需給解説

豚肉の需給展望 〜底堅い相場展開〜

食肉生産流通部 食肉需給課長 安井  護
課長補佐 北村 徹弥

 豚肉マーケットの活況が続いている。家計消費が伸び、卸売価格は、昨年7月から1年以上、前年同月を上回って上昇している。チルドポークの輸入量も2万トンを超えるのが当たり前のようになった。

 食肉の需給は、「好調な豚肉・鶏肉、不調の牛肉」と二分化した状態が続いており、最近、その傾向がさらに顕著になっている。その背景には「家計は、可処分所得が減少する中、食料品価格が上がり、生活防衛意識を強め、相対的単価が高い牛肉から、豚肉、鶏肉に需要がシフトしていること」がある(詳細は本誌9月号参照)。

 先月の牛肉に続いて、今月は、豚肉の下期の需給について、量販店、卸売業者、生産者団体、輸入商社へのインタビューやアンケートなどを踏まえて、展望してみたい。

ポイント
1 豚肉の需要は、消費者の低価格志向により、量販店を中心に引き続き堅調
2 生産は、事故率低下からわずかに増加
3 チルドの輸入量は、かなり増加するが、秋は月間21千トン程度
4 卸売価格は、底堅い展開

表1 上期(1月〜6月)の食肉消費量(前年同期比)


1 豚肉が売れる理由は

○好調な家計消費

 牛肉の卸売価格が前年同月を下回って推移する中、昨年7月以来豚肉は1年以上、上昇傾向を続けている。例年、価格が低下する秋から冬にかけても、昨年はそれほど下がらず、今年は1月のキログラム当たり457円を底に2月以降同550円を上回り、6月には月間平均で同600円を超える近年まれに見る高水準の相場展開となった。

図1 豚肉の卸売価格(省令規格)

 豚肉の消費量の4割を占める家計での消費は、牛肉の減少傾向が続く一方で、増加傾向にあり、今年2月以降は、購入単価が上昇する中でも、毎月5%程度の伸びとなっている。家計での需要の強さを改めて実感する数値である。

 増加する家計での豚肉消費の内訳はどうなっているのだろうか。国産品と輸入品の割合を量販店POS調査(機構調べ)から見ると、国産品のシェアが今年に入って緩やかに低下しており、6〜7月は前年に比べて4〜5ポイント低下している。輸入チルドの出回り増加が裏付けられている。

図2 豚肉の家計消費(前年同月比)


図3 豚肉の国産品/輸入品のシェア(量販店POS調査)

○「すそもの」需要が相場を下支え

 さて、豚肉の好調は、牛肉不振の裏返しだけだろうか。要因をもう一つ指摘しておきたい。いわゆる「すそもの」と呼ばれる低価格部位のうで、ももの需要が好調であることだ。原因としては、家計でのひき肉の売上が好調なこと、業務・加工用途として国産原料の引き合いが強いことがある。

 いずれも、1月末の中国産ギョーザ事件がきっかけとなっている。家計調査での合いびき肉の購入量は、家庭での手作りギョーザが増えたことがきっかけとなり、2月以降、毎月1割以上増加している。最近の伸びは、購入単価100グラム当たり110円という価格訴求商品として注目され、広く受け入れられているためとみられる。

図4 合いびき肉の家計消費量

 また、2月以降、中国産のソーセージ、肉まん、肉団子などの加工・調理品の輸入量が4〜6割減と大幅に減少した。その結果、国内での代替生産が増加し、業務・加工用途としてうで、ももの需要が増加している。

 部分肉の卸売価格を見ると、主に小売向けのロースが6月以降ほぼ前年並みとなっている一方で、うでは引き続き、前年を上回っている。加工・業務用に仕向けられる等外規格の枝肉相場も、前年を大幅に上回っており、好調な豚肉相場は、「すそもの」需要が底支えしていると言えよう。


図5 豚肉の卸売価格(国産・冷蔵)


図6 豚肉の卸売価格(等外規格)

2 豚肉増加を見込む量販店

○7割が豚肉増加を見込む

 下期の食肉の販売動向について、量販店はどのようにみているのだろう。7月中旬に全国の主要量販店を対象に実施したアンケートによれば、7割の量販店が豚肉の「増加」を見込んでいる。昨年12月に今年1年の販売見通しを尋ねたときは、「増加」が5割だったので、そのときよりもさらに2割も増えている。一方、「減少」は7%しかなく、下期も豚肉の需要は極めて堅調に推移しそうだ。

