海外駐在員レポート

米国のトウモロコシ生産者による作付け期を前にした
悪天候・コスト削減への取り組み

ワシントン駐在員事務所 唐澤 哲也、郷 達也


1.はじめに

 米中西部のコーンベルト地帯では、トウモロコシと大豆を1年ごとに作付けするローテーションが一般的とされている。毎年、春の訪れとともに、この地帯にはトウモロコシや大豆の作付けシーズンが到来する。4月上旬、同地帯の中では比較的温暖なミズーリ、カンザス州を皮切りに、4月20日過ぎには全米屈指の主要生産州であるアイオワ、イリノイ州などでもトウモロコシの作付けが開始される。

 米国農務省(USDA)が3月末に公表した、作付け前の生産者への意向調査結果によると、今年のトウモロコシ作付面積は、前年を8%程度下回るとされる一方、大豆作付面積は、アイオワ州をはじめとするコーンベルト地帯を中心にほぼすべての州で前年を上回り、全体では前年を約18%上回るものと見込まれている。これは、昨年、トウモロコシの作付けが歴史的高水準となった結果、今年はトウモロコシの連作を避けるため、作付けローテーションが大豆にとって有利に働いていることが主な要因の一つとなっている。

 一方、USDAが毎週公表している主要生産地における天候と作付け状況に関する報告書によると、4月19日、モンタナ州中西部を突然の大雪と寒波が襲い、その後同月26日までに、サウスダコタ、ネブラスカ、ミネソタ州などでもこの時期としては記録的な大雪が観測されたとされている。また、同月24日には、アイオワ、ネブラスカ州の一部地域が記録的な降雨量に見舞われ、米中西部におけるトウモロコシの作付けに少なからぬ影響を及ぼしたものとされている。同報告書では、4月27日現在の主要18州(全米の作付け総面積の9割強を占める)における作付けの進捗率は、昨年同日を10ポイント、また、ここ5年平均を25ポイント下回る10%程度にとどまっているものとしている。

 今回、折しもサウスダコタ州の一部地域で大雪となった4月24〜25日にかけ、同州の南東部に位置する小さな田舎町トリップで耕種作物および肉牛・肉豚を生産する家族経営農家を訪問し、今年の作付け状況や最近の経営面での課題などについて話をうかがう機会を得た。ここでは、その中で特に印象的だった作付け期を目前に控えた生産者の悪天候やコスト削減への取り組み事例を紹介したい。

トウモロコシの作付け分布図


2.耕種部門

(1)農場概要

 コーンベルト地帯北西部の一角を担うサウスダコタ州は、2007年は、全米第6位のトウモロコシ作付面積(大豆は第8位、小麦は第6位)を誇った。しかし、同州の平均単収は例年、受粉期(7〜8月)における降水量不足などにより伸び悩み、全米平均を2〜3割程度下回っている。

 今回、訪問した農家のある同州の南東部は、西部乾燥地域に比べると降雨量も多く、また、同州とネブラスカ、アイオワ州の境界を流れるミズーリ川からのかんがい用水を利用出来るため、作物生産には比較的適した環境が整っている。

 現在、農場経営の中心は、マーク・ライナーさん(32歳)で、父のレオンさん(57歳)とともに、1人の従業員を雇用しながら耕種作物と畜産の複合経営を行っている。農場は、先祖がロシアから移民した1885年以降、実に120年の歴史があり、マークさんで5代目に当たる。

 農場総面積は3,000エーカー(約1214ha:1エーカー=0.4047ha)と、東京ドーム約260個分の広さがある。そのうち、耕地面積は2,000エーカーで、その他1,000エーカーは牧草地(アルファルファ80エーカー、その他乾牧草200エーカー、放牧地720エーカー)として利用している。また、1,420エーカーの農地は借地であるが、借地料は、2年前に比べて全体的に3割程度上昇しているとのことである。

レオンさん(左)マークさん(中央)親子の家族写真。
レオンさんは、今後のトウモロコシ価格の見通しについて、「4月に下落基調に転じた小麦価格が引き続き下落した場合、小麦の家畜飼料需要が増加することにより、現在、6ドル/ブッシェル(24,803円/トン:1ドル=105円)のシカゴトウモロコシ価格は、今年の収穫後には、4ドル/ブッシェル(16,535円/トン)程度まで下落する可能性もある」と述べていた。

