1.はじめに
豪州におけるバイオエタノールやバイオディーゼルといったバイオ燃料生産は、政府、業界が中心となって振興が図られているが、その生産規模はまだ小さい状況にある。また、近年では、2年連続して発生した干ばつの影響による主要穀物の大幅な減産や世界的な穀物価格の高騰など、豪州バイオ燃料業界にとっては、非常に厳しい市場環境が続いている。
一方、豪州は、穀物、牛肉および乳製品といった主要農畜産物の供給国として、国際市場において重要な位置づけを占める。このため、現在、小規模である豪州におけるバイオ燃料産業も今後の動向によっては、豪州における農畜産物の生産だけでなく、国際需給に影響を及ぼすことも想定される。本稿では、豪州におけるバイオエタノール産業を中心として、それを取りまく状況を報告する。
2.バイオエタノールの現状
(1)概況
エタノールは、古くから飲用、工業用など幅広い用途で利用されており、燃料用としては、1920年代後半から50年代後半にかけてクイーンズランド(QLD)州北部を中心に広く利用されていた。その後、近年になって燃料用としてエタノールが流通したのは、1994年頃からニューサウスウェールズ(NSW)州において始まったとされる。
豪州連邦政府は2001年、バイオ燃料の生産量を2010年までに35万キロリットルとする目標を掲げた。この時期に前後して、政府のバイオ燃料支援も始まっている。
豪州における2005/06年度の年のバイオ燃料生産量は、5万7千キロリットル(バイオエタノール:4万1千キロリットル、バイオディーゼル:1万6千キロリットル)と小規模である。また、これは豪州におけるガソリンおよびディーゼル消費量3,493万キロリットル(ガソリン:1,905万キロリットル、ディーゼル:1,588万キロリットル)の0.16%、バイオエタノールだけについてみるとガソリン消費量の0.22%であり、バイオ燃料先進国と比較して、生産量および普及率ともに非常に低い状況にある。
また、年度別の生産量を比較してみると、2002/03年度には7万6千キロリットル(バイオエタノール:7万5千キロリットル、バイオディーゼル:1千キロリットル)に対し、2003/04年度は2万9,500キロリットル(バイオエタノール:5万8,500キロリットル、バイオディーゼル:1千キロリットル)と大幅に減少するなど、年度ごとの変動が大きい状況にある。
(2)生産
─稼動しているエタノール工場は2ヵ所、今年末には4ヵ所に増加─
豪州バイオ燃料協会(BAA)の資料によると、豪州におけるバイオエタノール生産工場数(2008年1月1日現在)は、QLD州およびNSW州にそれぞれ1ヵ所の合計2工場である。この2工場の生産能力は15万2千キロリットルで、特にNSW州の1工場が主たる供給元となっている。これらの工場では、原料としてQLD州の工場がサトウキビ由来のモラセス(糖蜜)を、また、NSW州の工場が小麦由来のスターチの副産物を利用している。
このほか、現在、QLD州で2工場が新・増設中で、いずれも2008年末に操業を開始する予定であり、予定通り進むと2008年末時点で計4工場が稼動し、生産能力の合計は、26万7千キロリットルとなる。4工場のうち、3工場はすでに長年にわたりエタノール生産
(ただし、1工場はこれまで燃料用エタノールの生産をしていない)の実績があるため、2008年末に完成する2工場のうちの1工場は、1990年初頭以来の新設工場となる。
─今年末から穀物を利用したエタノール生産が開始─
また、現在稼動している2工場が、モラセスまたは小麦由来のスターチといった製品を製造する過程で発生する副産物を原料として利用しているのに対し、現在建築中の2工場ではソルガムを中心とした原料を利用することとしており、豪州においては、穀物を原料としたエタノール生産がようやく今年末から開始することとなった。
このほか、新たに4工場の建設が現在計画されており、QLD州の2工場でサトウキビ (1工場)またはソルガム(1工場)を、また、西オーストラリア(WA)州の2工場では小麦または大麦を原料として利用することとなっている。図1に表示されている8工場は、いずれも原料の生産地に近接した地域に建設されている。
また、これら8工場のほかにも、いくつかの地域でこれに続く工場の建設計画が進められているものと見られる。
図1 豪州のバイオエタノール工場
