調査・報告

都市厨芥型原料によるエコフィード事業の取り組み
−その成立要因は−

筑波大学名誉教授 永木 正和

1.はじめに

 個別経営の観点からは飼料費削減と価格が不安定な輸入飼料への依存度を下げることによる経営安定、政策観点からは、自給率の向上、地場資源の有効利用と環境負荷軽減を目指して、食品残さを利用した家畜飼料化(以下、「エコフィード」という。)が注目を集めている。しかし、製造現場からは、安全な飼料原料を安定的に確保するのが難しい、そして製造コストが高い、などの声が挙がっている。

 先進例の実態調査と分析から、阻害要因をどのように克服しているかを見いだすと共に、地域での原料残さの発生状況と畜種や経営規模などに適合したエコフィード資源循環システムを地域社会システムとして構築していかなければならない。

 ところで、「平成19年食品循環資源の再生利用等実態調査」(農水省)によると、平成18年の食品廃棄物の年間発生量は11,350千トンにも達し、実に膨大な数値となっている。このうち、飼料に仕向けられた量は2,480千トン(22%)である。この数字が高いか低いかは、食品廃棄物の種別、分別状態、廃棄方法などの実態に照らして評価しなければならない。しかしながら、全く再生利用されず廃棄される量が4,650千トン(41%)もあり、分別の仕方や廃棄後の保管方法などの改善によってエコフィード化適正原料はさらに増大しうると推察する。

 ただし、立地的にみて、その“埋蔵量”は都市圏に多いであろう。地方農村の食品廃棄物排出業者は主に食品工場であり、ほぼ全量が畜産農家に引き取られ、エコフィードと言わないまでも、従来から単味飼料として大中小家畜に給与されてきている。一方、都市圏では、排出量は多いにも関わらず、エコフィード原料への仕向け率は低いと推察される。その理由は、排出業者が食品工場のみならず、倉庫業、食品卸・小売業、外食産業など、多々あり、食品廃棄物の内容が雑多であるばかりでなく、ロットの小ささ、日排出量の不安定性、内容物の分別作業の必要性などから、(1)飼料適正原料の量的確保が困難、(2)排出者と需要者たる畜産農家が出会うためのマッチング機能が作用していない、などが大きな阻害要因となっているためであろう。つまり、冒頭に述べたエコフィード製造コストが高いという1つの大きな問題の背後に、その原料収集にかかる諸課題が潜んでいるのではないかと考える。

 そこで本稿は、以上のような問題意識を持ちながら、特に原料収集方法と需給マッチングが阻害要因になっている都市厨芥の食品残さによるエコフィード事業に着目し、その一事例を紹介しながら、都市圏におけるエコフィード事業の安定的な成立条件を考察する。

2. エコフィードの資源循環システム:その多様性

(1)大きな原料化費用

 平成13年に「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(通称「食品リサイクル法」)が施行され、平成19年には「食品リサイクル法の一部を改正する法律」(通称「改正食品リサイクル法」)が施行された。この二法で、「食品循環資源」とは食品廃棄物などのうち飼料化や肥料化に有用なもの、「エコフィード」とはその食品循環資源を原料にして、給与のし易さや保存性の向上を目的として飼料用に加工されたものと定義し、エコフィード利用の推進を提唱している。

図1 エコフィード資源循環システム

 エコフィードを利用した資源循環システムの流れを図1に示す。フードシステムの各段階で発生した食品循環資源(以下、「飼料化原料」という。)は、収集運搬業者によって、処理業者(エコフィード製造業者)に搬入される。搬入された飼料化原料は、異物混入や腐敗などのチェックと分別がなされた後、エコフィードの原料として処理される。 留意すべきはエコフィードへの社会的な取り組みの経済性を大きく規定しているその製造原価についてである。エコフィード原料となる 食品循環資源は、用途適正(安全性の確保を含む)を確保するため、厳密に内容分別処理がされなければならない。言い換えるなら、
 
である。リサイクル産業に共通の特質であるが、エコフィード原料化の費用が付加されている。しかも、これが大きいウエイトを占める。前処理とも言うべきこの費用は、分別作業にかかる費用であるが、搬入した原料の内容物の種類、事前の分別状況、廃棄後の経過時間や途中の保管方法などに依存している。だれが(排出業者、運送業者、エコフィード製造業者)、どの程度の分別を分担するのが最も原料化費用を低減しうるかは1つのポイントである。

