1 はじめに有機農業は、化学肥料や農薬などに頼らない環境に配慮した農業生産活動であり、また、消費者の食料に対するニーズが高度化し、かつ、多様化する中で、こうした消費者のニーズに対応した農産物の供給に資する取り組みです。このため、農林水産省では、有機農業をはじめとする環境保全に配慮した農業を推進するため、有機農業に関する技術の研究開発や技術の導入などに対する支援を行ってきたところです。 一方、現状では、有機農業は、化学肥料および農薬を使用する通常の農業に比べて、病害虫などによる品質・収量の低下が起こりやすいなどの課題を抱えており、国内での実績が把握されているJAS法に基づく有機農産物の格付数量でみた場合、その国内農産物の総生産量に占める割合は0.16%(平成17年度)であり、取り組みはいまだ少ないものとなっています。 他方、これまでに実施された消費者モニター調査などの結果からは、消費者や実需者の多くは、有機農業により生産される農産物を、他の農産物より「安全・安心」、「健康によい」とのイメージによって選択している傾向がみられ、有機農業が環境に配慮した取り組みであるとの理解が消費者に浸透しているとは言えない状況にあります。 こうした状況の中で、有機農業を推進するに当たっての基本的な考え方を明らかにするとともに、国および地方公共団体が、農業者その他の関係者および消費者の協力を得て生産、流通、消費それぞれの側面から有機農業の推進に関する施策を総合的に講じることにより、わが国における有機農業の確立とその発展を目指すため、平成18年12月、議員立法により、有機農業の推進に関する法律(以下「有機農業推進法」という。)が制定されたところです。
2 有機農業の推進に関する基本的な方針の策定有機農業推進法において、農林水産大臣は、有機農業の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めることとされています。また、基本方針を定めるに当たっては、食料・農業・農村政策審議会の意見を聞かなければならないこととされております。 このため、農林水産省では、本年1月から3月にかけて、基本方針の調査審議を所掌する食料・農業・農村政策審議会生産分科会を開催し、基本方針の内容について検討を行うとともに、基本方針の内容が有機農業者や有機農業の推進に取り組む民間団体の方々をはじめ、広く国民の意見を反映したものとなるよう、有機農業者や有機農業の推進に取り組む民間団体の方々との意見交換、パブリックコメントを実施しました。 以上の取り組みを経て農林水産省が作成した基本方針の案については、3月27日に開催された生産分科会において、適当である旨の答申を得たところであり、今後、所要の手続きを経て本年4月に基本方針を決定・公表することとしております。
3 有機農業の推進に向けた取組このたび定める基本方針は、平成19年度から概ね5年間を対象として、有機農業の推進に関する施策を総合的かつ計画的に講じるために必要な基本的な事項を定めたものであるとともに、有機農業推進法において都道府県が作成に努めることとされている有機農業の推進に関する施策についての計画の基本となるものです。今後は、基本方針に基づき、国および地方公共団体は、透明性、公平性の確保に留意しつつ、農業者その他の関係者および消費者の協力を得て有機農業の推進に取り組むこととしています。 基本方針では、農業者が容易に有機農業に取り組めるようにする、有機農業者と消費者との連携を促進する、有機農業者の自主性を尊重するなど、有機農業推進法に即して有機農業の推進に取り組むことを明らかにするとともに、(1)有機農業の推進及び普及の目標に関する事項、(2)有機農業の推進に関する施策に関する事項、(3)その他有機農業の推進に関し必要な事項を定めております。以下、それぞれの主な内容を紹介します。 (1)有機農業の推進および普及の目標に関する事項 (1)目標設定の考え方 目標は、国、地方公共団体、農業者その他の関係者および消費者の共通するものとして設定するとともに、現状では、有機農業に関する技術体系の確立が課題となっていることなどを考慮し、農業者が有機農業に取り組めるようにするための条件整備に重点を置いて目標を設定しています。 (2)目標(概ね平成23年度) ・公的試験研究機関、民間などの技術を取り入れた有機農業に関する技術体系の確立 ・普及指導員による有機農業の指導体制が整備された都道府県の割合100% ・有機農業が、化学肥料・農薬を使用しないことなどを基本とする環境と調和の取れた農 業であることを知る消費者の割合50%以上 ・推進計画を策定・実施している都道府県の割合100% ・有機農業の推進体制が整備されている都道府県などの割合 都道府県100%、市町村50%以上 (2)有機農業の推進に関する施策に関する事項 (1) 有機農業の取り組みを支援するため、たい肥の生産・流通施設などの共同利用機械・施設の整備、農地・水・環境保全向上対策による支援に加え、有機農業を核とする振興計画を策定した地域に対する計画の達成に必要な支援、地域における有機農業に関する技術の実証や習得に対する支援を行います。 (2) 新たに有機農業を行おうとする者を支援するため、就農相談、研修教育、就農支援資金の貸付けなどに努めるほか、有機農業者などの協力を得て新規就農希望者に対する指導、助言を行う者を対象とした研修の実施に努めます。 (3) 流通・販売面では、有機農産物などの表示ルール・検査認証制度の活用などを働きかけるほか、流通・販売業者、実需者への橋渡しの支援に努めます。 (4) 有機農業に関する技術の研究開発とその成果の普及を促進するため、有機農業者などの協力を得て、有機農業に関する技術の実証や研究開発の推進、普及指導員などに対する研修内容の充実に努めます。 (5) 有機農業に対する消費者の理解と関心を増進するため、消費者、流通・販売業者、実需者、学校関係者などに対する普及啓発や情報提供、優良な有機農業者の顕彰に努めます。 (6) 有機農業者と消費者の相互理解を増進するため、食育、地産地消、農業・農村体験学習、都市農村交流などの活動と連携した取り組みに努めます。 (7) 生産、流通、販売及び消費の動向、技術の開発・普及の動向、地域農業との連携を含む取組事例など有機農業の推進に必要な調査を行います。 (8) 有機農業の推進に取り組む民間団体などに対する情報の提供、指導、助言を行うとともに、民間団体などの相談窓口の設置に努めます。 また、民間団体などによる優良な取組の顕彰・情報発信に努めます。 (9) 都道府県に対し、有機農業の推進計画の策定を働きかけるとともに、有機農業者などの協力を得て、地方公共団体の職員などに対する研修の実施に努めます。 (3)その他有機農業の推進に関し必要な事項 (1) 有機農業者をはじめ、農業者その他の関係者および消費者の理解と協力を得て有機農業を推進するため、これらの者で構成する推進体制の整備に努めます。また、有機農業者の参画を得て有機機農業に関する技術の研究開発を計画的かつ効果的に推進する体制の整備に努めます。 これらの体制の整備については、地方公共団体に対しても同様の取り組みを行うよう働きかけることとします。 (2) パブリックコメントの実施、現地調査、意見交換などにより、有機農業者その他の関係者および消費者の意見や考え方を把握し、施策の策定に反映させるよう努めます。 (3) 基本方針については、今後の施策の実施状況や農業情勢の変化などを踏まえ、見直しの必要性や時期などを適時適切に検討します。
4 最後に農林水産省では、今後、都道府県などに対し基本方針の内容の周知を図るとともに、その具体化に向けた検討を進めることとしております。特に、基本方針では、農業者が有機農業に積極的に取り組めるような条件整備を進めることを重視していることから、このことについて関係者の理解を醸成するとともに、効果の高い施策が実施されるよう努めてまいります。 |
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