酪農教育ファームの実態と今後の展開について関東生乳販売農業協同組合連合会 |
1.酪農教育ファームとは酪農教育ファームとは『酪農体験を通して、食といのちの学びを支援する』ことを目的として、(社)中央酪農会議(以下「中酪」という。)が、平成10年7月に酪農教育ファーム推進委員会を設立し、推進しているものである。 酪農教育ファームは基本的には酪農家などが学校の児童生徒や消費者などを農場に受け入れて、酪農体験や酪農家との対話などを通して「食といのち」の大切さを感じてもらう活動である。 以下関東生乳販売農業協同組合連合会(以下「本会」という。)での取り組みなどを中心に概要を説明する。 2.酪農教育ファームの経過前述のとおり、わが国で本格的に「酪農教育ファーム」として定義されたのは平成10年度からである。 その後、中酪では国内でのセミナーや海外との情報交換を行い、平成12年度には牧場の認証制度を発足させ、全国116牧場を「酪農教育ファーム」として認証した。 平成13年度には近隣に酪農家のない都市部の子供たちのために乳牛をつれて学校に出向く「わくわくモーモースクール」を開催した。 平成17年度からは指定団体を中心に事業の展開を図ることとなり、各地に「酪農教育ファーム推進委員会」が設置された。 3.酪農教育ファームの仕組み酪農教育ファームはこれを推進するため推進委員会を設置しており、教育関係者、酪農家、酪農関係者、学識経験者らで構成され年2回程度の委員会を開催し、年間の活動計画や予算を審議している。 その傘下に、専門委員会があり、学校の先生や酪農家が具体的な「酪農体験のハンドブック」や「教材」など実際の活動に必要な資料の作成などを行っている。 さらに、酪農教育ファームは認証制をとっているため、酪農家の申請を受けて認証審査委員会が、合否を決定している。 認証の手順としては、認証を希望する者は原則として2名以上の推薦を受けて申請を行い、認証審査委員会が審査をし、仮認証する。そして、仮認証を受けた申請者は認証研修会(1泊2日)を受講し、受講終了をもって認証を完了する。 なお、消費者を受け入れている酪農家などで組織する全国交流牧場連絡会があり、その多くが酪農教育ファームの認証を受け、酪農教育ファーム関連事業を側面から支援している。 4.酪農教育ファームの実態(1)酪農教育ファームの認証資格、受入れ人数 (2)体験内容 料金は乳製品作りの場合は材料費がかかるためほとんどが有料である。ほかの体験はさまざまではあるが、有料とする牧場が増えている。
5.関東地域における酪農教育ファームについて(1)関東地域における取り組みもともと、中酪での酪農教育ファームの取り組みは大消費地である関東地域(長野県を含む1都9県)が中心となっていたため、教育関係者の関心も強く、本事業を指定生乳生産者団体である本会が中心に実施することとなっても、スムーズな移行が図られた。 本会では平成17年9月10日に第1回の推進委員会を開催し、以降、年2回程度開催している。 本委員会の主な事業内容は、(1)推進委員会の開催、(2)教師を対象とした酪農体験学習会の開催、(3)わくわくモーモースクールの開催、(4)普及素材や体験用教材の作成、(5)駐車場、トイレなどの設置や受入に対しての助成など−となっている。 また、関東地域における酪農教育ファームは平成17年度現在50牧場となっている。 (2)関東地域における「わくわくモーモースクール」について 当初は中酪、東京都酪農協を中心として実施していたが、平成17年度から本会が主催して実施している。 (2) 仕組み (3) スクールの内容 具体的な授業内容としては、酪農関係では「牧場の仕事」、「牛のからだの秘密」、「ブラッシング」、「搾乳」など、乳業関係では「牛乳が出来るまで」、「牛乳の仲間たち」、「プチチーズづくり」、「バターづくり」、「ケーキづくり」などとなっている。 最後に機械搾乳の実演を行い、搾乳量を確認する。そして、子供たちが感想を述べ、終了となる。 この行事は酪農家だけでなく、多くの乳業者、栄養士、畜産関係大学の学生などの協力を得て実施している。参加協力者は1回に総勢40名を超え、基本的には全員ボランティアであるものの、多くの人員と経費がかかるため、年間2〜3回程度の開催となっている。現在まで関東地域では東京を中心に12回ほど実施している。