 これは本稿の結論を先に言うことになるが、飼料工場で分別作業を行うとなれば、分別機械、労働力に大きなコストを要する。それに対して、排出者の個人個人が分別を励行して排出していれば(事前の分別が徹底されるなら)、これにかかる費用は顕著に軽減される。もう1つの方策は、そもそも分別作業に大きな経費負担、リスク負担のかからない事業所に限定して飼料化原料を収集することである。川上産業(食品製造業)に限定すれば、それが可能である。しかしながら、そこにはトレード・オフ関係が発生する。すなわち、下記の構図のトレード・オフである。それぞれの地域において、確保できる原料の総量は一定であり、また需要量(家畜頭数、あるいは畜産農家)も一定であると想定されるので、これらの全体条件の中で、適正なトレード・オフ水準を選択する必要がある。
 

(2)多様な事業の形態

 エコフィード事業は、その事業形態が多様であることに大きな特徴がある。第一の多様性は、取り組む事業主体である。(1)廃棄物処理業者が新たなビジネス部門として取り組むもの、(2)地方自治体やその出資団体、(3)食品企業、廃棄物処理業者、畜産農家、飼料会社などが協同組合や共同出資会社を設立して取り組むもの、(4)大手食品企業が自社から排出する食品残さを資源化するために子会社を設立して取り組むもの、などがある。

 第二の多様性は畜種である。給与対象家畜はさまざまである。ただし、豚への給与は、牛の脊椎(せきつい)、死亡牛由来のものが含まれていなければ動物由来のタンパク質の使用も可能であり、また栄養管理や嗜好性の観点から他の家畜よりも給与しやすい。そのため、現在の主たるエコフィードの給与畜種は肥育豚である。

 エコフィードを給与して生産された畜産物の流通チャネルも一般スーパーから直売所まで多様であるが、飼料化原料を排出した当該食品関連事業者が仕入れ、そして販売する傾向にある。これは、エコフィード給与による肉質の優位性と当該小売店が環境保全に貢献していることをアピールするためであり、付加価値販売を目指している。排出された食品残さを飼料化し、それを給与して生産された畜産物を、再び食品残さ排出者が仕入れ、販売する(あるいは食品残さを排出した消費者グループが買取る)方式は、静脈流から動脈流に流れる“リサイクル・ループ”である。このループが地域社会に埋め込まれてこそ、真の循環型社会の形成である。

 多様性観点から、最後に、エコフィード製造方法を指摘しておく。主要な方式として、現在、(1)発酵方式、(2)乾燥方式、(3)リキッド方式(液状方式)、の3種類がある。どの方式を採用するかが原料収集方法を規定し、エコフィードの製造コストに大きく影響する。飼料化原料の排出のされ方、主たる内容物、輸送事情(収集範囲や道路事情等)などに応じて、経済性観点、環境負荷性の観点から判断して最適な処理方式が、最適な原料収集方法とのセットで採用されなければならない。

3.都市厨芥を利用したリキッド式エコフィード −「小田急ビル・サービス」の取り組み−

 課題を多く抱えるのは、食品残さ、すなわち都市厨芥のエコフィード化である。先述したように、都市厨芥は、量的なポテンシャルはかなり大きい。しかし、原料の品質適正とその安定性、量的確保の問題、それによって派生する収集コスト問題、そして需給のマッチング問題がある。これらをどのように克服するかが、都市厨芥型エコフィード事業の成否にかかわっている。そこで、以下には都市厨芥を利用する調査事例を紹介しながら、どのようなところにその要点があるのかを考察する。

(1)プラント概要

 紹介するのは、神奈川県に所在する小田急ビルサービス(小田急電鉄の100%子会社)の環境事業部が運営する「小田急フード・エコロジー・センター」(FEC)である。食品リサイクル法への対応や企業価値(CSR)の向上を目的として2005年12月に操業開始した。プラント建設費用は総額約1億5,000万円である。これは他の同規模のプラントと比べるとかなり安価である。身内の技術者が先行組織の視察と研究からプラントを設計し、他の工場で不要となったタンク類を再利用するなどで設備の導入費を抑制しているからである。FECの1日の飼料製造能力は、計画は365日稼働で、飼料原料の受け入れ量にして産業廃棄物19.5トン、一般廃棄物19.5トンの計39トンであるが、現在は、約20トン/日の原料を搬入し、約30トン/日のエコフィードを製造している。従って、稼働率は5割であるが、分別への責任意識が備わった排出所順に順次受け入れ先を増やしており、2009年度末に、計画通りの満度操業に到達する予定である。後述するが、これには、大きな戦略的意味がある。FECの現場従業員は10名である。

