海外駐在員レポート

VIETSTOCK 2008 EXPO & FORUMの概要について

シンガポール駐在員事務所 佐々木 勝憲、林 義隆



1 はじめに

 ベトナムでは、2008年1月に、2020年に向けた畜産開発戦略(LIVESTOCK DEVELOPMENT STRATEGY TO 2020)を策定した。この戦略では、2020年の家畜の飼養頭羽数を、2006年比で、豚を29.2%、鶏を101.6%、肉牛を91.4%、乳牛を342.5%増加させるという、意欲的な目標数値を掲げている。

 この目標を達成する一助として、ベトナム農業農村開発省(MARD)畜産局の主催で、VIETSTOCK 2008 EXPO & FORUMが開催された。23カ国の企業による畜産関連製品や技術の展示とともに、効率的な飼料生産や飼養管理技術、育種技術が紹介された。ベトナムの畜産業の概況とともに、このEXPO & FORUMの概要についてレポートする。

図 ベトナムの地域区分図


2 ベトナムの畜産業の概況

(1)ベトナムの地域区分について

 ベトナムは南北に約1,650キロメートルと細長い国土を有しており、紅河デルタ地域、北東部、北西部、北中沿岸部、南中沿岸部、中部高原、南東部およびメコンデルタ地域の8地域に分けられる。

(2)豚

 豚の飼養頭数は、2001年の2千2百万頭から2006年の2千7百万頭まで、年平均4.3%で増加した。2006年の地域別では、約27%の7百万頭が紅河デルタ地域で、約17%の5百万頭が北東部で、約15%の4百万頭がメコンデルタ地域で、約14%の4百万頭が北中沿岸部で飼養されている。

 また、母豚は2001年の3百万頭から2006年には4百万頭と、全体の飼養頭数の16%にまで増加している。そのうち約10%は外来種となっている。

 従来の生産性の低い小規模家族経営から、産業的な農場経営による養豚業への転換が進んでいる。一方、遺伝資源の導入や濃厚飼料の供給、獣医や人工授精のサービス、生産物の販売といった活動を共同で行うことで生産コストを低減させ、赤身肉(lean-pork)生産を志向する協同組合も見られるようになっている。また、集約的経営も急速に伸びており、外来種の2代、3代交雑豚の飼養頭数が、6百万頭以上となっている。養豚が集中的に行われている地域では、子豚の冷暖房や給餌機、自動給水機を備えた飼養施設が導入されている。多くの省で人工授精技術や繁殖改善のための製品、コンピュータによる育種管理技術が導入されている。

 しかしながら、まだ多くの低生産性で高コストの小規模家族経営が点在している。2005年には、母豚1頭1年当たりの豚肉の平均生産量は589キログラム(外来種母豚1,423キログラム、在来種との交雑種の母豚563キログラム、在来種248キログラム)であった。先進国では、この数値は1,800〜1,900キログラムとされている。雄豚の選抜育種管理技術も課題である。食品安全や食品衛生上十分ではない伝統的なと畜、食肉処理もまだ広く行われている。

(3)肉牛

 乳牛を含む牛の飼養頭数は、2001年の4百万頭から2006年の7百万頭まで、年平均10.8%増加した。2006年の地域別では、北中沿岸部で約19%、南中沿岸部で約18%の百万頭が飼養されている。

 肉牛は、飼養頭数の約70%が在来種で占められている。在来種は、出荷時体重が雄で180〜200キログラム、雌で150〜160キログラムと低く、枝肉歩留りも43〜44%と低い。交雑種は、主にゼブー系のシンド、サヒワール、ブラーマンといった品種に由来している。交雑種の割合は、全国では飼養頭数の約30%を占めるが、南東部や紅河デルタ地域では50%を超える。交雑種は、出荷時体重が230〜270キログラム、枝肉歩留りが49〜50%と、在来種に比べて高い。さらに、ブラーマンやドロートマスター(豪州でブラーマンなどの品種から作出された熱帯地域用の肉用牛)の導入や、ゼブー牛純粋種の受胎率や初産月齢の改善への取組みも行われている。

