1.はじめに
近年、農産物の卸売市場経由率が低下するなかで〔1〕、農産物直売所(以下、直売所と略記)が全国各地で開設され、不況の中でも活況を呈している。しかし、畜産物、特に牛肉は直売所で販売されることはほとんどなく、肥育牛生産者は食肉卸売市場や産地食肉センターに出荷するのが一般的であった。そのため肥育牛生産者の経営努力・付加価値化努力は、卸売市場と食肉センターへの集荷までであり、その先にある加工や直売所などでの小売までには及んでいなかった。
だが、最近の不況の下で牛肉の卸売価格は急落しているものの、小売価格は下落していないので、この卸・小売価格の非連動性に着目して、直売所で牛肉を小売する肥育牛経営者が散見されるようになった。
このような肥育牛経営者による牛肉の直売所での直接販売にメリットがあるのか、検証するのが小稿の第1の課題である。
また、直売所は生産者を身体的、精神的に元気にする機能がある可能性もあるので、この点も検証するのが小稿の第2の課題である。
この2つの課題を解明するために、福岡県内の肥育牛経営と直売所の実態調査および直売所に農産物を出荷する生産者と直売所で農産物を購入する消費者のアンケート調査を実施した。収集した資料を基に分析と考察を行う。
2. 直売所の持つ多面的機能、特にホスピタリティ機能の重要性
(1)直売所の持つ多面的機能の整理
直売所の持つ多面的機能について先行研究を用いて整理しておこう〔2〕。以下の11の機能が考えられる。
(1)販売額向上による地域経済活性化機能
近年、農村部に立地する直売所に多くの消費者が来店している。直売所の販売額増加は、農村地域を経済的に活性化させる大きな要因である。
たとえば、福岡県内のある地域は、10キロ範囲に3ヵ所の直売所があり、それぞれ7〜9億円の年間売り上げがあるので、同地域では直売所の年間販売額が22億円になっている。
(2) 生産者と消費者の直接交流機能 〜情報の非対称性注)解消〜
最近、地産地消の動きが活発になっているが、直売所は地産地消を代表する流通形態である。生産者と消費者が交流し、食料農業農村に関する情報を共有化すれば、情報の非対称性が解消され、消費者の国産農産物への信頼を回復する有力な手段となる。
直売所の販売品には、生産者の氏名や住所、さらに、ある直売所では生産者の電話番号まで記載されている。これは安全安心を担保する究極のトレサビリティーシステムであり、生産物の信頼性の確保になっている。
(3)食料の自給率向上機能
消費者が生産地に赴き、新鮮な国産農産物を購買することは食料自給率を引き上げることにつながる。自給率向上効果が大きい。
特に、野菜などは中国産が販売されていないので、地産地消の展開に貢献している。また、直売所では弁当などが良く売れているが、これも国産穀物の販売増加に貢献しており、穀物自給率の向上に寄与している。
(4) フードマイレージ短縮機能(物流エネルギーとCO2の削減機能)
食料自給率が高くなれば、輸入品を購入する場合よりフードマイレージが短縮され、国際的にみて物流エネルギーの削減機能が発揮される。
中国産野菜ではなく地域産野菜が売れ、海外の穀物で製造されたパンではなく地域産のコメで製造された弁当が良く売れるのは、フードマイレージの短縮に貢献している。
(5)「新鮮さを防波堤にしたセーフガード機能」
直売所の隆盛は国産農産物への消費者の回帰現象と言える。これは国際的に許容されているものの、輸出国から反発の大きい国によるセーフガードとは異なり、民間の「新鮮さを防波堤にしたセーフガード」であると理解できる。
ネギなどの輸入急増の対抗策として国が実施した暫定セーフガードは中国から猛烈な反発を受けたが、直売所で展開される地産地消に対してはどの国も反発する訳にはいかないのである。
(6)「社会化されなかった資源の社会化機能」
直売所では高齢者や女性が生き生きとして農産物を出荷している。大規模農業・大型機械化農業・大都市卸売市場出荷型農業では、働き場の少なかった高齢者や女性が直売所に農産物を出荷することによって働く場所を自ら創造している。
さらに最近では早期退職させられた人や職を失った人が、農地を耕し直売所に出荷して僅かではあるが、収入を得ているケースが増えている。直売所にはこのような「社会化されなかった資源の社会化機能」がある。団塊の世代の退職後の新たな自己就業機会を提供する機能も秘めている。
最近、離職させられた派遣労働者が故郷に帰り、直売所用の生産を開始し、収入を得る機会も直売所は提供している。
(7)グリーンツーリズムのための都市農村交流センター機能
前述のように直売所には、多くの都市住民が訪問しており、都市農村交流センターの機能を果たしている。
特に、韓国や中国からの海外観光客は、日本の農村や漁村の美しい景観、山紫水明の農村、白砂青松の漁村に感動する。直売所が国際グリーンツーリズムの拠点になることも期待されている。
(8)食育推進機能
最近、各地の直売所が学校給食への食材供給を開始している。さらに生産者が地域の伝統食を学校で教え、継承している事例も多い。
ある直売所では、地域の学校に地域食材を配達するために、配送車を購入したところもある。また、直売所の出荷者が小学校に行き、「ふるさと先生」になり授業をしたり、給食を一緒に食べたりしている事例もある。
(9) 生産者の身体的健康増進機能(医療費削減機能)