 小田急電鉄グループが運営する高級チェーン食品スーパーOdakyu OX、小田急デパートなどから発生する都市厨芥からリキッド式エコフィードを製造し、契約農家に販売している。食品小売業チェーンから排出される食品循環資源の飼料化に取り組む事例である。エコフィードを給与して生産した豚肉は、系列スーパーOdakyu OX、小田急ホテル、小田急デパートで差別化販売されており、リサイクル・ループを形成している。商品はブランド化し、固定客を着実に増やしてきている。

(2)飼料化原料の調達と分別

 飼料化原料は、小田急電鉄の食品スーパーOdakyu OX店舗35カ所と、東京都と神奈川県下の同電鉄沿線の大型食品小売業(高島屋、イトーヨーカドー他)、食品工場などを加えた計95カ所の事業所から収集している。産業廃棄物と一般廃棄物、牛乳やヨーグルトなどの液体原料のそれぞれに色の違う専用3容器がセットで用意されており、排出業者は飼料化原料の種類ごとに厳密に分別している。

やさいは緑色のコンテナーに分別
パンは炭水化物系原料として重要

 飼料化原料の多くはOdakyu OXなどでの売れ残りとKK小田急食品をはじめとする仕入れ先食品工場の加工残さである。種類的には、パンなどの炭水化物系原料の確保を重視し、油ものは極力搬入しない、学校給食の食べ残しご飯とパンは受け入れるが、一般の食べ残し、コンビニエンス・ストアの売れ残り弁当、その他の分別に手作業を要するもの、腐敗し易いもの、精肉、魚類(リスク要因の高い残さ物)は受け入れ原料から厳に除外している。飼料化原料受け入れ先には、

 (1) 担当者への説明会(社会的意義理解、分別徹底、異物混入防止対策、社会的責任の認識など)、

 (2) 毎月の排出実績レポート(後述)、

 (3) 意識啓発のニュース・レター配布により、排出者側の分別徹底と安全性確保への意識啓発、

 を常に行っている。

 収集運搬は、地域割で12社の業者に委託している。収集業者には車両ごと計量するため飼料化原料収集用の専用4トン車両を使用することが条件付けられている。飼料化原料の引き受け料は20〜25円/kg(送料含まず)で、内容物により料金は変化する。飼料適正の高いもの、大量に収集できる個所に対して、段階的に割引いた処理料金を設定している。なお、2008年の市町村の廃棄物処理料金は、東京と川崎市は15円/kg程度とかなり低料金であるが、近隣の相模原市は約20円/kg、多摩地区は約35円、狛江市、調布市は約40円などで、およそ30円/kgである。従って、排出業者にとっては、分別作業のコストを考慮しなければならないにしても、小田急のFECに出荷することの経済メリットは確実に確保されている。
飼料化原料収集車から工場へ搬入

(3)処理方式

(1)搬入とデータ入力

 FECに搬入された食品循環資源は、まず計量され、コンピュータに搬入時のデータが入力される。原料の収集・運搬に使用される容器には排出事業社名と内容物名とともにバーコードが記されており、搬入された原料について、容器ごとに重量を計測し、バーコードを利用したPOS管理システムで排出年月日、搬入年月日、内容物のデータをコンピュータに入力する。実はこのデータは以下の点で大変重要視している。まずこのデータを用いて、データベース化している原料種類コード、排出者別の栄養成分データと照合してエコフィードの栄養設計がなされる。第二に、このデータにより、原料のトレーサビリティ・システムを構築している。第三に、排出業者別に蓄積されたデータは、毎月、当該排出業者にフィードバックされる。フィードバック・データには、内容物と入荷量、混入していた異物などが記載されていて、排出業者側の分別作業に関する徹底指導とFECでの廃棄物の発生抑制に活用している。

