◎需給解説


POS調査による牛乳および飲料の消費動向について

調査情報部調査情報第一課長  藤野 哲也

  牛乳等向け生乳処理量は、飲用牛乳等(牛乳、加工乳・成分調整牛乳)の消費量が他飲料との競合などにより減少していることから、平成19年11月現在、16年9月以降前年同月を39カ月連続して下回っている。

 18年度からの生乳の減産型計画生産が実施されている中、関係団体などにおける牛乳の消費拡大のための取組が積極的に推進されているところである。

 当機構では、牛乳乳製品の消費実態を把握するために、スーパーなどのPOS情報を活用し、販売動向、小売価格の動向について調査を実施している。今回は、牛乳類(牛乳、低脂肪加工乳、白もの乳飲料(カルシウムやビタミンなどを添加したもの)、低脂肪牛乳)および飲料の販売動向などについてその概要を紹介する。

 なお、牛乳乳製品などの当機構のPOS情報の詳細については、巻末の統計を参照願いたい。


1.牛乳類の販売動向

(1)牛乳類全体の消費量は、減少傾向が続く
 牛乳類全体の販売数量について、POSレジ通過客数千人当たりの販売数量(1リットル容器)で見ると、15年度以降4年連続で減少しており、17年度は116.7本、18年度が114.2本となっている。また、19年度(4〜11月)で見ても116.1本と前年同期比で1.8%の減少となっている。

 種類別の千人当たり販売数量について見ると、18年度は普通牛乳が83.0本(全体に占めるシェア72.7%)で最も多く、次いで白もの乳飲料が16.5本(同14.4%)、低脂肪加工乳が6.6本(同5.8%)、低脂肪牛乳6.1本(同5.1%)、低温殺菌牛乳1.2本(同1.1%)、濃厚加工乳が0.6本(同0.6%)、LL牛乳が0.1本(同0.1%)であった。過去5年間の推移を見ると、牛乳類全体の販売量が減少する中で、普通牛乳、白もの乳飲料および低脂肪牛乳のシェアが増加する一方、加工乳は一貫して減少している。

(2)牛乳類の小売価格は、おおむね低下
 次に18年度の1本当たり小売価格を種類別に見ると、普通牛乳が171円、低温殺菌牛乳が211円、白もの乳飲料が157円、低脂肪牛乳が154円、低脂肪加工乳が125円、濃厚加工乳が208円、LL牛乳が216円であった。19年度(4〜11月)で見ると濃厚加工乳を除き価格は低下傾向で推移している。(図1、図2)


図1 牛乳の販売数量と価格の推移(来店客数千人当たり)

資料:農畜産業振興機構

図2 白もの乳飲料の販売数量と価格の推移(来店客数千人当たり)

資料:農畜産業振興機構

 このように牛乳の販売動向は販売減、価格安という厳しい状況にあるが、その飲用理由などはどのようになっているのであろうか。(社)日本酪農乳業協会が毎年実施している「牛乳・乳製品の消費動向に関する調査(2007年)」によれば、白もの牛乳類(牛乳類全体)の飲用理由として、最も回答率が多いのが、「カルシウムがあるから」48.0%、次いで「栄養があるから」38.6%「健康によいから」34.2%となっており、牛乳類を健康に気づかって飲用していることがわかる。また、白もの牛乳類を飲む頻度の回答率は、「毎日飲む」が38.5%、「週に5〜6日飲む」が9.8%、「週に3〜4日飲む」が13.7%となっており、毎日飲むが約4割弱と最も多い結果となっている。牛乳を消費する者は継続して飲用しており、いわばヘビーユーザーが多いことがわかる。

 さらに、飲用場面の調査では、「朝食をとりながら」が42.9%、「のどが渇いたとき」が39.4%、「おやつや間食時」が34.1%、「風呂上がり」が24.8%と続いている(図3)。

 次にこのような状況を踏まえてほかの飲料の販売動向を見てみたい。


図3 白もの牛乳類の飲用シーン<飲用者ベース>2007年度

資料:(社)日本酪農乳業協会「牛乳・乳製品の消費動向に関する調査」


2.飲料の販売動向

 牛乳類の販売量が落ち込む中、緑茶飲料やミネラルウォーターの消費量が急増している。緑茶飲料の販売数量は、当機構が9年度に調査を開始して以来、18年度に初めて前年度を下回ったものの、19年度は猛暑の影響もあって再び増加に転じている。

(1)夏型消費の季節性がある飲料
 牛乳類の販売数量は9月にピークとなるものの、その季節変動はそれほど高いものではない。一方、コーヒー飲料、緑茶飲料、健康茶飲料の販売数量は、夏期に高くなるという季節性を示している(図4、図5)。


