海外駐在員レポート

原料価格高の状況下における豪州のバイオディーゼル生産

シドニー駐在員事務所 井田 俊二、玉井 明雄


1.はじめに

 豪州におけるバイオディーゼル生産は、タロー(獣脂)、カノーラ(ナタネ)油やパーム油といった植物油脂および食用廃油(UCO)を主な原料として行われている。近年、これらの原料は、国内外からの需要増加や豪州での干ばつによる生産量の減少などの影響を受け、価格が急上昇した。こうした原料価格高などを背景として、豪州におけるバイオディーゼル産業は、一部の工場の操業休止や工場新設計画の延期などが示すように厳しい経営状況にある。豪州バイオ燃料協会(BAA)の資料によると、2008年1月1日時点で存在する10のバイオディーゼル工場のうち、半数に当たる5工場が操業を休止している(「畜産の情報」2008年6月号参照)。今般、操業中のバイオディーゼル工場を訪問し、生産の現状や見通しについて調査した。


2.原料価格の上昇

 バイオ燃料生産コストに占める原料コストは60〜70%とされており、原料価格の動向がバイオディーゼル経営に及ぼす影響は非常に大きい。

(1)タロー
 タローは、2007年から2008年にかけて価格が大幅に上昇した。2006年の価格が507豪ドル/トン(52,700円:1豪ドル=104円)に対し、2008年は947豪ドル/トン(98,500円)と約9割高となっている。これは、中国などからの需要の増加がその要因として挙げられている。豪州におけるタローの生産量は年間57万トン程度で、このうち65%程度は輸出される。このため、国内流通量は20万トン程度と見られる。

図1 タロー価格の推移

(2)食用廃油
 食用廃油は燃料の原料として需要が高まり、近年、価格が大幅に上昇している。豪州における食用廃油の年間流通量は5万トン程度とされており、流通量としてはあまり大きくない。

(3)カノーラ油
 カノーラ油の原料となるカノーラは、2007年4〜6月期には463豪ドル/トン(48,200円)に対し2008年4〜6月期には736豪ドル/トン(76,500円)と約6割価格が上昇した。これは、需要の増加や豪州における干ばつによる生産量の減少などが挙げられる。豪州におけるカノーラの生産量は107万トン(2007/08年度見込値)で、このうち国内で圧搾用に利用される数量は48万トンとなっている。

図2 カノーラ価格の推移

(4)その他
 このほか、インドネシアやマレーシアといった国から輸入されるパーム油は、タローの代替品、バイオディーゼル原料、原産国での国内消費といった需要の増加を背景として価格が大幅に上昇した。


3.バイオディーゼル工場の事例

[事例1]

(1)施設などの概要
 今回、バイオディーゼル・プロデューサーズ社のバーナワーサ工場を訪問した。同工場は、ビクトリア州(VIC州)北部でニューサウスウェールズ(NSW)州との州境に近くに位置する。工場周辺は牧草地が広がっており、近隣の建物は同工場と隣接してレンダリング工場があるのみである。

地図 工場所在地

 この工場は2006年3月に工場建設を開始し、2007年11月に竣工した。2007年12月にバイオディーゼル生産開始したばかりの新しい工場である。工場の総工費は1,600万豪ドル(16億6,400万円)で、そのうち約900万豪ドル(9億3,600万円)は連邦政府が交付するバイオ燃料施設整備補助金から支出された。

 同工場は欧州から最新の生産技術を導入して建設されており、複数の種類の原料に対応できると同時にタローのみを原料とした生産にも対応できる。

 バイオディーゼルの年間生産能力は、年間6万キロリットルと豪州では中規模で、これは豪州におけるバイオディーゼルの生産能力55万8千キロリットル(2008年1月1日現在:BAA資料)の9%に相当する。また、これは豪州におけるディーゼルの年間消費量(約1,400万キロリットル)の0.4%に相当する。

