◎今月の話題



食の安全に関するリスクコミュニケーションの
今後の方向

食品安全委員会
委員長 見上 彪

食品安全委員会の発足とリスクコミュニケーション

 平成15年7月に内閣府に食品安全委員会が設置されてから、4年近くが経過した。食品安全委員会は、科学に基づく「リスク評価」、情報の共有や意見の交換を行う「リスクコミュニケーション」、大規模な食中毒など「緊急の事態への対応」を主な役割としており、これまで350件以上のリスク評価を実施するとともに、300回近い意見交換会の開催などリスクコミュニケーションの推進にも積極的に取り組んできた。

 食の安全に関する「リスクコミュニケーション」とは、国などの行政機関、消費者、事業者、研究者その他、すべての関係者の間で、食の安全に関する情報を共有し、意見を交換し、よりよい食品安全の確保を目指す一方通行でない、双方向の取り組みである。


多様なリスクコミュニケーションの取り組み

 食品安全委員会は、リスクコミュニケーションとして、さまざまな取り組みを行ってきた。特に、参加型のコミュニケーションとして、「意見交換会」を重要視し、実施してきた。これは、BSEなどのテーマについて、100名から300名くらいの消費者、事業者、行政担当者など関係者が一堂に会し、食品安全委員会など主催者側からの説明に対して、直接、意見を交換するものである。

 また、食品安全委員会では、透明性を確保する観点から、原則として、委員会や専門調査会などの審議をすべて公開するとともに、詳細な議事録をホームページに掲載している。

 このほか、リスク評価結果などに対する国民からの意見・情報の募集(パブリック・コメント)、全国各地の470名の方への「食品安全モニター」の依頼、「食の安全ダイヤル」の設置、週1回のメールマガジンの配信、パンフレットや季刊誌「食品安全」の発刊など、さまざまな取り組みを行っている。


地域におけるリスクコミュニケーションの推進

 効果的なリスクコミュニケーションを行うためには、より多くの人が、ベースとなるリスクに関する情報を共有するとともに、利害の異なる関係者の意見や立場を理解することが欠かせない。そのため、食品安全委員会では、昨年度から、食の安全に関する地域の指導者の育成に取り組んでいる。これは、食品安全委員会だけでは人員や予算面で限界があることから、地域において、普段から食の安全についてお話をする機会の多い方に、科学的な食の安全確保の考え方や食品安全委員会の活動について多方面に情報を発信していただくための「指導者育成講座」を、県などと協力して実施しているものである。

 さらに、今年度からは、地域で食の安全に関する意見交換などのリスクコミュニケーションをコーディネートし推進する「リスクコミュニケーター」を育成する講座も実施することとしている。

 これらの講座は、参加者の一部について公募も行っており、畜産関係で食の安全に携わっている方にもぜひご参加いただきたいと思う。


リスクコミュニケーションの改善に向けて

 食品安全委員会では、昨年11月に「食の安全に関するリスクコミュニケーションの改善に向けて」と題するリスクコミュニケーション専門調査会の検討結果を公表した。 

 この中では、例えば、意見交換会については、これまでは国からの一方的な情報提供という印象を与えたり、対立する立場での同じ主張の繰り返しにとどまっていたという反省に立って、今後は、地域、対象、参加人数を絞ったきめの細かい開催や、パネルディスカッションの活用を検討することとしている。

 また、詳細な議事録を公表するだけでなく、多様なニーズに対応できる情報公開のあり方を検討することとしている。

 さらに、消費者への影響力の大きいメディアに対して、食品安全委員会の委員や専門委員が正確でわかりやすい情報を提供できるようになるため、「メディアトレーニング」などを行い、メディア対応能力の向上を図ることとしている。

 そのほか、今後さらに検討を続ける課題として、「リスクコミュニケーションの検証」、「審議の経過に関する透明性の確保と情報提供のあり方」、「地方自治体との連携」、「諸外国との連携」、「食育」が挙げられた。

 特に「食育」については、すべての人が、食の安全について、いわゆる「風評」に惑わされず、科学的な情報を主体的に取得し、自ら判断できることが重要である。そのため、教育の場でも、リスク分析や科学的な情報を積極的に普及していきたいと考えている。畜産関係の方々にも、ぜひ、ご協力いただき、現場の状況や食の安全確保に関する取り組みなど、科学的でわかりやすい情報を発信していただきたい。

●インフォメーション
・ホームページアドレス:http://www.fsc.go.jp/
・メールマガジン登録:食品安全委員会ホームページのトップページより登録できます
・「食の安全ダイヤル」:電話03-5251-9220または9221
(月曜日〜金曜日、10:00〜17:00[祝日、年末年始を除く])


みかみ たけし

プロフィール

昭和13年台湾県台北市生まれ。昭和32年北海道大学水産類入学、昭和37年北海道大学獣医学部卒業後、北海道大学修士課程及びカリフォルニア大学博士課程修了。

カリフォルニア大学ポストドクター、札幌医科大学講師、ハノーバー獣医科大学フンボルト研究員、北大(獣)助教授、東京大学(農)教授、帯広畜産大学原虫病研究センター長、日本大学生物資源科学部教授を経て、平成15年7月より食品安全委員会委員、平成18年7月より食品安全委員会委員長代理。平成18年12月より食品安全委員会委員長。専門は獣医微生物学、動物の感染症。


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