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クッカー(円筒部):油分と混合された原料の食品残さが送り込まれ、減圧・加熱して水分を除去する。天ぷらの原理を応用した技術であり、加熱温度は80〜90℃、最高110℃まで上がり、原料受入から当行程終了まで2時間〜2時間半である。 油切ホッパー(手前):自然分離による油分を1次分離する。この後の行程で、圧搾によりさらに油分を分離する(2次分離)。 |
2)千葉県B社:カテゴリー(1)の飼料化事業者(中規模)
B社は、醤油かす、コンビニなどの日配品(おにぎり、サンドイッチ等)、米飯、ゆで卵、麺、菓子、調理残さ等を収集し、減圧乾燥させて飼料化を行っている。
産業廃棄物中間処理施設としての許可は1日当たり68トン、一般廃棄物処理施設として同28トンである。受入れは、月曜日から土曜日までの6日間、月に25日稼働で1日当たり60トンの処理量となっている。
減圧乾燥機はバッチ式で4機あり、2機ずつ原料の粘性の違いを考慮して稼動させている。野菜は別途破砕した後、乾燥させて添加する形をとっている。1バッチ6〜7時間で原料や加工品の出し入れを含めると8時間ほどになる。これを1日2.5バッチ行う。食品残さの受け入れは月間1,200トンくらいであるが、飼料化されるのはその中の1,000トン弱であり、乾燥処理後は300トンくらいの製品量となる。醤油かすは300〜350トンの受け入れであり、量的には2〜3%の減量でほぼ全量が製品化される。
製品は、5〜6戸の養豚経営へ供給しているが、その販売価格は工場の置場価格でキログラム当たり25円である。このところの原油高騰で同30円に上げることを考えている。また、製品の一部は東南アジアの関連農場に輸出している。
ここでの特徴は、大規模ではないが養豚経営と飼料についてのコミュニケーションをとることによって、互いの希望と技術的可否を調整して製品化に反映させて取引を継続していくという「顔が見える」関係を構築している点である。大規模に飼料化を行って配合飼料原料として飼料メーカーに販売する戦略とは異なり、できる範囲内でユーザーの要望を取り入れながら、成分分析や飼養試験などを重ねて自社製品の特徴と良さを理解してもらうことに努め、安定的な取引関係を形成した例といえる。
3)C養豚:カテゴリー(1)(2)の中間的存在の養豚経営
C養豚は、大阪府の関西空港にほど近い母豚95頭の一貫経営である。近くに食品コンビナートと呼ばれる食品工業の集中した地域があり、そこからパン生地、うどん、米飯、ちくわ、茶粕などを収集し、粉砕、乾燥してから大豆たんぱくなどを加え、乳酸菌を添加して発酵させたリキッド給餌を行っている。
当農場で生産される豚肉は、肉色がよく、適度に脂肪交雑が入り、味が良いことから評判を呼んでいる。品質を高めている技術的ポイントは、食品残さの利用によって飼料費が極めて低く抑えられていることから、肥育期間を通常より1カ月長く飼養していることと、小麦系の残さを多給することによってきめの細かい脂肪交雑を可能にしている点である。
かつては、軟脂などで肉の品質に問題があり「安かろう悪かろう」の残飯養豚の肉そのものであったが、養豚経営の存続のためには安価な食品残さを利用して質の良い豚肉を生産することが必要であるとの認識に至り、他の養豚経営者とともに肉質向上の研究会活動を積みかさね、品質を向上させることに成功した。
品質を高めることに成功した豚肉は、ブランド化され、大阪府内のスーパーなど6か所で販売されるようになった。販売事業は、後継者が販売会社の経営者となって展開され、朝市やインターネットによる直売も行っていた。手ごろな価格でおいしい豚肉という評判が次第に広まり、徐々にブランド肉としての地位を築いていったのである。ブランド肉としての認知度が広まり、人気が出て引きが強くなり、安定的な流通が見込めるようになったことから、平成20年から後継者は販売事業をやめ、父親と一緒に生産に従事することになった。つまり、ブランドとして基盤が固まったことから、販売事業に向けていた経営資源を生産拡大に向ける戦略をとることにしたのである。肉の流通業者に市場価格の数十円高で安定的に購入してもらえる体制を確立したことから、むしろ供給量を増加させることを選択したのであった(図5参照)。
図5 K養豚の経営展開
この経営は、利用する食品残さが逆有償で取り引きされるような食品加工の余剰品等が中心となっていることから、頭数規模はあまり大きくなく中小規模であるが、肉質を高める研究を積み重ね、手ごろな価格で美味しい肉という地元での評価を高めてブランド化に成功した好事例といえる。
4)D養豚:カテゴリー(2)の養豚経営
D養豚は横浜市内の住宅地に位置する養豚経営であり、母豚340頭の一貫経営を行っている。労働力は、自家労働力が経営主夫妻、長男、長女の4人、雇用労働力が3.5人である。年間の出荷頭数は5,900頭、肉豚販売額は約2億円を超える。