 従業員数は22名で、週7日、2シフト体制で24時間工場を稼動している。


工場の隣接地は牛の放牧地が広がっている


工場の正面

(2)原料は近郊で生産されるタローが中心
 工場のある地域は、豪州の食料庫と呼ばれるマレー・ダーリング集水域に位置し、農作物や肉用牛、酪農、羊肉・羊毛といった畜産の盛んな地域に位置する。このため、こうした立地条件を生かし、牛や羊から作られたタローを主原料としたバイオディーゼル生産を行っている。原料となるタローは、工場から半径150キロメートル以内のレンダリング業者や食肉処理業者から集荷している。

 その他の原料としては、食用廃油およびカノーラを利用している。食用廃油は、主に300キロメートル離れたメルボルンの外食産業から排出されたものを業者が集荷している。また、カノーラ油は、NSW州やVIC州がカノーラの生産地となっており、原料の集荷に有利な立地となっている。

 現在の原料比率は、タロー75%、食用廃油20%およびカノーラ油5%であり、タローを主体に原料価格や入手状況に応じて利用する原料を決めている。

 同工場が年間フル稼働(6万キロリットルのバイオディーゼルを生産)する場合、およそ5万トンの原料油脂が必要となる。豪州国内におけるタローの年間流通量は20万トン程度であることから、同工場が100%タローを原料とした場合、国内流通量の約25%のタローが必要となる。


工場の隣接地では羊の放牧も行われている

(3)原料価格はおよそ2倍に上昇
 主原料のタローは、毎月1回入札によりレンダリング業者などから調達している。VIC州近郊のレンダリング業者は、クイーンズランド(QLD)州など大規模な食肉処理場に併設される工場と異なり、独立した小規模経営が多い。こういった事情を考慮し、経営リスクを回避するため長期間の原料調達契約をしていない。原料となるタロー価格はこの1〜2年でおよそ2倍と大幅に上昇しており、調達価格は輸出向けタロー価格と比べて遜色ない水準とのことである。

(4)バイオディーゼルの副産物
 年間6万キロリットルのバイオディーゼルを生産する場合、5万トンの原料油脂と5千トンの溶媒としてメタノールなどを利用する。これらの原料から生産される製品の約90%はバイオディーゼルで、このほか副産物としてグリセロール(4,900トン)と少量の硫酸カリウム(1,100トン)が生産される。グリセロールは化粧品、塗料および家畜飼料の原料などとして利用される。また、硫酸カリウムは肥料原料として利用される。

(5)製品販売は国内向け
 生産されたバイオディーゼルのうち約80%は、そのまま大手石油会社へ販売され、残りの約20%は地元のトラック会社や小売店などに販売される。地元のトラック会社など向けについては、タンクローリーが工場からバイオディーゼルを搬出する際に、ユーザーの要望に応じた混合比率(通常は混合比率5〜20%)で通常ディーゼル(通常のディーゼル用タンクを併設)と混合した上で搬出される。

 同工場では地元を中心とした国内向けに製品を販売しており、輸出向けは扱っていない。

(6)有利な立地条件を生かした経営
 現在のバイオディーゼル工場経営については、原料コスト高であり厳しい状況であるが、通常のディーゼル価格も高値で変動しており、経営上の利益は確保できている。

 原料調達は輸入品に依存することなく、有利な立地条件を生かした原料の調達を基本としている。また、生産された製品は、地元を中心とした国内向けに販売することとしている。

 今後の経営については、現在豪州政府が2010年の導入に向けて検討している二酸化炭素など温室効果ガスの排出量取引制度により、バイオディーゼル企業へ恩恵がもたらされることに期待している。

 また、新たな原料として、アルジー(藻類)を原料としたバイオディーゼル生産の試みが行われているが、実用化までにはまだ相当の期間を要するであろうとの見解であった。


バイオーディーゼル・プロデューサーズ社のツイスト氏

[事例2]

(1)施設などの概要
 バイオディーゼル・インダストリーズ・オーストラリア社は、NSW州東部でシドニーの北方約180キロメートルのラザフォードにある。工場の稼動は2001年と比較的古い。工場の概容は、中古機器の活用や処理工程の簡素化により至ってシンプルである。バイオディーゼルの年間生産能力は2万キロリットルと小規模である。