 多くの省で肉牛生産を奨励しており、人工授精の推進や素畜、牧草の種子の購入への補助などを行っている。また、集団飼育農法が考案され、一部で導入されており、こうした集団飼育場や育種施設では、コンピュータを用いた育種管理や飼料管理も行われている。

 しかしながら、各地に点在する肉牛の大部分は小規模農家で放牧により飼育されており、優良な品種の不足、粗放的で低水準の飼養技術や育種基準といった課題も多い。また、野草地に依存した放牧に起因する牧草地不足、低繁殖率、低増体量、低品質、飼料用作物生産技術の未浸透といった課題もある。

(4)乳牛

 MARDは、2001年10月に決定された「ベトナム乳牛群の発展のための諸解決と政策に関する首相決定 2001年−2010年」に基づき、乳牛を増やすために、29の省と中央直轄市(全国には63の省、中央直轄市がある)で「乳牛飼養開発プロジェクト 2001−2005」を実施してきた。その結果、乳牛の飼養頭数は、2001年の4万1千頭から2006年の11万3千頭と、年平均で22.4%増加した。これは、全家畜の中で最大の増加率である。このうち、約60%の6万7千5百頭がホーチミン市で飼養されている。

 なお、畜産開発戦略の現状分析では、このような成果の要因の一つとして国際協力が挙げられており、独立行政法人国際協力機構(JICA)の牛人工授精技術向上計画プロジェクトも紹介されている。

 乳牛の95%以上が家族経営で放し飼いにされている小規模放牧経営が主体であり、飼養頭数は、北部では平均2〜3頭、南部では5〜7頭である。品種については改良が進んでおり、ホルスタイン種の交雑種が約85%を占めている。ホルスタイン種の純粋種は14%を占め、主に育種施設や大農場で飼養されている。他の品種は1%に過ぎない。

 新たな乳牛飼養管理の重点対策として、全飼養頭数11万3千頭のうち4万7千頭を選抜し、その記録がコンピュータにより管理されており、インターネットを通じてアクセスできるようになっている。また、人工授精には、高能力な種雄牛の精液のみを使用することにより、育種改良を推進している。

  搾乳用機械は主に大規模農場で用いられており、小規模農場での使用率は10%に過ぎず、これが乳房炎の発生の一因となっている。

(5)水牛、めん羊・ヤギ

 水牛の飼養頭数は、2001年の281万頭から2006年の292万頭まで、年平均0.7%で増加した。2006年の地域別では、北東部で約42%の124万頭、北中沿岸部で約25%の74万頭が飼養されている。

 デルタ地帯では主に家族経営の農家が点在しており、山地や内陸では群れで放牧されている。

 水牛の品種改良のための適切な投資がなされておらず、また2002年までMARDには水牛の改良や近親交配を避けるための事業がなかったことから、生体重の減少が報告されており、過度の近親交配が懸念されている。飼養は粗放的で、生産技術や育種管理技術も十分には確立されていない。

  めん羊・ヤギの飼養頭数は、2001年の57万頭から2006年の152万頭まで、年平均21.6%で増加した。うちめん羊は5万6千頭(2006年)である。ヤギは約23%が南東部、約22%が北東部、約14%が北中沿岸部、約4%が南中沿岸部で飼養されている。主に粗放的放牧で飼養されているが、いくつかの省では、半放牧システムが開発、導入されている。

 近年、舎飼いで、刈り取った草を飼料として給与するヤギの飼養モデルが開発され、良い成果を生んだため、急速に拡大している。しかし、めん羊・ヤギ生産は小規模で点在しており、主に投資や飼養管理技術、知識、獣医サービスの乏しい内陸部や山岳部のの貧しい人々の生計のために飼養されている。

