★ 機構から


統計解説
 外食向けや調理冷凍食品で需要を伸ばす鶏肉調製品
 ―鶏肉輸入量を上回った鶏肉調製品の輸入―

調査情報部調査情報第1課長 藤野 哲也


1.鶏肉需給に存在感を増す鶏肉調製品

 当機構は、畜産の情報(国内編)の参考資料でそれぞれの畜種における食肉の出回り量を推定するため各畜種の需給表を公表している。

 しかしながら、鶏肉については、主要輸入国における鳥インフルエンザの発生の影響もあって加熱処理された鶏肉調製品の輸入量が増加し、平成18年度にはついに鶏肉の輸入量を上回った。生産量との単純比較で見ると鶏肉調製品はその約4分の1に相当するため、鶏肉の需給を考える上で鶏肉調製品の影響度は以前に増して大きくなっている。

 財務省の「貿易統計」によると、平成18年度の鶏肉調製品輸入量は345,667トンと前年度を2.4%上回る一方、鶏肉輸入量は前年度を21.6%下回る339,889トンである。鶏肉生産量は、国産志向の高まりなどを背景に増加しているものの、鶏肉輸入量は、過去最高を記録した13年度の55万6千トンの約6割の水準にとどまっている。

図1 鶏肉および鶏肉調整品の輸入量の推移


資料:財務省「貿易統計」


2.機構が公表している鶏肉調製品の範囲

 そこで、当機構が畜産の情報の参考資料として集計している鶏肉調製品の関税分類について改めて解説するとともに、その輸入動向などについて考えてみたい。

 輸入量は財務省の「貿易統計」により集計しているが、その品目ごとに関税定率法別表、WTO譲許表、関税暫定措置法別表によって実行税率が決まっている。これらの関税率および統計に関する各表はHS条約(商品の名称および分類についての統一システムに関する国際条約)の品目表(部、類、番号)に従っている。

 鶏肉は、関税番号においては、大きくは「家きんのもの」という分類で、さらに「鶏(学術名:ガルルス・ドメスティクス)」、「七面鳥」、「アヒル、ガチョウ、およびほろほろ鳥」に分類される。

 当機構では、ブロイラーの輸入量として、「鶏のもの(うち、冷凍の肝臓は除く)」のみを集計しており、七面鳥やアヒルなどのその他の家きんの区分は鶏肉需給表には反映されていない。

 また、需給表には反映されていない鶏肉調製品は、第4部「調製食料品、飲料、アルコール他」第16類「肉、魚又は甲殻類、軟体動物若しくはその他の水棲無脊椎動物の調製品」で、関税分類は以下の通りであるが、機構が集計しているのは、1602.32/290のみで、これを国別に集計し掲載している(資料編P39)。

番号/統計細分

1602.31
1602.32
1602.32/100


1602.32/210
1602.32/290
1602.39
品 名
家きんのもの
七面鳥のもの
鶏(学術名:ガルルス・ドメスティクス)のもの
1 腸、ぼうこう又は胃の全形のもの及び断片(単に水煮したものに限る。)
2 その他のもの
(1)牛若しくは豚の肉又は牛若しくは豚のくず肉を含有するもの
(2)その他のもの
その他のもの

 この項目には、煮、蒸し、焼き、油で揚げ、あぶりまたはそのほかの方法により加熱調理した肉およびくず肉などで、肉、くず肉または血の重量が全重量の20%を超えるものが対象となっており、ソーセージそのほかこれに類する物品などは除かれる。また、物品の2以上を含有する調製品は最大の重量を占める成分が属する項に分類されることとなっている(例えば、鶏肉と豚肉両方を含有する場合には、その含有率が高い方の関税分類に分類される)。

 鶏肉調製品として代表的なものは、唐揚げ、ナゲット、フライドチキン、ローストチキン、ミートボール、竜田揚げ、炭火焼鳥などが挙げられる。

 従って、鶏肉調製品は、製品全体に占める鶏肉の重量割合が高いものが多いが、野菜と一緒に調理されたチキンカレーソースや米、野菜などと調理されたチキンライスなどもこの項目に含まれることとなる。


3.鶏肉調製品輸入量−鳥インフルエンザを契機としてさらに拡大

 鶏肉調製品は、食の簡便化や外食産業、中食産業の成長などを背景として、過去一貫して増加している。主要輸入先において、人件費が安く労働集約型産業として加工度を高めた鶏肉調製品の輸入量は、4年度に約2万トンだったものが11年度には約12万トンと7年間で約6倍にまで増加した。その後も大幅に増加し、この間、わが国における鶏肉の輸入先として第一位のシェアを持っていた中国は、13年6月以降、鳥インフルエンザが発生し、たびたび輸入が停止されたため、輸入量はその後減少の一途をたどっていった。そして、16年1月の中国、タイにおける鳥インフルエンザの発生以降、両国からの鶏肉輸入は皆無となった。