BAAによると、この新規の工場建築に当たっては、初めての穀物によるバイオエタノール生産ということもあり、行政機関(地域の行政機関(カウンシル)または州政府)における認可手続きなどを含め建築のこぎつけるまでに予想以上の期間を要した。しかしながら、今後の工場建築については、ひとつの先例ができたことから、これまでより速やかに手続きが進むものとみている。
豪州では、2006/07年度(7〜6月)、2007/08年度と2年連続して干ばつが発生し、その結果、穀物生産が大幅に落ち込んだ。また、これに加え、世界的にバイオ燃料産業や中国やロシアなどの新興国からの穀物需要の増加を背景として穀物などの価格が急激に上昇した。エタノール生産において、原料費は生産コストの60〜70%を占めるとされており、このように市場環境が大幅に変動した結果、いくつかのバイオエタノール工場の建設計画は、中止や延期を余儀なくされたとみられる。
[参考:豪州のバイオディーゼルの状況]
BAAによると、2008年1月1日現在のバイオディーゼル工場数は10カ所で、生産能力は55万8千キロリットルである。原料は、タロー(獣脂)、カノーラ(菜種)などの植物油脂、食用廃油、パームオイルおよびヤトロファ(サンゴアブラギリ)を利用している。
豪州におけるバイオディーゼル生産は、近年、タロー、カノーラ、パームオイルといった主要原料価格の高騰による影響を受け、操業休止や稼働率の低下を招くといった厳しい経営状況におかれている。現状では、タローや食用廃油などを主原料として4工場だけが稼動しており、生産量は7〜10万キロリットル程度にとどまっている。 BAAによると、今後のバイオディーゼル生産の回復は、こういった原料の価格安定によるところが大きいとしている。一方、新たな原料の研究も進められており、豪州では、単位面積当たりの収穫量が大きい藻類(アルジー)などが有望であり、今後、2年間程度での実用化が期待されているとのことである。
図2 豪州のバイオディーゼル工場
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(3)販売
豪州では、およそ600ヵ所のガソリンスタンドでバイオエタノールの販売が行われている。数年前と比較すると、バイオエタノールの販売店舗数が急速に増加しているものの、全体に占める比率は低い。また、州ごとに普及状況が異なるが、NSW州やQLD州では普及が進んでいる。
(4)関連施策など
(1) これまでの経過
豪州では、連邦および州政府などを中心として、バイオエタノールの推進が図られている。バイオ燃料産業に関連する主な施策などについて、次のとおりまとめてみた。
ア バイオ燃料の生産目標
連邦政府は2001年11月、当時の与党である国民・自由党連合が選挙公約として掲げた、2010年までにバイオ燃料生産量を35万キロリットルとする目標値を設定した。
イ 専門委員会レポート
豪州連邦政府は2005年5月、バイオ燃料専門委員を指名し、バイオ燃料の人の健康や環境への影響および車両への影響などに関する科学的な調査を行うよう指示した。この報告は同年9月に政府から公表され、その中で、政府目標(2010年までに35万キロリットルのバイオ燃料生産)の達成が可能であること、人の健康への影響に問題ないこと、バイオ燃料が環境に及ぼす効果などが確認された。
ウ アクションプラン
連邦政府は2005年12月、石油会社等業界のバイオエタノール計画などを元にまとめたアクションプランを公表した。これによると2010年末の年間バイオ燃料生産見込み数量は、40万3千〜53万2千キロリットルであり、政府の目標数値である35万キロリットルを十分に達成できる見込みとなった。
また、政府と業界が連携して、持続可能なバイオ燃料の産業を確立するため次のような行動計画が示された。
・バイオ燃料施設補助の活用による、十分なバイオ燃料供給の確保
・連邦政府の車両に対するE10(ガソリンにエタノールを10%混合した燃料)の利用
・バイオエタノール表示の簡略化
・バイオ燃料の品質基準遵守検査件数の増加
・E5およびE10燃料を利用した車両の検査など
バイオ燃料生産量見込み
(2) 具体的な施策
ア 連邦政府
(ア)バイオ燃料生産補助(物品税相当)
連邦政府は2002年9月、バイオ燃料の生産促進を図るため、バイオ燃料の生産者に対しバイオ燃料に係る物品税(38.143豪セント/リットル(38円:1豪ドル=100円))に相当する額の補助を開始し、2011年6月までこれを実施することとしている。補助金単価は、2011/12年度以降、順次削減され、2015/16年度には補助額がバイオエタノールで13.4豪セント/リットル(13円)、バイオディーゼルで16.8豪セント/リットル(17円)と、開始当初と比べほぼ半分の水準となる。
