昨年の秋以来、食肉の需給は、「好調な豚肉・鶏肉、不調の牛肉」と2分化した状態が続いており、最近、その傾向がさらに顕著になっている。この動きは、年末に向けても続くのだろうか。 今年下期(7〜12月)の牛肉の需給について、量販店、卸売業者、生産者団体、輸入商社へのインタビューやアンケートなどを踏まえて、展望してみたい。 ポイント 1 家計は物価上昇で、食費を抑える動き 図1 食肉の卸売価格の推移
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アンケートは7月中旬に全国の主要量販店28社を対象に行い、26社から回答を得た。 |
表6 卸売価格の値頃感(量販店)
卸売業者は、下期の牛肉販売についてどう見込んでいるのだろうか。同時期に全国の主要食肉卸売業者を対象に実施したアンケートによれば、「同程度」から「減少」と見込む社が多い。国産は「同程度」が約5割と一番多いものの、輸入チルド、輸入フローズンはともにそれぞれ半分の社が「減少」を見込んでいる。「同程度」が多い国産も、昨年12月の調査と比べると「増加」が7割から3割へと大幅に減少し、「減少」が0から2割へ増えている。
国産牛肉の販売増加を見込む社に品種の内訳を尋ねたところ、卸売価格の低下から、和牛が挙げられた。
表7 平成20年の牛肉販売見通し(卸売業者)
○卸売価格は十分安い
卸売業者は今の価格をどう感じているか。3品種ともに「値頃感がある」、「十分安い」と感じている社が多く、和牛と乳用種は9割の社がそう感じている。特に乳用種は3割の社が「十分安い」と回答している。ただし、交雑種は「高い」と感じている社が3割と和牛、乳用種に比べて多かった。
上記の量販店の値頃感と比べてみると、量販店は「値頃感は出てきたもののまだ高い」と感じ、一方、卸売業者は「価格は低下して、十分に安くなった」と感じていると言えよう。この違いは、量販店は、(1)今の消費者が受け入れる販売価格から逆算するとまだ「高い」と考えていること、(2)牛・豚・鶏の3種類を同じ売場で販売している量販店は、3者を比較したときに、まだ牛肉が「相対的に高い」と感じていること、が背景にあるのではないだろうか。
表8 卸売価格の値頃感(卸売業者)
アンケートは7月中旬に全国の主要卸売業者20社を対象に行い、14社から回答を得た。 |
次に生産動向をみてみよう。
牛肉の生産量はと畜頭数、枝肉重量の増加から、19年春以降、各品種ともに増加傾向にある。上記のとおり、需要が弱くなってきた時期に生産増が重なったため、価格に対するマイナス要因の一つになったことも否めない。
下期の生産動向について、過去の分娩頭数、子牛の市場出荷頭数、3月末の月齢別飼養頭数((独)家畜改良センター)から推測すると、去勢和牛、交雑種(オス・メス)は増加、乳オスは減少に転じると思われる。
○去勢和牛は増加傾向続く
去勢和牛の生産量は、17年度にわずかながら増加に転じ、それ以来、増加傾向で推移してきた。過去の分娩頭数、子牛取引頭数、3月末の月齢別飼養頭数から、下期にと畜適齢期を迎える肉牛の頭数を推測すると、いずれもプラスとなっており、下期も前年同期に比べ2〜3%程度の増加が続くと見込まれる。
卸売価格は、低下傾向が続いている。その要因の一つとして、「増体を重視した、血統への転換、飼養管理が進み、キメの細かさといった和牛本来の特質が失われている」、「飼養管理を工夫せずに早期出荷した枝肉は水っぽい」など、品質低下を指摘する市場関係者もいる。
図6 去勢和牛のと畜頭数と卸売価格(前年同月比)
○乳オスは減少へ
乳オスは、昨年秋から前年同月を5%以上、上回る高水準でのと畜が続いてきた。これは、「価格低下を嫌った生産者の早出しの影響」(卸売業者)との見方が多い。6月には前年同月比で100.6%と一服。上記のデータから今後のと畜頭数は、減少傾向に転じ、下期は前年同期に比べ2%程度の減少と見込まれる。
低下を続けてきた卸売価格も4月以降は前年同月を上回るようになってきている。と畜頭数が減少に向かう中で、「ここまで下がれば、量販店もセールに取り組みやすい」(卸売業者)との期待もあり、相場は「底打ち」との見方もある。
図7 乳オスのと畜頭数と卸売価格(前年同月比)
○交雑種は増加傾向続く
交雑種のと畜頭数は18年度以来増加傾向が続いている。上記のデータから、下期も1〜2%の増加が見込まれる。
卸売価格は低下を続けてきて、既にBSE発生前、平成12年度の1,236円にまで低下しており、値頃感から、一部量販店の取組意欲が出てきたのは前述のとおりである。
図8 交雑種 去勢牛のと畜頭数と卸売価格(前年同月比)
「日本がお客であった時代は終わった」。長年、牛肉輸入に携わっている輸入商社の担当者がしみじみと語った。豪州でも、米国でも、「ロシア、中国などの新興輸入国の台頭で、メインプレーヤーであった日本の地位は相当程度、低下している」が実感らしい。現地価格は上昇するものの、国内での販売不振からユーザーは価格上昇についてこれず、輸入数量が減少傾向にある。
国別に見ると、輸入牛肉の8割のシェアを占める豪州では、干ばつによる飼料価格の高騰、素牛価格の上昇等からフィードロットの飼養頭数が大きく減少した。そのため、輸入量全体の4割を占めるグレインフェッドの生産が減少するとともに現地価格が上昇してきたが、「国内での販売が不振のため、十分な価格転嫁ができず、輸入量を減らさざるを得ない」(輸入商社)。さらに、「ロシア、中国などの需要増加から、低級部位を中心に現地価格が上昇しており、日本は「買い負け」している」(輸入商社)のが現状のようだ。
米国産は、すべての大手量販店での販売が再開され、POS調査の結果を見ても売場で定着していることが分かる。卸売価格も「豪州産と比較して競争力のある価格帯となっており、コンビニの弁当用などの業務用需要もでてきた」(輸入商社)と需要のすそ野が広がってきたようだ。
しかし、問題は供給力で、20カ月齢以下という日本向け輸出条件に合致する牛の生産が、夏に増加し、冬に向けて減少するというサイクルを繰り返している。今年も6月から8月に月間5千トンを超えた後は、冬にかけて緩やかに減少すると見られる。
表9 上期(1〜6月)の牛肉の輸入状況
今回の関係者へのインタビューでは「相場低迷の要因は景気の悪化につきる」、「牛肉の位置付けが以前のようなごちそうに戻ってしまい、日常品として買ってもらえなくなっている」、「量販店も単価の高い牛肉を売りたいが、今の景気状況では消費者に買ってもらえない」、「売れるのはうで、もも、ミンチばかりで、ロースはさっぱり」など、販売の前線から聞こえてくるのは悲観的な意見が多かった。
牛肉の販売単価が、豚肉や鶏肉と競争力を持つほどすぐに低下することは考えにくい。それどころか、生産コストも、輸入コストも上昇している中で、それに見合った販売がなされないと、マーケット自体が成り立たない。
幸い、現在の卸売価格について、「値頃感がある」と感じる量販店が5割を超えており、また、4社に1社は下期の牛肉販売が「増加する」と答えている。この辺に縮小している牛肉市場を立て直す鍵がありそうだ。魅力あるメニュー提案も欠かせない。消費者も、豚肉・鶏肉ばかりを食べたい訳でもないだろう。
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