当機構は、平成21年3月5日に開催された食料・農業・農村政策審議会畜産部会での、建議および畜産をめぐる情勢を踏まえた農林水産省からの要請を受け、平成21年度畜産業振興事業を実施することとしています。 なお、平成21年度畜産業振興事業の実施に当たっては、20年度に引き続き事業実施主体の公募制を実施することにより、事業実施主体選定に係る透明性を確保するほか、事業の効率的・効果的な実施に努めていく所存です。 また、今回の公募から公募要領別表に定められていた事業ごとの応募者の要件を削除するとともに、一般社団法人および一般財団法人も事業実施主体の対象に加わりました。 最近の畜産を取り巻く情勢は、配合飼料価格が依然として高水準にあるため畜産物の収益性が低下していること、また、平成21年3月からの乳価値上げに伴う牛乳の値上げで消費の減少が懸念されること、さらに、景気の後退により消費者の低価格志向が強まる中、牛肉を中心とした食肉の消費が低迷し、牛枝肉価格の低落や肉用子牛価格の低下などを招いている現状にあります。 このような中で、平成21年度の畜産物価格決定に伴う関連対策は、酪農経営の経営改善、肉用牛および養豚経営の体質強化、飼料自給率向上、畜産物の消費拡大などを図るため、各般にわたり措置されたところです。本稿では、主要な関連対策を中心にその概要を紹介します。(なお、金額は所要額です。) 1 酪農関係○飲用需要変動対応緊急支援事業(組替新規) 28億円
21年3月からの乳価引き上げに伴う牛乳の値上げにより消費が減少した場合、乳価が相対的に低い加工向けの生乳が地域的に偏って増加するおそれがある。 このため、牛乳の消費減に伴うプール乳価の低下による影響を最大限緩和し、酪農家が安心して経営に取組むことができるようなセーフティーネットを構築する。 (2)内容生産者団体が四半期単位で実施する、牛乳の値上げによる消費減に伴い飲用牛乳向けが減少(その他向けの用途が増加)した指定生乳生産者団体に対する「とも補償」を支援する。 ○ 補てん金 平均減少率を超える減少分 30円/キログラム 平均減少率以内の減少分 20円/キログラム以内 ○ 拠出金額 生産者団体 飲用牛乳向け1キログラム当たり23銭 助成金 飲用牛乳向け1キログラム当たり69銭 ○生乳不需要期支援緊急対策事業(新規) 12億円
依然として高水準にある配合飼料価格の酪農経営への影響を緩和し、生乳の安定的な生産体制を確保することが緊急の課題である。特に、飲用仕向けの多い都府県においては、生乳の季節的な需給変動に応じた生乳生産が重要となっている。 このため、生産者による不需要期の供給抑制のための取組にかかる経費の一部を補てんし、もって、不需要期における乳価下落の影響を緩和する補完的セーフティネットを確保する。 (2)内容都府県の酪農生産者が、生産者団体が行う牛乳などの消費拡大のための取組に参画し、かつ、早期乾乳などの取組を行う場合に、「不需要期支援交付金(経産牛1頭当たり2,400円)」を交付する。 ○生乳需要構造改革事業 86億円
国際化の進展を踏まえ、我が国酪農・乳業の健全な発展を図っていくためには、輸入品との一定の競争力を有するチーズや、鮮度が重視される液状乳製品および発酵乳に仕向けられる生乳の供給を拡大していくことが課題である。 このため、指定生乳生産者団体による、これらの乳製品に仕向けられる生乳の供給拡大を支援することなどにより、国産生乳の需要構造の改革を推進し、もって、我が国酪農乳業の健全な発展に資する。 (2)内容指定生乳生産者団体が、チーズ、液状乳製品および発酵乳向け生乳を、基準となる数量を上回って供給した場合に奨励金(新規拡大分12円/キログラム、増加実績分10円/キログラム)を交付する。 ○酪農生産基盤強化緊急対策事業(新規) 10億円
我が国酪農の国際競争力を強化し、国民に高品質な牛乳乳製品を安定的に供給していくためには、乳量、乳質に優れた生涯生産性の高い優良種畜を高度に利用することにより酪農経営における牛群の遺伝的能力を向上することと併せて、乳用牛の個体管理を強化し、遺伝的能力を十分に発揮させる飼養管理技術の向上を図ることが大きな課題となっている。 このため、受精卵などの優良遺伝資源の導入や種雄牛能力評価の向上、乳用牛雌性判別精液の生産拡大を通じて乳用牛群全体の能力を向上させるとともに、飼養管理情報に基づく技術指導および先進的飼養管理技術の実証展示を行うことにより、我が国酪農の生産基盤強化を緊急に図るものとする。 (2)内容(1) 乳用牛群能力向上対策 ア 優良遺伝資源活用対策 乳用牛群の効率的な遺伝的能力向上に向けた、優良な受精卵、性判別受精卵の導入および供卵牛の借り上げ ・優良受精卵の導入 50千円/個 ・性判別受精卵の導入 15千円/個 ・供卵牛の借り上げ 75千円/頭 イ 種雄牛生涯生産性評価強化対策 生涯生産性との関連が深い体型の遺伝的改良を図るため、種雄牛評価に資する体型形質データの収集・分析 ウ 性判別精液生産拡大対策 安定的に優良な後継牛を確保し、収益性の高い酪農経営を図るため、性判別精液の生産拡大のための機器などの導入および性判別精液の利活用状況や受胎率などの調査 (2) 飼養管理技術高度化対策 ア 飼養管理情報に基づく技術指導 (ア)飼料給与量や繁殖状況など飼養管理技術の改善に取り組む際に必要な情報収集および指導 (イ)育成および乾乳期の適切な飼料給与の分析 (ウ)技術指導員の研修の実施 (エ)飼養管理技術指導に必要な乳量・乳質検査機材の導入 イ 先進的飼養管理技術の実証展示 生産性や品質の向上に資する先進的飼養管理技術に関する情報収集および生産現場での実証展示 2 肉用牛関係など○肉用子牛資質向上緊急支援事業(拡充) 79億円
肉用牛繁殖経営においては、子牛価格の急激な低下により農家の経営意欲が低下しており、繁殖雌牛資源の減少が懸念される状況にあることを踏まえ、肉専用種繁殖経営の収益性の改善を図るため、優良な種雄牛の精液による人工授精または優良な繁殖雌牛への更新による子牛の資質向上や意欲的な飼養管理の改善による繁殖性の向上に取り組む肉用子牛生産者に対して支援交付金を交付する。 (2)内容地域で定める「肉用子牛資質向上促進計画」に基づき、肉用子牛生産者が交付対象牛を生産した黒毛和種繁殖雌牛について以下の取組を行うことを条件に、支援交付金を交付する。 (1) 優良な種雄牛精液による人工授精 (2) 繁殖雌牛の更新 ○ 交付対象者 肉用子牛生産者補給金制度に加入する肉用子牛生産者 ○ 交付対象牛 家畜市場における取引価格が発動基準(40万円または都道府県の平均取引価格のいずれか低い額)を下回った肉用子牛 ○ 支援交付金単価 (1) 優良な種雄牛精液による人工授精
※ただし、子牛販売時の母牛の年齢が12才未満の場合に限る(母牛の年齢が10才または11才の場合にあっては低能力牛を除く。)。
※ただし、子牛販売時の母牛の年齢が12才未満であって(母牛の年齢が10才または11才の場合にあっては低能力牛を除く。)、繁殖性向上の取り組みを実施する場合に限る。 (2) 繁殖雌牛の更新
○肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン:拡充) 174億円
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(1) 拠出割合 | 生産者:国=1:3 |
(2) 事業実施期間 | 平成19年度〜平成21年度(3年間) |
(3) 発動基準 | 基準家族労働費(直近3カ年の平均家族労働費) |
(4) 補てん割合 | 基準家族労働費と四半期平均推定所得との差額分の8割 |
(5) 対象品種 | 肉専用種、交雑種、乳用種の3区分 (必要に応じて褐毛・短角の設定も可能) |
(6) 生産者積立金 | 都道府県ごとに金額を決定 |
(7) 事業対象経営 | 認定農業者および認定農業者に準ずる者として都道府県知事が認定した者 |
国内牛肉消費の減少に伴い枝肉価格が低迷していることから、1年以上の長い肥育期間を要する肉用牛肥育経営においては、21年度も物財費割れの状況が継続されると見込まれる。
このため、21年度も枝肉価格が低迷した場合に対応できるよう本事業の実施に要する補てん財源を確保し、事業の円滑な実施により、肉用牛肥育経営の安定を図る。
(1) 全国平均で品種区分ごとの肥育牛1頭当たりの四半期推定所得がマイナス(粗収益が家族労働費を除く生産費を下回ること)となった場合、肉用牛肥育経営安定対策事業(マルキン事業)の契約生産者であって、生産性向上に計画的に取り組む肥育牛生産者に対して、そのマイナス分の6割(補てん率80%×国の負担分3/4)について補てんを行う。
(2) (1)の事業の円滑な推進のため、生産性向上のための検討会の開催や指導などを行う。
肉用牛肥育経営については、導入時の素畜価格と飼料費が高水準の時期に肥育された牛が出荷されており、枝肉価格の低迷により、収益性の悪化が続いている。