高齢生産者は、直売所に出荷が可能になったことで生産意欲が出て、健康を回復し、無為に病院でお喋りをすることが少なくなり、結果的に医療費の削減に貢献している。
ゲートボールに興じていた高齢者がゲートボールを止めて、直売所に出荷する農産物の生産のために働き始め、病院に行く回数が少なくなっているケースもある。
(10)生産者の精神的健康増進機能
高齢生産者は、大規模農業・大型機械化農業・大都市卸売市場出荷型農業では働く場面が少なく、意気消沈していた。しかし、直売所に出荷が可能になったことで自己就業機会を得て経済的にも豊かになり、人生を楽しく感じている生産者が多くなり、精神的満足を得ている人が多い。
直売所の高齢出荷者が収入を得て海外旅行に行くなど、人生を楽しめるようになったと話していた。
(11)消費者をもてなす機能
多くの直売所が周辺に菜の花やヒマワリ、コスモス、アンズなどを栽培し、都市の消費者が四季を楽しむことができるように工夫するなど消費者をもてなすサービスを行っている。
地域の老人会の方が直売所周辺に花壇を作り、来訪者を楽しませている直売所もある。
注:情報の非対称性
市場では売り手と買い手が対峙しているが、一般には売り手が保有する情報と買い手が
保有する情報の間には大きな格差がある。例えばある商品を取引する状況を想定したとき、
売り手は商品の品質に関する豊富な情報を所持している。 他方、買い手は商品の品質
に関する情報をほとんど所持しておらず、売り手からの説明に依存するしかない。買い手は、
商品の品質に関する情報について、商品を購入するまで完全には知りえない。そのため、売
り手の説明に、買い手が納得できないという状況もしばしば発生し得る。 このように、取引・
交換の参加者間で保有情報が対等ではなく、あるグループが情報優位者に、他方が情報
劣位者になっている状況(情報分布にばらつきが生じている状況)を、情報の非対称性という。
(2) 直売所の持つホスピタリティ機能の重要性
以上のように、直売所には多面的機能があることが明らかなった。しかし、これらの多面的機能は並列的に並べられているだけで、その機能同士は、どのように関連しているのか、何が基本的に重要なのかは先行研究では論究されていない。
そこで小稿では、上記の直売所が持つ「生産者の身体的・精神的健康を増進する機能((9)+(10))」と「消費者をもてなす機能((11))」を「直売所のホスピタリティ機能」と定義し、上記の(1)〜(8)までの多面的機能より上位概念と仮定する。その重要性を生産者と消費者の両面からアンケート調査を実施して、検証する。
3.直売所で牛肉を販売している肥育牛経営の実態
(1)堀ちゃん牧場
(1)粗飼料自給と化学肥料不要の稲作〜和牛肥育による循環型農業の確立〜
堀ちゃん牧場は福岡市西区に立地する黒毛和種の部分一貫経営である。粗飼料はほぼ全量自給している。自己所有水田の4ヘクタールも含めて約30ヘクタールの水田から稲わらを収穫している。稲わらは10アール当たり4個のロールベールが作れる。約1,200個のロールベールを確保している。また、稲わらを収穫した後にイタリアンを栽培し、3ヘクタール分を収穫している。
たい肥は稲わらとの交換ですべて水田に還元されている。特に、自己所有水田ではイタリアンを栽培するので、大量のたい肥を投入している。そのため、水稲は全く化学肥料を使用しないで栽培している。今後は、有機米の生産にも挑戦しようとしている。イタリアンの栽培により、その根が水稲の肥料にもなっている。完全無化学肥料栽培でも米が増収するので、この方式を地域で普及させようと思っている。化学肥料代が不要なので、低コスト稲作が可能になっている。
水稲作とイタリアン栽培と和牛肥育は、稲わら・牧草とたい肥との交換が可能であり、連携しやすい部門である。和牛肥育によって循環型農業である低コスト無化学肥料稲作が可能になっている。今後の課題は、秋にいかに効率良く稲わらを収穫し、冬季に効率良くイタリアンを栽培し、春先に効率良くたい肥を還元するかである。
また、たい肥は飼料袋1杯100円も販売もしており、ガーデニングをする住民に購入されている。非常に好評でたい肥が売れ残り、処分に困ることはない。
(2)労働力と後継者の確保
労働力は、経営者夫婦と経営者の弟、経営者の三男の4人であり、牧場の方は、経営者の弟と三男が担当し、経営者夫婦は牛肉の販売を担当している。それ以外に経営者は肥育もと牛の導入のために、長崎県の福江島や壱岐などの県外からの子牛の買い付けも行っている。さらに現在は他で働いている次男も帰農を希望している。当経営にとって後継者不足の問題はない。
(3)和牛肥育と妊娠した老廃牛飼養の有利性
当牧場は2か所からなっている。福岡市西区にある第1牧場では和牛を160頭肥育している。もう一か所(福岡県朝倉市)の第2牧場では妊娠した老廃牛を飼養している。
妊娠した老廃牛を成牛市場などで購入し、出産させた後で、子牛は肥育もと牛とし、老廃牛は短期肥育して、と畜し、自家産のハンバーグやコロッケの原料にする。通常の肥育牛の肉でハンバーグやコロッケを製造すると非常に高価になるので、妊娠した老廃牛を成牛市場などで購入し、出産させて、その後と畜する方法を考え出した。