(2)作付けローテーションと今年のコンディション

 今春は、昨年と同様、トウモロコシと大豆それぞれに900エーカーの作付けを予定している。また、昨秋には、200エーカーに冬小麦(硬質赤色冬小麦)の作付けを行ったところである。同農場では、基本的に、トウモロコシ→大豆→トウモロコシ→大豆→トウモロコシ→冬小麦→トウモロコシのローテーションで作付けを行っており、このように、5年に1回冬小麦を挟むことで、その翌年のトウモロコシは、10ブッシェル/エーカー(約0.6トン/ha)程度の単収の増加が期待出来るそうである。

 気になる今年の作付けコンディションについては、例年に比べて4月に雨が多く気温も低いため、コンディションは決して良いとは言えないようだ。昨年も作付け前の悪天候の影響により、作付け開始が5月25日と大幅にずれ込んだため、単収は90ブッシェル/エーカー(約5.6トン/ha)と不調に終わった。また、2006年では、4月の天候には恵まれたものの、7〜8月初めの干ばつの影響により、単収は同100ブッシェル(同6.3トン)とやや伸び悩んだとのことである。

 このように、その年のトウモロコシの単収を占う上で、作付け期の天候は重要なカギを握っている。また、収穫後のトウモロコシの保存・管理を考えた場合にも、十分な生育期間を過ごしたトウモロコシは水分含量が少なく、長期保存のための乾燥コストの節約につながるため、当初の計画通りに作付けを開始することが収益の向上を図る上でも重要な要素の一つとなってくる。

昨秋、無耕起で作付けされた80エーカーの畑に発芽した冬小麦。
冬小麦は例年、9/15〜10/15の間に1週間程度をかけ200エーカーに作付けするが、昨秋は雨が多く作業が十分に進められなかったため、10/1〜20まで要したそうである。


 マークさんによると、今年は4月25日にもトウモロコシの作付けの開始を予定していたが、24日の豪雨に続き、25日の大雪の影響により、あと2週間は遅れる見込みとのことである。作付け前には、最低1週間の好天が必要で、今は土壌の状況をひたすら見守る状況にあると言う。

 作付け前の天候や土壌の状況が悪い時の対策として、作付け時期や土壌の条件に合わせた最適の種子に変更することも考えている。トウモロコシの場合通常、100〜110日の生育期間を想定した種子を準備するが、雨が多く作付けが大幅に遅れる場合などには、想定される生育期間に見合った種子を使用することもある。しかし、その場合、2〜3割程度の単収の減少は覚悟しなければならないそうだ。また、作付け時期に雨が多い場合には種の間隔を短く、逆に雨が少ない場合には間隔を長くするなど、は種間隔にも工夫を凝らしているとのことである。


4/25、サウスダコタ州南東部を見舞った時期遅れの大雪のため、この日にも予定していた作付けの開始はしばらく見合わされることとなった。5/3のマークさんからの連絡によると、天候が回復した同州北部では、同日からトウモロコシの作付けが開始されたようであるが、南東部は依然として土壌が乾かず、あと1週間程度は待たなければならないとのことである。

(3)出荷契約と現在の穀物価格高について

 現在の穀物価格高については、「Good for crop farmer, Bad for Livestock producer」という一言に尽きるが、最近、改めて価格変動の恐ろしさを実感していると言う。その理由としては、近年、穀物価格の変動幅が飛躍的に大きくなってきているため、価格の見通しが難しく、早く契約しなければというプレッシャーを強く感じているそうだ。

 マークさんは、生産したトウモロコシのうち、50%を自身が飼養する肉牛・肉豚向けの飼料として利用し、残りの50%を地元のエレベーターや近郊のエタノール工場へ販売している。契約期間(出荷時期)は長短さまざまであるが、常に生産コストを考慮し、コストに見合う収益が得られるものかどうかを吟味している。ちなみに、2006年夏に契約した今年7月の出荷分の価格は、3.10ドル/ブッシェル(12,815円/トン)程度と、最近の取引価格(同4.50〜5.80ドル(同18,602〜23,976円))に比べて大分割安感がある。しかし、マークさん自身、契約当時には相当な割高感を感じていたことも事実であると述べており、また、当時、ここまでトウモロコシ価格が上昇するとは考えにくく、あまりにも早過ぎる契約にはリスクが付きものであるとの教訓になったと語ってくれた。

