FAO:2008年、小麦など穀物増産を見込む一方、気候変動を懸念
−小麦、トウモロコシ価格は高水準のまま−


◇絵でみる需給動向◇



 国連食糧農業機関(FAO)が4月に公表した2008年最初の穀物需給見通しと食料情勢に関する報告(Crop Prospects and Food Situation)によると、2008年の穀物生産量(小麦、粗粒穀物、コメ)は、小麦生産量の回復により、記録的となった前年を2.6%上回る21億6,400万トンが見込まれており、この生産量が満たされれば、現在のひっ迫した穀物需給は改善されるとの見方を示す一方、世界全体の穀物在庫水準が著しく低下している現在、主要な穀物生産国、特に穀物輸出国において気候変動の発生による影響が懸念されている。

2008年、粗粒穀物生産量は0.6%の小幅増だが、小麦は6.8%増の見通し

 FAOの2008年の生産見通しによると、穀物生産量の約半分(49.7%)を占める粗粒穀物は、前年を0.6%上回る10億7,530万トンとなり、増加は小幅にとどまるが、約3割(29.9%)を占める小麦は、干ばつにより2006年〜2007年に大きく減産した欧州、豪州などでの回復が織り込まれ、前年を6.8%上回る記録的な6億4,730万トンが見込まれている(表1)。

表1 穀物生産量


欧州、義務的休耕地の一時解除により、穀物生産量は著しく増加

 地域別に見ると、米国における小麦の生産量は、単収が平年並みであれば、2003年以来となる6,000万トン(前年比6.8%増)が、また、トウモロコシの生産量は、記録的であった前年を10%下回るものの、依然として高水準となる3億トンが見込まれている。

 昨年、干ばつに見舞われたEUは、2007年秋および2008年春に種まきする耕地について、義務的休耕(セットアサイド)率をゼロとしたことから、作付面積は約6%拡大しており、小麦の生産量は前年を13.2%上回る1億3,680万トンが、また、粗粒穀物の生産量も作付面積が増加することから、前年を13.2%上回る1億5,480万トンが見込まれている。

 ロシアの穀物生産量は、前年を2.2%上回る8,230万トン(うち、小麦5,000万トン、粗粒穀物3,160万トン)が見込まれており、FAOによると、この生産量が満たされれば、現在、小麦と大麦に課している輸出税は解除されるとの見方が示されている。

 豪州は、2007年10月以降、ニューサウスウェールズ州北部とクインズランド州南部で、平年並みから平年並みを上回る水準の降雨があり、特にソルガムの生産量は、前年を約8割上回る250万トンが見込まれている。干ばつにより2年続きで不作となる一方、穀物価格が高騰しているという背景から、生産農家は失われた利益を確保しようと増産意欲がおう盛とされ、小麦の生産量は、天候が平年並みであれば、記録的となった2003年の水準に近い2,600万トンが見込まれている。

 アルゼンチンにおけるトウモロコシの作付面積は、前年から10%拡大しているが、主要生産地の気候不順による単収の減少から、生産量は記録的となった前年には及ばないものの、平年水準を上回る2,000万トンが見込まれている。

 また、ブラジルにおけるトウモロコシの生産量は、作付面積が拡大されたことで、記録的となる5,560万トンが見込まれている。南米全体における粗粒穀物の生産量は、前年の記録を1.7%上回る9,510万トンが見込まれ、これは過去5カ年の平均のほぼ2割増しとされる。

在庫水準が低いため、気候変動による影響を懸念

 一方、前年の同時期に行った2007年の生産見通しが、豪州、欧州での干ばつにより大幅に下方修正されたこと、また、世界全体の穀物在庫水準が著しく低下している現在、穀物生産国、特に穀物輸出国において、気候変動により生産量が大幅に減少すれば、現在のひっ迫した穀物需給は助長され、価格にはさらなる上昇圧力が加わると想定されることから、2008年の需給を見通す上で、特に主要な穀物生産国において、生育に適する気候になるかどうかが最も注目すべき点であるとされ、気候変動による影響が懸念されている(表2)。

表2 穀物需給表


小麦、トウモロコシの価格は、夏場に向け前年水準を上回る

 3月末時点におけるシカゴ商品取引所(CBOT)の先物価格を見ると、小麦については、5月渡しは2月末時点から50米ドル/トン程度下回るが、前年同時期を130%上回る390米ドル/トンを示し、9月渡しは5月渡しをわずかながら下回るが、前年同時期を120%上回っている。FAOによると、織り込まれている2008年における小麦の生産量の増加を考慮した上で、小麦価格は、前年を上回る水準で強含みに推移するとしている。

 また、トウモロコシについては、5月渡しは前年同時期を20%上回る214米ドル/トン水準を示し、12月渡しは前年同時期を60米ドル/トン程度上回っている。このことから、今後、景気後退の懸念やブラジル、アルゼンチンからの新穀の到着が、価格に下方圧力を加えることになるものの、ひっ迫している米国の状況が改善されないという見通しに加えて作付面積が現時点では未だ確定していないということもあり、小麦と同様、トウモロコシ価格は、前年を上回る水準で強含みに推移するとの見方が示されている。


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