ブラジルの各食肉パッカーは、JBS社の米国企業や豪州企業の買収を始め、相次いで買収を行うことにより、経営規模を拡大している。
そこで、当機構ブエノスアイレス事務所はブラジルの食肉パッカー数社の輸出業務担当者から、規模拡大を積極的に行う理由などについて聞き取り調査を行った。
1.JBS社
同社は、アルゼンチンだけでなく、米国(スイフト社、ナショナルビーフ社など)や豪州(タスマン社)などの食肉パッカーの買収を行うことにより、経営規模を拡大し、現在ではブラジルに23、アルゼンチンに5、米国に8、豪州に4の食肉処理施設を持つ世界最大規模の食肉パッカーとなっている。
(1) 規模拡大を積極的に行うことについて
ブラジル国内で今後、大幅に牛肉生産が伸びるとは考えていない。また、口蹄疫などの疾病発生の際、ブラジル産牛肉の代替に輸出するため、買収の機会を探していたところ、2005年にアルゼンチンの食肉パッカーを買収する機会を見つけた。そこで、ブラジルの他の食肉パッカーも当社に倣って買収を行い始めたと見ている。
(2) ブラジル国内での展開について
2006年までにブラジル国内に20工場を配置し、国内の基盤固めは終わっている。また、経営規模を拡大したい畜産農家に対し、例えば、100頭の肥育牛がいた場合、500kgに仕上がった価格から肥育期間の日数分の金利を割り引いて融資することにより支援している。
(3) 経営規模の拡大により負債を抱えることについて
2007年に株式の49%を市場で売却することにより、8億ドルの収入を得た。また、経営規模の拡大により信用が増し、海外で社債を発行し、資金を調達することもできるようになった。レアル高もあり、経営が大きく改善する見込みがある海外の食肉パッカーの買収は魅力的である。米国、豪州の食肉パッカーを買収することにより、JBS社の視点からは、世界中のどこにでも牛肉を輸出できるようになった。
(4) 海外での企業統治について
特に米国の食肉パッカー買収の際、海外資本の会社が買収したという事実に、米国の地元では驚きを持って見られたようだ。当社は、経営を大きく改善できることを地元の畜産農家や有力者に説明を行い、今では落ち着いた。
2.ベルチン社
同社は、ウルグアイ(カネロネス社)の食肉パッカーの買収を行っている。また、ブラジル国内で、食品や化粧品、建築、道路、バイオ燃料などの部門にも参入しており、現在ではブラジル全国に30の拠点を持ち、経営の多角化を図っている。
(1) 規模拡大を積極的に行うことについて
ブラジル国内の景気が良いことから銀行からの融資を受けやすい。また、口蹄疫などを理由にブラジル産牛肉を輸入しない国に対しても、輸出が可能となり、輸出先国の事情を知ることができる。米国企業より豪州企業の方に興味がある。
(2) ブラジル国内での展開について
ブラジル北部は、口蹄疫清浄化の可能性があるため、進出していきたい。
(3) 経営規模の拡大により負債を抱えることについて
大きな負債を抱えてまで買収することは考えていない。当社の株式は未だ上場していない。
(4) 海外での企業統治について
南米の食肉パッカーを買収する中で、特にアルゼンチン人は牛肉への思い入れが強いため、心理的な抵抗感を感じていたようだ。買収したパッカーには、ブラジルからの出向を数名程度の最小限にするなど、企業文化を変えないことに注意している。
3.インディペンデンシア社
同社は、海外の食肉パッカーの買収を行っていないため、海外に拠点を持たない。しかしながら2004年は4工場だったが、現在は11工場に達しており、ブラジル国内で経営基盤を強化している。
(1) 規模拡大を積極的に行うことについて
ブラジル国内の景気が良いことから銀行からの融資を受けやすい。また社会経済開発銀行(BNDES)の低利融資も受けられるため、現在は事業を拡張しやすい環境である。
(2) ブラジル国内での展開
サンパウロ州の農地価格が上昇して、肥育経営が南東部や中西部に広がり、それを追って、各食肉パッカーが工場立地を広げていることは自然な現象と考えている。また、経営規模を拡大したい畜産農家に対し、当社が年利15〜20%で低利融資(農家が銀行から借りると年利30%以上)により支援している。
(3) 経営規模の拡大により負債を抱えることについて
口蹄疫などの疾病発生の際、ウルグアイ産牛肉をブラジル産牛肉の代替に輸出するため、ウルグアイのパッカー買収を試みたが、高すぎた。また、ウルグアイは生産量が小さすぎることも断念した理由の1つである。
このようにブラジルの食肉パッカーの規模拡大は、ブラジル国内の好景気とレアル高などを背景に行われている。また、BNDESの低利融資や食肉パッカーの株式の購入により、ブラジル政府もブラジル企業の育成を行っている。 |