需給動向 海外

◆米 国◆

肉用牛繁殖経営の規模縮小により米国の牛飼養頭数は減少傾向


◇絵でみる需給動向◇


2005年に上昇局面に転じたキャトルサイクルは再び減少傾向に

  米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が7月25日に公表した牛の飼養動向調査結果によると、2008年7月1日現在における牛の総飼養頭数は、前年同期を0.5%(50万頭)下回る1億430万頭となった。

  米国のキャトルサイクルは、95年をピークに9年連続で減少し続けた後、2005年には一旦上昇局面に転じたものの、2007年以降再び減少傾向にある。これは、2006年のテキサス州を中心とした中南部における干ばつ、また、2006年後半以降の飼料コスト高、さらに、2007年の南東部における干ばつの影響などにより肉用牛繁殖経営の収益性が悪化し、肉用繁殖雌牛の規模拡大が抑制されていることが主な要因となっている。

  2008年7月1日現在の飼養頭数を部門別に見ると、乳用牛部門では、経産牛・後継牛ともに昨年水準を維持したのに対し、肉用牛部門では、繁殖雌牛が前年同期比0.6%減、肉用繁殖後継牛が同2.1%減と、昨年に引き続きそれぞれが前年水準を下回った。

  なお、USDAによると、肉牛の主要な繁殖地域である米南部(テキサス、オクラホマ州など)では、本年7月初めまでに広範囲にわたる地域で干ばつが発生しており、飼料穀物や乾牧草価格の上昇と併せて、同地域における今後の肉牛繁殖・育成経営に与える悪影響が懸念されている。

牛総飼養頭数の推移(各年7月1日現在)

部門別飼養頭数の推移(各年7月1日現在)


フィードロット飼養頭数に占める未経産牛の割合が増加

  一方、同局が同日公表したフィードロット(収容能力1,000頭以上規模)の牛飼養動向調査結果によると、2008年7月1日現在のフィードロット飼養頭数は、前年同期を4.1%(44万頭)下回る1,029万5千頭となった。

  本年1月1日現在のフィードロット飼養頭数は、同期としては96年以降最高水準を記録するなど、昨年12月〜本年4月にかけ毎月前年同月を上回って推移していたものの、5月以降は導入頭数の縮小などにより、前年水準を下回って推移している。USDAでは、この導入頭数縮小の要因の一つとして、昨秋以降、南東部での干ばつの影響により放牧地における牧草の生育状況が悪化したことなどから、体重の軽い肥育素牛の導入が増加したものの、最近では、肥育経営者が飼料穀物の価格高に対応するため、体重の重い肥育素牛を導入し肥育期間を短縮する傾向が強まっていることを挙げている。

  また、7月1日現在のフィードロット飼養頭数を種類別に見ると、去勢牛は前年同期比4.6%減の643万2千頭、未経産牛は同2.7%減の382万3千頭と、それぞれの飼養頭数全体に占める割合は63%と37%となった。フィードロットにおける未経産牛の割合は、キャトルサイクルが下落局面に転じた2007年7月のちょうど1年前に当たる2006年7月(同期の未経産牛の割合は34%)以降毎月、前年同月を上回って推移しているが、酪農経営が保留する乳用後継牛の飼養頭数は同期以降増大していることから、肉用繁殖後継牛のフィードロットへの導入が増加しているものと推測される。

フィードロットにおける種類別飼養頭数割合の前年比の推移


米国内業界関係者は肉牛飼養頭数の減少傾向は短期的には影響はないとの見方

  米国内の業界関係者は、今回公表されたこれらの牛飼養動向調査結果を受け、2008年7月1日現在における牛の総飼養頭数およびフィードロット飼養頭数の減少幅は予想の範囲内であったとしつつ、肉用繁殖後継牛が前年同期に比べ2%の減少にとどまったことに驚きの反応を示している。キャトル・バイヤーズ・ウィークリー(CBW)社は、本年1月1日現在で前年同期比1%減となっていた肉用繁殖雌牛の飼養頭数については、今回もそれと同水準の減少幅を、また、同じく3.5%減となっていた肉用繁殖後継牛については、今回は6.5%程度の減少を見込んでいたとしている。

  さらに、同社は、この肉用牛飼養頭数の減少傾向の影響について、本年3〜6月までの間、肉用繁殖後継牛の保留が大幅に減少した一方、肥育に仕向けられる未経産牛が増加した結果、フィードロット外には昨年とほぼ同水準の肥育素牛が確保されていることなどから、2009年中頃までの肥育素牛供給には影響がないとの見解を示している。

  米国の牛肉生産量は、2008年当初以降、と畜頭数や1頭当たりの枝肉重量の増加などにより、3月と6月を除いて毎月前年同月を上回り、1〜7月の合計では前年同期比3.3%増の156億4,200万ポンド(709万5千トン)と順調な伸びを見せている。また、USDAによると、本年の子牛生産頭数は、分娩率の向上などにより昨年とほぼ同水準になるものと見込まれている。しかし、本年に誕生した子牛のうち、肉用繁殖後継牛の保留・出荷状況については、2009年以降の肉用牛繁殖経営の経営状況などに左右されることから不確定要素が多く、現在の持続的な肉用繁殖後継牛の減少傾向が2〜3年後の牛肉供給に与える影響は小さくないものと考えられる。

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