海外駐在員レポート  
 

市場とう汰・寡占化が進むブラジルの牛肉パッカー

ブエノスアイレス駐在員事務所 石井 清栄 松本 隆志


    

1.はじめに

 近年、世界最大の牛肉輸出国であるブラジルの大手牛肉パッカーは、好調な輸出などを背景として、自社株の公開や政府融資などにより資金調達を行い、海外企業の買収や工場の新設など規模拡大を行ってきた。しかしながら、2008年9月の米国に端を発した国際金融危機の影響により牛肉輸出が減少したことなどから、国内第4位の牛肉パッカー、インデペンデンシア社をはじめとする5社が会社更生法の適用を裁判所に申請し、そのほか11社が経営危機にあるとされている。こうした事態を受け、ブラジル政府は、牛肉パッカーを含む農畜産業を救済するため、運転資金の融資対策として100億レアル(4900億円:1レアル=49円)の予算を措置した。

 このような状況の中で、世界最大規模の牛肉パッカーであるJBS社がサンパウロ州の工場の生産拡大を図るなど、大手牛肉パッカーは当面は国内シェアの拡大を目指して引き続き規模拡大を行っていくものと思われる。

 そこで、今回はブラジルの牛肉パッカーにおける統廃合および市場の寡占化の状況を報告する。

世界の上位牛肉生産・輸出国(2008年推計値)

2 牛肉パッカーの現状

(1) これまで(規模拡大前)の歩み

 ブラジルの牛肉パッカー(と畜)の歴史は、ポルトガル人のペドロ・アルヴァレス・カルバルが1500年にブラジルを発見し、その後ポルトガル人が使役用、肉用、乳用として牛を現地に持ち込んだことから始まったとされる。当時は零細な家族経営であり、一日2〜3頭のと畜が行われていた。その後、1980年代のインフレの加速による国内金融危機を克服し、本格的に輸出が始まる90年代後半まで、と畜の大部分は国内向けであった。なお、現在も非上場の同族経営が依然として多いことが、ブラジル牛肉パッカーの特徴として挙げられる。

(2) 現在のパッカー数および所在地域

 業界関係者からの聞き取りによると、牛肉パッカーは大手5社(JBS社、マルフリグ社、ベルチン社、インデペンデンシア社、ミネル バ社)以外に中規模業者が40〜50社、各市など(地域)でと畜を行う小規模業者が500社以上ある。また、工場数は、牛の飼養頭数が一番多い中西部(マッド・グロッソ州、マット・グロッソ・ド・スル州、ゴイアス州)を中心に1,600カ所程度あるとされ、そのうち輸出を行うことができる連邦政府の認定を受けた工場は、2割程度とのことである。なお、15万〜20万人がこの業界に従事しているとのことである。
ブラジルの主要牛肉パッカー(2007年)

3.牛肉パッカーの規模拡大の経緯

(1) 規模拡大の背

 ブラジルの一部牛肉パッカーが規模拡大戦略を採った背景としては、まず輸出量の飛躍的な増加が挙げられる。同国は広大な土地を利用した放牧肥育により、低コストで肉牛を生産できる。95年に政府の衛生面などの輸出管理が強化されたことから、輸出を本格的に目指す牛肉パッカーは、施設の近代化などに取り組み始めた。また、99年の変動為替相場制の導入でレアルの為替レートがドルに対して切り下がったことにより輸出競争力が強化されたことも輸出の追い風となった。さらに、牛肉主要輸出国である米国における2003年のBSE(牛海綿状脳症)の発生や、ブラジルに次ぐ輸出国である豪州における近年の干ばつなどが、輸出の増加に一層の拍車をかけた。2008年の輸出量(枝肉ベース、暫定値、以下同じ)は、輸出が本格的に始まった95年と比べ、数量で7倍以上の200万トン、金額で11倍以上の55億ドル(5390億円)となった。

 次に、国内経済がおおむね順調に成長してきたことによる牛肉消費の増加が挙げられる。2008年の国内牛肉消費量(枝肉ベース)は、95年と比べ34.4%増の702万6,000トンとなった。1人当たりの牛肉消費量についても、10.1%増の36.9キログラムとなった。なお、2005年および2006年を中心にして肥育牛価格が相対的に安かったことも消費量の増加に影響した。

