★ 農林水産省から


牛個体識別システムの利活用について


1 はじめに

 平成13年のBSEの発生を機に、緊急時に同居牛や疑似患畜の特定を可能とするシステムを構築するために、すべての牛に固有の番号を表示した耳標を装着し、個体の情報を一元的に管理する体制を構築しました。その後、平成15年に「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(以下「牛トレサ法」という。)が施行され、耳標の装着、異動履歴などの記録・管理が義務付けられ、すべての牛の生産、移動、死亡、と畜などの情報が家畜改良センターの個体識別システムに管理されています。

 このことにより、現在では、BSE患畜が確認されても速やかに同居牛の異動履歴などが確定され、大きな混乱もなく対処されており、牛個体識別システムは定着し、牛トレサ法の目的にかなった機能を発揮しているものと考えております。

 一方、牛の個体識別情報は、すべての牛に固有の番号が付けられていること、その番号で生産からと畜までのデータが管理されていることなどから、さまざまな方面で利用が進められています。

 ここでは、主に生産段階における牛個体識別システムの利活用の状況について説明します。(図1,表1)


図1 牛個体識別情報と他事業の連携状況

 

表1 家畜個体識別システムを活用した事業等の実施状況

1.補助事業等における個体識別情報の活用

(1)肉用子牛生産者補給金制度
肉用子牛生産者補給金制度における個体登録業務等の効率的かつ円滑な実施を図るため、牛個体識別データベースとの連携システムを開発し、全国の肉用子牛価格安定基金協会及び事務委託先において本システムの導入・運用を実施。

〇個体登録申込時、及び販売等異動時の確認
平成18年10月1日以降(4月生まれ)に個体登録する肉用子牛から、「生年月日」及び「性別」に加えて、「種別(品種)」についても牛個体識別データベースに登録された情報により個体確認を実施。また、家畜市場(家畜改良センターに取引報告を行っている市場)で取引された場合においては、牛個体識別データベースに登録された情報により確認することが可能となった。

(2)肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業)
マルキン事業における個体登録業務等の効率的かつ円滑な実施を図るため、牛個体識別データベースとの連携システムを開発し、16年度から全国的なシステムの導入・運用を開始。

〇個体登録申込時の確認
個体登録の申込書は「生年月日」、「性別」、「種別(品種)」、「導入年月日」及び「飼養場所」が牛個体識別データベースに登録されている情報と一致していることが必要。

(3)大家畜畜産経営データベース (旧 担い手集中経営支援体制整備事業)
牛個体識別データベースと連携し、個別経営体ごとに統合・分析された各種経営情報を大家畜畜産経営支援者等に対し提供するシステムを開発し、利用希望に応じ情報の提供を実施。

(4)酪農飼料基盤拡大推進事業 (旧 土地利用型酪農推進事業)
平成18年度より、補助金交付要件の計算対象である経産牛頭数の確認のために、牛個体識別データベースから農家毎の実登録頭数を抽出して提供。

(5)家畜改良体制整備事業
家畜改良を効率的に促進し、家畜登録の一体的な運用の推進を図る家畜改良データバンクに牛の個体情報を提供。

(6)家畜共済制度
平成16年4月より、家畜共済における個体確認方法として、牛トレサ法の個体識別番号による照合が可能となった。平成17年度より飼養頭数及び異動の確認等を適切に実施するため牛個体識別情報を利用する手法を検討し、平成18年度より情報利用システムの導入を開始。

2.個体識別情報を加工、分析し活用 

(1)畜産統計
畜産統計(牛に関するもの)の算定資料として、牛個体識別データベースから情報を提供。

(2)全国的な飼養動向(図2)
家畜改良センターのホームページより、平成16年度より年(月)齢別・品種別と畜頭数、平成17年度より年(月)齢別・品種別飼養頭数を定期的(年2回)に公開。

3.牛個体識別システムを活用した情報の有効利用(図3)

