GM穀物の導入は、最大で9億豪ドルを超える利益
豪州農業資源経済局(ABARE)は3月31日、遺伝子組み換え(GM)穀物の導入に関する報告書を発表した。この中で、豪州がGM穀物を導入した場合、農業界全体で2018年までの10年間に9億1,200万豪ドル(857億円:1豪ドル=94円)の利益が得られると試算している。また、ABAREでは、GM穀物の栽培はすでに世界的な流れの中にあるとした上で、今後、中国、ブラジル、アルゼンチン、インドなど主要穀物生産国でGM穀物の栽培が拡大すれば、穀物生産の増加に伴い世界市場におけるこれらの国々の優位性が一段と増し、豪州でのGM穀物の導入の遅れは、結果として穀物輸出競争力に影響を及ぼすとしている。
現在、2つの州でGMカノーラの商業的栽培が可能
現在、豪州でのGM穀物の栽培は、綿が唯一、商業的に行われているにしかすぎず、連邦政府が2003年にGMカノーラの商業的な生産を認めたものの、州政府による規制の中で現状は、実験的な栽培が行われている程度である。しかし、相次ぐ干ばつや国際的な穀物相場の上昇により、穀物生産者や輸出業者などからは、生産力を高める観点からGM穀物の解禁を求める声も数多く出ていた。このような情勢を背景に、小麦、大麦、カノーラなど冬穀物の生産量で豪州の約15%(2005/06年度実績)を占めるビクトリア(VIC)州では、2008年2月末、GMカノーラの商業的生産を一時停止していた規制が解除されたことで、今後の生産が可能となった。また、同じく冬穀物生産量の約30%を占めるニューサウスウェールズ(NSW)州でも、GM穀物の栽培を禁止した法律を改正することで、2008年3月から食用としてのカノーラの商業的栽培が可能となっている。
豪州でのGM穀物の栽培は、現在生産が行われている綿に加え、今後、新たにカノーラの栽培が拡大すると見られるが、米と小麦に関して、現在、GM種の試験栽培の是非が裁判所で問われており、この結果次第では、急速に生産が拡大するとの予測も出ている。
小麦を含めたGM穀物の導入は、豪州の輸出競争力につながる
ABAREの試算によれば、小麦、大麦などを含めて豪州がGM穀物を導入した場合、生産量は拡大し、生産の約半分が輸出に回されることで、結果として輸出競争力が強化され、輸出市場における豪州の占有率も増すとしている。また、輸出市場で豪州産のGM穀物の輸入が規制されないと仮定した上で、これにより2018年までの10年間で9億豪ドル以上の収益が見込めるとしている。また、EUがGM穀物の輸入を禁止した場合でも、同じく10年間で6億8,200万豪ドル(641億円)の収益が見込めるとしている。
なお、GM穀物の導入に関して国内の畜産業界は、カノーラが飼料用穀物としての利用が少ないことから、今のところ特に意見は出ていない。一方、酪農業界では、VIC州、NSW州で相次いでカノーラの商業的栽培が可能となったことを受けて、豪州のクリーンなイメージが損なわれるとして反対の声が強く出ており、今後もGM穀物の導入に関しては、厳しく目を光らせていくとしている。
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