図4 牛乳類の月別販売数量(平成18年度平均=100)

資料:農畜産業振興機構

図5 飲料の月別販売数量(平成18年度平均=100)

資料:農畜産業振興機構

 のどの渇きをいやす飲料としては、このほかにも清涼飲料、麦茶、中国茶、スポーツドリンク、ミネラルウォーターなどが挙げられる。これら夏型消費の季節性がある飲料の販売動向などについて、当機構による調査結果や業界団体による数字から見てみたい。

(1)コーヒー飲料は着実に増加
 千人当たり販売数量について見ると、17年度以降わずかに増加傾向で推移しており、17年度は28.3リットル、18年度は28.7リットルとなっている。19年度(4〜11月)は前年同期比5.0%の増加となっている(図6)。


図6 コーヒー飲料の販売数量と価格の推移(来客数千人当たり)

資料:農畜産業振興機構

 なお、当調査におけるコーヒー飲料は、コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約に定める「コーヒー飲料等」のほか、缶入り乳飲料を含んでいる。

(2)緑茶飲料は18年度に前年度を下回るものの、増加傾向
 千人当たり販売数量は調査を開始した9年度に5.1リットルであったものが、13年度に29.4リットル、16年度47.6リットル、17年度52.5リットルと8年間で10倍と増加した。18年度は50.6リットルと前年度から3.7%減少したものの、19年度(4〜11月)は前年同期比3.3%増と再び増加傾向で推移している(図7)。


図7 緑茶の販売数量と価格の推移(来客数千人当たり)

資料:農畜産業振興機構

(3)健康茶飲料は増加傾向で推移
 健康茶飲料は、多種の茶葉とハトムギ、玄米などをブレンドしたものやグァバ茶葉、ジャスミン茶葉などを原料とした飲料をいう。

 千人当たり販売数量について見ると、17年度は20.8リットルと3年度連続で減少したが、18年度に増加に転じ23.6リットルとなっている。19年度(4〜11月)も前年同期比16.2%の増加となっている(図8)。


図8 健康茶飲料の販売数量と価格の推移(来客数千人当たり)

資料:農畜産業振興機構

(4)清涼飲料の1人・1年当たり消費量では緑茶飲料、ミネラルウォーターが増加
 (社)全国清涼飲料工業会による清涼飲料生産量および(社)日本ミネラルウォーター協会発表による1人・1年当たり飲料消費量を見ると、緑茶飲料、ミネラルウォーターの伸びが著しく、また、野菜飲料も好調に推移していることがわかる(図9)。


図9 1人・1年当たり飲料消費量の推移

資料:(社)全国清涼飲料工業会、(社)日本ミネラルウォーター協会

 18年度の消費量を見ると、コーヒー飲料が22.9リットル(前年度比1.2%増)、炭酸飲料が20.6リットル(同3.6%減)、緑茶飲料が19.1リットル(同7.9%減)、ミネラルウォーター(国産+輸入)が18.4リットル(同27.8%増)などとなっている。

 これらの飲料は、水分補給や清涼剤としてのどの渇きをいやす飲料として夏場の消費が突出しており、また、商品の多様性や新製品開発、広告宣言などによる需要の拡大が図られている。例えば、総務省「家計調査報告」によれば、炭酸飲料や乳酸菌飲料の購入金額が19年に入り大きく増加している。これは、低・ノンカロリー商品や植物性乳酸菌の新商品の強化が図られたことがその要因として挙げられている。

 従って、これらの飲料の販売数量の増加が、牛乳の一番の飲用場面である「のどがかわいたとき」という点で、牛乳と競合しているものと考えられる。

(2)比較的季節性がない飲料としての野菜ジュース
 それでは、夏場以外の季節に牛乳との競合する飲料として、牛乳に類似した季節変動を示すものはどのようなものがあるのだろうか。

 農林水産省総合食料局は、「食料需給予測調査分析事業―食品産業動態調査―」として、加工食品の小売動向では加工食品の千人当たり販売額(POS)を公表している。

 この調査においては千人当たり販売数量は公表されておらず、販売額でのみの比較となるため、小売価格の変動が加味されていないことに留意する必要があるが、販売額の季節性について18年平均を100とした指数で見ると、牛乳と同様に夏場に大きく突出しない飲料としては、はっ酵乳、紅茶ドリンク、栄養ドリンク、野菜ジュースなどが挙げられる(図10)。


図10 飲料の月別千人当たり販売額(平成18年平均=100)

資料:農林水産省「食料需給予測調査分析事業−食品産業動態調査−」

 中でも野菜ジュースは、消費者の健康志向が定着する中で、需要が大きく拡大している。野菜不足を補うために食事の一部として、また、トマトジュースのように単味ではなく、様々な種類の野菜を組み合わせることにより、多様な製品を毎日飽きずに飲むことができる点が大きなメリットとなっている。