 そのほか、(1)ブラジル国立社会経済開発銀行(BNDES)の低利融資(企業育成政策)をはじめ、市中銀行についても、近年のブラジル国内の好景気から融資に積極的であったこと(2)今後、国内牛肉生産の伸びが鈍化する可能性がある中、口蹄疫など家畜疾病が発生し、牛肉の輸出が困難になった場合の経営リスク管理として、海外の企業買収などが有効な措置として考えられたこと−などが挙げられる。
ブラジルの牛肉輸出
ブラジルの牛肉消費量
ブラジルの牛のと畜頭数および牛肉生産量

(2) 資金調達の方法および規模拡大の事例

 規模拡大に要する資金調達の方法としては、金融機関の融資のほか株式公開(注1)や社債(注2)の発行が行われた。例えば、2007年には株式公開でJBS社が8億6500万ドル(848億円)、マルフリグ社が5億ドル(490億円)、ミネルバ社が2億4000万ドル(235億円)の資金調達を行った。

 また、融資のうち、BNDESの低利融資の概要は、以下のとおりである。

・ 元金の償還期限は、10年(うち据置期間3年以内)

・ 利率は年8%+インフレ率(インフレ率が4%であれば、利率は8%+4%の12%)

・ 貸付額5000万ドル(49億円)以上は、BNDESからの直接融資、5000万ドル以下であれば、市中銀行を通じての融資

 2008年には、BNDES からの直接融資でJBS社、ベルチン社、マルフリグ社、インデペンデンシア社4社へ合計47億レアル(2303億円)の融資が行われた。なお、BNDESは、JBS社、ベルチン社、マルフリグ社に資本参加している。さらに、スイスの金融機関からの融資など海外からの資金調達も行われた。

  注1: 未上場会社の株式を証券市場において売買可能にすること 
    2: 会社が資金調達を目的として、投資家から金銭の払込みと引き替えに発行(起債)する債権

 規模拡大の具体的な事例として、以下のとおり近年におけるJBS社の海外企業の買収実績を取り上げてみた。

○ JBS社の海外企業(食肉パッカー)買収の実績

 このように、同社は2005年以降、海外の食肉関連企業の買収を積極的に行ってきた。同社はこのほか、2008年(第3四半期まで)に工場の新・増設にも3億1380万ドル(307億円)を投入した。

 一方、ベルチン社は、2007年にウルグアイの食肉パッカー、カネロネス社を買収するとともに、国内第8位の売上高(2007年)を誇る乳業メーカー、ビゴール社を買収した。同社は、経営の多角化を積極的に行っており、食品、化粧品、建設、道路、バイオ燃料分野などにも進出している。

4.国際金融危機の影響およびその後の状況

 以上のように、大手牛肉パッカーは規模拡大を続けてきたが、2008年9月の米国に端を発する国際金融危機の拡大により状況は一変した。

(1)輸出への影響

 2008年11月から2009年4月までの牛肉輸出(枝肉ベース)は、主要輸出相手国であるロシアやベネズエラなど向けが減少したことから、数量で前年同期比19.2%減の約74万4,000トン、金額で同22.5%減の16億3800万ドル(1605億円)となった。2009年3月以降、回復の兆しも見られるものの、3月および4月の輸出は数量で同3.7%減の29万2,000トン、金額で同15.1%減の6億ドル(588億円)と依然として前年水準を下回っている。オランダの農業融資を主力とする金融機関ラボバンクによれば、2009年のブラジルの牛肉輸出は、金融危機の影響から脱却できず2008年を下回ると予測している。
牛肉輸出数量および金額

(2)国内への影響

 金融危機以降、牛肉より安価な豚肉や鶏肉の消費が増加したことや輸出の減少に伴い国内市場への牛肉供給が増加したことから、2009年2月における牛肉(Forequarter:前四分体)1キログラム当たりの卸売価格は、2008年10月の5.04レアル(247円)から2009年2月には29.0%下回る3.58レアル(175円)となった。業界団体によると、この価格は肉牛の生産コストを15%下回るものであるとのことである。
ブラジルの牛肉卸売価格

(3)経営の再構築を迫られる牛肉パッカー

 国内外での牛肉需要の低下に加え、市中銀行も一転して貸し出しに慎重になる中で、ブラジル国内第4位の牛肉パッカー、インデペンデンシア社は、2008年11月に赤字経営が続いているマット・グロッソ・ド・スル州カンポグランデ工場の操業を停止したのに続き、2009年2月25日には同州のほかのすべての工場(12工場)の操業も停止し、翌26日に本社所在地のカジャマル地裁に司法回復法(日本の会社更生法に相当)の適用を申請した。その後、ゴイアス州、マット・グロッソ・ド・スル州、マット・グロッソ州およびサンパウロ州の7工場と配送センターを閉鎖して、同社の総従業員数1万2,000人の5割以上に相当する6,200人を解雇した。同社の負債は、10億ドル(980億円)以上に及ぶとみられる。なお、同社は司法回復法の適用申請日から60日以内に保有する資産、債務および従業員数などに関する報告書の地裁への提出が義務付けられた。その後、地裁の許可を得て4月上旬にミナスジェライス州の工場を再開したが、さらにマット・グロッソ州の2工場の閉鎖と従業員1,100人の解雇を発表した。