このため、生産性の向上や飼料自給率の向上の取組を推進することにより、肉用牛肥育経営の安定を図る。また、生産者が環境対策の強化、新たな国産牛肉需要の創出および早期出荷に取り組む場合に追加的な支援を行い、肉用牛の生産・流通・消費の振興を図る。
(1) 肥育牛経営緊急支援強化事業
肉用牛肥育経営安定対策(マルキン事業)に参加する生産者が、アの取組を行う場合にステップ奨励金を交付する。
また、この取組に加えて、イの取組を行う場合にアップ奨励金を交付する。
これらの奨励金は、マルキン事業の発動に連動して、四半期ごとに交付する。
ア 基礎部分:ステップ奨励金 出荷牛1頭当たり10,000円(全品種共通)
下記の取組のうち、いずれか一つに取り組む。
(ア)生産性を高める畜舎づくりに資する取組
・換気の改善・防暑または給餌の改善
・新しい敷料の導入
・害虫などの侵入防止または人・車・資材の消毒
(イ)飼料自給率の向上に資する取組
・エコフィード、農場副産物の活用
・自給飼料の生産・利用
イ 加算部分:アップ奨励金 出荷牛1頭当たり7,000円(全品種共通)
アの取組に加え、下記の取組のうち、いずれか一つに取り組む。
・水質検査の実施
・害虫駆除機器の導入
・臭気検査の実施または消臭剤の使用
・たい肥成分分析の実施
・新規国産牛肉(子牛肉)の需要創出
・早期出荷の実施
※加算分の交付に当たっては、自主的な牛肉の販売促進を行うため、生産者は拠出するよう努めるものとする。
(2) 肥育牛経営強化推進指導事業
(1)の事業の円滑な推進のための会議の開催、支援および指導などを行う。
(3) 高品質乳用種等素牛生産推進事業
高品質な乳用種等素牛を生産するため、地域ぐるみで生産方式のあり方の検討などを行う。
食料自給率の向上を図る上で、食肉については国産品のシェア拡大、牛肉の需要増進を図ることが課題となっている。しかし、栄養、機能面や安全性の誤解などから、牛肉の需要は低下し、逆に豚肉、鶏肉の消費水準が高まっている状況である。
このため、国産牛肉の地域ブランド化を推進し、生産・需要基盤の強化を図るとともに、特に需要および価格が低迷している国産牛肉に重点をおき、消費者などの食肉に関する誤解の払拭と一層の理解醸成を図るほか、産地と小売・外食部門との連携強化と販売ルートの新規開拓・拡大などを通じ、輸入品に置き換え、国産食肉の需要割合の拡大を推進する。
(1) 国産牛肉の地域ブランド化などの推進
国産牛肉の地域ブランド化を推進するため、地域の販売戦略の策定、販売戦略に基づく販売促進活動の実施、飼養管理技術検討会の開催、飼養管理技術向上のための機器の整備などを行う。
(2) 国産食肉への理解醸成の推進
食肉の機能・栄養面や安全性に関する消費者などの誤解、不安を払拭しつつ、食肉に対する基本的な理解を深め、牛、豚、鶏肉の需要構造の改善を図るため、食肉に関する相談・情報提供体制の構築、有識者委員からなる食肉学術フォーラムの開催、食肉に関する機能成分などの調査研究・実証試験、シンポジウムや産地交流会、意見交換会などの開催、小売店頭での知識普及と併せた試食会の開催などを通じた理解醸成などを行う。
(3) 国産食肉の需要・販路拡大の推進
国産食肉のシェアの拡大を図るため、国産食肉の利用技術の向上および普及、地域の産品と国産食肉などを使用した特色ある食肉加工品の開発、食肉の海外における需要・販路拡大、学校給食における国産食肉の利用拡大などを行う。
(4) 生産者団体による国産牛肉の販売強化の推進(新規)
生産者団体による国産牛肉の販売強化を図るため、食肉の需給情報の収集・共有のための協議会の開催、生産者団体による直接販売や外食事業者などとの連携の強化を通じた国産牛肉の販売ルートの拡大、産地処理した部分肉の産地表示販売、産地食品製造業などのニーズに対応した新商品の開発などを行う。
近年の配合飼料価格の高騰などにより収益性が低下していることから、平成20〜21年度の間、飼料費などの上昇に伴う生産コストの増加に見合う水準まで地域保証価格を引き上げ、補てんに必要な基金の原資の一部を追加支援しているところである。
このため、引き続き、生産コストの増加に応じた地域保証価格を設定し、補てんに必要な基金の原資の一部を支援することにより、養豚経営のセーフティネットを維持し、豚肉の安定的供給と養豚経営の安定的発展を図るものとする。
注:地域保証価格とは、豚肉の市場価格が地域保証価格を下回ったときに、生産者積立金により補てん金の交付が行われる価格
(1) 肉豚価格差補てん緊急支援事業
道府県単位で生産者など自らが自主的に実施している肉豚価格差補てん事業について、各道府県団体が生産コストに見合う水準に地域保証価格を設定する場合に要する生産者積立金の原資の一部を地域肉豚生産安定基金から供給する。
