インターネットは「どこでもドア」
たまご処 卵の庄 |
究極の対面販売ひょんなことからインターネットで自社の卵を販売することになって、8年半が過ぎた。今では日本を代表する有名企業となった楽天市場も当時はまだまだベンチャー企業の一つだったし、そもそもインターネットでの買い物自体がまだ認知されていなかった時代だったので、楽天市場に出店してしばらくは、「どうやったらお客様に信用してもらえるか?」「どうやったらうちの卵は安全で美味しいと分かってもらえるか?」ということを試行錯誤する毎日だった。 当時はみんながネットショッピングに慣れていない分、幸いなことにショップ側にも消費者側にも先入観というものが少なく、そのお陰で私も、普段実店舗でお客様に接していたのと同じような店舗運営ができたと思う。つまり、ネットを通した対面販売だ。しかもネットの場合、実店舗よりもはるかに機動力に富んでいるので、いつでもどこでも思いついたら即メルマガ(メールマガジンの略。ショップがお客様にお得情報などをお知らせするメールのこと)配信、即企画開始、ということが実現できる。(しかも低コストで!)そしてお客様は、メルマガを読んですぐに質問や感想を寄せたり、企画に参加してショップや他の消費者と意見交換したり、もちろん即購入!ということも可能なのだ。 私の場合、例えば卵の良さや安全性を理解してもらうために、「卵の黄身に爪楊枝が何本刺さったでしょう?」というプレゼントクイズをしたり、正しい卵や養鶏の知識を獣医師として定期的にメルマガに載せたり、とにかくいろんなことをやって、消費者との距離を少しでも近づけるよう努力してきた。何しろ、「卵」という究極のオリジナル商品を買ってもらうには、まずはどんな人が作っているか、どういう思いで作っているのかを知ってもらうことが先決と考えたからだ。その結果、「この人が作っているものなら信じられる」と思ってもらい、直接見たり触ったりできない不安を解消することができたと自負している。 媒体に頼らない関係また、私がこの8年半の間で、インターネットの力、メルマガの力を一番実感したのは、3年前のあの鳥インフルエンザ騒動の時だ。連日の過激報道や現場映像の垂れ流しにより、国内の鶏卵の消費は大幅に下落した。わが養鶏場は発生地域に結構近かったこともあり、実店舗の売り上げは世間並みに落ち込み、産地証明発行依頼の対応に明け暮れたのだが、ネットの売り上げは逆に上がったのだ。いや、上がったことが重要なのではない。その理由が大事だと思うのである。それこそ、それまでに培ってきた消費者との信頼関係に基づくものに違いないから。 そして、その時も私が一番にやったことは、発生確認後すぐのメルマガ配信であった。当店のメルマガ読者であった全国の8万人の方に、発生の報告と、鳥類には危険でも人間には即座に危険性はないことなどを書き、配信した。幸い私は獣医師でもあるので、ある程度基礎医学的に詳しい説明もすることができ、かなりの方から好意的な反応を頂くことができた。 「テレビはただあおっているだけで信用できないし、信頼できる情報がなくて、本当のところは一体どうなんだろうと思っていたので助かった」 「ニュースで大騒ぎになってきて、もっと詳しく知りたいと思っていたところにちょうど卵の庄さんからメルマガが来て、とっても詳しく説明して貰えたので安心できた」という感想をたくさん頂いた。 中には「卵や鶏肉からはうつらないと聞き安心しましたが、生きた鶏からは人間にうつるそうですね。店長さんやスタッフの皆さん、くれぐれも気をつけて!」と心配してくれる人まで出現。結局こんな時に1番強いのは、お役所のお墨付きでも業界全体の働きかけでもなく、直接語りかけ、確かめ合うことのできるベタな人間関係なのだなー、と実感した。この経験はその後の店舗運営の基本となり、以後何かある度にできるだけ早く、私の言葉でメルマガを書くことにしている。(もちろん今回の発生時も) 「便利」から「信頼」へもちろん、基本的には実際に来ていただかないと話ができない実店舗でこのような関係を多くの人と作ることは簡単ではないが、ネットでも実社会でも向かう方向が同じであることは間違いない。 食育だ、食の安全性だ、と言われても、養鶏や養豚では防疫的に畜舎を公開することもできない昨今、インターネットのようなツールを使いこなすことで、消費者がまるで畜舎の中に自分が招かれているように感じられる信頼関係を作っていくことこそ、求められているのかもしれない。 われわれ畜産家が目指す直売は、間違っても自動販売機などではなく、畜舎の隣につながる「どこでもドア」でなければならないと強く思う。
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