 同社は2007年に15億7000万レアル(777億円)を売り上げるなど順調な経営成績を上げ、さらに2008年には新規に6工場が稼働し始めたことから、1日当たりのと畜能力は1万800頭と業界第3位のベルチン社とほぼ肩を並べた。このため、同年の販売高は前年比64.0%増の25億7000万レアル(1259億円)と予測され、さらに2009年にはトカンチンス州に1億5000万レアル(73億5000万円)を投じて工場の新設を計画するなど牛肉パッカーの中では最も健全な経営を行っている企業の1つとして広く知られていた。

 同社が司法回復法を申請した理由としては、表面上はロシアやアンゴラ向けなどの輸出が大幅に減少したことなどが挙げられているが、業界関係者によれば、このような大企業が倒産した場合の周囲への影響を考慮すると、BNDESや市中銀行が簡単に融資を取り止める理由が見当たらず、何かほかの理由があるのではないかということであった。なお、インデペンデンシア社もJBS社と同様、同族経営である。

 既に中小規模のフリゴエストレイラ社(1日当たりの牛のと畜能力は1,500頭、以下同じ)、マルジェン社(6,000頭)、クアトロ・マルコス社(7,200頭)、マザルト社(900頭)およびアランテ社(7,300頭)が司法回復法の適用を裁判所の申請しており、インデペンデンシア社は牛肉パッカーとして6社目の同法の適用申請となった。この6社以外にも11社の牛肉パッカー(小規模のパッカーを含めるとより多くの社)が経営難にあるとみられている。

 ブラジル食肉加工工業協会(Abrafrigo)によれば、現在50の工場が閉鎖や休業中であり、特に影響を受けているのはマット・グロッソ・ド・スル州で、36カ所ある工場のうち21工場がと畜を停止しているとのことである。アランテ社の一部工場では、生産者が同社の肉牛購入代金の支払遅延に抗議して、工場へ通じる道路を封鎖するなどの騒動も起きている。

(4)政府の対応

 このような状況を憂慮したルーラ大統領は、2009年3月4日に開催された経済関係閣僚と銀行代表との会談において、「牛肉パッカーの経営の悪化がさらに深刻化した場合には、全国の零細・小規模畜産農家を危機の淵に追い詰めるような事態になると同時に、主要輸出品目の1つである牛肉産業の今後の発展が阻害される」と述べ、牛肉パッカーに対する資金面での支援を政府系銀行の首脳に命じた。

 これを受け、国家通貨審議会(CMN)は4月16日の臨時会議において、食肉パッカーの救済対策を含む農畜産業救済措置として、126億レアル(6174億円)の予算を措置した。そのうち、100億レアル(4900億円)が牛肉パッカーなどの農業関係企業、農業機械・機器工業、農協および農家に対する運転資金として融資される。融資元はBNDESで市中銀行を通じて融資され、金利は年率11.25%、返済は1年据え置きの2年払いとなっている。なお、残りの26億レアル(1274億円)は、バイオエタノールの保管のための融資プログラムなどに使用される。

 ブラジル牛肉輸出産業協会(Abiec)関係者によれば、100億レアルの3割(30億レアル、1470億円)が牛肉パッカーに融資される見込みであり、ベルチン社は、融資申請の準備を行っているとのことであった。しかしながら、業界関係者によれば、現在のような状況下で、市中銀行が自分達のリスクを考えて、融資について慎重となっており、融資するとしても対象は大手牛肉パッカーのみに限られ、中小パッカーに融資される可能性は低いのではないかとのことであった。

5.逆風の中、規模拡大を進める世界最大規模の牛肉パッカーも

 このように中小パッカーが経営難に追い込まれる中にあって、世界最大規模の食肉パッカー(世界の牛のと畜シェアは推計8%)であるJBS社をはじめ大手牛肉パッカーは、国内市場シェア拡大などを重視した規模拡大を依然として進めている。業界関係者によると、現在の状況は牛の購入代金の現金決済能力と中小規模の牛肉パッカーより強力な販売網を持つ大手牛肉パッカーが国内市場シェアを高める好機であるとしている。主な状況は以下の通り。

