8月の輸出量は韓国向けの増加で大幅増
米国農務省(USDA)によると、8月の牛肉輸出量は前年同月を66.5%上回る10万トンとなった。牛肉の輸出量が単月ベースで10万トンを上回ったのは、BSE発生前の2003年10月以来のことであり、2008年1〜8月の累計輸出量は前年同期を33.1%上回る56万2千トンに達している。 図1は2006年1月以降の牛肉輸出量の推移を国別に示したものである。メキシコおよびカナダ向けの輸出に加え、日本や台湾をはじめとするアジア向けの輸出が徐々に拡大していることが分かる。8月については、全輸出量の約3割を占めるメキシコ向けが3万トンと前年同月比21.9%の増加にとどまり、カナダ向けも1万6千トンと同15.6%増の比較的緩やかな伸びとなったものの、韓国向け、ロシア向けの輸出の急増が全体の増加を後押しした。
図1 米国の国別牛肉輸出量と前年同月比の推移
韓国向けについては、7月から米国内での輸出向け生産が再開されたことを受けて、全輸出量の16.5%に相当する1万7千トンが輸出された。また、ドル安を背景に数カ月前から輸出が増え始めたロシア向けについても、全輸出量の8.5%に相当する9千トンが輸出された。この両国向けの輸出は、今年の初めには実質的にはゼロであったため、これが8月の大幅な牛肉輸出増加の最大の要因となった。
なお、これ以外の仕向先については、日本向けが25.8%増(1万トン)、ベトナム向けが235.1%増(5千トン)、台湾向けが39.1%増(4千トン)といずれも前年同月を上回っている。
9月以降は牛肉輸出をめぐる環境が悪化
9月に入り、米国のサブプライムローン問題に端を発する証券・金融機関の経営危機の表面化により国際金融市場へのドルの供給が停滞し、それまで各国通貨に対しておおむね弱含みで推移していた米ドルの為替相場が反転して急速なドル高に転じている。図2は米ドルに対する主要牛肉輸出先国の為替レートの変動を2007年1月を100とする指数で表したものである。カナダ・ドル、メキシコ・ペソ、ロシア・ルーブルなどの通貨は、本年8月までは対ドル高(ドル安)傾向で推移していたものの、本年9月以降その状況が一変し、おしなべてドルに対して弱含み(ドル高)に転じている。また、韓国・ウォンについては、本年9月に大量の短期対外債務の償還期限を迎えることが問題視されていたことも加わって、他国通貨を上回る勢いで対ドル安(米側から見たドル高)に転じている。この他、表には載せていないが、国際牛肉市場における米国の競争相手である豪州やブラジルの通貨も米ドル安に転じており、国際市場における米国産牛肉の競争力向上を後押ししてきたドル安の効果は、今後は期待し難い状況になっている。 図2 米ドルに対する主要国の為替レート(2007年1月=100)
USDAが11月6日に公表した牛肉の週間輸出速報によると、10月24日から30日までの一週間の牛肉輸出量は、日本向けや韓国向けの輸出の増加を反映して2万トンを超えたとされている。しかし、10月に入ってからのこれ以前の3週間は輸出量が7千トン〜8千トン台で推移しており、毎週1万4千トン前後がコンスタントに輸出されていた9月初めまでの状況からは一変している。
多くの国の通貨に対してドルが強含みで推移する中、引き続き対ドル高の傾向を維持している日本円は貴重な存在である。このため、当地の牛肉業界関係者からは、日本向けの牛肉輸出の拡大に対する期待の声が高まりつつある。
牛肉の輸入は輸出量を下回る水準に
8月の牛肉輸入量は前年同月を22.8%下回る8万9千トンとなり、昨年10月から11カ月連続で前年同月を下回った。ひき肉製品向けに多くの牛肉を輸入してきた米国が、単月ベースとはいえ牛肉貿易の純輸出国に転じたのは、BSE発生以前の2003年8月以来、5年2カ月ぶりのことである。2008年1〜8月の累計輸入量は77万トンとなり、前年を23.4%下回った。
図3は2006年以降の牛肉輸入量の推移を国別に示したものである。カナダおよびニュージーランド(NZ)からの牛肉輸入量が比較的安定しているのに対し、本年に入り、豪州やウルグアイからの輸入量が減少傾向にあることが分かる。8月は、カナダからの輸入量が3万トンとほぼ前年並み(前年同月比0.8%増)を維持し、供給減少期に入るNZからの輸入量は1万8千トンと前年同月を29.7%上回った。その一方で、昨年8月には最大の輸入先であった豪州からの輸入量が前年同月比37.1%減の2万2千トンと大きく落ち込み、また、ブラジルからの輸入量も前年比33.8%減の7千トンに減少した。さらに、昨年8月には1万4千トンを輸入したウルグアイからの輸入は、1千トンに急減した。
米国の牛肉輸入が減少している理由としては、ドル安により外国産牛肉の割高感が続いたことのほか、米国内での経産牛のと畜頭数が前年を上回って推移していることも大きく影響している。
連邦検査と畜場における本年1〜9月の経産牛と畜頭数は前年同期を10.3%上回っている。このうち、全体の4割前後を占める乳用種のと畜頭数は前年同期比4.8%の減少にとどまっているが、主に肉用種が中心となるその他経産牛のと畜頭数は前年同期を14.6%上回っており、特に9月のと畜頭数は前年同月を30.7%上回っている。これは、この夏の廃用牛価格が生体100ポンド当たり60ドル(キログラム当たり130円:1ドル=99円)前後の高値圏で推移したことに加え、飼料価格の高騰に起因する素牛価格の下落を嫌った肉用牛繁殖経営において繁殖めす牛のとう汰意欲が高まったことを示している。
前述のとおり、為替の動向は9月以降大きく変動しており、今後の牛肉輸入の動向と、これに間接的な影響を受ける経産牛のと畜頭数の動きが注目される。 図3 米国の国別牛肉輸入量と前年同月比の推移
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