食肉生産流通部 | 食肉需給課長 藤野 哲也 課長補佐 山崎 良人 |
世界的に景気が悪化する中、日本の消費者も生活防衛意識が高まり、食費を抑える動きが鮮明となっている。このような中、消費者は、食肉の消費について、小売価格の高い牛肉を敬遠し、より安価な豚肉、鶏肉の購入量を増やしている。一昨年来、このような動きが続いており、平成21年度もこの傾向は継続するのだろうか。
今回は、牛肉について平成20年の消費動向を振り返るとともに、平成21年度上期(4〜9月)の牛肉の需給について、量販店、卸売業者、生産者団体、輸入商社へのインタビューやアンケートを実施したので、その概要を報告する。 ポイント 1 平成20年の消費動向を振り返る○豚・鶏の好調は続くまず、平成20年(1〜12月)の食肉需給を振り返ってみる。需要と供給を反映した結果である卸売価格は、牛肉は低下傾向が続き、年間を通じて前年を下回った。需要が好調であった豚肉は、前半は好調に推移していたが、9月以降、輸入量の増加などから、前年を下回る価格に転じ、また、鶏肉も同様に、輸入量の増加などから12月に前年を下回ることとなった。 消費量(推定出回り量)は、牛肉がわずかに前年を下回り、豚肉、鶏肉とも前年を上回った。全体の消費量の3〜4割を占める家計消費は、牛肉が徐々に増加しているものの、豚肉と鶏肉の増加率はそれを大きく上回っている。
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図2 家計をめぐる状況(前年同月比)
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さて、消費者の節約志向を食肉の家計消費の面から見ると、金額ベースでは、食肉(牛、豚、鶏)の支出額は平成19年と平成20年を比較すると、106.2%とかなりの程度増加している。
牛肉について見ると、金額ベースでは100.6%と前年を上回ったが、単価が上昇したことにより、数量はわずかに前年を下回ることとなった。一方、金額、数量とも他の食肉は前年を上回っており、数量ベースで見ると、豚肉は、昨年比103.9%、鶏肉は同102.8%となっている。
牛肉の数量を半期ごとに見ると、上期(1〜6月)は前年同期比97.5%であったものが、下期(7〜12月)は100.4%とわずかに前年同期を上回り、ここ最近は消費者の牛肉消費量は増加している状況にある。
売れ行きが悪い牛肉と、豚肉・鶏肉との違いはやはり単価となる。豚肉、鶏肉の実購入単価は、100グラム当たりそれぞれ140円、101円に比べ、牛肉は同307円と2〜3倍の単価となっている。牛肉が他に比べて高いのは昔も今も同じだが、消費者の生活防衛意識が高まっている現在では、これまで以上の価格差に感じているようだ。
表2 平成20年の食肉家計消費(前年比)
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牛肉の購買動向について、品種別のシェアを機構のPOS調査で見てみると、米国産牛肉については、大手量販店での販売再開が広がり、約6%に拡大した。その影響を受けてシェアを落としたのは、豪州産で、7割近くあったシェアが、最近では5〜6割と低下している。
図3 牛肉の品種別購入シェアの推移(POS調査)
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部位別の購買動向について、機構のPOS調査で見てみると、購入単価が低い小間切れ・切り落としのシェアは、1年前に比べて約15%まで拡大した。レジ通過千人当たりの数量を見ると、21年1月の小間切れ・切り落としは、2.6キログラムであり、前年同月より、1キログラム増加している。小間切れ・切り落としはその約4分の3が国産(和牛含む)由来(機構POS調査)であることから、国産牛肉の増加分の約半分を占めることになる。
従って、国産牛肉でも単価の低いもも、かた、すねなどが多く利用されていることになる。
なお、同調査の結果をもとにシェアの増減を分析したところ、表3のような結果となった。かたロースのシェア増加は、米国産牛肉の販売の増加、ばらのシェア減少は、豪州産牛肉の販売減少という現象をもたらしている。
表3 牛肉の部位別購入シェア
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牛肉を使用した外食産業では、商品単価の違いで明暗がはっきりと分かれている。