マークさんの農場近くにあるエタノール工場。
ここでは、セルロース系エタノールの調査・研究も進められている。
乾牧草需要の増大につながると、マークさんの期待も大きい。最近のトウモロコシ取引価格は、エレベーターで5.83ドル/ブッシェル(24,100円/トン)、エタノール工場で同5.88ドル(同24,307円)と、昨年10月(ともに同3.50ドル(同14,469円)程度)に比べ大幅に上昇しているとのことである。

(4)耕種作物の生産コスト削減への取り組みと不耕起栽培の実施

 2007年には、トウモロコシ価格だけでなく、その生産コストもかなりの程度上昇した。USDAによると、同年の農畜産物全体の生産コストは前年比約1割、また、トウモロコシの生産コストは前年比約8%増大した(直接経費が前年比11.5%増の229.61ドル/エーカー(59,573円/ha)、賃金など間接経費を含めた費用合計が同8.0%増の442.34ドル/エーカー(114,766円/ha))と推計されている。

 マークさんによると、今年も作付けコストは、種苗費、肥料費、燃料費および地代の上昇などにより大幅に増加しており、トウモロコシで前年比5割強、大豆・冬小麦で3割強増大するものと見込まれている。

 また、耕種作物の生産コスト削減への取り組みとしては、(1)種苗、肥料などの厳選、(2)必要最小限の耕起・部分的な不耕起栽培の実施─を挙げていた。これらの取り組みを可能とするため、土壌試験を毎年行い、最適かつ必要最小限の肥料などを購入するよう努め、また、土壌の性質を見極めながら、より効率的な耕起作業を行っている。

 この不耕起栽培の実施については、あくまでも、土壌の性質、気象条件および地理的条件に基づき、作付け作業の時間・労力および燃料コストの縮小を図るために実施しているそうであるが、冬場における土壌の保温効果があるため、冬小麦の作付けに比較的多く取り入れているようである。一方、不耕起栽培のマイナス効果としては、(1)専用のは種機が必要となるなど機械のコスト増、(2)雑草管理が困難、(3)土壌の病気の可能性が高まること―などを挙げていた。

農機具庫では、トラック後部に今年購入した真新しいプランターが連結され、作付けの出番を待っている。
プランターの底には、前作の残かんや根を切り裂くため、不耕起対応型の頑丈なカルティベータ(耕うん具)が装着されている。

(5)今後の取り組み

 今後の課題としては、各作物の作付面積の拡大を考えているが、今は地代が高く難しい状況にあると言う。しかし、セルロース系エタノールの生産技術が進展し、フォーレージやアルファルファの燃料原料としての利用が可能となった時、現在、放牧地として利用している土地の活用を考えていると述べていた。

 また、今後の穀物価格の見通しはまったく立たないが、現在の価格は、正常価格帯の外側にあることだけは確かだと思うとし、今後のトウモロコシ価格などに大きな影響を及ぼすものと考えられる、(1)エタノールやバイオディーゼルの燃料需要、(2)作物生産地域の減少、(3)中国向け輸出の動向、(4)シカゴ相場などにおける投資家の動向―には、特に注目していく必要があると話してくれた。


3.畜産部門

 マークさんは、以上のように耕種作物を生産する傍ら、現在、200頭の繁殖雌牛(ブラックアンガス)と1,500頭規模の肥育豚舎を所有し、畜産経営にも力を注いでいる。以下では、畜種ごとの生産動向、最近の経営状況および飼料コスト高への対応状況などについて簡単に紹介したい。

(1)肉用牛部門

(1) 生産サイクル
 同農場における肉用牛の生産サイクルは毎年、5〜6月頃に種付けし、翌春2〜6月までの間に200頭の子牛を生産する(このうち、約35頭の雌牛を更新用繁殖雌牛として保留)。その後、6〜7カ月齢(550〜750ポンド(約249〜340キログラム))を迎えた子牛は離乳され、フィードロットへ移動される。