 16年1月の鳥インフルエンザ発生による輸入一時停止措置の影響で15年度の鶏肉調製品輸入量は前年度を下回ったが、その後中国、タイの加熱処理された鶏肉調製品の輸入が再開され、16年度以降両国からの輸出形態は鶏肉から調製品へと完全に移行した。この結果、17年度に34万トンと30万トン台を突破した。主要鶏肉輸出国にって、鳥インフルエンザなどの疾病による輸出停止など国内需給への影響を緩和する意味でも加工品輸出は安定供給を図る上でも重要な手段となっている。タイの鶏肉輸出量を見ると、鳥インフルエンザが発生する前の15年における鶏肉輸出量全体に占める調製品の割合は4分の1であったものが、18年には97%まで拡大している。

 なお、農林水産大臣が指定する家きんの加熱処理施設は中国が91カ所、タイが53カ所(19年7月27日現在)となっている。

 このように鶏肉調製品の輸入が増加してきた背景には、商社をはじめ食肉加工メーカー、冷凍食品メーカーが現地加工場との技術提携のみならず、現地法人との合弁や海外進出を果たしてきた結果であり、その多くは外食や総菜などの中食向けの業務用に利用されているものと考えられる。輸入量の拡大とともに、輸入単価も上昇傾向で推移しているが、これは原産地価格の上昇だけでなく、加工度を高めた製品の割合が増加していることも要因の一つとして考えられる。

図2 鶏肉調整品の国別輸入量の推移


資料:財務省「貿易統計」


図3 鶏肉調整品の国別輸入単価の推移


資料:財務省「貿易統計」


4.外食産業における鶏肉調製品の代替が進む

 鶏肉の家計消費や加工仕向けを除く「業務用、外食など」の消費の構成割合は、農林水産省食肉鶏卵課の推定によれば17年で全体の58%と過半を占めていることから、鶏肉調製品の需要について、まず外食産業のデータから見てみたい。

 当機構が財団法人外食産業総合調査研究センターに委託して実施している「外食産業食肉消費構成実態調査」では外食産業全体の食肉需要量を推計している。それによれば、鶏肉の年間需要量は14年の68.2万トンをピークに減少傾向で推移し、中国、タイなどで鳥インフルエンザが発生した16年に60.7万トンと14年度と比較して7.5万トン減少した。17年は消費の回復とともに、国内生産量やブラジルからの輸入量が増加したため、外食産業の需要量も増加したが、依然として14年と比較すると4.6万トンの減少となっている。

 この間、鶏肉全体の需要量も5.2万トン減少する一方で、鶏肉調製品は、11.1万トン増加している。

 ところで、外食産業の業種別鶏肉推計需要量を見ると、一般食堂などの飲食店その他、酒場・ビヤホールなどの遊興飲食店および社員食堂、病院給食などの集団給食における需要の減少が目立っている。これらの3業種における鶏肉需要量は外食産業全体の44%を占めているが、これら業種における鶏肉需要の減少量は、14年と17年を比較すると3.8万トンで外食産業全体の減少量の約8割となっている。従って焼き鳥、唐揚げなどのメニューを多く揃える遊興飲食店などを中心に鶏肉調製品への代替が進んでいることがうかがえる。

表1 鶏肉の外食産業における業種別年間推計需要量(暦年)


資料:「外食産業食肉消費構成実態調査」、財務省「貿易統計」
注1:精肉ベース。推定出回り量は機構調べの部分肉ベースに77%を乗じている。
 2:業種別構成数量は構成比率で需要量を按分した。



図4 鶏肉の外食産業における業種別年間推計需要量の推移


資料:「外食産業食肉消費構成実態調査」


5.調理冷凍食品業界の海外依存も着実に拡大

(1)調理冷凍食品の生産、輸入動向
 冷凍食品は鶏肉調製品の輸入形態の一つとしてその輸入量が増加している。そこで、冷凍食品の生産量などについて見てみたい。

 冷凍食品とは、(1)下処理がしてあること、(2)急速凍結がしてあること、(3)消費者包装がしてあること、(4)品温がマイナス18℃以下に保たれていること−と定義されている。

 社団法人日本冷凍食品協会の「平成18年(1〜12月)の冷凍食品生産高・消費高について」によれば、調理冷凍食品の国内生産量は131万1千トンで、畜産物関係の品目別生産量を多い順に見ると、カツ8万3千トン(生産量第4位)、ハンバーグ6万5千トン(同5位)、ミートボール3万2千トン(同10位)、鶏唐揚げ2万3千トン(同14位)などとなっており、鶏唐揚げの調理冷凍食品生産量に占めるシェアは1.8%にすぎない。

 また、調理冷凍食品の国内生産量の業務用、家庭用の仕向け割合を見ると、フライ・てんぷら、揚げ物類は業務用が72.6%、家庭用が27.4%、フライ類以外では業務用が54.6%、家庭用が45.4%となっており、唐揚げを含むフライ類における業務用仕向け割合が高くなっている。

