谷牧野に隣接する宿利英治氏の牛舎(外観)

 後者は、平成17年に、県の補助事業で建築した、2戸共同のフリーバーンの牛舎である。投資金額は1,000万円で、近代化資金(償還期限10年)を利用している。なお、繁殖牛の所有は完全に分離されている。なお、どちらかが不在の際は、お互いに労働力の提供をして、繁殖牛を飼養している。こちらには、繁殖牛90頭のうち60頭を飼養している。

 さて、30頭飼養の牛舎の方は、青谷牧野(集落有地)の隣にあり、たいへん条件がよい。70ヘクタールのクヌギ林内にあるネザサ・野シバを飼料として活用している。4月〜12月に常時30頭を放牧している。この牧野は、宿利氏の個人管理の状態にある。繁殖牛は、分娩前1カ月、分娩後3カ月は、舎飼である。また、高齢の繁殖牛は基本的には舎飼である。

 肉用牛の売上高は、2,600〜3,000万円にも上っている。


須山の2戸共同の大規模牛舎(フリーバーン方式)

2 土地利用の状況(平成18年の数値)

 宿利英治氏の土地利用の状況は、表3の通りである。稲作を1ヘクタール作付けし、飼料作も3.5ヘクタール取り組んでいる。それぞれ、収穫調製に関してグリーンストックを利用していることが分かる。

表3 専業農家(宿利英治氏)の土地利用

3 グリーンストックの利用状況と今後の経営展開

 宿利氏のグリーンストックの利用は、稲刈りと粗飼料の収穫調製である。グリーンストックを利用するようになった理由としては、繁殖牛の頭数を増やして労働力が不足したためである。グリーンストックに支払う年間利用料金は、平成18年では、85万円であった。

 グリーンストックのサービスにはほぼ満足しており、今後は、利用を増やすとのことであった。
 宿利氏は、今後さらに、繁殖牛の頭数を増やす意向であった。そして、今後5年間で、第1に、肉用牛(和牛)の肥育部門を開始したい、第2に、法人経営にしたい、第3に、飼料作付面積を拡大したいという希望を持っていた。

 経営主の年齢が60歳で、なお規模拡大や、新部門の導入、さらには法人化を目指していることに、第2の人生に対する挑戦の迫力を感じた次第であった。また、このような挑戦を可能にしている背景に、グリーンストックの存在があるといえる。

 

(有)グリーンストック八幡のユーザー −兼業農家−

1 経営概況

 兼業農家の宿利秀夫氏は、現在、JAに勤務し、営農指導を行っている。そして、営農指導の中でも畜産を担当している。畜産農家を指導する中で、実際に自ら繁殖牛を飼養し、営農指導に生かしたいと考えるようになる。宿利(秀)氏の年齢は、44歳と働き盛りの年代である。

 基幹労働力(年間150日以上)は、宿利(秀)氏の母親のみであり、本人、父親および夫人は、補助労働力である。

 それでも、現在、繁殖牛を10頭飼養している。年間の売上高は、400万円にも上る。うち費用の主なものは、購入飼料費(濃厚飼料・ヘイキューブ)の100万円と、グリーンストック利用料の50万円である。

2 土地利用の状況(平成18年の数値)

表4 兼業農地(宿利秀夫氏)の土地利用

 宿利(秀)氏の土地利用の状況は、表4の通りである。稲作を0.9ヘクタール作付けし、飼料作物も延べ面積で1.9ヘクタール取り組んでいる。飼料作物のみ、収穫調製に関してグリーンストックを利用していることが分かる。

 なお、近隣の長尾牧野(20ヘクタール)に、4月1日〜12月30日の間、平均6頭の経産牛を放牧している。利用料は、1日当たり100円とのことであった。宿利(秀)氏自らが観察に行っている。

3 グリーンストックの利用状況と今後の経営展開

 グリーンストックの利用は、表4のように、作付延べ面積1.9ヘクタールの粗飼料の収穫調製である。それ以外に、表4には出ていないが、稲わらと敷料(オガクズ)の調達も委託している。グリーンストックを利用する理由として、宿利(秀)氏はゆとりが必要なためと回答している。

 グリーンストックのサービスにはほぼ満足しており、今後も、同じ程度の利用を続けるとのことであった。
 宿利(秀)氏は、今後さらに、繁殖牛の頭数を10頭から15頭に増やす意向であった。そして、今後5年間で、第1に、牛舎を増築したい、第2に、畑を集積し、飼料作付面積を拡大したいという希望を持っていた。

宿利秀夫氏の繁殖牛舎

 宿利(秀)氏のグリーンストックに対する評価は、第1に、収穫調製に必要な高額の農機具を個人で持たずにすむこと、第2に、収穫調製に伴う作業事故のリスクが減ること、第3に、兼業の状態で、繁殖牛15頭まで増頭が可能なことを挙げていた。