バイオ燃料生産補助
(イ)施設整備に係る補助
連邦政府は2003年7月、バイオ燃料の生産拡大を促進するため、バイオ燃料施設補助計画を公表した。年間生産量が5千キロリットル以上の施設の新設または増設に対し、バイオエタノール1リットル当たり16豪セント(16円)の補助率(施設の償却期間)で補助を実施する。この補助に係る基金の総額は3,760万豪ドル(37億6千万円)で、1件当たりの上限は1,000万豪ドル(10億円)である。
これまで7者がこの補助の適用を受けたが、現在、この補助は行われていない。
(ウ)バイオエタノール流通支援に係る補助
連邦政府は2006年8月、ガソリンスタンドなどにおけるエタノールを10%混合したE10の販売を促進するため、ガソリンスタンドなどを対象とした補助を開始した。E10の供給を行うための施設整備(1万豪ドル(100万円)上限)および施設整備後における一定の販売目標達成(1万豪ドル(100万円)上限)の補助がある。2007/08年度における補助対象者は、700者が見込まれている。
(エ)新たな再生可能エネルギー技術の開発に係る補助
新たなバイオ燃料の原料の研究、開発などのプロジェクトに対して、政府で補助する。
(オ)バイオエタノールの表示
連邦政府は2004年3月、消費者のバイオエタノールに対する正確な情報を提供するため、ガソリンスタンドにおけるバイオエタノール(エタノール1%以上混合)の表示方法などを定めている。2003年7月から始まったバイオエタノール混合比率の上限の設定と併せて、消費者のバイオエタノールに対する認識を高めることとしている。
イ 州政府
バイオエタノール産業の促進については、州ごと取り組みの差が大きく、QLD州やNSW州は他の州と比較して積極的である。
(ア)バイオエタノールの義務化
バイオエタノールの義務化については2007年10月、NSW州がすべての州に先がけて義務化を実施している。
・NSW州政府は2007年2月、バイオエタノールの使用義務化を公表、同年10月、他州に先がけて2%のバイオエタノール使用義務化を実施した。また、2008年4月には、同州首相が、2010年までにすべての無鉛レギュラーガソリンをE10に置き換えることを義務化するため、2008年末までに法律を通過させる意向を表明している。
・QLD州政府は2005年4月、他の州に先駆けて2010年末にバイオエタノール(5%)の義務化を行うことを公表した。NSW州に続き、今後、バイオエタノールの義務化を実施する予定である。
(イ)その他
州政府単位で、バイオ燃料の普及・啓蒙活動、州で所有する車両に対するバイオ燃料の利用などの活動を行っている。
QLD州政府が作成した、消費者へのE10の普及・啓蒙資料。
リーフレットやステッカーを利用している。
3.バイオエタノール産業の事例
(1)砂糖からの副産物と穀物を原料としたエタノール生産
今回訪問したロッキー・ポイント・ディスティレリー社は、QLD州南東沿岸部のサトウキビ生産地域に位置する。砂糖の生産およびその副産物であるモラセスを利用してエタノールの生産を行っている。エタノール工場は、サトウキビの収穫時期である7〜12月の6ヵ月稼動している。同社で生産されたエタノールは、食料、工業用原料などとして販売され、燃料用としては販売されていない。
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エタノールの原料となるサトウキビ。
収穫は7月から始まる。後方の煙突は製糖工場 |
エタノール工場。
現有施設の一部を利用して、現在、大幅な増改築中。2008年末には工事が完了する予定 |
しかし、現在、同社のエタノール工場は燃料用生産に向けた増改築を行っている。増改築後の新工場は2008年末操業予定で、新工場ではこれまで利用していなかったソルガムを主体に、従来から利用していたモラセスの2種類の原料を利用する。生産されたエタノールは、従来の用途に加えて燃料用として供給することとしている。工場の概要は次のとおりである。
エタノール生産にとって原料コストは大きな割合を占めるが、同社では、ソルガムの価格動向に応じてモラセスとの原料比率を調整し、コスト低減を図っていくこととしている。豪州における2007/08年度のソルガム生産は、記録的な増産が見込まれているが、従前と比較して取引価格は高水準であることから、その価格動向を注目している。現在、まだ実用化に至っていない第2世代原料(木材チップなど)への対応については、施設面では小規模な改造で済むことから、将来的な対応に関しては問題ないとのことであった。