現在、子牛価格が急落しているので、妊娠した老廃牛が成牛市場で多数上場されており、1頭14〜15万円で購入できるので、また既に妊娠しているので、不妊のリスクもないので、子牛とミンチ肉が両方入手でき、購入者には有利な条件にあると言える。子牛出産後、3か月授乳させ、若干肥育して、7か月後にと畜している。と畜後は市場で買い戻し、部分肉にした後に、持ち帰り、牧場内の施設でミンチにして自家産のハンバーグやコロッケを製造して、牧場内で小売販売している。妊娠した老廃牛は安いものは1頭当たり12〜13万円であり、高くても18〜20万円である。老廃牛をミンチにすれば20万円の価値になる。老廃牛の売買差益でもプラスであり、さらに子牛が生まれるので、この妊娠した老廃牛の購入は有利な経営方式である。今後はこの方式での牛の導入を増やしていく計画である。
現在は肥育牛の枝肉価格が安いので、子牛を高い価格で購入しても採算が取れないが、自宅で子牛を生産すれば、そのような経営リスクは無い。今後は、朝倉市にある第2牧場でハンバーグの食材のジャガイモやタマネギも生産して加工品の原料を自給する計画である。今後は高価な牛肉の需要は縮小し、安いハンバーグなどの需要が大きくなるものと予想されるので、その食材を自宅で生産して生産コストの削減を図り、利益を確保する戦略を立て、現在はその夢に向かって経営を展開している。
(4)牛肉の直売所での販売理由
肥育牛経営は、卸売市場や産地食肉センターで枝肉を販売するのが一般的である。当牧場の特徴は、卸売市場で上場後、自分で買い取り、それを部分肉にしてもらった後で、自宅に持ち帰り加工して、販売していることである。販売先は自宅の直売所と4か所(福ふくの里・ぶどう畑・おさかな天国・筑前の里)の直売所である。5か所の牛肉販売額総額は約3,400万円である。
自宅以外の4か所の直売所で販売する理由は、アンテナショップの機能を持たせるためである。直売所によって異なるが、15%から20%の販売手数料を取られるものの、そこではチラシなどを置いており、アンテナショップとしての役割を期待している。また、自宅だけでは天候不順などの理由で購入者が少ないこともあるが、4か所の直売所では売れることもあるので、そこでの販売は販売額減少のリスクを分散する意味もある。
(5)牛肉直販の契機
平成13年のBSE発生で牛肉が販売困難になった時、知人への直接販売で、難局を乗り切ろうと計画し、保健所に相談に行ったが、設備がないと販売許可が下りないことが判明し、冷蔵庫や牛肉スライサーなどを設置した約13坪の加工販売所を開設した。その経費は約1,000万円であった。資金は福岡市がBSE対策事業として0.9%の利率で準備してくれたものである。この資金がなかったら加工事業を始めることができなかったかもしれず、行政の支援が有効に機能したと評価できる。当初、半年も続けば良いと思っていたが、NHKなどのマスコミが取り上げてくれたので、行列ができる店になった。テレビやラジオのニュース番組で紹介され来店客も増えたが、経費削減のため週末(金・土)販売に限定し、身内だけの労働で加工販売している。自宅販売開始当時は子供が幼かったことも日曜日に営業しない理由になっていた。
牛1頭全部が売れるように、ステーキ2枚とすき焼き用細切れ、カルビをセットにして、4点セットで5,000円とか6,000円で、学校や農協を通して販売した。販売は好調で月に2頭くらい売れていた。BSEの悪影響を克服するために加工場で一生懸命に働き、子供たちも加勢してくれた。家族全員で取り組んだ結果が今日のビジネスモデルの原型である。
(6)肥育牛の出荷先と商品作り
肥育牛の出荷先は、福岡市食肉卸売市場と全農食肉センターであり、出荷量比率は7:3である。肥育牛の年間販売額は約8,000万円である。
木曜日から自宅で経営主と経営主の妻が直売所での販売の商品作りを開始し、金曜日と土曜日に自宅で牛肉を販売している。日曜日には自宅での販売を行っていない。一方、自宅以外の4か所の直売所では牛肉を常時販売している。
自宅の直売所での牛肉の販売日には1日に13人程度消費者が購入にくる。木曜日から土曜日にかけて商品を作り、週末の金曜日と土曜日に販売し、他の日は自宅の加工場の清掃、水稲作や飼料作などの農作業、もと牛の買い付けなどに労働を配分している。
販売には部位別にアンバランスが発生するので、福袋を作ってバランス良く販売できるように工夫している。福袋の価格は3,500円から1万円であるが、4,000円のステーキが入っていることもあるので、好評であり、1人で数袋購入する客もいる。福袋を購入した客がインターネットで書き込んでくれることもあるので、人気が出て、行列ができることもある。また口コミでも宣伝してもらっている。
福袋の良く売れるものは5,200円であり、1万円のものを購入する客も多い。また、炭酸ガス注入装置を100万円で購入し、牛肉の劣化(色の変化)や細菌の増殖を押さえ、消費期限を長くしている。
直売所での販売は合計で3,400万円である。それに自家消費分・贈答分なども600万円程度あるので、それを加えると約4,000万円になる。枝肉販売分の8,000万円と小売分の4,000万円を加えるのは問題であるが、販売総額は約1億2,000万円である。小売額は販売総額の約3分の1に達している。
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家族の笑顔と、牛肉の福袋というアイデア販売で 直売所は人気上昇!