日本フードサービス協会の統計によると、外食全体では、客数の減少により、売上高はやや減少傾向で推移している。その中でも単価の高いファミリーレストラン焼き肉の業態では、客数がかなりの程度低下しており、売上は前年を下回る月が多く軟調傾向で推移している。一方、単価が安い牛丼(ファストフード和風)やハンバーガー(ファストフード洋風)は、客数、売上高とも前年を上回っている月が多い。
図4 外食産業の動向:業態別売上高(前年同月比)
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表4 主要品目の小売価格(東京都区郡)
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21年度上期(4〜9月)の食肉の販売動向について、量販店はどのように見ているのであろうか。2月中旬に当機構が実施したアンケートによれば、量販店の約5割は、牛肉販売について、減少を見込んでいる。一方、「増加」はその約3分の1の17%である。20年7月に20年下期の販売見通しを尋ねたときには、「増加」が26%あったが、この半年で増加すると見込んでいる量販店は減少している。
豚肉と鶏肉はそれぞれ、販売増加を見込んでいる者が多く、それぞれ7割に達している。その需要の強いことがうかがえる一方で、「減少」の回答も増加している。
そこで、「増加」の構成比から、「減少」の構成比を差し引いた動向指数(DI)で見てみると、いずれの食肉においても前回の調査からポイントを下げている。量販店は、今後も厳しい状況が続くと見ている者が多いようである。
なお、調査時点の量販店での食肉の取扱割合(重量ベース)は、牛肉26%に対して、豚肉41%、鶏肉33%となっている。この割合を前回調査と比べると、鶏肉だけが増加しており、その需要が強いことがうかがえる。
表5 平成21年度上期(4〜9月)の販売見通し(量販店)
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表6 量販店での食肉の取扱割合
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量販店の5割が減少と見込んでいる牛肉を種類別に見ると、和牛がその8割を占めており、その理由については、9割が、「景気悪化」と回答している。
牛肉の増加を見込む量販店では、その約5割が豪州産と回答しており、理由としては、割安の商品に消費者の需要がシフトしているため、円高による「小売価格の低下」が挙げられている。
表7 牛肉の増減見込みの種類別構成割合(量販店)
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同時期に全国の主要食肉卸売業者を対象に実施したアンケートによれば、「国産」、「輸入チルド」、「輸入フローズン」とも「同程度」が一番多い。国産の「増加」を見込んでいるものは、前回調査よりも減少している一方、輸入チルドの「増加」を見込んでいる回答が増加していることから、円高による輸入チルドの割合が今後さらに高まるとの見方の表れではないかと思われる。
また、それぞれのDIを見ると、いずれの種類においても前回調査よりポイントが上昇している。
牛肉の販売増加を見込む者にその理由を尋ねたところ、「国産」については、「お客様の要望」、また、「輸入チルド」については「卸売価格の低下」が最も多く挙げられた。
一方、牛肉の販売減少を見込む者にその理由を尋ねたところ、「国産」については、「豚肉、鶏肉を増やす」、また、「輸入チルド」及び「輸入フローズン」は、「牛肉消費の減退」を最も多く挙げている。
票8 平成21年度上期(4〜9月)の販売見通し(卸売業者)
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また、牛肉の販売見通しを部位別に尋ねてみたところ、「国産」については、「増加」の回答が多かったのは、「かた」、「もも」、「ばら」であり、高級部位のサーロイン、ヒレはそれぞれ6割、8割が減少という回答であった。
「輸入チルド」及び「輸入フローズン」については、同程度がほとんどで、部位別のバラツキはあまり見られなかった。
表9 平成21年度上期(4〜9月)の部位別販売見通し |
牛肉の生産量はと畜頭数、枝肉重量の増加から、19年春以降、各品種ともに増加傾向にあったが、乳オスについては、過年度の生乳の減産型計画生産の影響で子牛の出生頭数が減少したことから、昨年春以降減少傾向で推移している。
去勢和牛の生産量は、18年度にわずかながら増加に転じ、それ以来、増加傾向で推移している。過去の分娩頭数、子牛取引頭数、21年1月末の月齢別飼養頭数から、21年度上期にと畜適齢期を迎える肉牛の頭数を推測すると、いずれもプラスとなっており、21年度上期も前年同期に比べ3〜4%程度の増加が続くと見込まれる。