また、将来的な燃料用エタノールの輸出については、機会があれば輸出したいとのことであった。
工場の概要について説明してくれた
ロッキー・ポイント・ディスティレリー社のヨーゲンセン氏
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エタノール原料となるソルガム |
フィードロットで家畜飼料として利用されているDG |
(2)酪農と一体となったバイオエタノール生産
NSW州政府は2008年1月、バイオエタノール工場と酪農施設を併設した新たな設備の設置計画を承認した。
同工場は、年間のエタノール生産量が30万キロリットルと最大規模なものであるだけでなく、この工場から発生した副産物を飼料として利用し、隣接地で大規模な酪農を行うこととしている。
この計画は、2008年末に工場の建築が開始し、完成は2010年の予定となっている。計画の概要は次のとおりである。
同社は、NSW州リベリナ地方を中心として、畜産、穀物生産などを手がけている。
エタノール工場の経営については、現在、穀物価格は小麦が400豪ドル/トンと高水準にあるものの、原油価格がそれ以上のペースで上昇しているので、現在の水準であれば採算が取れるとのことであった。
(3)バイオエタノールの販売状況
NSW州では、2007年10月から2%のバイオエタノールの使用義務付けが開始された。バイオエタノールに対する消費者の認識を高めるため、分かりやすいバイオエタノール表示が行われている。
同州のガソリンスタンドでは、表示規則に従って、給油口付近には表示板やノズルにE10の表示があり、ガソリンの種類に応じて、どんな車両に適しているのかといった表示も見られる。たとえば、E10であれば“1986年以降の製造車両に適している。それ以前の車両の場合にはメーカーに照会してください”といった内容となっている。
E10の販売金額は、通常のレギュラーガソリン(1.50ドル/L(150円/l)程度)と比較して、1リットル当たり3〜5豪セント(3〜5円)程度安い価格設定となっている。
ガソリンスタンドにおけるE10の表示。
通常のレギュラーガソリンより1リットル当たり3豪セント安く販売されている
ガソリンスタンドにおけるE10の表示。
給油口でも分かりやすく表示されている
ガソリンスタンドにおけるE10の表示。
ガソリンの種類ごとに適した車両の説明がある。
E10については“1986年以降に生産されたほとんどの車両で利用可”と説明されている
また、ある販売会社では、販売戦略としてレギュラーガソリンとしてはE10のみ販売し、それ以外は価格の高いプレミアムガソリンを販売しているケースもみられる。
また、このほか自動車メーカー数社との合意により、車両の給油口に、E10適合車である旨の標記がされるなど、E10に対する消費者への認識を高めるための試みがなされている。
自動車メーカーとの合意により、自動車の給油キャップに“E10適合車”と表示されている
4.豪州バイオエタノール産業の課題および最近の動向
(1)課題
(1) 原料の安定供給
豪州のバイオエタノール生産は、2008年末に初めて穀物(ソルガム)を原料とした工場が稼動するのを皮切りに小麦や大麦を原料とした工場の建築が予定されている。こういった工場が経営の継続性を維持するためには、安価で安定的な原料の確保が必須要件となる。
特に豪州では2000年以降、2002/03、2006/07および2007/08年度とすでに3回の干ばつを経験しており、それぞれ穀物生産量が大幅に減少した。
一方、2007/08年度のソルガムは収穫量が大幅に増加すると見られており、また、作付けが始まった2008/09年度の冬穀物は、好天候と穀物価格高の状況下、記録的な作付が見込まれている。しかしながら、バイオエタノール産業が今後安定的に発展していくためには、長期的な視点での原料の安定供給が求められている。
豪州における穀物生産量の推移
豪州国内における飼料穀物価格の推移
(2) 消費者への普及・啓蒙
豪州では、州政府や業界を中心として、消費者に対するバイオエタノールに関する普及・啓蒙活動が行われている。