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(2) 長浦牧場と一番田舎
(1)黒毛和種の一貫経営を営む長浦牧場
長浦牧場は、後述の有限会社「一番田舎」代表の鈴木宗雄氏が昭和47年に福岡県前原市で開始した黒毛和種の大規模一貫経営牧場である(現在、長浦牧場は鈴木氏の甥と長男が共同経営をしている)。当牧場は、当初、乳用雄子牛の肥育経営を行っていたが、輸入畜産物が年々増加していくなかで、量から質への経営転換を図るため、昭和58年には黒毛和種の繁殖・肥育の一貫経営に切り替えるとともに、優良種雄牛「豊喜号」を導入するなど、将来を見越して計画的な経営を実施してきた。
現在では肥育牛約500頭、繁殖牛約30頭をほぼ常時飼養し、年間200〜250頭のもと牛を長崎県の宇久島や佐賀県の多久市の子牛市場から導入している。肥育牛の出荷頭数は年間230〜240頭で、前原市では第1位の出荷頭数を誇っている。
飼料は、とうもろこしと麦とフスマの割合がほぼ3:3:3であり、それに肥育期間によって大豆かすを追加給与している。枝肉格付けはA5率が50%程度で、4と5を合わせた上物率は70〜80%である。高い肥育技術を誇っており、福岡市食肉市場が開催する九州枝肉共進会でたびたび金賞(最優秀賞)を受賞している。九州では屈指の肥育牛経営として広く知られている。
しかし、平成20年秋以降の世界同時不況の影響を受けて、和牛の枝肉単価はA5でも1kg当たり2,000円程度に下落しており、枝肉重量を500kgと想定すると1頭当たり販売価格は100万円になる。現在、出荷している肥育牛のもと牛費は50〜60万円であり、飼料費は、一昨年以前は1頭当たり約30万円であったが、昨年後半から40万円になり、それに燃料費の高騰も影響しているので、生産費は最低でも110万円になっている。だが、販売価格は100万円なので、1頭当たり最低でも10万円の赤字になっている。そのため、昨年度は経営全体で約2,300万円の赤字になっている。
飼料代はおよそ、18年度は5,000万円、19年度は6,000万円、20年度は7,000万円となり、毎年1,000万円ずつ増加しており、これも経営を大きく圧迫する要因になっている。
以上のように、子牛価格と飼料費の高騰、枝肉価格の下落が経営圧迫の3大要因である。これに対して今、3つの対応を行っている。 第1は、子牛価格の引き下げである。1頭当たり40万円以下の子牛の導入を目標にしている。第2は飼料用稲の利用である。稲作農家が転作田に飼料用稲を栽培すると10アール当たり6万数千円の転作奨励金が交付されるが、それを集団化すると1万円上乗せされ、7万数千円になるので稲作農家で普及し、それを畜産農家が刈り取って利用してきた。しかし、飼料用稲は青刈りなので、ビタミン類が多く、繁殖牛には適しているが、肥育牛の枝肉の色をやや黒くする要因となり、枝肉の市場評価を落とす結果になっている。そこで、飼料用稲が枯れてから刈り取るなどの工夫をして飼料として与えた場合の枝肉の低評価を防止する工夫を行っている。
第3は福岡食肉市場の枝肉セリに参加し、買い取った枝肉を部分肉に加工してもらって一番田舎で直接販売し、利益率を上げる工夫である。
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地元産の糸島牛、直売所の一番田舎には 見事な牛肉がズラリ並ぶ
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周辺地域でも直売所の先駆け的存在である一番田舎
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(2)一番田舎での牛肉の販売と焼肉店の営業
一番田舎は、平成6年に福岡県前原市に前述の長浦牧場の代表であった鈴木宗雄氏によって開設された直売所である。同市には、最近、数多くの直売所が開設されているが、それらはこの一番田舎の成功を見て、あるいはモデルにして、改良を加えて設置されたものが多い。
一番田舎は当地域の直売所の原型と言える存在であり、中央畜産会主催の平成11年度地域振興部門で最優秀賞を受賞している。しかし、一番田舎を含め近隣の多くの直売所は、昨年来の不況の影響と近くに超大型の直売所が開設されたために販売額が伸び悩んでいる。
一番田舎が開設されたころの年間販売額は食肉、野菜、魚、花などの販売額総額が約4億円であったが、現在では約2億円に減少している。このうち約1億3千万円は自家産の牛肉を中心に、仕入れた豚肉、鶏肉の肉類販売額である。自家産牛肉は長浦牧場で肥育したものを福岡市食肉市場でと畜、上場して、自己でセリ落とし、部分肉に加工してもらい、一番田舎で販売している。月平均4頭分の牛肉を販売しており、盆や正月は販売量が増加する。牛肉販売のマージン率は32%程度である。
長浦牧場の肥育牛は、平成4年度の「黒毛和牛生産の部」で全国農業コンクールで農林水産大臣賞を受賞している。また福岡食肉市場が開催する九州管内の枝肉共進会において最優秀賞である金賞を連続獲得するなど、長浦牧場の肥育技術は高く評価されている。その牧場で生産された牛肉が一番田舎で販売されているために、牛肉小売価格が必ずしも安くない。しかし、味には定評があるので、福岡市などから購入の来客が数多く来店している。
4.牛肉を販売している直売所の実態
(1)福ふくの里
(1)開設の経緯
福ふくの里は福岡県二丈町にある。県内有数のかんきつ産地であったが、販売額が減少し、荒廃園の増加により産地の存続が危ぶまれる状況になっていた。また、町内の福吉漁協の水揚金額も激減し、漁家の経営も厳しさを増していた。農業と漁業の不振がじわじわと地域の活力を低下させていた。
このような状況の中で平成8年に「福吉地域づくり推進協議会」が結成され、農業者、漁業者、商工業者、観光業者など全住民を巻き込んだむらづくり活動が展開された。平成12年から「福吉産業まつり」を開催し、それ以降毎年多くの来場者でにぎわっている。
平成14年に加工施設を有する活性化交流施設「福ふくの里」が農林水産省の補助金を得て建設された。しかし、農業関連事業であったため、水産物の販売は許されず、有志が資金を提供して、平成17年4月に有限会社として再出発した。
品揃え充実のために、直売所独自のハウスリース制度(ビニールハウスのリース)を導入したり、福岡県水産海洋技術センターの協力を得て「あかもく」や「乾燥カキ」などを開発し、農業者、漁業者の所得の向上はもとより、都市部の消費者から福吉の農水産物が高く評価され、地域に自信と元気をもたらしている。
出荷者は270名であるが、女性・高齢者の割合が高い。65歳以上の出荷者が約半数になっており、中には88歳で年間約150万円販売して方もいる。農水産加工品などは特に女性が積極的に生産・販売しており、福ふくの里が生き甲斐づくりの場となっている。出荷者の平均販売額は約185万円である。
夕方に売れ残り品の青果物は毎日撤去され、ジャガイモなどの根菜類は3日目に撤去される。生産者には毎日11時半、13時半、17時に販売額が携帯電話を通して連絡される。
