◎需給解説


平成19年肉用子牛の取引動向について

調査情報部調査情報第1課  井上 裕之

1.はじめに

 当機構が各都道府県の肉用子牛価格安定基金協会を通じて収集している全国の家畜市場における肉用子牛の取引結果について、平成19年(1〜12月)の状況がこのほど集計された。この取引結果については、家畜市場で取引されるほとんどの肉用子牛を対象としているが、本稿では、取引頭数の約8割を占め、国産和牛生産の中心である黒毛和種の取引動向を紹介する。なお、取引結果は当機構ホームページ(http://www.alic.go.jp/)で月ごとに公表しており、詳細情報が必要な場合は、こちらのご利用をお願いしたい。

 注)本稿で利用する平均取引価格は、農林水産大臣が四半期ごとに告示している指定肉用子牛の平均売買価格とは一致しないのでご留意いただきたい。

2.19年の都道府県別の黒毛和種子牛の取引動向

−年間取引頭数は増加基調、平均取引価格は50万円超−

 19年の黒毛和種子牛の全国の取引頭数は、前年に比べ約4千頭増の36万9千頭、平均取引価格は、前年を下回ったものの50万1千円を記録した(表1)。

表1 取引頭数・平均取引価格の推移




 取引頭数について、過去5年間の動向を見ると15、16年は減少に転じたが、その後は増加基調で推移している。一方、平均取引価格については、5年で22.8%上昇した。

−都道府県別取引頭数では、鹿児島県が5年連続1位−

 取引頭数を都道府県別に見ると、上位10に入る都道府県は、順位は変動するものの、15年以降変わらず北海道、岩手県、宮城県、福島県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県と東北地方、九州地方を中心とした10道県となっている(図1)。19年の上位10を見ると、黒毛和種の一大産地である鹿児島県の1位、宮崎県の2位は5年間通して不動で、他県に比べ圧倒的な取引頭数を誇っている。次いで、北海道、沖縄県、岩手県と続き、10道県で全国の取引頭数の約8割を占める結果となった。

図1 上位10道県の取引頭数順位の推移



−北海道、長崎県、熊本県および沖縄県の取引頭数は増加基調−

 5年間の上位10道県の取引頭数推移を見ると、北海道、長崎県、熊本県および沖縄県については、増加基調で推移している(表2)。19年の取引実績は、(1)北海道は、15年の5位から3位に上昇しており、取引頭数は15年と比べ12.9%増加し25,968頭、(2)長崎は、7位から6位に順位を上げ同5.7%増の19,380千頭、(3)熊本県は、同様に10位から8位に上昇し同37.9%増の15,658頭と年々取引頭数を増加させている。また、沖縄県についても、18年にわずかに減少したものの19年は再び増加に転じ、5年間では、増加基調にあると言える。


表2 上位10道県の取引頭数の推移


 一方、大分県や最大の取引頭数を誇る鹿児島県などでは、緩やかであるが減少基調にある。19年の取引実績は、大分県では16年をピークに年々減少を続け13,863頭、鹿児島県にあっても17年に増加に転じたものその後減少が続き78,258頭となっている。

−ピークを越えた取引価格−

 都道府県別の平均取引価格の上位10は、入れ替わりが激しいが中でも岐阜県の取引価格が高値安定しており、16年に初めて平均50万円超を記録して以来、年々のその額が上昇し、19年には2位に転じたものの55万3千円と高水準の取引価格となっている(表3)。また、平均取引価格が50万円を超える県は、16年には岐阜県のみであったが、その後、価格の上昇が続き17年は3県、18年に17道県とピークとなり、19年は13道県と若干減少した。

表3 平均取引価格上位10道県の推移



3.家畜市場別の取引動向

−取引頭数は鹿児島県曽於中央家畜市場が5年連続の首位−

 各家畜市場別の19年の取引頭数で上位30の構成は、1位が鹿児島県曽於中央家畜市場となり5年連続で日本一を記録している(表4)。続いて、みやぎ総合家畜市場が2年連続で2位、同3位は宮崎県都城地域家畜市場、以下、鹿児島県肝属中央市場、岩手県中央家畜市場と続いている。


表4 平成19年 家畜市場別黒毛和種取引頭数上位30



(参考)家畜市場別黒毛和種取引頭数上位30

(平成15年)            (平成16年)


(平成17年)            (平成18年)

 ここで、取引頭数の増加している北海道、熊本県、長崎県および沖縄県の家畜市場のうち19年取引実績で上位30以内の市場の取引動向を見ると次のとおりである。


図2 道県別取引頭数の推移(上位10同県)


・北海道
 ホクレン南北海道家畜市場およびホクレン十勝地区家畜市場が、15年以降順調に取引頭数を増加させている(図3)。19年の取引頭数を15年と比べると、それぞれ17.7%、16.0%上回っており、北海道における取引頭数の増加をけん引している。これは、恵まれた生産条件を背景にした飼養規模の拡大などによる生産の増加によるものと考えられる。


図3 北海道主要家畜市場の取引頭数の推移


・長崎県
 平戸口中央市場、壱岐家畜市場で県内取引の約半数を占めるが、両市場とも取引頭数は好調に推移しており、19年の実績は、15年の実績に比べそれぞれ24.1%増の5,600頭、11.8%増の4,800頭となった(図4)。特に平戸口中央家畜市場では、19年に前年に比べ19.8%の大幅な増加している。これは取引価格が好調なことを背景にした離島、県北部地区での生産増によるものである。


図4 長崎県主要家畜市場の取引頭数の推移




・熊本県
 熊本県家畜市場が大幅な取引頭数の増加を記録しており、19年の実績は、15年と比べ84.4%増の8,800頭となった(図5)。参考に、同市場の褐毛和種の取引動向を見ると同19.8%減となっており、同県では褐毛和種から黒毛和種へのシフトが徐々に進んでいることが、増加の要因になっているとみられる。


図5 熊本県家畜市場の取引頭数の推移


・沖縄県
 これまでの3道県とは異なり、沖縄県では、主要市場である八重山家畜市場、宮古家畜市場の2市場の取引頭数の増加傾向はなく、19年の取引実績は、15年に比べ、それぞれ4.8%減の8,659頭、1.6%減の5,217頭となった(図6)。県全体の取引頭数の増加は、上位30に入っていない沖縄県本島などの市場がけん引している。

図6 沖縄県主要家畜市場の取引頭数の推移



4.おわりに

 19年の家畜市場における黒毛和種子牛の取引は、全国的に見ると取引価格は高値で、取引頭数も増加となった。しかしながら、都道府県別に見ると増加基調にある地域は限られており、黒毛和種の生産が盛んな九州地方にあっても取引頭数が減少している実態がある。消費者の食の安全・安心の意識の高まりを反映して国産志向が高まる中、世界的な穀物価格の高騰を受けた配合飼料価格の値上がりによる生産コストの増加など繁殖経営も厳しい状況となっている。このような中、肉用牛の生産基盤の確保に向けて現在進められている増頭政策が益々重要になってくると考えられる。

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