 日経BPコンサルティングの「野菜ジュースに関するアンケート」(2007年9月調査)によれば、野菜ジュースを飲む頻度の回答率は、「ほぼ毎日」が20.3%、「2〜3日に1回」が15.2%とその頻度が高く、また、飲む理由として、「健康によいと思うから」64.6% 「野菜摂取が不足気味だがら」53.1%、「手軽だから」35.8%「栄養があると思うから」31.2%となっている。

 さらに、カゴメ株式会社による野菜飲料の飲用場面の調査によると、2003年と2006年の比較によれば「疲れたとき」、「お酒を飲んだ次の日」というような場面が減少し、「朝食と一緒に」、「朝食の後」、「昼食と一緒に」、「昼食の後」の場面が増加しているとしている(図11)。


図11 野菜飲料の飲用場面の変化

資料:「急激に伸びている野菜飲料〜最近の需給動向とさらなる国産原料活用のために〜」
カゴメ株式会社 荒木孝夫(「野菜情報」2007年6月号より)

 このように牛乳と野菜ジュースとは、健康によいなどの飲用理由や朝食時に飲むなどの飲用場面などが似通っていることから、その競合性が高くなっているものと考える。


3.最近のPOS動向と牛乳の消費拡大の継続の必要性

 飲用牛乳等の生産量や家計調査報告を見ると、国内全体では依然として牛乳の消費量は減少傾向で推移している。

 しかしながら、牛乳の小売動向(POS情報)によるレジ通過客数千人当たりの牛乳および加工乳の販売数量は、19年9月に牛乳が18年8月以来13カ月ぶりに前年同月を2.6%上回るとともに、同年11月も同0.4%とわずかではあるが前年同月を上回る結果となった。19年の夏場は猛暑により、飲料全体がおおむね好調で推移していたが、牛乳消費のピークである9月以降も加工乳の販売数量は、前年同月を上回って推移している。加工乳の販売数量が3カ月連続で前年同月を上回ったのは、14年7月以来実に5年ぶりである。

 牛乳類の販売量を種類別に見ると、普通牛乳に比べてその数量は少ないものの、低温殺菌牛乳、低脂肪加工乳、低脂肪牛乳の前年同月比の増加率が大きいことがわかる(図12)。特に低温殺菌牛乳は19年6月以降6カ月連続、低脂肪加工乳は19年7月以降5カ月連続、また、低脂肪牛乳も8月以降4カ月連続で前年同月を上回っており、消費者の低カロリー志向や品質志向を反映していることもその要因の一つとして考えられる。また、19年度(4〜11月)で見ると低温殺菌牛乳が1.4本(前年同期比12.6%増)、低脂肪牛乳が6.6本(同5.6%増)、低脂肪加工乳が7.2本(同1.5%増)となっている。


図12 牛乳類の千人当たり販売量の推移(対前年同月比)

資料:農畜産業振興機構

 また、乳飲料のコーヒータイプ(チルドカップを含む)は、18年10月以来14カ月連続で前年同月を上回って推移しており、乳飲料全体としての販売量の伸びをけん引している。

 このように、POSデータによる牛乳の販売量はここに来て前年同月を上回る結果を示しているが、牛乳の消費拡大を図るためには、現在行われている「3−A−Day」や「牛乳に相談だ」などのキャンペーンを引き続き実施する必要がある。当機構としても学校給食供給事業、および畜産振興事業を通して、牛乳の栄養価の知識などの普及、啓発などに努めているところである。

(参考)
1.POSデータは、日本経済新聞社のPOS情報サービス「NEEDS-SCAN」による。
2.POSレジ通過客数千人当たり販売金額
 千人当たり販売金額(円)=販売金額(円)÷POSレジ通過客数(人)×1000(人)
3.小売価格は、牛乳類は1リットル当たりの加重平均値
 牛乳類の小売価格(円)=販売金額(円)÷販売容量(リットル)
4.小売価格は、消費税を含まない。
5.牛乳類は1リットル紙容器入りで、その他の容量のものは除く。

(参考文献)
・社団法人食品需給研究センター「食品需給レポート」2007年NO.292ほか
・カゴメ株式会社荒木孝夫「急激に伸びている野菜飲料〜最近の需給動向とさらなる国産原料活用のために〜」「野菜情報」2007年6月号
・社団法人日本酪農乳業協会「牛乳・乳製品の消費動向に関する調査2006」
・社団法人日本清涼飲料工業会ホームページ
・社団法人日本ミネラルウォーター協会ホームページ
・日経BPコンサルティングホームページ

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