 

(有)グリーンスマイル大分の展開

1 成立の経緯および組織と事業

 (有)グリーンスマイル大分は、平成18年4月に、その前身である「わらっ子」が、法人化したものである(以下、グリーンスマイルと略す)。グリーンスマイルが立地する豊後高田市は、国東半島の北西部にあり、平坦部が広がる穀倉地帯である。

 グリーンスマイルの構成員は5人で、各人の出資金150万円で、合計750万円の出資金である。表5の大東氏が、わらの収集を思いつき、農業後継者の有志に話しかけたのが、「わらっ子」設立の契機である。平成15年から事業を開始している。大東氏は、有志を集める際、適材適所に心がけている。「わらっ子」ならびに、グリーンスマイルは、機能的な集団ということができる。

表5  (有)グリーンスマイル大分の構成員の概要

 大東氏が、グリーンスマイルの代表取締役である。なお、大東氏も含めた5人の構成員は、いずれも認定農業者である。

 「わらっ子」の損益計算の推移は、表6の通りである。販売金額でみると、平成15年度から17年度にかけて、右肩上がりで伸びていることが分かる。なお、平成18年度は、17年度に比べて、稲わらの収穫面積が若干減少しているとのことであった。これは、後述のように、良質わらの確保のためにも、労働の制約から作業量をセーブしていることによる。

表6  グリーンスマイル大分(旧わらっ子)の損益計算の推移

表7  グリーンスマイル大分の機械整備状況


 グリーンスマイル大分所有のロールグラブ

 平成18年度の収穫面積は168ヘクタールで、水稲(早生品種)が10ヘクタール、水稲(普通品種)が140ヘクタール、麦が18ヘクタールである。水稲の普通品種に作業時期が集中していることが分かる。

 なお、グリーンスマイルの農機具の整備状況は、表7の通りである。

2 わら購入費とたい肥散布費

 グリーンスマイルでは、わらの調達に当たっては、わらの所有者に対して、10アール当たり4,000円の現金の支払いか、10アール当たり2トンのたい肥を投入するかの選択肢を示して、選んでもらっている。

 なお、わらの所有者が裏作に麦を作付けする場合、早く集草する必要があるので、現金支払いは、10アール当たり3,000円にしている。条件の悪いほ場の場合も、交渉でわら代を引き下げている。また、早生品種の場合は無料のケースが多い。それ故、平均すると10アール当たりのわら代は、3,500円になるとのことであった。

 わらとたい肥の交換の場合、以下の2通りがある。第1に、グリーンスマイル自らたい肥散布するケースである。第2に、JAに散布を委託するケースである。前者の場合、たい肥の調達は、無料の場合と、グリーンスマイルが調達した稲わらと交換する場合がある。これは、畜産農家が供給するたい肥の完熟度合いによる。なお、散布に要する労働時間は、1筆(30アール)を散布するのに30分ですむとのことであった。平成18年度の場合、15ヘクタールにグリーンスマイルが散布していた。後者の場合は、JAのたい肥センターに委託するものであり、たい肥調達・散布のコストが10アール当たり4,000円であった。平成18年度の場合、5ヘクタールにJAが散布していた。

 表6からも分かるように、わらの調達に当たっては、わらの所有者に対して現金で決済するケースが圧倒的に多い。これは、玄米の販売価格が、1俵当たり1万から1万1,000円の時代となり、稲わら販売による現金収入を求める傾向が強まっているからである。

3 わらのマーケティング

 代表取締役の大東氏は、わらも商品であり、品質管理とマーケティングが大切であると強調する。現在の販売エリアは、豊後高田市、杵築市(大田村)、国東市(安岐町)、豊後大野市(大野町、朝地町)、玖珠郡玖珠町、中津市、宮崎県延岡市と広範囲である。

 平成18年度は、上記に加えて、広島県の業者が、わらを購入に来ている。また、宮崎県の延岡市だけではなく、都城市へもわらを販売している。なお、宮崎県への販売は、全農大分を通じている。

 このように、グリーンスマイルのわらが、広範囲で売れているのは、品質管理を徹底しているからである。例えば、平成18年度にわらの収集面積を、17年度に比べて若干抑えていたが、これは、集草の適期作業を考慮したためである。わらの品質を確保するために、量よりも質を重視したのである。

 マーケティングでは、家畜市場が開設される時に、実際にわらを持ち込んで、畜産農家に販売している。品質のよさを畜産農家に知ってもらうためには、実際にわらをみてもらう必要があるが、そのような機会を、大東氏が自ら創っているのである。

