需給解説

日本からの畜産物輸出の動向

調査情報部審査役 斎藤 孝宏

 政府は、農業総産出額の減少や少子高齢化などによる国内市場の縮小が懸念されることから、新たな市場の開拓が重要であるとし、農林水産業が21世紀にふさわしい戦略産業に成長することを目指している。このため、農林水産物・食品の輸出額を2004年からの5年で倍増する計画が掲げられ、また、第165回国会において総理大臣より2013年には輸出額を1兆円規模とする目標が示された。

 2007年に、国産の食品等の輸出を推進することを目的に、農林水産物等輸出促進全国協議会が設立され、官民が一体となって取り組みが進められている。畜産物に関しても品質の高さや安全性などが評価されるとともに、経済の発展による富裕者階級の拡大などからアジアを中心に海外においてその需要が高まっている。今般、財務「省貿易統計」により2008年3月までの輸出データが明らかになった。過去10年間の主要な畜産物の輸出状況を同統計から概観したい。なお、文末に参考として今回使用した統計番号等を示した。

 また、農林水産省の取りまとめたわが国の農林水産物・食品輸出額の推移は次の表のようになっている。この中の農産物に畜産物は含まれ、2006年の食肉および牛乳乳製品などの輸出合計金額は133億円となっており、農産物輸出額の約7パーセントを占めている。

表1 わが国の農林水産物・食品輸出額の推移


1 牛肉

 日本では、2000年3月に口蹄疫が発生し、また2001年にBSEが発生し、多くの国が日本からの牛肉輸入を中止した。その後、2000年9月に国際獣疫事務局(OIE)よりわが国の口蹄疫清浄国復帰認められたが、BSE発生などが続いていることなどから一部の国では日本からの牛肉輸入を中止したままである。2005年末に米国が輸入を再開し、香港も2007年5月に輸入を再開した。

(1)冷蔵牛肉
 一時、輸出がほとんど途絶えていたが、近年、大きく伸びている。2007年度の主要輸出国は米国と香港である。

図1 冷蔵牛肉の輸出

図2 冷蔵牛肉の輸出先(2007年度)

(2)冷凍牛肉
 冷蔵牛肉に比べて、輸出量の減少は少ない。2007年度には大きく伸びた。近年、ベトナム向けが中心となっている。

図3 冷凍牛肉の輸出

図4 冷凍牛肉の輸出先(2007年度)

●和牛統一マーク
 わが国の和牛を「攻めの農政」における輸出戦略の重要な品目として位置づけ、和牛肉のブランド化の推進、海外の消費者へのアピールを目的に策定され、2007年12月に公表された。


2 豚肉

 冷蔵豚肉の輸出はほとんどなく、冷凍豚肉の輸出数量も限られており、輸出の中心は調製品であり、香港が主要輸出先となっている。

(1)冷凍豚肉
 過去10年間で、冷蔵肉の輸出のピークが2001年であったが、これには英国での口蹄疫発生によるシップバック(返送)分が含まれる。2005年度以降回復基調であるが2007年度でも100トン足らずである。輸出先の中心は香港となっている。

図5 冷凍豚肉の輸出

図6 冷凍豚肉の輸出先(2007年度)

(2)豚肉調製品
 過去10年間では減少傾向で推移しているが、近年は300トン前後となっている。2007年の輸出先は香港のみとなっている。

図7 豚肉調整品の輸出


3 鶏肉

 食肉の中で最も大量に輸出されている。

(1)冷凍鶏肉
 2003年には国内でも鳥インフルエンザが発生し、2004年度に輸出は大きく減少した。その後、回復に向かい、2007年度には6,000トンを超える水準となっている。

図8 冷凍鶏肉(分割)の輸出

図9 冷凍鶏肉の輸出先(2007年度)

(2)鶏肉調製品
 2003年度に400トンを超える輸出がなされたが、そのうちの約280トンが鳥インフルエンザを理由とするタイ向けのシップバックであった。2007年度には100トンを超える輸出がなされたがそのほとんどは香港向けであった。

図10 鶏肉調整品の輸出

図11 鶏肉調整品の輸出先(2007年度)

4 鶏卵

 鶏卵(殻付き)の輸出は2003年以降順調に伸びている。2007年度の全輸出先は香港であった。

図12 卵(殻付き)の輸出

 

5 牛乳・乳製品

 過去10年間、総じて順調な輸出の伸びを示している。

(1)牛乳
 この10年間で輸出量が倍以上に増加した。2007年度の輸出量の8割は香港向けであった。

図13 牛乳の輸出

図14 牛乳の輸出先(2007年度)

(2)プロセスチーズ
 2002年度以降、順調に輸出量を拡大している。10年前に比べ、2007年度の輸出量は約3倍になっており、仕向先の中心は台湾と中国である。

図15 プロセスチーズの輸出

図16 プロセスチーズの輸出先(2007年度)

(3)アイスクリーム
 2004年度を底に、輸出量が回復している。2007年度の輸出先は台湾が約5割を占めているが、香港、米国などが続いている。

図17 アイスクリームの輸出

図18 アイスクリームの輸出(2007年度)

主要な畜産物の輸出状況(2007年度)


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