(2)チェックと処理

 計量した原料は、ホッパーに投入され、ベルトコンベア上で磁石と目視による原料の異物チェック・除去がなされる。その後、粉砕機を経て90〜100℃加熱殺菌(サルモネラ菌、大腸菌など)される。殺菌後、タンクで冷却し、乳酸菌を添加し、pH4以下にまで下げる(夏季でも2週間まで保管できる)。また、搬入した原料のみでは不足する栄養素を補うサプリメントを添加し、6つの発酵・貯留タンク(L)に半製品状態で保管する。それぞれ成分の異なる半製品で貯留されており、出荷時に混合・調整され、水分、pHチェックしてエコフィード製品として出荷する。製品は3種類ある。Aタイプ(標準飼料)、Bタイプ(動物性タンパク質を含まない、すなわちパン、麺、野菜原料から成るエコフィード)、Cタイプ(個々の農場からの要請による特殊栄養構成のエコフィード)であり、養豚農場のニーズに対応させている。FECのシステムでは加熱殺菌工程で燃料を消費しているが、乾燥方式に比べるとその消費量ははるかに少なく、環境負荷は小さい。近い将来、既存の契約排出業者から廃食油を収集し、これを利用することで一層環境負荷の低減を目指す計画である。

(3)出荷と契約農家

 原料の入荷からエコフィード出荷までのタイム・スケジュールについてであるが、前日夜の残さ物や売れ残り品が当日の午前中に搬入される。投入から発酵終了までに約4時間を要する。製造日の翌日の夜便で養豚農家へ配送している。養豚農家では2〜3日以内に給与してしまうことを条件付けている。製造されたエコフィードは、品質管理・安全性管理のため、工場にサンプルを10日間保管する。また、月2回、県の成分分析センターに分析を依頼し、FECの保有する飼料調製データとの整合性を確認し、製品の品質・安全性保持を図っている。

 製造したエコフィードは自社の10トン車タンクローリー4台で契約農家に出荷する。現在、神奈川、静岡、埼玉、茨城の10戸の養豚農家と配送契約をしている。これらの農家はいずれも経営意欲、知識欲旺盛な若い経営者が経営を担っている。このうちの5戸はFECで製造されたエコフィードを100%給与している。他の5戸は、肥育前期のみに給与、あるいは配合飼料と混合して給与している。後者の取り組みは、生産者個人の方針、技術で肉質に特徴を出すためであるが、FEC側もできる範囲で戸別の成分調整の要望に応じている。

飼料サンプルは品質・安全性管理のため工場にて10日間保管

(4)経済性とFECのコーディネーター機能

(1)エコフィードの経済性

 エコフィードの販売価格は、飼料の内容に応じて5〜8円/kg(運搬料込み)に設定されている。FECが配送する輸送経費が最低5円/kg(距離により変化)かかることから、エコフィードの価格は実質ゼロに等しい。従って、FECでのエコフィード製造経費は、基本的に排出者側から受け取る処理料金で賄う収支構造になっている。小田急グループの社是として、静脈産業部門は収支イーブンならよしとしているとのことである。静脈産業を健全に育てて行く上での賢明な方針である。

 標準的なエコフィード飼料給与は、60日齢30kgの子豚を120日間、115kgまで肥育するとして、飼料費の試算値は日給与量10kg×@6円/kg×120日=7,000円になる。これは慣行配合飼料肥育方式の日給与量2.5kg、配合飼料単価45円/kgと比較すると、飼料費が50〜60%水準に抑えられる計算である。この結果、小田急FECが製造販売するエコフィードの価格水準は、養豚農家にとって極めて経済的メリットが大きい。

(2)FECのコーディネータ機能

 小田急のFECに配置されている専門の指導者(獣医師)は、養豚農家のエコフィードの新規導入相談に応じたり、給与技術を個別指導しており、エコフィードの原料供給者と製品需要者を繋ぐコーディネーター機能を果たしている。他地域でのエコフィード事業化構想の相談にも積極的に対応している。なお、生産された豚肉は小田急グループの小売スーパーが年間契約で買い上げてくれるので、養豚農家にとっては安定販売が保障されている。この点で、小田急FECは、静脈流(食品残さの処理)と動脈流(畜産物の販売)の双方でコーディネーター機能を果たしている。