 一方、調理冷凍食品の輸入量については、貿易統計上の統計分類に冷凍の区分がないなどの理由のため、正確な輸入量を把握することが極めて困難となっている。

 そこで、まず同協会が会員に対して実施している調理冷凍食品輸入高調査により、その概要を見てみたい。

 これによると調理冷凍食品全体の輸入量は31万5千トンで調理冷凍食品における輸入品のシェアは19.4%となっている。ただし、これは、同協会の会員を対象にした調査結果のため、会員以外の商社や量販店などが輸入するものは含まれていないので実際にはこれ以上の数量が輸入されていることになる。

 「18年(1〜12月)調理冷凍食品輸入高調査」によれば、34社(回答社数31社)のうち、どのような形で輸入調理冷凍食品を扱っているかとの問い(複数回答)に対し、

 (1)海外生産拠点(子会社、合弁会社、業務提携先など)で日本向けに生産した調理冷凍食品を輸入し、販売しているが、28社

 (2)外国メーカーが自国市場向けに開発した調理冷凍食品(日本向けに仕様変更したものを含む)を輸入し、販売しているが、4社

 (3)商社などが輸入した調理冷凍食品を購入し、販売しているが、18社

 (4)その他が0社

となっており、回答した社の9割以上が海外生産拠点で製造されたものを扱っているとしている。

 また、鶏肉関係の輸入調理冷凍食品の品目別取扱社数をみると、フライ・てんぷら、揚げ物類では、第一位のえびフライの10社に次いで、鶏唐揚が9社である。そのほか、焼き鳥が3社、鶏竜田揚げが2社、チキンカツが1社などとなっており、同協会の会員の中の30%が鶏唐揚を取り扱うメーカーであることがうかがえる。

 調理冷凍食品の輸入量は、近年一貫して増加傾向で推移しているが、国別のシェアをみると、中国が約6割、タイが約3割となっており、両国のシェアは12年以降ほぼ9割で変化していない。

 加ト吉、ニチレイ、味の素冷凍食品などの業界大手をはじめ多くの冷凍食品メーカーが中国、タイを中心に生産拠点を複数設立していることが反映された結果となっている。

図5 調理冷凍食品の国別輸入量の推移


資料:(社)日本冷凍食品協会「調理冷凍食品輸入高調査」

(2)畜産加工品の輸入動向
 それでは、輸入鶏肉調製品のうち、調理冷凍食品はどの程度の数量を占めているのであろうか。

 食肉製品の輸入量の統計としては、厚生労働省の「輸入食品監視統計」があるが、同統計の畜産加工食品には、畜種別内訳がないこと、また、冷凍食品の品目分類においても調理冷凍食品以外のものが含まれている可能性があるため、正確な数量は把握できない。加熱食肉製品(加熱後包装)の輸入数量に占める鶏肉調製品のシェアはかなり高いと考えられるが、18年に輸入量が4万トンを超えたソーセージやハムといった豚肉加工品などのデータがこの分類に入っていることなどに留意する必要がある。

 「輸入食品監視統計」によると、加熱食肉製品(加熱後包装)の輸入・届出数量は32万7千トン、また、そのほかの畜産加工品のうち冷凍食品(食肉製品に該当するものは除く)は9万7千トンとなっており、合計すると42万4千トンである。単純にこれらの合計と比較すると、調理冷凍食品の占めるシェアは20%強となっている。この2つの分類の合計数量の国別シェアを見ると、中国が57%、タイが36%と両国で93%となっているが、加熱食肉製品(加熱後包装)の輸入量は、中国が15万4千トン、タイが14万4千トンとそれほど差はないものの、中国の輸入量に占める調理冷凍食品のシュアは37%に対し、タイはわずか5%と国によって大きく様相が異なっているのが特徴的である。このことは冷凍食品業界の多くが中国に生産拠点を持っていることを反映した結果となっている。

表2 畜産加工品の国別輸入届出数量


資料:厚生労働省「輸入食品監視統計」

6.まとめ

 鶏肉調製品の輸入量は中国、タイの鳥インフルエンザの影響から16、17年度に大幅な増加を示した。これらの多くが業務用や外食用に仕向けられたものと考えられるが、調理冷凍食品の輸入拡大も大きな役割を果たしているものと考えられる。

 国産鶏肉は消費者の国産志向の高まりから消費が拡大しているが、鶏肉調製品も加工品の原産地表示が進む中、生産から加工までの一貫した安全性確保が進められており、食の簡便化のニーズに合わせて今後とも安定した需要が期待される。

 このような中、日タイEPAが、19年4月に署名され、来年の発効が予定されている。鶏肉関係では、5年で、鶏肉(骨なし)が11.9%から8.5%へ、また、調製品については、6.0%から3.0%へそれぞれ関税率が削減されることとなっており、加工品の輸出志向が強まるものと見込まれる。鶏肉調製品については、より加工度を高めた製品へのさらなるシフトが予想される。


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