職員4人、パート・アルバイト20人で運営されているので、町内に相当な雇用機会を与えている。販売手数料は町内者が15%、開設時に集荷に協力した少数の町外者は20%である。
(2)販売額の推移
当初、販売額の損益分岐点は1億2千万円と考えられスタートしたが、平成14年度の決算はその約2倍の3億円であった。翌年の15年度が4億5千万円、16年度が6億円、17年度が6億2千万円、18年度が最高の6億7千5百万円になった。しかし、19年になると近くに後述の伊都菜彩が開設されたことなどが影響して6億1千5百円になり、20年度には5億7千5百円に減少している。
販売額の減少にはガソリンの高騰も影響している。来店客の約80%を占める約30キロメートル離れた福岡市からの来店客が、ガソリンの高騰に伴い頻繁な訪問を控えたことも関係している。
(3)畜産物の販売額
販売額の約40%が野菜であり、魚が30%、弁当などの加工品が10%、畜産物はおよそ4千万円である。畜産物の販売額は少額ではあるが、前述の堀ちゃん牧場の牛肉、一貴山牧場の豚肉など高級品が販売されているので、直売所の品揃えを豊富にしている。
福ふくの里では青果物、水産物が中心的に販売されているが、それに高級牛肉や豚肉、卵なども販売され、豊富な品揃えになっているために、割烹の仕入れ担当者などが購入に毎日来店している。畜産物の販売は豊富な品揃えと大口購入者来店に貢献している。
(4)生産者対策
鮮魚出荷者に対して対策を講じている例を紹介する。地元漁協の取扱量が減少し、漁協が苦境に陥っているので、出荷者から手数料として得た15%のうち3%を地元漁協に寄付している。地元漁協も喜び、漁業者の直売所への出荷を後押ししている。直売所が開設されるまでは、漁業者は漁協を経由して、一定規格以上のものしか、卸売市場には出荷できず、一定規格以下の小物鮮魚は雑魚とみなされ、卸売市場に出荷できず、収入にならなかった。しかし、直売所に出荷するようになってからは、小物鮮魚であっても地魚として消費者から人気を博してよく売れ、販売額増加に結びついている。直売所は、漁業者の生活を豊かにし、後継者を育成する機能をも果たしており、このことは、他の農産物に対しても同様に活かせる対策であるといえる。
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上段には加工品、中〜下段には牛豚鶏を部位別に豊富に取り揃えているが、
昼を過ぎると陳列棚も寂しくなってくる
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(2)伊都菜彩
(1)開設の経緯と目的
伊都菜彩は福岡県前原市に糸島農業協同組合によって平成19年4月19日に開設された直売所である。開設の背景は、農協組合員の高齢化と所得の伸び悩み、耕作放棄地の増加、農協販売額の減少などの厳しい地域農業情勢を打破する意図が秘められていた。
農協販売額は平成2年の約100億円をピークに減少が止まらず、15年には75億円まで減少した。この農協販売額の減少を食い止め、増加に転じさせるために4つの目的を持って直売所が開設された。第1は、部会員である専業農家だけではなく、兼業農家や高齢者が農産物を生産し、それらを農協を通して販売して貰うため、農協の共同選果場以外の、新たな販売所すなわち直売所が必要とされた。
第2は、以前は農協の生産部会員であったが、有機栽培などの独自ブランドを形成したことにより共販から離脱した方を再び農協の販売事業に回帰してもらう施設として直売所が必要であった。
第3は、九州最大の人口約130万人を持つ福岡市の消費者に前原市へ来てもらい、農産物を購入してもらう施設として直売所が必要と考えられた。
第4は、地域の方々、特に子供たちへの食育の場を提供する施設として直売所が必要になっていた。 この4つの目的を持って伊都菜彩は開設された。その規模は、敷地面積が約2ヘクタールで、建物面積2,440平方メートル、売り場面積1,300平方メートルである。
(2)販売額とその構成
平成20年度の販売額は約28億円で、農産物(野菜、果物、花、米など)が約40%、弁当・総菜・菓子・デザートなどの加工品が約25%、食肉が15%である。鮮魚が15%、花卉・苗物・その他が5%である。
食肉の牛肉と豚肉は全て糸島産である。特に牛肉は管内で生産された和牛のA4等級以上のものが販売されている。糸島市内で肥育された和牛が福岡市食肉卸売市場に出荷され、農協によって買い取られて、農協が直売所で自ら販売している。豚肉は2つの方法で販売されている。一つは和牛と同様の方法で農協が直接販売するケースで、他は4戸の養豚農家が食肉卸売市場で自家産豚肉を買い取り、自家で精肉に加工してそれぞれの農家が直売所に持ち込み、各自の責任で販売するケースである。
また、低温殺菌牛乳の伊都物語やアイスクリームやヨーグルトなどの乳製品を販売する店舗および糸島産牛肉・糸島産小麦100%を食材にしたうどんを販売する店舗がテナントとして入店している。
(3)出荷者数とレジ通過者数
糸島農協の組合員は正・准合わせて約1万3千人であるが、直売所の出荷者は1,170人である(開設時は750人であった)。
レジ通過者数は平日が約3.000人で、週末や休日は4,500〜5,000人である。来店者の大半は福岡市からの来客である。
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地元産生乳から作られたアイスクリームやデザートは絶品とのこと
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ノンホモ牛乳の伊都物語を始め、農家のこだわりが感じられる牛乳・乳製品。
売り切れ御免の看板もしょっちゅう
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5.生産者アンケート調査による直売所の持つ生産者の身体的・精神的健康増進機能の解明
(1)アンケート調査の目的と方法
直売所関係者の間で「直売所への出荷者は、農産物を直売所に出荷する以前と比較して出荷開始後は元気になる!」〔3〕〔4〕〔5〕との指摘があったので、その真偽を検証するために、出荷者を対象にして直売所に出荷を開始した前後でどのような身体的および精神的な変化があったかを分析するためのアンケート調査を平成21年5〜6月に実施した。
(2)調査回答者の属性
アンケート調査の回答者の性別構成は表1に示す通りであり、女性が多い。また、年齢別構成は表2に示すように50歳代後半が多い。直売所は女性が多く、50歳から60歳の方が中心であることが分かる。特に、伊都菜彩では50歳代の方が多い。
直売所への出荷頻度を表3からみると「毎日」が過半であり、「2日に1度」を加えると75%程度になっている。しかし、直売所での年間販売金額は100万円以下の方が3分の1程度あり、必ずしも販売額が多い訳ではない。ただ、福ふくの里では鮮魚の出荷を多く含むため、401〜500万円の方が20.2%存在している。全国の直売所の中でも鮮魚の集荷者が多い施設は数少ない。そのことは表5の販売額が最も多い品目として魚が2番目になっているのをみれば明らかである。