6.酪農教育ファームの意義(効果)酪農教育ファームは「食といのちの大切さ」を子供たちに伝えることを主眼として活動しているが、その効果の判定は難しい。 「わくわくモーモースクール」をはじめ酪農家などを訪問した子供たちから、その後、必ず手紙が届く。「わくわくモーモースクール」実施後にもらった子供たちの手紙を分析してみると、低学年では「牛が大きかった」「温かかった」などの現象そのものを書いているが、5年生くらいからは「食の大切さ」「いのちの大切さ」を少しずつ表現するようになる。6年生になると多くの子供たちが「食といのちの大切さ」を当たり前のように表現し、加えて「いじめ」や「自殺」といった現在の社会現象に言及している。そして、牛乳や牛から出来るものを具体的に大切にする気持ちを表現するとともに、全ての食品に対して「いただきます」「ごちそうさまでした」「ありがとう」という気持ちが生まれ、給食などを残さなくなったとしている。 子供たちは、体験のほかにも、まったく違った職業、生き方の人たちと会話することがとても新鮮で、いろいろなことを敏感に感じるようになるものと思われる。 普段はおとなしい子供でも、動物と接すると今までにないような積極性が出てくる事例も多く報告されている。 以上が子供たちの感じ方や変化であるが、子供以外にも子供たちの話を聞いたり見たりして教師や親も変わってしまうという。 さらには、酪農家も子供たちの酪農体験を見て、酪農の教育的価値のすばらしさに感動し、感謝をしているという。 以上のように、酪農教育ファームは単に「食育」というだけでなく、人の心も変えてしまう(もちろんすべての人ではないが)、すばらしい力を持っているといえる。
7.酪農教育ファームの課題と今後の方向「教育ファーム」の始まりは、第2次世界大戦直後(1948年)のアメリカで戦争によってすさんでしまった子供たちの心を動物とのふれあいを通して和らげようとする目的があったという。これがヨーロッパを中心に広がり、フランスでは農家が急激に減少し、子供たちが人々の生活を支える農業に接しないことは大きな問題だと考え、子供たちを農家に訪問させる教育が、積極的に行われるようになり、今や、1,300以上の教育ファームが存在するという。 日本においても個々の酪農家が独自に子供たちを体験の場などとして提供してきたが、基本的に農場に他人を入れることはあまり好まず、まだ、大きな広がりにはなっていない。酪農教育ファームは単に「食育」や社会科、生活科など学校の授業としての効果だけでなく、家畜と接触したりすることでセラピー効果がある、働く喜びを味わえる、障害のある子供や、非行などの問題がある子供などにも効果があるといわれている。また、レジャーとして都市と農村をつなぐ役割をし、最終的に「食といのち」を学ぶ場となる。 今後、国際化が激しくなり、海外の乳製品が多く輸入される可能性もあるが、国際化が進展するほど日本の酪農を消費者に理解してもらわなければならない。消費者の理解を得るには環境問題、安全性の問題などは基本的にクリアしなければならないが、酪農の持つ教育的価値を関係者がより強く認識し、消費者に還元しなければならないのではないだろうか。 食育基本法が制定され、国では各市町村が教育ファームに取り組んでいる割合を42%(17年度)から60%(22年度)にすることを目指している。現在、酪農教育ファームは酪農家など民間での活動が主体であり、さらに、酪農家の酪農教育ファームへの参加を増やすことが重要であるが、国や各都道府県にある畜産試験場などを活用した教育ファームが出来れば、より多くの子供たちが利用できることとなる。 今後、国はもとより、都県・市町村行政の協力を得ながら酪農教育ファームを点から線そして面へと広げていきたい。 |
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