島根県では、地域の実情に応じ、地域資源を活用した『島根型放牧』を推進している。一方、県内の耕作放棄地面積は6,603ヘクタール(2005農林業センサス)で、5年前から22%増加しており、地域においては農業生産の低下、鳥獣害の拡大、景観などへの悪影響が懸念される。
そこで、県中山間地域研究センター(地域研究部門)と協力し、Web−GIS※1などを活用した放牧マップなどを作成して、耕作放棄地などを利用した新たな放牧地拡大への取り組みを推進している。具体的な進め方としては、
1)放牧可能地のピックアップ:集落ごとのデータから一定以上の耕作放棄地のある集 落を絞り込み、航空写真から放牧が可能だと判断される土地をピックアップする。
2)現地確認調査:農業普及部を中心に、市町村や農協の協力の下、ピックアップした 150集落の現地を実地に確認し、傾斜や面積などの土地条件から放牧への可能性を4段 階に分類する。
3)意向調査:150集落のうち、可能性が高いと判断された68集落を中心に、再度地元住民への意向調査および働きかけを実施する。
この関係者が一体となった取り組みにより、既に数集落において放牧を開始しているところや、実施に向け準備を行っている集落などがあり、徐々に成果を見せ始めている。
県内における放牧の取り組み事例として、県下に先駆けて水田放牧が取り組まれた大田市(おおだし)においては、農家の発想による『出前放牧』(放牧経験牛の貸し出しや放牧牛の管理)、『レンタル放牧』の制度が確立しており、耕種農家の耕作放棄地などを活用した放牧が盛んである。また、その取り組みから無畜地域であった集落が、繁殖牛経営を開始した事例もある。さらに、近年の取り組み拡大で不足し始めた放牧経験牛の育成や、無畜集落などでの経営開始をサポートする子牛生産システム(子牛の飼養に不慣れな農家のために、分娩から離乳・育成をサポート)へも発展している。
この取り組み事例をモデルとして、県では、集落営農組織などが地域ぐるみで繁殖牛の増頭や放牧地拡大を進める『地域放牧』を新たな『島根型放牧』として定着させていくこととしている。
※1(地理情報システム=地図データと位置に関するさまざまな情報をコンピュータで管理し活用するしくみ)
航空写真からのピックアップ例
(赤線で囲んだ箇所が
放牧可能地と判断した土地)
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地域放牧の取組事例
(水田や山林など約13ヘクタールに
親子周年放牧を実施) |
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