 生活防衛意識を高める消費者に対し、量販店は、「生活応援特価セール」、「100円均一セール」などで攻勢をかけている。その場合、100円という破格値で訴求できるのは、豚肉、それも輸入品になる。チラシには、米国産ロース切り身100円/100グラムとの大特価が踊り、ヒレ1本、ばらブロックがどんと平台に展開されている売場をよく見かける。7月の小売価格は国産品が100グラム当たり203円に対し、輸入品は同126円と77円の値差がある(ロース特売価格、機構調べ)。安いからと言って輸入品一辺倒ということではなく、アンケート結果では増加する豚肉の原産地については、国産品が7割、輸入品が3割と国産優位を示している。

 増加の理由については、「牛肉よりも販売単価が低い」が一番多く、国産品では「銘柄豚を強化したい」、「秋以降の価格低下を期待」、「お客様の国産志向」など。輸入品では「国産が高すぎる」、「利益率が高い」などの回答が多かった。

 なお、鶏肉は、前回調査の2倍以上の社が「増加」と見ており、その需要の強さに驚かされる。対照的に牛肉は「減少」が5割と一番多く、前回調査よりも倍増している。下期も、量販店では「好調な豚肉・鶏肉、不調の牛肉」の傾向が続きそうだ。

表2 下期(7月〜12月)の販売見通し(量販店)


表3 増加するのは国産/輸入(量販店)


○チルドとの競合、480円が目安

 チルドポークは、7月の月間輸入量が25千トンを超え、史上最高を記録するなど、マーケット拡大が続いている。では、輸入チルドが競合する上で、量販店は国産にどの程度の価格を求めているのだろうか。

 そこで、「国産の価格は豚価が高値で推移しています。輸入チルドと比較した場合に、貴社にとって扱いやすい価格はどの程度ですか」と聞いてみた。一番多い回答はキログラム当たり480円の6割。仕入れる側に立てば、安ければ安い方がよいかもしれないが、この数字はなかなか興味深い。つまり、量販店にとって、輸入チルドと比べて国産品が480円であれば、値頃感があると感じている訳で、秋に価格が低下したとき、輸入チルドから国産への「逆シフト」が起きる価格が480円と考えられないだろうか。

 つまり、上記のように豚肉の販売増加を見込む量販店が7割、うち、国産の増加を見込む社が7割いるとすれば、仮に480円を下回れば、量販店の国産豚肉への需要がかなり強まるとみることはできないだろうか。


表4 輸入チルドと比べて扱いやすい価格(量販店)


アンケートは7月中旬に全国の主要量販店28社を対象に行い、26社から回答を得た。


3 卸売業者は国産増加の見込み

 卸売業者は、下期の豚肉の販売についてどのように見込んでいるだろう。同時期に全国の主要卸売業者を対象に、種類別の増減見込みを聞いてみた。その結果、国産は「増加」、輸入チルドは「同程度」、輸入フローズンは「同程度」から「減少」と見込む社が多く、豚肉の種類によって、差が出る結果となった。

 昨年12月の調査と比べると、国産は「増加」が10ポイント減少しており、増加の勢いはやや弱まっているとも言えるが、ライバルである輸入チルドは「増加」が45%から9%へと大きく減り、9割が「同程度」と見ている。毎月の輸入量2万トン超えが定着し、7月は一時的に2万5千トンを超えたが、これ以上の増加はないものとみられる。

 国産が増加する理由としては、「秋の国産品の価格低下を期待」が一番多く、「国産志向の強さ」、「牛肉よりも低単価」を挙げる社もあった。

 卸売業者にも同様に「輸入チルドと比較して扱いやすい国産価格」について尋ねたところ、キログラム当たり440円が3割、480円が6割と上記の量販店とほぼ同じ結果となっている。卸売業者の4割が国産豚肉の販売増加を見込む中、輸入チルドと比較して480円が扱いやすい価格と考えていることは、上記の量販店の調査結果と併せて見てみると、この辺が今秋の価格を見通す上で一つの鍵になりそうだ。


表5 下期(7月〜12月)の豚肉販売見通し(卸売業者)


表6 輸入チルドと比較して扱いやすい価格(卸売業者)


アンケートは7月中旬に全国の主要卸売業者20社を対象に行い、14社から回答を得た。


4 生産は微増

 と畜頭数を見てみると、平成19年は上期、下期ともにわずかながら前年を上回ったが、2月1日現在の母豚頭数が910,100頭(前年比99.5%)と減少したことなどから、今年上期(1〜6月)は、1%以上の減少となった。

 では、この秋の肉豚の出荷はどの程度となるか。肉豚生産出荷予測(農林水産省食肉鶏卵課 平成20年8月29日公表)によると、前年同月と比べて、9月108%、10〜12月は合計で101%となっている。下期の合計を前年同期と比較すると101%とわずかな増加である。9月が8%増と増加幅が大きくなっているのは、前年9月のと畜場稼働日が休日の関係で少ないため。なお、過去5年平均と比較すれば101%と微増である。