ただし、卸売価格の低下は、生産量の増加もあるが、「景気の影響により、需要が弱いことにつきる。(市場関係者)」と需要が減少していることが最も大きな要因であると言える。
図5 去勢和牛のと畜頭数と卸売価格(前年同月比)
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乳オス頭数は、18、19年度に実施した生乳の減産型計画生産により、昨年夏以降も減少している。21年夏頃までは減少傾向が続き、その後徐々に増加に転じていくと見込まれる。
19年度は低下を続けてきた卸売価格であるが、と畜頭数の減少により、20年度は前年同月を上回るようになってきている。
このように生産面から価格が上昇する要因はあるが、前述の量販店へのアンケートで乳オス牛肉の販売を増加する見込みがあると回答した社は「0」となっており、輸入牛肉との競合など厳しい状況が続くと見込まれている。
図6 乳オスのと畜頭数と卸売価格(前年同月比)
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交雑種のと畜頭数は18年度以降増加傾向が続いている。過去の分娩頭数、1月末の月齢別飼養頭数の推移を分析し、上期にと畜適齢期を迎える肉牛の頭数を推測すると、いずれもプラスとなることが見込まれる。
平成20年度の交雑去勢牛(B3)の平均卸売価格は、低下を続け、BSE発生前の平成12年度の1,236円を下回るレベルまで低下している。
生産面ではしばらく増加傾向が続くことから、今後の牛肉需要の動向に大きな影響を受けるものと見込まれている。
図7 交雑種 去勢牛のと畜頭数と卸売価格(前年同月比)
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最近の輸入牛肉をめぐる情勢としては、(1)世界的な金融不安の中にあって、円高が続いていること、(2)高騰していた飼料価格も下落してきたことから現地の価格も昨年より低下していること−などから、輸入商社にとっては、輸入しやすい状況となっている。しかし、「国内の需要が弱く、牛肉の在庫も抱えていることから、手当てを控えている」のが現状のようだ。輸入牛肉全体としてはこのような状況であるが、前述のとおり、販売単価の低い外食産業は好調であるため、その原料となる加工用牛肉の需要は増加している。
国別に見ると、輸入牛肉の8割のシェアを占める豪州から日本への輸出について、豪州家畜生産者事業団(MLA)は、フィードロットの飼養頭数の増加に加え、豪ドル安もあり、増加するものと見込んでいる。しかし、日本の需要が好ましくない状況であるので、順調に輸入量が増加するかは疑問である。
米国産は、すべての大手量販店での販売が再開され、POS調査の結果を見ても販売は定着している。しかし、供給量については、BSEに関連して20カ月齢以下という日本向け輸出条件に大きく左右される状況にある。
日本政策金融公庫が20年12月に行った「消費者動向調査」によれば、「小売価格が下がれば国産食肉の購入を増やしたい」と消費者の3人に2人は思っている。
現在の牛肉小売価格の水準というと、豪州産の価格は、15年当時の米国産の水準に、国産牛の価格は、15年当時の和牛価格の水準に、それぞれ上昇している。
小売価格が値上がりしている牛肉は、高級食材の代名詞となり、懸賞の対象商品として使われたりする広告もよく見かける。一方、中国産冷凍ギョーザ事件による国産志向や景気後退による節約志向が高まる中、外食から内食への回帰が言われており、量販店での食料品の売り上げは伸びている。このような中、内食における高級食材の利用の可能性は高まっている。このことは、機構のPOS調査の結果において、本年1月1週目(昨年12月末と本年正月が含まれた週)の和牛の購買量が、通常の3倍程度増加したことに表れている。
図8 産地別年度別平均小売価格の推移(ばら、通常価格)
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日本は世界有数のグルメ国であると言われている。それは、国産、輸入を含めて食材のおいしさや、品質の面において厳選しているからにほかならない。
牛肉は、「ごちそう」のイメージが強くなってしまっており、景気が回復しない限り需要が戻らないのではないかと考えるが、内食、外食を含めて消費者が牛肉のさまざまな料理を食べる機会を増やし、牛肉全体の需要も回復させる取り組みを牛肉業界全体で進めることが大切ではないだろうか。
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