しかしながら、豪州の保険会社(AAMI)が2008年4月に実施した調査結果によると、自動車の運転手の74%がバイオエタノールの利用に消極的であると回答した。また、回答者の41%がバイオ燃料は自分の自動車に不適合であり、26%が自動車に何らかの障害を及ぼす可能性があると回答している。
州別のバイオエタノールの利用者は、QLD州で38%と最も高く、続いてNSW州の30%となっており、WA州が最も低く8%となっている。豪州の消費者にとっては、依然としてバイオエタノールに対する認知度が低いという結果となっている。
BAAによると、豪州では、バイオエタノールに関するエタノール混合比率の上限設定や表示基準などが整備される以前に、適正な表示がされないままエタノールの混合比率の高いバイオエタノールが流通し、消費者の混乱を招いた時期があった。この時の消費者の不信感が、その後の消費者の行動に影響していると指摘している。
(2)最近の動向
(1) 飼料と燃料との競合
肉牛穀物肥育業者の団体である豪州フィードロット協会(ALFA)をはじめ、豚肉、酪農、鶏肉および鶏卵といった飼料穀物を利用する団体では、飼料穀物を原料とするバイオエタノール生産に反対をしている。
豪州の畜産業は、大麦やソルガム生産の4分の3を家畜飼料として利用しており、近年、不安定な穀物生産が続く中、エタノール需要は家畜飼料不足や飼料価格高騰を招いている。また、バイオエタノール生産に対する政府の補助政策は、市場をゆがめるものと指摘している。
(2) 食料と燃料との競合
最近、世界的に関心が高くなっている食料不足を背景とした食料と燃料の競合について、豪州でもバイオ燃料産業に対する見方に変化が見られている。これまで、穀物生産者にとっては、バイオ燃料産業は需要の拡大につながることから肯定的に捉えていた。
しかしながら、豪州農業者連盟(NFF)では、こういった食料・燃料の競合の議論を踏まえ、最近、バイオ燃料の推進に消極的な発言をしており、今後の動向が注目される。
5.終わりに
豪州のバイオエタノール産業は、今年末にようやく穀物(ソルガム)を原料とする初めてのエタノール工場の稼動が始まる段階を迎えることとなった。
しかしながら、一方で豪州では2000年以降すでに3回の干ばつが発生し、穀物生産量が大幅な減少および穀物不足の事態を招いた。さらに世界の穀物価格は、世界的なバイオ燃料需要や新興国における農畜産物需要を背景として高騰した。その結果、豪州におけるバイオ燃料産業への投資は、大幅な見直しを余儀なくされた。さらに最近では、世界的な食料不足を背景とした食料・燃料の競合に関する議論が高まっており、バイオ燃料生産にとっては、今後、益々圧力が強まると見られる。
また、政府からの支援も豪州におけるバイオ燃料産業の行方に影響を及ぼすと見られる。2007年11月の新政権成立後、まだバイオ燃料に関する新たな施策は打ち出されていないが、BAAでは、第2世代原料が実用化されるまでの間、現行水準の生産補助(物品税に相当する額の補助)の延長を求めている。
豪州におけるバイオエタノール生産を展望すると、原料費など生産コスト上昇が課題となっている。その点において、現在、稼動中の副産物を原料とした工場については、今後も継続すると思われる。現在稼動しているNSW州のエタノール工場では、今後、大幅な生産能力の拡大を計画している。一方、穀物を原料とした工場については、安価で安定的な原料の確保という点において今後も不透明である。ただし、穀物生産や畜産と一体化したエタノール生産は、豪州における将来的なエタノール生産の形態を暗示しているように思える。また、当然のことながら、将来的に研究中の藻類などの第2次世代原料が実用化されれば、そういった形態へのシフトも一部見られるはずである。豪州におけるバイオエタノール生産は、今後、こういった複数の生産形態が並立するといった見方もされている。今後の豪州のバイオエタノール産業の動向について注目したい。
[参考資料]
・「Australian Commodities 07.1」(ABARE)
・「Biofuels in Australia- An Overview of Issues and Prospect」(CSIRO)
・「Report of The Biofuels Taskforce to the Prime Minister」(Australian
Government)
・Biofuels Association of Australia(BAA) ウェブサイト
・Australian Lot Feeders Association(ALFA) ウェブサイト
・連法政府、州政府 ウェブサイトほか |