 わらは、ロールで販売しているが、1ロール当たり、通常、4,000〜4,500円であり、水分が多い場合は、3,600〜3,800円である。

 ちなみに、ロールの重量は120キログラムである。

 グリーンスマイルは、固定客に、安定的に良品質のわらの提供を心がけている。しかし、それだけではなく、販路を拡大し、新規により高く販売できる場合には、固定客との間で価格交渉も行っている。このように、広域の市場情報を入手しているところに、グリーンスマイルの大きな特徴がある。

4 今後の展開

 グリーンスマイルでは、現在、ロールをラップしてストックしているが、ユーザーからみれば、フィルムの部分は廃材になる。そこで、倉庫などを新設し、ロールをラップしないで保管することを、今後の課題に挙げている。


グリーンスマイル大分の稲わらのストック状況

 また、表6の賃借料にみられるように、わらの輸送に用いるトラックをレンタルしている。今後は、グリーンスマイルでトラックを所有するかどうかを検討課題としている。

 さらに、グリーンスマイルでは、当地へ新規就農したイチゴ農家をオペレーターとして雇用している。農閑期に、機械のメンテナンスに来てもらい、貴重な労働機会を提供している。オペレーター作業と同様に、機械のメンテナンスも時間当たり報酬が1,200円であり、新規就農者にとって、経済的に大きな支援になっている。

 このように、新規就農を目指す若者を育成する機能が、グリーンスマイルには、内包されているのである。グリーンスマイルでは、役員報酬は設けておらず、構成員もパートも、経済的には同じ条件であるところに、新規に人材を惹き付ける魅力がある。この点に、人材育成に対する、大東氏の経営哲学が反映されている。

 なお、財務管理に関しては、平成16年度から消費税の関係で税理士を利用しており、後顧の憂いなく、生産管理と販売管理にまい進できる体制を構築している。


(有)グリーンスマイル大分のユーザー −大規模肉用牛肥育経営−

1 経営概況

 豊後高田市の肉用牛肥育経営は、22戸であり、経営感覚の優れた優良経営が残っている。藤本信一氏の経営も、優れた経営を行い、第38回大分県農業賞企業的農家の部最優秀賞を受賞している。藤本氏の経営形態は、個人経営で、常時飼養頭数500頭近いF1の肥育と、10ヘクタールに近い稲作の複合経営である。

 藤本氏は、ち密な経営管理を通じて、「貯蓄→投資」に努め、資金繰りに十分な配慮をしているところに特徴がある。このことによって、コストの低減を実現している。例えば、配合飼料などを現金で決済したり、門司港まで調達に行くことにより、通常よりも、トン当たり4万円のコストを低減させているのである。

 また、肥育もと牛の導入は、徳島県・熊本県から行っているが、家畜市場からの情報を入手して市場選択を行っている。現在は、徳島県からの導入が主流である。ちなみに、導入される肥育素牛は6〜8カ月の月齢で、生体重は250〜300キログラムである。

 肥育牛の出荷でも、大阪市中央卸売市場南港市場に40%、豊後北部市場(速見郡山香町(生体市場))に30%、(株)大分県畜産公社に30%と、相場をみながら出荷先を分けている。このような市場選択を通じて、高い収益を享受しているのである。肥育期間は、20カ月で、年間に270〜280頭出荷している。枝肉の成績はよく、4等級20%、3等級40%、2等級40%である。売上高は、経営全体で、平成17年度には2億円を超えている。

 
グリーンスマイル大分ユーザーの藤本氏ご夫妻


藤本氏の稲わらのストックヤード

 基幹労働力(年間150日以上)は、藤本氏本人、夫人と長男の3人と、常時雇用の1人の合計4人である。ちなみに、常時雇用の1人は、夫人の兄で、平成18年1月1日から常時雇用になっている。

 藤本氏の年齢は50歳、農業後継者である長男の年齢は28歳と、最高のライフサイクルの時期にあるといえる。

2 土地利用の状況(平成18年)

表8 大規模肉用牛肥育農家(藤本氏)の土地利用

 藤本氏は、500頭近いF1の肥育経営部門以外に、稲作を10ヘクタール近くも作付けしている。さらに、裏作に、小麦3ヘクタール、大麦2ヘクタールも作付けしている。農地に関しては、ほとんどが自作地で、「貯蓄→投資」における重要な対象資産である。藤本氏が就農した当初は、1ヘクタールの農地でスタートしているので、急速な集積を果たしていることが分かる。これは、藤本氏の人徳と、藤本氏が地域のリーダーと目されていることによる。

 なお、藤本氏が立地する豊後高田市の森地域は、畑の排水がよく、砂地になっており、ネギの産地になっている。それ故、借地料が水田11,000円/10アールに対して、畑20,000円/10アールと高い料金になっている。
 また、藤本氏が所有する農機具は、下記の通りである。