 また、この時期(10〜11月頃)には、同州西部にある4カ所の家畜市場から、約6カ月齢(500ポンド(227キログラム)程度)の肥育素牛(交雑種)を250〜300頭程度購入する。こうして、翌5〜6月頃までフィードロットで肥育された約450頭の牛は、州内の家畜市場を通じて、または、ネブラスカ州などにある近郊の食肉処理施設へ直接販売されることとなる(出荷平均月齢は約12カ月齢、1,200〜1,300ポンド(544〜590キログラム))。

 なお、誕生したすべての子牛には、全国家畜個体識別制度(NAIS)対応型の電子耳標が装着されている。マークさんは、「米国の牛肉部門の拡大には、日本や韓国市場が必要不可欠である」と述べており、海外市場に対する意識が極めて高い。

サウスダコタ州西部では、ここ5〜6年の干ばつの影響により飼料作物の生産が減少し、繁殖雌牛の飼養頭数が減少しているそうである。マークさんのフィードロットでは、6月の出荷を控え、現在約450頭の肥育牛が飼養されている。

(2) 収益性とリスクヘッジ
 州内の肥育素牛価格は、2006〜2007年秋頃までには、平均700ドル(650〜750ドル(68,250〜78,750円))/頭程度であったが、今年に入ってからは、トウモロコシ価格の上昇などにより600〜650ドル(63,000〜68,250円)/頭まで落ち込んでいる。

 一方、今春の肥育牛の販売価格は1,100〜1,250ドル(115,500〜131,250円)/頭と、昨春とほぼ同水準であるものの、昨年前半まで300ドル(31,500円)/頭であった肥育コストは、飼料作物価格や地代の上昇などにより現在、500ドル(52,500円)/頭程度まで増加しているため、肥育経営の収益性は大幅に落ち込んでいる状況にあると言う。

 また、マークさんは、肉牛肥育経営のリスクヘッジの手段として、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の肥育牛先物取引を行っているそうだ。例えば、昨秋に、本年6月出荷予定の肥育牛の50%をCMEへ100ドル/100ポンド(2008年6月限)で売っておけば、実際の取引価格が90ドル/100ポンドとなった場合でも、その差額分が保証されることになる。このため、マークさんは、肥育牛の出荷がピークを迎える6月期のシカゴ相場からは常に目が離せないと言う。なお、あくまでもリスクヘッジの手段としてのみシカゴの先物相場を活用しており、決して出荷予定頭数以上の取引はしないそうだ。

(3) 畜産部門におけるコスト削減への取り組み
 畜産部門の生産コスト削減への取り組みとしては、ア.綿密な飼料設計に基づく自給飼料の有効利用、イ.獣医コストの節約のため家畜の健康に留意すること、ウ.化学肥料コストの節約のため家畜ふん尿のたい肥化―などを挙げた。特に、家畜への飼料給与については、畜種別、生産段階別に使い分けるのはもちろんのこと、季節に応じて利用する飼料を区別するなど、栄養面と自給飼料の有効利用の両面から見た綿密な給与計画が立てられていた。同農場では、給与する飼料のうち、大豆ミール、アルファルファの一部(年によって異なるがおおむね3〜5割程度)およびビタミン・ミネラルなど栄養補助剤以外は、すべて自給飼料を利用するとともに、毎年秋には、繁殖雌牛の放牧地として、収穫後のトウモロコシや大豆畑を活用しているとのことである。

 また、エタノール生産の副産物であるDDGSは、近郊のエタノール工場から簡単に購入することが出来るため、その活用の必要性は認識しているが、それを保管するための施設の準備が出来ていないため、これまでのところ活用していないと言う。DDGSのうち特に水分含量の多いものは腐敗が早いため、その取り扱いに慎重になっているそうだ。

肥育牛向けの配合飼料。
肥育初期段階では、トウモロコシが2割、残りの8割をコーンサイレージ、乾草、アルファルファ、麦わら、大豆ミール、そして栄養補助剤(ビタミン、ミネラル、塩分)で補う。
その後、徐々にトウモロコシの配合割合を高め、肥育最終段階では、トウモロコシの割合は75%となる。