 
○JBS社


JBS社の概況

主な歩み

 ・1953年:ゴイアス州で一日5頭のと畜を、創業者のバチスタ一族が開始

 ・77年:国内パッカー初の輸出認定登録

 ・81年〜2002年:ブラジル国内で多くのと畜場を買収

 ・2005年〜:アルゼンチン牛肉パッカーなど海外の企業買収、工場の新設などを積極的に展開

本社:サンパウロ市

株式保有比率

 2008年9月現在で約1億4400万株のうち創業者であるバチスタ家一族が50.1%を所有、なお、BNDESも13.0%を所有

組織構成

 主にバチスタ一族から成る8人の幹部委員会の下に米国部門(その下にそのほかの国部門)、投資部門、財務部門、法務部門および経営管理部門から構成される。

CEO(最高経営責任者)

 Joesly Mendonca Batista(任期は2007年2月1日から2010年2月1日まで)

売上高(2008年第3四半期)

 45億ドル(4410億円)
 
 内訳 米国牛肉43%、米国豚肉14%、ブラジル22%、豪州13%、イタリア5%、アルゼンチン3%

 売上高(2007)年に占める輸出比率は3割

総利益

 ・2005年:15億5700万ドル(1526億円)

 ・2006年:18億6900万ドル(1832億円)

 ・2007年:79億2100万ドル(7763億円)

 ・2008年(推計):108億4100万ドル(1兆624億円)

経営の特徴

 1 バチスタ一族主導による機動的かつ非常に積極的な事業展開

 2 市場シェア重視、薄利多売経営

 3 鶏肉や乳業部門などへの進出など経営の多角化意欲は低い

 4 近年は、加工食肉製品の生産や流通施設の整備に本格的に着手と畜実績(2008年第3四半期)

 牛:295万4000頭(前年同期比22.2%増)

 豚:324万頭(同9.8%増)

JBS社の施設の状況

各国の取引先企業数など

現経営体制下での今後の事業展開に対するメリット

 1 主要牛肉輸出国に整備する生産施設

 2 多様な食肉生産ライン

 3 110カ国以上に輸出できる優れた流通体制

 4 世界的に知られるブランド力

 5 市場に精通した経営陣の配置

同デメリット

 1 同族経営による意思決定が硬直的になるなど一部弊害

 2 これに伴う企業統治機能の一部欠如

 3 長期的視点からの経営計画が未整備

 4 利益率の低さ

 JBS社は、金融危機の影響による為替ヘッジの失敗などにより、2009年第1四半期は3億2270万レアル(158億円)の赤字を計上した。

 このため、今後は牛肉パッカーの積極的な買収は行わず、必要に応じて司法回復法の適用を申請している国内の牛肉パッカーの工場の購入および国内販売網の拡大のための販売会社の買収を視野に置いている。この一環としてアマゾナス州の州都マナウスに支社を設置した。

 また、サンパウロ州バレトス市で2000年から稼動している工場の生産拡大のため、900人近くを新規に雇用する計画である。これにより同工場の牛のと畜能力は1日当たり1,200頭から1,500頭に増加することになるが、今年中には人員の増加と合わせて工場施設の拡大などにより2,500頭まで拡大することを目標としている。バレトス工場を含む生産体制の強化は、金融危機の下、複数の企業がとう汰された牛肉市場へのさらなる進出を図る戦略とみられている。同社は、「牛肉生産の拡大は、国内市場への供給の継続、雇用維持、牛の生産、加工、販売にまで至る牛肉産業全般の強化並びに牛肉業界における同社のシェア拡大を目的とするものである。」との声明を発表している。
 

○ その他の大手パッカー

(1)ベルチン社

 同社は、司法回復法の適用を申請した中小規模の牛肉パッカーの3工場を買収し、さらに工場を新設するなどの積極的な経営展開により、2009年第1四半期は、5090万レアル(24億9000万円)の黒字となった。

 こうした中で、ベルチン社は、今後5年間で売上高を2008年の75億レアル(3675億円)の2倍以上の190億レアル(9310億円)にする「売上倍増計画」を発表した。この計画を実現するために、同社は自己資金とBNDESなど金融機関からの融資により過去最大の31億レアル(1519億円)の投資を行いたいとしている。

 だがその一方で、同社(グループ)の持ち株会社(ちなみに、同社も同族経営である)が金融危機の影響による牛肉部門を除く食品部門の不振などから巨額の債務を抱えているため、業界関係者の間では近いうちベルチン社の牛肉部門を含む食品部門がマルフリグ社に買収されるのではないかとの噂が高まっている。ベルチン社はこの噂について否定しているが、マルフリグ社は今のところ具体的な進展はないものの、買収交渉が行われていることを認めている。