表1 アンケート調査回答者の性別構成
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表2 アンケート調査回答者の年齢別構成
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表3 直売所への農産物出荷頻度
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表4 直売所での農産物年間販売額
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表5 直売所で販売額が最も多い農産物
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(3)出荷者の身体的健康増進機
出荷者の健康状態の変化を見たのが表6である。直売所への集荷開始後に「元気になった」と回答した方が約4分の1存在していることが明らかになった。
「直売所への出荷者は、農産物を直売所に出荷する以前と比較して出荷開始後は元気になる。」との指摘は間違いないと言えよう。 出荷者の病院への通院回数の変化を表7からみると伊都菜彩では21.9%の方が減ったと回答している。
表6 直売所への出荷開始後の身体的健康の変化
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表7 直売所への出荷開始後の病院に行く回数の変化
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(4)出荷者の精神的健康増進機能
出荷者の精神的健康状態の変化をみたのが表8である。直売所への集荷開始後に「楽しくなった」と回答した方が60〜80%存在していることが明らかになった。
その理由を表9からみると「人とのふれあいがあるから」が40〜50%であり、「自分で作ったものに自分で値段をつけることができるから」が30%あることが明らかになった。このことは従来の卸売市場流通では、卸売市場での価格形成に委ねられ、自分が価格形成に関与できなかったことへの不満や批判とも理解される。
最近、農家の間で関心の高い直売所流通は、人とのふれあいや価格形成の関与といった非価格要因が影響していると指摘できよう。換言すれば卸売市場流通は出荷者とのふれあい、価格形成への関与を許容しないと集荷者から離反されることを示唆している。
表8 直売所への出荷開始後の精神的健康の変化
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表9 直売所への出荷開始後楽しくなった理由(複数回答)
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(5)出荷者の精神的健康増進の計量分析
出荷者の精神的健康状態は何によって影響を受けるのか計量分析したのが次式である。ここでは、「精神的健康」(楽しくなった=1、変わらない=2、楽しくなくなった=3)を「被説明変数」とし、「精神的健康」に影響を与えると考えられる(1)「身体的健康の変化」(元気になった=1、変わらない=2、元気がなくなった=3)、(2)「販売額の変化」(増えた=1、やや増えた=2、変わらない=3、やや減った=4、減った=5)、(3)「ふれあいの評価」(はい=1、いいえ=0)、(4)「価格の自己決定の評価」(はい=1、いいえ=0)を「説明変数」として、(1)〜(4)の要因が「精神的健康」にどの程度影響を与えているか分析を行った。
また( )内の数値はt値であり、R2は決定係数である(注参照)。
福ふくの里の生産者については次式の通りである。
上式は、集荷者の精神的健康状態には、「身体的健康の変化」、「販売額の変化」、「出荷者同士などでふれあいがあることの評価」、「出荷者が価格を自己で決定できることの評価」の4つの要因が有意に影響しており、その説明力は78.1%であることを示している。
ここで注意すべき点がある。それは「ふれあいの評価」と「価格の自己決定の評価」の係数がマイナスになっている点である。前述のように被説明変数の精神的健康の楽しかったが1であり、変わらないが2、楽しくなくなったが3であるために(楽しくなくなるほど数値が高くなるために)、符号条件が逆になり、ふれあいの評価と価格の自己決定の評価の係数がマイナスの場合は、それらの変数がポジティブに影響していることを示している。
伊都菜彩の生産者については次式の通りである。
上記の4つの説明変数が精神的健康状態に有意に影響していると言えよう(説明力82.1%)。
注: 「t値」;説明変数として適当かどうかをみる値で、−2以下と+2以上の場合は有意性が
あるとされている。
「R2(決定係数)」;説明変数が被説明変数のどれくらい説明できるかをみる数値で、1に近いほど
説明できるとみられている。
6.消費者アンケート調査による直売所の総合評価(顧客満足)要因の解析
(1)アンケート調査の目的と方法
前述のように直売所は食の地産地消とグリーンツーリズムの拠点であり、多くの機能なかんずくホスピタリティ機能が重要であるが、そのためには、消費者から直売所が評価され、直売所を訪問してもらい、満足してもらうことがまず前提条件として必要である。
そこで、多数の都市消費者は、直売所の何を評価し、何に満足しているのか、顧客満足の要因は何かを解明するため、消費者を対象にアンケート調査を実施した。ここでは、そのアンケート調査結果を直売所に対する総合評価(顧客満足)の視点から検討してみる。
アンケート調査は、小稿の分析対象地域内にある直売所において、2008年12月18日(木曜日)、12月20日(土曜日)、12月21日(日曜日))に農産物を購入した消費者を対象に実施された。
回答資料を基に重回帰分析を行い、消費者の総合評価の要因分析を行った。
(2)消費者アンケート調査の回答者の特性
回答者の住所を、平日(木)と休日(土・日)で比較すると、地元からが平日は32%、土日は17%と12%であり、平日は地元の来客が土日よりも15%以上多い割合である。
反面、地元外からは、平日60%、土日が70%・78%と休日の方が多い来客割合となっている。また、その他の遠方からも、平日8%、土日が13%・10%と休日の方が多い。
平日は近隣からのデイリー利用、休日は遠方からのウィークリー利用が多いといえる。来客者の97%が交通手段は車である。広大な駐車場が必要であることがわかる。
アンケートの回答者は50歳から60歳代の女性が多い。50歳から60歳代の女性が車を運転して直売所に来ている実態が明らかになった。
直売所までのアクセス時間は、平日が24分、土日が36分・34分であり、全平均が32分であった。週末は近隣市からの来客が非常に多いといえる。
(3)直売所の来店同行者数からみた直売所の位置づけ
平日も週末も2人で来る客が約半数で一番多い。次に、木曜と土曜は1人で来る方が多く、日曜では3人が多い。