昭和24年に肥育素豚を導入して養豚を開始したのであるが、それは当時一般的であった残飯養豚であった。横浜市の中華街から毎日トラックで残飯を収集して給餌して肥育を行っていた。昭和40年代には繁殖も行うようになり一貫経営化した。
昭和50年代に入ると配合飼料の価格が低下し、配合飼料の利用が全国的に広がったのであるが、当経営においても配合飼料の利用が開始され依存度を高めて行ったのであった。配合飼料の利用によって早朝の残飯収集作業から解放され、伝染病のリスクも残飯利用に比べて低いことが認識された。ちょうどこのころ、現経営者が父親から経営を引き継ぐ時期でもあり、世代交代とともに配合飼料依存の養豚へと姿を変えた。
昭和60年に繁殖豚を100頭規模から200頭規模へと拡大し、平成6年には増築で離乳子豚舎を導入し、さらに平成8年にはウインドウレス離乳子豚舎、育成子舎を新築した。
このように規模を拡大して企業的な経営になってきたものの財政状態は厳しかった。そこで再び食品残さを利用して飼料費を低下させることを考えるようになった。
現在、学校やホテル、デパートなどからの事業系の廃棄物である食品残さを乾燥させた飼料を購入し、菓子粉、パスタなどの有価購入食品残さと合わせて表2のように利用している。
表2 D養豚の食品残さ利用
子豚、育成の段階では、菓子粉を中心として粉ミルク(乳児用の在庫処理品)を利用している。混合率は2割から3割くらいである。肥育豚になると、前期は食品残さの乾燥飼料を主として利用し、後期になるとパンくずなど小麦系の食品残さが主となる。混合率はどちらも2割程度である。つまり、肥育前期にはコスト低減効果の高い食品残さの乾燥飼料をメインで用い、仕上げの時期となる肥育後期にはパンくずなど肉質を向上させる効果のある小麦系の残さがメインとなる。
以上の食品残さの購入単価は平均すると配合飼料価格の半額程度であることから、2割の混合率とすると配合飼料の単価よりも1割購入単価が抑えられていることになる。
肉豚の販売単価は表3に示されている。これは平成20年1月の横浜食肉市場出荷分の上場価格である。出荷銘柄によって価格差があり、契約による価格設定が異なるため、部分的に市場価格より低い価格となるケースも存在するが、総じて市場の平均価格よりも高い水準で販売されているとみてよい。
表3 肉豚販売価格(円/キログラム)
このように、D養豚は食品残さの利用によって飼料費を低減させる一方で、肉質の高品質化を追究して、ブランド販売に成功し、相対的に高価格の販売単価を獲得しているといえる。
食品残さの飼料利用は、かつての「安かろう悪かろう」の残飯養豚とは異なり、新たな姿で展開している。食品残さを利用してコスト低減を実現する一方で、付加価値を追求する技術が確立されつつある。パンくず等の麦類の残さを多給することによって肉質を高め、さらには飼料費が抑えられていることから肥育の仕上げ期間を長くしてサシを入れるノウハウが知られるようになり、ブランド化も行われるようになった。現時点では、付加価値の追求は食味が主たる差別化のポイントとなっているが、これからさらに差別化が進むと健康によい、美容によいなどといった機能性が追求されるようになると考えられる。現に、茶葉や茶殻、健康食品・飲料の残さを用いた差別化も出始めている。例えば、神奈川のE養豚では、商品化されない茶葉を有価で購入して飼料に添加している。茶葉の利用は、健康によいイメージを形成するだけでなく、臭みをとり、肉色をよくする効果があると考えられ、さらには肉質の保持にも有効であることが期待されている。
付加価値を追求する差別化は今後も進化していくと考えられるが、単なるイメージづくりにとどまらず、なぜその食品残さが有効なのかを科学的に解明し、技術として確立した上で、販売時にその理由を説明できるようにしなければならない。
同時に、食品残さの飼料化は付加価値追求ばかりではなく、飼料費低減というメリットの追求も忘れてはならない。そのために飼料費の低減というメリットを社会的に享受できる仕組みづくりを構築していく必要がある。例えば、事例でみたA社のように、高級品ではなく普及品の生産向け飼料をターゲットにして、飼料メーカーに対し、一定程度に成分変動を抑えた安価な飼料原料の供給を行うことは、配合飼料価格の上昇抑制、低減に広く寄与するものである。事業系の調理くずなどを大量に飼料化するケースでは、このような役割が社会的に望まれる。一方、同様の事例でもB社のような中小規模では、飼料メーカーへの供給というよりも、畜産経営とフェイス・トゥー・フェイスの関係をつくり、互いに調整し合いながら特定の顧客に応じた飼料生産を通じてコスト低減さらには付加価値の追求へとつながっていくことが望まれる。
今後は、利用する食品残さの内容および量と飼料化技術の組み合わせによって、市場でのポジショニングが分化してくるものと思われる。現段階は、食品残さ飼料の利用が広まる創成・普及期であるといえるが、付加価値追求の差別化の進展とともに分化の段階に入りつつあるといえる。
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