(2)マルフリグ社

 2009年3月に国内と海外6カ国の50以上の工場(牛以外のと畜施設を含む。)を閉鎖したこともあり、2009年第1四半期は3820万レアル(18億7000万円)の赤字となった。

 しかし、同社はマッド・グロッソ州のロザリオ・オエステ市で豚肉工場を建設することを発表した。創業開始は2010年を予定とし、1日当たり3,000頭のと畜能力を持つ工場と飼料工場が建設される。同工場には1億5000万レアル(73億5000万円)の資金が投入される。また、リオグランドデスル州の七面鳥のと鳥工場(インテグレーション)も6500万レアル(31億8500万円)で買収した。同社は現在、本業の牛肉以外の食肉事業の多様化を図っている。

(3)ミネルバ社

 同社は、輸出を大幅に増加させるとともに、国内販売シェアも拡大させたことから、2009年第1四半期は、わずかではあるが100万レアル(4,900万円)の黒字となった。

 こうした中で、同社はバレトス市に新たに食肉加工会社ミネルバ・ドーン・ファームズ社(工場)を建設した。同工場は、ミネルバ社とアイルランドのドーン・ファームズ社との合弁であり、1日当たり240〜360トンとブラジル国内では最大規模の処理能力を持つ。同工場には8000万レアル(39億2000万円)の資金が投入され、年間2億ドル(196億円)の売上を目標としている。また、ここで生産される7割近くが輸出に向けられる計画である。なお、今回同工場を訪問し担当者に話を聞いたところ、「今は工場を立ち上げたばかりで、国内向けのローストビーフやラザニア用原料しか生産していないが、今後はコンピュータ制御による最新の機械設備などを生かして、日本向けなども含め多くの国に食肉加工品の輸出を行っていきたい」とのことであった。

 また、隣接するミネルバ社の工場は、従業員が1,000人で牛のと畜能力は1日700頭であり、300キロメートル圏内の農家からゼブー系の牛を購入している。この工場では、輸出向けが8割とのことであり、輸出先は、ロシア、ベネズエラ、EU、アルジェリアなどの中東諸国(ハラル処理対応)、フィリピンなどの東南アジア諸国、香港(内臓類)など多岐にわたる。

ミネルバ・ドーン・ファームズ社(工場)の外観
ミネルバ社工場外観

(4)今後の動向

 以上の状況からすると、中小規模のパッカーは、地域に根ざした堅実な経営を行っているケースを除いて今後もとう汰され、その結果、大手パッカーによる寡占化が進むことが予想される。ラボバンクは、中期的には牛肉パッカー間の買収や合併など業界の再編が進み、牛肉パッカーの数は一層減少するとみている。

6.終わりに

 以上、ブラジルの牛肉パッカーの動向について見てきたが、確実に言えることは、国内でパッカーのとう汰および市場の寡占化などが進み効率的な生産が行われることで、生産コストの削減が図られ、同国の輸出競争力は着実に強化されることである。これについては、ブラジルの業界関係者いずれもが肯定していた。世界的に見て依然として輸出余力が最もあるのはブラジルであることは、否めない。ラボバンクによれば、同国の輸出量は、2010年あるいは2011年以降は、順調に伸び2016年には現在の約1.5倍の350万トンに達すると予測している。とすれば、今後ブラジルの牛肉輸出の動向が、国際牛肉市場に与える影響はますます大きくなるであろう。

 また、大手牛肉パッカーは、現在のところ国内牛肉シェアの拡大を図るもようであるが、将来的にはJBS社のように食肉のと畜および加工業に専念して海外の企業買収などを再開するのか、ベルチン社のように経営の多角化を進めていくのかその動向が注目される。現状からすると、前者の経営姿勢の方が今後業界で存続する可能性が高いとの見方が、関係者の間では優勢である。両社も含めてブラジルの大手牛肉パッカーは、単なる「牛肉パッカー」から「総合食品(食肉)企業(グループ)」へと変ぼうしつつあるが、今後の状況によっては、大手同士の合併あるいは企業買収により、鶏肉パッカー第1位のペルジゴン社と第2位のサジア社の合併のように国内で巨大な牛肉パッカーが誕生する日も近いかもしれない。

 このことからも世界最大の牛肉輸出国のブラジルの牛肉パッカーの今後の動向をより注意して見ていきたい。
 

 
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