(6)家きん

 高病原性鳥インフルエンザ(AI)の発生以前の2003年まで、家きん(鶏、水きん(アヒル、バリケン(Muscovy duck)など)の飼養羽数は順調に増加し、2003年には2億5千4百万羽に達した。しかし、AIの発生により、2004年には2億1千8百万羽にまで減少し、2005年には2億2千万羽と増加したものの、2006年には、2億1千5百万羽と再び減少に転じている。
 2006年の地域別では、紅河デルタ地域が約27%の約5千8百万羽、北東部が約20%の4千2百万羽、メコンデルタ地域が約17%の3千6百万羽、北中沿岸部が約16%の3千3百万羽となっている。

 家きんの生産は、小規模経営が主体であり、2006年では、飼養羽数ベースでは鶏の約70%、水きんの約93%が小規模経営となっている。産業的に飼養されているのは鶏の約30%、水きんの約7%に過ぎず、このことがベトナム家きん業界のAIに対するリスクの要因の一つとなっている。産業的経営は飼養羽数ベースではまだ少ないものの、生産量ベースでは、鶏肉の約46%、鶏卵の約39%、水きん肉の約14%、水きん卵の約18%を占めており、今後の家きん肉、家きん卵の生産量の増加に向けて大きな役割が期待されている。しかしながら、土地や投資資本、飼養管理技術といった課題も残されている。

 このように、家きん生産、特に水きん生産はまだ小規模経営が多く、伝染病対策や環境保全といった面からの課題は多い。また、食鳥処理場の導入も始まったものの、生きたまま店先や移動店舗などあちこちで売買する習慣や従来方式の人手による食鳥処理も広く行われている。

表1 地域別家畜飼養頭羽数(2006年)

3 2020年に向けた畜産開発戦略の概要

 ベトナム政府は、農業分野における畜産の重要性を認識しており、1970年代から畜産を農業における主要産業に押し上げる政策を取ってきたが、畜産の生産性はなかなか上がらなかった。一方で、近年の経済発展に伴い、畜産物に対しては、量や品質のみならず、衛生的で安全な食品、環境負荷軽減といった観点からの要求も高まってきている。

 こうしたことを背景に、MARDは2007年11月、戦略の目標と、畜産業を生産性、品質、衛生的で安全な食品、環境保護に対する高い要求を満たす集約的農業に再構築するための手段を明確にすることを目的として、2020年に向けた畜産開発戦略の案を策定した。この案は、2008年1月16日、首相決定として承認された。

 この戦略では、2020年までに、畜産の集約化と産業化の推進により、畜産物の農業生産額に占める割合を2006年の26.4%から42%まで引き上げ、国内消費のみならず、輸出の需要にも対応することを目標としている。そのために、家畜の飼養頭羽数を、豚を2千7百万頭から3千5百万頭に、肉牛を7百万頭から1千3百万頭に、乳牛を11万頭から50万頭に、めん羊・ヤギを2百万頭から4百万頭に、鶏を1億5千2百万羽から3億6百万羽に増加させるという意欲的な目標数値を掲げている(表2)。

表2 家畜の飼養頭羽数の推移と2020年の目標値

4 VIETSTOCK 2008 EXPO & FORUM

 MARD畜産局によれば、畜産農家が小規模家族経営から大規模経営にシフトしたことにより、ベトナムの畜産部門は過去6年間で年平均8.9%の成長を続けている。また、大規模化に伴い、科学的先進技術や交雑種の飼養、粗飼料生産といった技術への適応が求められる一方、流通飼料の需要が増加しており、その結果、新たな飼料工場への投資への関心も高まっている。

 これを受けて、MARD畜産局の主催により、2008年11月25日〜27日の3日間、首都ハノイの国家コンベンションセンターにおいて、畜産・飼料関係者を対象として、VIETSTOCK 2008 EXPO & FORUMが開催された。

 開催者発表では、23カ国から190以上の関係者が集い、畜産に関する最新技術や商品、サービスの展示を行った。訪れた農家を含む畜産関係者が、各ブースで熱心に質問を行っていた。