 FECは、「完全配合エコフィードを100%給与」をスローガンにしながらも、あくまでも良質な豚肉を消費者に提供することを目的として、給与技術を指導している。そのための肉質改良への飼養技術の研究を怠らない。神奈川県畜産研究センターやつくばの草地畜産研究所、十勝農協連の分析センターとの研究交流とサンプル検査依頼のためのネットワークを形成している。こうした研究活動の成果をフィードバックさせた特徴的な指導方針が3つある。小田急系列が買取り、ブランド販売する戦略に沿ってである。その1つは、通常の格付け要素にはないが、おいしさを引き出すため、そしてヘルシーでスライスし易いという特徴を引き出すため、柔らかな脂肪形成を目指しており、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を5:5になる肥育ノウハウを指導している。これは肉質の差別性を消費者にアピールできる大きな研究成果となっている。

 第二には抗生物質の使用を厳禁している。

 第三は、低コストの簡易型リキッド・エコフィード給餌施設を開発し、普及させていることである(手動式バルブ、塩化ビニール管、ポンプ、貯留タンクから成る簡易給餌施設)。簡易型エコフィード給餌施設の普及で、中小の養豚経営でも比較的、経済負担の少ない投資額でエコフィードを導入できるようにしている。技術支援と施設整備指導の両面から導入農家へのサポート体制が整っている。

(5)豚肉の販売とリサイクル・ループの形成

小田急のエコフィード事業はリサイクル・ループが形成されている。小田急電鉄グループの食品スーパーOdakyu OX、小田急デパート、小田急ホテルで発生した飼料化原料からエコフィードが製造され、そのエコフィードを給与して生産された豚肉が、再び同食品スーパーで販売されている。食品スーパーOdakyuOXがエコフィード給与の養豚農家と年間直販契約で仕入れる。この豚肉は「神奈川ヨーグル豚」、「安曇野ヨーグル豚」という2つの商品ブランド化され、店頭では、当店で発生した食品循環資源を給与して生産された豚肉であることを表示して差別化販売している。グループ内のレストランにも供給している。

 小売価格は、従来の、格付けを基準にした枝肉卸売価格を反映した小売価格ではなく、消費者が求める価値判断を重視し、不飽和脂肪酸5割を目標にして肥育しており、美味しさ、安全性、ヘルシーさ、さらに環境に優しい飼養技術で生産されていることをアピールし、これらの要素から消費者に納得して購入してもらえるように訴えている。もちろん、そのような価格形成の方針を養豚農家側の理解を得て、そしてそれに必要な技術を徹底習得してもらうことに努力している。

 肝心な点は、販売する上でゴミ、残飯という言葉を使わないことである。消費者に誤解を与えるようなことがあってはならないためで、エコフィードが何たるかをわかり易く説明している。こうした販売戦略で当該スーパーのエコフィード豚肉をブランド化し、顧客を獲得している。

 なお、KK小田急トラベルは、FECや養豚農家を含む体験学習のエコ・ツアーを企画し、顧客消費者拡大を側面支援している。
ブランド化された商品、わかりやすい説明でこだわりをPR

4.小田急ビル・サービスのエコフィード事業の特徴

(1)エコフィード原料の量的・質的変動への対応

 食品工場で発生する食品残さと異なり、都市厨芥食品残さは、スーパーマーケット、コンビニエンス・ストア、そして総菜工場や弁当類、麺類、酒類、大豆製品などの食品製造業、ベーカリーなど、さらには飲食店、レストランなど、川下に位置するさまざまな食品関連事業所で発生している。そのため、内容成分や発生量は日々変化する。また、加工・調理が進むにつれて、雑菌、異物や包装容器などの混入確率が高まる。従って、都市厨芥型エコフィード事業の最大の要点は、(1)原料となる食品循環資源の量的、質的な変動(日々の変動と季節的変動)リスクの抑制、(2)異物・腐敗物などの混入リスクの回避、すなわち安全性の確保である。これら2つはエコフィード事業のリスク要因(阻害要因)であり、同時にそれを低減しようとする時にはコスト圧要因である。

(2)リスク要因の回避方法

 この2つのリスク要因を回避する方法は、大きくは2つある。1つは、上記(1)と(2)の2課題をクリアできる排出業者を選別し、飼料化原料の受け入れ先を限定することである。2つ目は、エコフィード事業者側の対応である。この場合には(1)への対処策としては、エコフィード事業者が製造施設を拠点化し、一定以上の規模で操業することである。従って、需要側の家畜頭数(畜産農家数)も一定以上数を確保しておく必要がある。(2)についての対処策としては、エコフィード事業者側で万全な対応作業をプラント内の工程表に取り込むことである。