平日は、2人もしくは1人と小人数で買い物をして、日曜は2人もしくは3人以上の複数人で楽しみながら買い物をする傾向にあるといえる。平日も週末も夫婦で来る客が一番多い。次に木曜は友人と、土・日曜では家族で来る方が多い。
直売所が夫婦で買い物できる場としてあり、また休日は家族連れで出かける場として考えられているといえる。2人で来る客の73%が夫婦である。さらに3人以上になると70%以上が家族連れである。夫婦・家族にとって気軽にみんなで出かけることのできる場として、直売所は位置づけされているといえる。
(4)直売所の来店者の普段の食料品購入先
直売所の来店者の普段の食料品購入は56%の方がスーパーであった。次が27%の直売所である。直売所の来店者は、スーパーと直売所を品目別に分けて利用していると考えられる。また、その他としては、生協やデパートなどの回答があった。
購入目的は野菜が28%と一番多かった。次いで鮮魚の18%である。直売所の一番の主力品である「新鮮野菜」を客が買い求めているといえる。また、直売所では珍しい鮮魚への目的意識も特徴的である。 上位10位までに花や畜産物が入っている。その他には「豆腐、みそ、酒、贈答品」が含まれる。
購入金額の平均が5,145円と非常に高い。他の調査などでは1人当たり購入金額は1,500程度であるのに比較して、非常に高い。それには鮮魚や精肉の高単価商品の販売が影響している。
(5)直売所への要望
最も要望の多かったのはレジの増設である。来客数が予想以上に増加しているので、レジでの待ち時間が長くなり、不満がたまっているようである。
第2位は商品充実である。直売所は地産地消を理念としているので、商品の拡充には限界があるのも事実である。今後、地域農業を維持し、発展させていくことが直売所の品揃えにも有効であるといえよう。しかし、現実は逆の方向に向かっている地域や直売所が多い。
第3は安価希望である。直売所は安いとのイメージが定着しているからであろう。
(6)直売所における品目別総合評価と店舗の総合評価
(1)消費者による品目の総合評価
アンケート回答者は、直売所で販売している野菜や果物などの品目と店舗についてどのように評価しているのか、その評価には何が影響したのか分析する。
回答者から、この直売所で販売している品目別に5段階に評価してもらい、最後に店舗についても5段階に評価してもらい、それを基に重回帰分析を行った。ちなみに、5段階評価の5は非常に良い、4は良い、3は普通、2は悪い、1は非常に悪いである。
−野菜−
野菜の総合評価は、表10のようになっている。鮮度について285名が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少なく、4の良いや3の普通が多い。回答者は直売所の農産物の価格はもっと安いことを期待していることが分かる。 回答者の野菜の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図1である。同図によれば鮮度の平均値は高いが、価格の平均値は低いことがわかる。
表10 野菜の評価項目と総合評価
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図1 野菜の評価のレーダーチャート
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−食肉−
食肉の総合評価は、表11のようになっている。鮮度について191名が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少なく、4や3が多い。また、2も多い。この直売所では食肉については高品質なものを品揃えしている関係でこのような回答になっているのであろう。当地域は畜産が盛んであり、特に牛肉の評価が高い。総合評価は、高価格のものが多いことが影響して、4が比較的多くなっている。
回答者の食肉の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図2である。同図によれば鮮度、品質、安全の平均値は高いが、価格の平均値は低いことがわかる。
表11 食肉の評価項目と総合評
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図2 食肉の評価のレーダーチャート
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−果物−
果物の総合評価は、表12のようになっている。鮮度について189名が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少なく、4や3が多い。また、品揃えについても3が他の項目よりは多い。当直売所の地域が必ずしも果物の産地でないことを反映したアンケート結果になっている。
その結果、総合評価は5より4の方が多くなっている。当地域でも果物の生産を増やすことが重要な課題である。
回答者の果物の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図3である。同図によれば鮮度、品質、安全の平均値は高いが、価格の平均値は低いことがわかる。
表12 果物の評価項目と総合評価
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図3 果物の評価のレーダーチャート
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−生花・苗物−
生花・苗物の総合評価は、表13のようになっている。鮮度について180名が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少ない。品質と品揃えは、他の項目に比較して。4が多い。価格については、2も多い。総合評価は、4が比較的多い結果になっている。
回答者の生花・苗物の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図4である。同図によれば各項目の平均値はバランスよく水準も高いことがわかる。
表13 生花・苗物の評価項目と総合評価
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図4 生花・苗物の評価のレーダーチャート
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−総菜・弁当・菓子−
総菜・弁当・菓子の総合評価は、表14のようになっている。鮮度について154名が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少なく、4や3が多い。総合評価は、4が比較的多い結果になっている。
回答者の総菜・弁当・菓子の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図5である。同図によれば鮮度、品質、安全、品揃えの平均値は高いが、価格の平均値は低いことがわかる。
表14 総菜・弁当・菓子の評価項目と総合評価
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図5 総菜・弁当・菓子の評価のレーダーチャート
