海外トピックス


アルゼンチンの穀物輸出課徴金(輸出税)制度の改正をめぐる混乱について


大豆の生産量が増加

 アルゼンチンのパンパ地域は、トウモロコシのほか、大豆、小麦、ヒマワリなどの穀物・油糧種子生産のほか放牧肥育が行われる食料基地である。このように、いずれの作目の生産にも向いた土地であるからこそ、最も収益が高い作目に生産が集中していくことは当然である。図1は主要作物の作付面積の推移を示したものであるが、他の作目に比べ大豆の作付面積の伸びが顕著である。

 そこで、1ヘクタール当たりの粗収益の試算を表1に示す。最近の価格上昇からトウモロコシの粗収益は大豆に比べ優れているが、大豆は栽培条件の面で必要な水分や栄養分がトウモロコシに比べ少ないことなどに加え、天候リスクが低く、収益性が高いことから、大豆の作付面積が大きく伸びていると考えられる。また、大豆の作付面積の拡大の多くは、放牧地などからの作付の転向であると言われている。一方、アルゼンチン国内での大豆製品に対する需要は、大豆油かすが家畜飼料に利用される程度であり、大豆は輸出向け作目と位置づけられる。

図1 主要作物の作付面積の推移


表1 1ヘクタール当たりの粗収益の試算

大豆生産の抑制を期待し、決議125号を公布

 大豆の生産拡大および、食料品の国内価格の上昇の抑制、財政面での歳入増加による財政黒字の維持などの理由を背景に、アルゼンチン政府は穀物輸出課徴金(輸出税)制度の改正を定める経済生産省決議125/2008号(2008年3月10日付け)を公布した。これによると、大豆とひまわりの輸出税率を引き上げる一方、トウモロコシと小麦のそれは引き下げられることになる。この穀物輸出課徴金(輸出税)制度の改正(以下「決議125号」)の発表に当たり、ルストー経済生産大臣は、「国内価格と輸出価格の切り離しが進み、インフレ圧力の低減により効率的である。また、重要な食料であるトウモロコシや小麦の生産に向けた意欲向上につながり、大豆の拡大傾向を抑制することが可能となる。畜産も農業と競争できることになる。」と述べ、決議125号により国内のインフレ圧力を緩和し、小麦や畜産の競争力が増すことを期待した。

図2 決議125号に示された算定式に基づくトウモロコシのFOB価格と輸出税の関係


決議125号は国会審議により廃案

 決議125号は生産コストを考慮していないこと、増税のみで農畜産業振興に向けた施策がなかったことなどから、生産者団体は一斉に反発し、農畜産物の出荷の停止および輸出用穀物・油糧種子の流通を妨げるための道路封鎖を実施した。また生産者団体は、ポスター(本誌7月号参照)を街中に張り付け、生産者も消費者もインフレで損失を受けていることを強調することにより、農業ストに対する一般消費者の理解を得ようとした。

 一方、政府・与党は、輸出税の一部還付など中小規模経営を支援するため施策や大豆輸出税の増税分を社会セーフティネットの整備(公立病院や低所得層向けの住宅の建設、道路の建設・整備)に充てることを発表し、決議125号の正当性を訴えた。

 農業ストは断続的に繰り返され、スーパーマーケットでの品薄や幹線道路の大渋滞など農業ストによる影響のため市民生活に支障が生じていた。そこで政府は、決議125号が修正なしで国会承認を得ることを期待して、6月17日に決議125号に関する国会審議を行うことを発表した。しかしながら結果、大統領の腹心である副大統領が、政府案に反対票を投じることにより、国会上院で否決され、大統領は7月21日に決議125号の無効化を決定した。

 決議125号の無効化を決定以降、生産者団体と政府の間で会合がもたれているが、生産者団体が主張した生産コストを考慮しない農産物輸出税のあり方や、政府が主張した社会セーフティネットの整備などのための歳入増加のための具体的な方策に関する両者の合意はいまだ見られない。


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