 ここで、排出業者を限定する場合には、原料の確保量とのトレード・オフが発生する。あるいは、量の確保のために収集エリアの拡大を余儀なくされ、運送費とのトレードオフが発生する。しかし、小田急FECは、IT技術と人的な指導体制で、排出者への徹底分別を指導しており、これによって先述のトレード・オフを回避しているのは重要な特徴である。

(3)取り組みの特徴

 小田急ビル・サービスの取り組みは、同じ小田急系列のスーパーOdakyu OXなどから原料収集しているので、排出者側への事業の趣旨の理解、排出ルールに従うことが徹底されている。最終畜産物が当該店舗で販売されるリサイクル・ループが形成されているのも自己規律への強いインセンティブになっている。原料収集先が鉄道沿線にあるが、その収集経路上にある小田急グループ外の排出業者からの食品残さも受け入れている。だが、同じく事業の趣旨、排出ルールが完璧に受け入れられる業者のみを選別している。また、エコフィード飼料製造工場に拠点集約することにより、事業規模が大型化され、搬入量や成分の変動を相殺できる。都市厨芥の場合、多種類の原料が含まれているので、一定の量が確保されていれば、その混合割合を変えることで飼料栄養含量の調製が可能である。これは、畜産農家にとっては、エコフィードの給与割合を高め、飼料費節減効果を高めるという大きなメリットになる。

 原料受け入れ体制としては、トレーサビリティ・システムによるコンテナ別の受け入れ管理に基づく原料分析や10日間のサンプル保管など、そしてそれらのデータの排出業者へのフィードバックと個別指導の体制が整っており、分別と異物混入防止を徹底している。弁当などのように、内容物に異物を多く含むもの、包装されたものは受け入れないという制限を設けている。飼料化適正と分別徹底度で処理料金に差をつけて、経済的な分別作業ヘのインセンティブも与えている。こうしたさまざまな事前対応策と、排出業者への実地指導がリスクを低減し、分別コストも抑えている。小田急FECのリサイクル・ループに参加している飼料化原料排出業者にも、畜産農家にもコンプライアンス経営が浸透している。このことを理解するなら、処理工場の操業率を当初から満度にするのではなく、計画的、段階的に高めているのは納得できる。

5. むすび

 エコフィード原料の一般的特質を述べると、まず水分含量が高いために腐敗し易く、保存や広域流通が難しい。特に、フードシステムの川下で排出される都市厨芥は加工度(調理度)が高いので腐敗性が高く、異物も混入し易い。しかし、エコフィード原料は絶対的に内容物の安全性が保障されなければならない。言うまでもなく、エコフィード原料の安全性は食の安全性と同等に重要な前提条件である。有害菌の発生や異物の混入は、給与する家畜の安全性、そして最終的には消費者の食の安全性観点からも重大である。だが、川下に位置する食品流通段階、調理段階、消費段階で排出される都市厨芥は、食品の加工度(調理度)が進んでいるが故に、多種多様の内容物が混在した状態にあり、分別作業が困難になる。さらに、排出業者個々の事業所規模が小さいので、食品廃棄物発生量のロットが小さく、かつ点在しており、収集効率が悪い。これらの理由から、食品循環資源の再生利用率は、川上側の事業体で高く、川下側で低くならざるを得ない。

 川下で発生する飼料化原料率を高めることが当面の課題であるが、排出者側で排出時に分別を徹底励行して行うなら、コストを負担することなく分別を遂行できて、良質な飼料化原料が確保できる。エコフィード工場の製造ラインでの分別工程を抜くわけにはいかないが、しかし、多数の労働力を配し、あるいは精巧な分別機械を導入するのでは高額な分別コストになってしまう。飼料化原料を安定調達するためには、排出業者とエコフィード製造業者との信頼関係の下、可能な限り排出者側が分担することが重要である。それは、エコフィード原料の調達にかかるトレード・オフを回避し、その確保、拡大にも通じている。

 エコフィードの製造、給与の体系は多くの業種、人々が関与して運用されるものであり、それは今後の目指すべき循環型社会において、産業の静脈流を動脈流に繋ぐ1つの社会システムである。関与する方々の合意・積極参加型のシステムとして構築されるべきものである。小田急ビル・サービスが構築しているリサイクル・ループはその1つのモデルとしてみることができる。

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