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−鮮魚−
鮮魚の総合評価は、表15のようになっている。鮮度について244名が非常に良いと高く評価している。一方、価格については他の項目に比較して、5が少ない。価格と品揃えは、他の項目に比較して。4が多い。品揃えについては、2も多い。総合評価は、4が比較的多い結果になっている。
回答者の鮮魚の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図6である。同図によれば鮮度、品質、安全の平均値は高いが、品揃えと価格の平均値は低いことがわかる。
表15 鮮魚の評価項目と総合評価
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図6 鮮魚の評価のレーダーチャート
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(2)店舗の総合評価
店舗の総合評価を表16に示す。駐車場の広さ、レジの数、照明については高い評価を受けている。しかし、接客態度、店舗配置については3が多い。特に、店舗配置は2も多い。接客態度と店舗配置は改善の余地がある。
店舗の総合評価は4が比較的多くなっている。今後は、接客態度や店舗配置の改善が望まれる。
回答者の店舗の総合評価の評価項目別の平均値をレーダーチャートにしたものが図7である。同図によれば駐車場の広さ、レジの数、照明の評価の平均値は高いが、その他の項目の評価の平均値は低いことがわかる。
表16 総合評価の評価項目
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図7 総合評価の評価項目のレーダーチャート
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(7) 品目別総合評価と店舗総合評価の計量分析
品目別の総合評価に与える要因の重回帰分析を行った。分析結果は表17に示す通りである(数式の詳細は数式付録参照)。 野菜については安全、価格、品質、品揃え、鮮度の順で総合評価に影響していると言えよう。果物は品質、価格、品揃えが、食肉については価格、品揃え、品質が総合評価に強く影響している。
店舗に対する総合評価は、表18に示す通りである。総合評価その1とその2の2式を示している。その1では、総菜・弁当・菓子の有意水準が必ずしも高くないので、それを変数から除外したのが、その2である。
その2を用いた店舗の総合評価に対する影響要因は、果物の総合評価、品揃え、レジの数、食肉の総合評価である。店舗の総合評価を高めるには、以上の4つの要因の充実が不可欠であると結論できよう。
表17 品目別総合評価に与える項目の順位と影響力
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表18 店舗の総合評価に与える項目の順位と影響力
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7.むすび〜直売所の持続的地域活性化を支えるホスピタリティ機能強化の必要性〜
(1) 直売所のホスピタリティ機能を支える5要因
以上の生産者と消費者のアンケート調査から、ホスピタリティ機能が直売所の持続的発展には重要であることが判明した。最後に、直売所のホスピタリティ機能を支える5つの要因について検討しよう。
(1)新鮮農産物の提供:早朝から生産者が直売所に農産物を搬入・陳列し、夕刻にもし売れ残りがあれば残品は生産者が自らの責任で引き取って、処分している。従って、直売所では毎日新鮮な農産物が提供されている。この点は量販店と大きく相違する点であり、消費者が最も高く評価している点である。
(2)信頼できる農産物の提供:一般的に直売所では農産物は氏名と電話番号を表示して販売されており、誰が生産したものであるか明示されている。これはトレーサビリティ機能の一形態であり、消費者に信頼感を与えている。また、ある直売所では、メロンなどの果物の糖度を非破壊型検査機で測定して、糖度14度以上のものしか販売せず、安定した品質確保の点で、消費者に信頼感を与えている。
(3)安全農産物の提供:ある直売所では、慣行農産物栽培法の50%の農薬と50%の化学肥料で栽培したことを明示する「特別栽培農産物」や「減農薬減化学肥料栽培農産物」などの認証マークを貼付した農産物を販売しており、消費者に信頼感を与えている。
(4)生産者の顔が見える販売:直売所には生産者が直接農産物を搬入し、陳列するので、早朝に行けば生産者に直接会うことができ、会話をすることが可能である。ある直売所では、伝統食の料理法を伝授するためにハッピを着た生産者を直売所に配置して、伝統野菜の販売を行っている。
(5)低価格農産物の提供:直売所で販売される農産物の価格設定は、一般に生産者に一任されている。生産者は直売所から提供される卸売市場での取引価格情報を参考にして価格設定している事例が多い。従って、直売所の価格は、量販店の価格に比較して仲卸業者と量販店でのマージンに相当する部分だけ、安くなっている場合が多い。
(2) 直売所のホスピタリティ機能を維持するための農政の課題
直売所は5つの要因に支えられてホスピタリティ機能を果たしているが、直売所への農産物の出荷者は高齢者や女性が多く、このままでは直売所のホスピタリティ機能を維持することが困難になる。
我が国の農業はWTO体制の下で農産物が大量に輸入され、地域農業の維持が困難になっている。そのため我が国の農業政策は、大規模経営を育成し、コストダウンを図る少数精鋭経営育成施策を展開しており、直売所に出荷する高齢者・女性達が主体になる多数の零細兼業農家は制度的な困難に直面している。直売所のホスピタリティ機能を維持するためには、多数の零細兼業農家も大切にする農政の展開が必要である〔6〕。
それは、厳しい競争社会の中で生きている現代の国民・消費者を農村でもてなし、安らぎと癒しを与える重要な社会政策の一つでもある〔7〕。
参考文献
〔1〕農林水産省総合食料局流通課『卸売市場データ集』2009年.
〔2〕甲斐諭「基礎理論U」滝沢昭義・甲斐諭等編『食料・農産物の流通と市場』2005年、筑波書房.
〔3〕甲斐諭・高山和幸『農産物直売所出荷者の健康に関する調査研究報告書』九州大学農産物流通学研究室、2003年.
〔4〕甲斐諭・樋口泰範・高山和幸『農産物直売所の設置による地域農業の活性化と今後の課題』福岡県経営構造対策推進機構、2005年.
〔5〕甲斐諭・豊智行・樋口泰範・高山和幸『総合交流ターミナル(農産物直売所)の役割と地域農業の活性化』福岡県経営構造対策推進機構、2006年.
〔6〕甲斐諭編『山村の暮らしの再興』九州学術出版振興センター、2005年.
〔7〕甲斐諭『食農資源の済分析〜情報の非対称性解消をめざして〜』農林統計協会、2008年.
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