(1)家畜個体識別情報活用促進事業
牛個体識別情報と飼料給与履歴等を連結した飼養管理情報等データベースを構築し、付加価値情報を消費者等へ提供等。

(2)インターネットにより、家畜改良センターのホームページから牛個体識別情報を検索。携帯電話でも検索可能。



2 牛個体識別システムの利活用の状況

 一口に牛個体識別システムの利活用といっても、

@生産者や各種事業に個体ごとに固有である個体識別番号をキーとして生年月日、管理者などの関連情報を提供し利用するケース

A牛個体識別情報を飼養動向の分析などのために加工し、情報として提供するケース

Bパソコンなどを利用した消費者などへの牛の生産履歴などの提供

C牛個体識別システムを活用した付加価値情報の提供

に区分されます。

 @については、生産者への情報提供のほか、補助事業での利用で、肉用子牛生産者補給金制度、肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業)、酪農飼料基盤拡大推進事業などでの管理台帳などの利用があります。 

 Aについては、畜産統計での利用や家畜改良センターから提供されている年(月)齢別・品種別と畜頭数、年(月)齢別・品種別飼養頭数などがあります。(図2)


図2 品種別性別月齢別飼養頭数(平成18年10月1日時点)

注:1)
牛個体識別台帳を平成18年10月1日時点(平成18年9月30日までの登録事項)で集計したデータです。

注:2)
平成15年12月1日の法施行時点で届出(既存牛の届出)のあった牛及び法施行以降に出生または輸入の報告のない牛(移動中等の牛)は除外しています。
 また、集計時点で牛個体識別全国データベースに登録されているデータを集計しているため、集計時点で既に出生、と蓄または死亡していても届出が行われていないもの並びに届出内容を確認中のものは反映していないので、その後の届出、データの追加、修正等により集計結果は変動します。

 

 Bについては、牛トレサ法に基づき、インターネットにより牛個体識別情報を公表しており、パソコンなどから情報を検索することができます。(図3)

図3 パソコンを利用した牛個体識別情報検索サービス画面
(参考:家畜改良センターHP)

 Cについては、家畜個体識別情報活用促進事業での飼養管理情報の提供などがあります。この事業では、消費者への食の安全・安心情報を提供するため、地域における飼料給与履歴など飼養管理情報をデータベース化し、牛トレサ法における個体識別システムと連携して、インターネットを活用して消費者などへ情報を提供しています。(図4)


図4 飼養管理等情報の活用促進事業について

 

 なお、@の情報の利用に当たっては、個人情報の保護の観点から、情報の提供については生産者の同意書が必要です。Bについては、表示される内容は、当該個体識別番号をもつ牛の出生年月日、雌雄の別、種別、母牛の個体識別番号、飼養都道府県(出生地、過去の飼養地、現在の飼養地)、と畜または死亡年月日です。飼養施設所在地、氏名または名称については、同意が得られた場合のみ表示されます。

 現在の牛個体識別システムの利活用は、事業での個体確認や統計での利用など、生産者にはあまり直接的なメリットが感じられないものが多いようですが、家畜個体識別情報活用促進事業における「飼養管理情報提供システム」では、生産者の飼料給与履歴などの飼養管理情報を個体識別情報と合わせて提供することができるようになっており、消費者への食の安心情報の提供に貢献しています。実際に生産者により登録されている飼養管理情報は年々増加し、18年12月で約51万件が登録されています。


3 今後の利活用について

 牛個体識別システムは、開始から5年が経過し、安定的に運用されていることから、今後は、報告事務の簡素化、生産者メリットの拡大、牛個体識別情報の利活用の促進などを図って参ります。

 例えば、牛個体識別システムの報告により、登録や事業の申込みが完了するなど、生産者の負担を軽減することや、個体識別番号をキーとして、検定、繁殖、家畜共済、登録、給与飼料などのデータを統合することで、経営改善に資する情報を迅速に提供することなどが考えられます。


4 おわりに

 牛個体識別システムは、管理者の方々の正確な届出に基づき成り立つシステムであり、関係者の方々のご協力により着実に定着しつつありますが、今後も牛個体識別システムを有効に利活用するためにも正確な情報が不可欠であります。

 牛個体識別システムの精度向上のため報告システムの改善等に取り組んで参りますが、今後とも関係者の方々のご協力をお願いいたします。 


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