 と畜頭数は休日の関係でも増減するので、この影響を除くため、1日当たりに換算すると、9月は97%と減少し、逆に11月は月間では前年並みだが、1日当たりでは82千頭と8万頭を超える計算となる。

 この秋の出荷動向を見通す上で、鍵となるのは3月から使用開始されたサーコウイルス・ワクチンの効果をどの程度見込むかであろう。関係者の見方をまとめると、

1 農場でのワクチンの効果は、非常に高く、子豚の事故率は大幅に低下
2 しかし、今秋に出荷予定の肉豚が分娩された今春のワクチンの普及率はまだ低かったので、肉豚の出荷頭数増加は限定的
3 一方で、小規模層を中心とした廃業により出荷頭数の減少

となる。このことからも、この秋の肉豚の出荷頭数は、前年同期に比べて増加はするものの、わずかなものに留まると見込まれる。

表7 豚のと畜頭数


5 輸入は増加

○チルドは2万トン超が定着

 豚肉の輸入量は、国内での豚肉需要が拡大していることから、増加傾向で推移している。

 量販店のチラシには、100グラム当たり100円を切るような特売価格が目立つ。量販店での販売が主体となるチルドは、3月以降、月間輸入量2万トン超が続いており、連休需要を見込んだ5月には23千トン、夏の需要期を迎えた7月にはさらに26千トンと最高記録を更新した。この増加の要因としては、国内の需要増が第一であるが、国内で需要の増加した、うで(ひき肉、ソーセージ用)をフローズンではなく、チルドで輸入するケースも多く、チルド輸入の増加の一因となっている。

表8 豚肉の輸入状況

 うでの需要増加の背景として、中国産ソーセージの輸入状況の急激な変化を見てみたい。中国産ソーセージの輸入量は、安価な製品を求める業務用需要の増大を受けて、年々増加してきた。19年度は29千トンと国内生産量の1割に達した。しかし、1月末の中国産ギョーザ事件をきっかけに輸入量が急減し、上期の輸入量は前年同期に比べ3割減少している。これを受けて国内でのソーセージの生産が増加し(上期2%増加)、その原料としてうでの需要が増加したのである。

 米国産の部位別卸売価格を見ると、チルド・ロースは潤沢な輸入量のため、前年を下回って推移している。一方、フローズン・うでは需要が強く、前年を上回っており、これはチルドも同様の傾向で、「すそもの」需要を裏付けている。

図7 豚肉の卸売価格(北米産)

 さて、輸入商社からの聞き取り、最近の輸入動向、輸出国の生産状況などから、下期のチルド輸入量は、127〜131千トン(前年同期比108%程度)と見込まれる。最需要期の7月の26千トンをピークに、国産の生産量が増加する10〜12月はやや減少するが、月間21〜22千トン程度は輸入されそうである。輸入商社からは「国産の卸売価格は低下するが、量販店の特売需要はそれほど減らない」、「ロイン以外のうでなどの加工用需要が増えている」との意見が聞かれた。

○フローズンは同程度

 加工・業務用のフローズンは、輸入先である北米、ヨーロッパともにロシア、中国などの新興輸入国の需要が増加し、価格が上昇していることから、減少が見込まれる。同様に下期の輸入量を推定すると、253〜260千トンで前年同期と同程度と見込まれる。

 日本の豚肉輸入先の約4割を占める米国では、これまでは生産増加による価格低下もあり、今年上期の輸出量が前年同期の1.7倍と大幅に増加している。国別には日本向けが2割増に対して、中国・香港、ロシア向けがそれぞれ2〜3倍となっている。今後は現地価格の上昇が見込まれる中、「ロシア、中国の買い意欲が強く、日本は従来の価格で仕入れることは難しい」、「当面、先高が見込まれる中、どのタイミングで買いを入れるかが難しい」(輸入商社)との声が強い。


6 下期も底堅い相場展開へ

 下期の豚肉の消費、生産、輸入について、見てきた。

 消費については、「輸入品に押されて国産ロースが売れていない」、「今の高値はと畜頭数が少ないためで、需要に見合ったものではない」、「すそものの需要は一服か」など、流通関係者の意見も聞かれたが、総体としては、家計消費、業務・加工向けともに堅調に推移するものと思われる。特に量販店については、回答のあった7割の社が販売増加を見込んでおり、非常に力強いものを感じる。

 生産については、3月からのサーコウイルス・ワクチン発売による事故率低下により、増加が見込まれるものの、ワクチンの普及が限定的だったので、今秋の増頭はわずかにとどまるだろう。

 輸入については、チルドは増加傾向にあるものの、10月以降は21〜22千トン程度と落ち着いてくるだろう。

 以上から、国産豚肉の卸売価格は、消費のパイが緩やかに拡大する中、季節的に生産が増加する10月から11月にかけて例年どおり低下するものの、底堅く推移するものと見込まれる。


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