 MARD自身もブースを設置して畜産開発戦略をアピールしており、また最終日には農業農村開発大臣が視察に訪れるなど、畜産の発展にかける意気込みが感じられた。

 今回の商談の成果はまだ出ていないが、2006年に開催された前回には、展示会終了後12カ月以内で約3百9十万ドル(約3億1千万円:1ドル=97円)の商談が成立したと見込まれており、今回は、これを上回る成果が期待されている。


会場となった国家コンベンションセンター


MARDのこれまでの取り組みの紹介
(バビ牛牧草研究センター)


入口正面にあるMARDのブース


ニワトリや水きん、特用家畜としての鹿のはく製の展示


屋内展示場の様子


屋外展示の様子


視察に訪れた農業農村開発大臣

5 VIETNAM FEED & LIVESTOCK INDUSTRY CONFERENCE

 畜産・飼料産業が成長する一方で直面している家畜疾病や飼料価格の上昇、食品安全などの課題に対応して、VIETSTOCK 2008 EXPO & FORUMの開催に併せて、「食品安全とバイオセキュリティに向けて(Towards Food Safety & Bio-Security)と題した会議(VIETNAM FEED & LIVESTOCK INDUSTRY CONFERENCE)が開催された。
 会議に先立って、今回が初回となるベトナム飼料・畜産賞(Vietnam Feed & Livestock Industry Awards 2008)の授賞式が開催され、畜産業の発展に貢献した畜産農家や畜産技術者などが表彰された。

 会議はセッション1:効率的な飼料生産・加工管理、セッション2:効率的な家畜衛生管理の進展、セッション3:畜産への最新の製品の提供の3セッションに分かれ、主にEXPOの展示者がそれぞれの展示物の解説を行った後、聴衆との質疑応答を行うという形式で進められた。

 セッション1では、MARD畜産局次長によるベトナム飼料生産の現状の説明の後、飼料穀物の破砕技術、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いた飼料の安全性確保、NIR(近赤外線)技術を用いた飼料分析といった技術が紹介され、最後にMARD担当官による飼料輸出入に関する規制の説明が行われた。

 セッション2では、有機酸やマイコトキシン結合物質などの飼料添加物や吸湿剤の効果、病原体の迅速診断キットなどが紹介された。

 セッション3では、英国やカナダの豚の改良状況と遺伝資源、豚の人工授精キットとその使用法が紹介されるとともに、ベトナムの畜産業の発展の参考として、タイの鶏肉産業の発展の歩みが紹介された。

 説明は基本的にベトナム語で行われ、英語で説明する場合はベトナム語版のプレゼンテーション資料が用意されるなど、生産者を含む畜産関係者への配慮が感じられるとともに、演題の設定に現在のベトナム畜産業の関心がうかがわれた。


ベトナム飼料・畜産賞授賞式

6 おわりに

 GDP成長率8%という経済成長を見せていたベトナムだが、世界的金融危機の影響で、その発展には陰りが見えている。しかしながら、いったん上昇した畜産物の需要が減るとは思えない。また、ベトナムは、首都ハノイにおいてもまだウェットマーケットが健在である一方、郊外には会員制のハイパーマーケットも存在しており、食品安全や衛生の面からも、品質面からも、畜産の向上の余地は大きいと思われる。農村部の所得向上のためにも、2020年に向けた畜産開発戦略の実現への努力は続くであろう。飼養頭羽数の目標はかなり意欲的と思われるが、今回のVIETSTOCK 2008 EXPO & FORUMの取材を通じて、その意欲的な目標達成に向けたMARD関係者の熱意を感じた。

 また、畜産先進国である欧米諸国のブースやシンガポール、マレーシアといった近隣諸国のブースに加え、中国のブースが目を引いた。中国のブースは、屋外の加工機器の展示も含めて飼料関連企業が目立っていたが、ベトナムにとって歴史上も関係の深い隣国である中国が、畜産技術の提供者として売り込みに来ているのが興味深かった。


ウェットマーケットの道端の食肉店


郊外の会員制ハイパーマーケットの入口


中国企業のブース


元のページに戻る