(2)養豚部門

(1) 生産サイクル
 現在、肥育豚は、500頭規模の育成舎(生後3週〜約8週間)1棟と、500頭規模の肥育舎(約16週間)2棟で生産段階別に管理している。

 肥育素豚は、生後3週間(10〜15ポンド(約4.5〜6.8キログラム)程度)の子豚を、約45マイル離れた繁殖農家から年間約2,500頭購入している。肥育期間は168日で、出荷日齢はおおむね189日(6〜7カ月、260〜275ポンド(約118〜125キログラム))である。

育成舎の中は、16〜17頭ずつ8つのペンで仕切られた部屋が4つある。
各部屋は、室温(セ氏26.7度)、湿度、空気の流れおよび照明などが常に一定になるよう管理されている。

(2) 収益性
 肥育素豚価格は、昨年10月頃には平均40ドル(4,200円)/頭であったが、4月中旬までに14〜15ドル(1,470〜1,575円)/頭まで大幅に下落している。一方、昨秋には平均52ドル/100ポンド(120円/kg)程度あった肥育豚価格は、3月中旬には32ドル/100ポンド(74円/kg)前後まで落ち込んだが、その後4月後半までに42〜45ドル/100ポンド(97〜104円/kg)まで持ち直している。

 養豚経営の収益性については、肉豚向け飼料コスト(肥育期間168日で試算)が2年前の43.15ドル(4,530円)/頭から、現在では約2倍の水準まで上昇していると考えられるため、肥育経営の収益性は大幅に落ち込んでいる状況にあると言う。

(3) 今後の取り組み
 このように、現在、養豚経営が悪化している中、同農場では今春、2,400頭規模の新しい豚舎の建設を計画しており(予算は$600,000規模)、2〜3週間後にも着工の準備が整っている。この新しい豚舎では、豚舎内の空気の流れを改善することによる肥育効率の向上、肉豚移動時のエネルギーコストの削減などを目的として、従来とは異なる育成と肥育を兼ねた「Wean-to-Finish」のオペレーションが行われる予定である。

 同農場ではこれまで、今ある3棟の豚舎をそれぞれ10年おきに建設してきており、今年がその10年の節目に当たる年になるそうだ。マークさんは、2007年後半以降、肥育豚の価格は低迷しているものの、来年には上昇基調に転じるとの見通しを、期待を込めて立てている。


4.おわりに

 2007年、米国の耕種部門は、世界的な需給のひっ迫を背景に、穀物や油糧種子の価格高騰が続いたことにより、空前の活況を呈した。一方、畜産部門は、飼料価格の高騰などにより経営が圧迫され、特に、同年後半以降、肉牛肥育経営や養豚経営の収益性は大幅に悪化した。しかし、同時に、耕種部門の生産コストを見ると、同部門の主要経費である肥料費や種苗費も大幅に上昇しており、USDA経済調査局(ERS)によると、トウモロコシや大豆の生産コストは2008〜2009年にかけ、引き続き毎年3〜4%程度ずつ増加するものと見込まれている。このようなことから、中期的に見ても、生産コスト増加への対応は、畜産、耕種の部門を問わず、農業経営全体において優先的に取り組まなければならない課題となっている。

 今回、訪問したサウスダコタ州の生産者も、近年における経営コストの増加を最重要課題と認識しており、耕種部門においては、土壌試験を毎年実施することにより、最適かつ必要最小限の肥料の購入に努めるほか、燃料コストの節約を図るため、土壌の性質を見極めながら効率的な耕起作業を行っていた。また、畜産部門においては、畜種および生産段階ごとに綿密な飼料給与計画を立て、収穫後のトウモロコシや大豆畑を放牧地として活用するなど、自給飼料の有効利用を図っていた。

 一方、海外市場にも高い意識を持ち、誕生したすべての子牛に全国家畜個体識別制度(NAIS)対応型の電子耳標を装着するなど、付加価値向上のためには追加的なコストを惜しまない、常に川下を見据えた経営姿勢には感銘を受けた。また、畜産経営が悪化する中、耕種部門の好調な今が投資のタイミングと捉え、大規模な豚舎を新築することにより規模拡大を積極的に図ろうとしている。この耕種作物と畜産の両方に軸足を置いた柔軟な経営により、ピンチをチャンスに変えようとする前向きな姿勢には、応援したい気持ちを強くした。


 

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