(2) 肉豚価格差補てん緊急支援推進事業
(1)の事業の円滑な推進を図るための推進会議の開催、連絡調整、指導などを行う。
養豚経営において、飼料価格高騰やWTOなどの国際化の進展に対処するためには、国内有用資源の活用を図りつつ、事故率の低減や繁殖性の向上などを通じた生産性の向上を図っていくことが重要な課題となっている。
このため、養豚集団が取り組む生産方式の高度化、種豚の能力向上、地域が一体となって生産性向上を図るための対策や養豚経営に起因する苦情発生を抑制するための取組などの多種多様な活動に対する支援を行い、国際競争力を備えた養豚生産基盤の確立を図る。
(1) 地域養豚振興促進
未利用資源の活用、新たな飼養管理方法の実証、改良体制の再編・拡充や銘柄豚の確立などに向けた以下の取組を支援する。
ア 未利用資源活用推進(新規)
養豚集団における未利用資源の有効活用体制の整備など
イ 新生産飼養方式実証推進(新規)
飼養管理手法の高度化や共同採精施設の整備など、先進的な飼養方法の実証
ウ 豚改良体制再編整備推進
能力検定の推進、多様な特性を有する育種資源(純粋種)の確保、不良遺伝形質の排除などによる肉質改善の推進など
エ 地域銘柄化確立推進
高付加価値化を図るための銘柄豚の生産体制の確立
(2) 養豚生産性向上促進
地域における生産性向上目標や衛生プログラムの達成などに向けた以下の取組を支援する。
ア 事故率低減対策
地域防疫対策の確立、病原体の侵入・まん延防止(オールインオールアウト方式の導入など)の徹底など
イ 繁殖性向上対策
豚人工授精の普及、早期妊娠診断の実施など
ウ 労働生産性などの向上対策
飼料給与方式の改善、飼養管理の省力化など
(3) 養豚経営環境問題クリア支援強化(新規)
養豚経営に起因する水質汚濁や悪臭などに係る苦情を軽減するための以下の取組を支援する。
ア 水質汚濁対策
水質検査の実施
イ 悪臭軽減対策
臭気検査の実施、臭気低減資材の利用、たい肥成分分析の実施などによる悪臭軽減の実施
(4) 養豚振興推進指導
(1)、(2)および(3)の事業の円滑な推進に必要な計画の策定や地域における課題の検討、調査、指導などを行う。
配合飼料の主な原料であるとうもろこしなど、飼料原料の多くを輸入に依存している我が国の畜産経営が、持続可能な畜産を推進するためには国産飼料の活用が重要となっている。
このため、草地改良による高位生産草地などへの転換促進、レンタカウを活用した放牧の導入促進、専用品種の安定供給による飼料用稲の生産拡大などを図り、飼料資源をめぐる新たな国際環境に対応できる畜産の生産構造の確立を図る。
地域に適合したイネ科およびマメ科永年牧草の優良品種の導入や土壌分析に基づく草地の改良により、生産性の低下した草地の高位生産草地などへの転換を促進する。
このため、草地改良のための作付作業費、土壌改良に要する経費、種子代などの施工費の1/3以内を助成する(上限10千円/10アール)。
(2) 粗飼料の効率的利用推進
効率的な飼料利用を図る目的から、放牧の推進のため、放牧集団の共同作業の推進やレンタカウ制度の構築などを図る。
(3) 飼料作物種子の安定供給
飼料作物種子の増殖保管を行うとともに、飼料用稲専用品種の種子について都道府県段階における種子生産を補完するための全国団体による供給体制を整備する。
生産性の向上を図ろうとする畜産経営などに対し、個々の経営の創意工夫や主体的な判断を尊重しつつ、経営改善への取組を支援するという観点から、必要な機械などの整備を推進し、畜産経営の生産性向上対策を支援する。
畜産経営の生産性向上を図るために必要な機械などを畜産農家などがリース方式により導入する際に、リース料のうち、当該機械などの購入費分の1/3を助成する。
〈貸付対象機械〉
畜産経営の生産性向上に資する機械などとして以下に掲げるもの
(1) 生産効率向上に資する機械など(通風装置、飼料攪拌機、細霧装置 など)
(2) 労働力軽減に資する機械など(自動哺育機、自動給餌機、自動搾乳装置 など)
(3) 飼料費低減などに資する機械など(飼料収穫機、飼料梱包機、飼料貯蔵施設、エコフィード給餌装置 など)
なお、上記事業のほかの事業を含む畜産業振興事業全体の内容については、当機構のホームページにPR版や事業実施要綱などを掲載することとしておりますので、ご覧ください。
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