 原料は75%が食用廃油で、その他、タロー(牛、鶏)、カノーラ、ポピー・シード(ケシの実)油を利用している。主原料の食用廃油は、シドニー、ブリスベン、メルボルンといった大都市から集荷する。主原料である食用廃油の年間集荷量は1万トンで豪州最大である。その他の原料は、近郊の製油会社などから購入している。

 従業員数は7名で、週6日間、2シフト体制で24時間工場を稼動している。

(2)経営の現状および展望
 原料価格の上昇により経営環境は厳しくなっているが、半年後を目途に設備投資を行い生産の効率化を図ることとしている。この施設整備により年間処理能力は、現在の1.5倍に当たる3万キロリットルになる予定である。今後は、食用廃油の集荷量はもっと増やしたいと同社ヒル氏は語っている。


工場の内部


中央のビンは、原料のポピー・シード油


バイオディーゼル・インダストリーズ・オーストラリア社のヒル氏


4.バイオディーゼルの販売

 豪州では、年間約1,400万キロリットルのディーゼルが消費されている。このうち、25%(350万キロリットル)が道路運送用、36%(500万キロリットル)が鉱業、農業、海上などの道路以外用、39%(550万キロリットル)が乗用車や運送以外用となっている。

 バイオディーゼルの販売については、100%バイオディーゼル(B100)も販売されているが、通常は、バイオディーゼルの混合比率が5〜20%のB5やB20として販売されている。バイオディーゼルの販売価格は、通常のディーゼルより1リットル当たり10豪セント(10円)程度安く販売されている。


シドニーでのバイオディーゼル販売店


5.バイオディーゼル生産の収支

 関係者からの聞き取りによると、直近の一般的な原料の価格は次のとおりである。特にカノーラ油価格は、タローや食用廃油と比較して高値となっている。

タロー:850〜950豪ドル/トン(品質による:88,400円〜98,800円)
食用廃油:850豪ドル/トン(88,400円)
カノーラ油:1,550〜1,660豪ドル/トン(161,200円〜172,600円)

 一方、シドニー近郊の販売店におけるB100の販売価格は、177.9豪セント/リットル(185円)である。

 バイオディーゼルの販売価格は、原料費のほか30%程度の製造コスト(人件費や薬剤費)や輸送費、物品税などの経費が含まれる。したがって、現状ではカノーラを原料としたバイオエタノール生産は、利益を確保することが困難な状況にあるといえる。

 現時点で経営上有利な原料としては、食用廃油および(低品質の)タローが挙げられる。


6.今後の動向

 豪州連邦政府は2001年、バイオ燃料生産量を2010年までに35万キロリットルとする目標を設定した。豪州におけるバイオディーゼル産業は、豪州政府の生産振興策を背景として近年、工場の新設が進んだ。

 しかしながら、近年、急速な原料価格高が進み、2007年末に大手企業が工場の一時休止を打ち出すなど厳しい経営環境となっている。また、こうした背景には、2006年の税法改正の影響も指摘されている。豪州における燃料の流通は大手石油会社3社が約8割のシェアを占めており、こういった寡占市場の下、製品の厳格な品質基準や流通ルートの制約がバイオディーゼルの生産および販売に影響を及ぼしていると指摘されている。

 このほか政策面においては、今後、2011/12年度から2015/16年度にかけて現在の税優遇措置が漸減されることとなっている。さらに、2010年の導入に向けて温室効果ガスの排出量取引制度が検討されている。豪州のバイオディーゼル産業にとっては、国際原油価格や原料などの生産コストの動向と並んで、こういった政策面での動向が今後の経営に大きな影響を及ぼすものと見られる。

 今回の調査では、こうした厳しい状況下において、立地条件を生かした原料の集荷、有利な原料の選別、施設の効率化などによるコスト低減を図るとともに、安定的な流通ルートの確保に努めるなど基本的な経営姿勢に基づく取り組みが感じられた。


 

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