 トラクター 5台
 ロールベーラー 2台 (乾草のみ)
 コンバイン(5条) 2台
 田植機(6条) 1台

 農作業は、個別完結できる体制にある。ただし、米は、乾燥のみで、調製は、前述のグリーンスマイル代表取締役である大東氏のライスセンターを活用している。農機具も、「貯蓄→投資」の対象資産である。農作業の外注を少なくし、所得率の向上を図っている。

3 グリーンスマイルの利用と今後の展開

 藤本氏は、必要な稲わら量の1割を、グリーンスマイルから購入している。グリーンスマイル利用の契機は、肥育牛の頭数増加に伴い、労働力が不足したためである。平成18年にグリーンスマイルに支払った金額は、45万円である。ただし、1ロールの価格3,800円にはやや高いという感想をもっていた。しかし、今後の利用については、現状維持とのことであった。これは、地域の若い農業リーダー育成に、できるだけ協力したいという気持ちが込められていた。

 グリーンスマイルに対する要望としては、ストックポイントとして備蓄できる倉庫を確保することによって、天候不良時に対応できることを、一番に挙げていた。この点はグリーンスマイルの経営意向にも合致している。

 残りの必要な稲わらの9割については、10〜12月に50ヘクタールの集草を自ら行っている。10ヘクタールは、たい肥と稲わらの交換で、40ヘクタールは、現金での購入である。ちなみに、10アール当たり4,000円を支払っている。広大な面積の集草のため、地域の若者を臨時で4〜5人雇用している。午前8時〜午後5時の作業で、日当1万円を支払っている。なお、1日に集草できる面積は、1日で最大4ヘクタールとのことであった。

 藤本氏は、今後さらに、肥育牛の常時飼養頭数を500頭から600頭に増やす意向であった。そして、今後5年間で、第1に、牛舎を増築したい、第2に、繁殖部門を導入したい(一部一貫経営)、第3に、飼料作付面積を拡大したい、第4に、稲作などの耕種部門に力を入れたい、第5に、法人経営にしたいという意向を持っていた。

 ちなみに、第2の繁殖牛の導入では、廃業する繁殖農家から、分娩に慣れた繁殖牛の導入を考慮している。このような繁殖牛の家畜市場は、大分・熊本・宮崎県に存在するのである。


グリーンスマイル大分代表大東氏と筆者

 

おわりに

 本稿では、3戸の畜産農家が、地域に存在した互助組織を、機能的な組織に変え、さらには法人化した(有)グリーンストック八幡の事例と、地域の耕種部門の若い担い手の発想で、わら流通のマーケティングを確立した(有)グリーンスマイル大分の2事例を取り上げた。

 前者は、コントラクター事業だけでは、3名の専従労働力の完全燃焼が難しいと看破し、各々が行っていた肉用牛繁殖経営を、法人の事業として取り込んだところに、ユニークさがあるといえる。稲わらに関しては、集草の作業性を考慮して、約50キロメートル離れた宇佐市まで出かけていた。そして、緊急時以外は、現地での販売を行い、天候不順などにより地域内で稲わらが不足する場合には、地元へ稲わらを持ち帰って販売するという経営行動をとっていた。

 後者は、地域の若い認定農業者が集まり、それぞれの遊休の労働時間を活用することによって、穀倉地帯という利点を生かし、わらの集草・販売を広範囲に行っていた。販売エリアは、大分県内にとどまらず、宮崎県にまで伸びていた。また、稲わらの品質維持に努めるとともに、家畜市場の開設に併せて稲わらを畜産農家に売り込むなど、営業努力も行っていた。

 両組織の存在は、地域の畜産経営にとっては極めて大きな支援になっていた。前者の場合、60歳の経営者が、90頭もの繁殖牛を飼養できたり、兼業農家が、10頭以上の繁殖牛を飼養できたりしていた。後者の場合も、良質のわら確保により、地域の固定客との関係を大切にするとともに、マーケティング範囲を拡大していた。

 また、両組織とも、財務管理に関して、内部で実施するか、外注するかの違いはあるが、的確な対応をとり、plan−do−seeを実現し、経営上の最適な意思決定がとれる体制にあった。この点は、今後に続く同様な組織にとっても重要なポイントといえる。

 近年のような気象変動が激しい状況下では、稲わらの広域流通は重要である。また、異常時に備えて、稲わらのストックポイントの確保が、ますます求められるのである。

【謝辞】
 本稿をまとめるに当たって、大分県農林水産部家畜衛生飼料室 吉田能久様、大分県農林水産研究センター 安高康幸様、大分県西部振興局 藤田和男様、大分県北部振興局 本田文博様、木下達矢様、(有)グリーンストック八幡 代表取締役 梶原美行様、(有)グリーンスマイル大分 代表取締役 大東 徹様、宿利英治様、宿利秀夫様、藤本信一様には、多大のご指導を賜りました。深甚なる謝意を表します。


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