調査・報告

東伯牛(鳥取)とエフコープとの産直取引への取り組み
─北海道新得町から鳥取、さらに福岡へと南北を絆で結ぶ産直事例─

宮城学院女子大学 学芸学部生活文化学科 教授 安部 新一


はじめに

 BSEが発生して大分時間が経過したものの、最近では北海道や岐阜県で起きた偽装表示問題など、食肉の安全に対する不安を高める事件が発生している。また、このような不安による需要の低迷のほかに、近年の経済の低成長により所得の増加が進まず、他の食肉に比べ価格の高い牛肉の消費が低迷している。また、生産・供給側を取り巻く環境は、米国産牛肉の輸入再開や穀物価格の急騰による飼料価格の高騰により、国産肉牛生産にとって極めて厳しい状況になってきている。こうした中で、産地と加工流通過程が明らかな「安全・安心」をセールスポイントにした産直取引が注目されている。産直取引を行っている生産者側では給与する飼料などを含めた生産履歴を明らかにするとともに、トレーサビリティに加えて、生産情報公表JAS規格への取り組みも見られる。

 一方、産直の主たる需要側の生協でも組合員へ安全で安心な美味しいものを提供していくことがさらに強く求められてきている。小売業界では食品スーパーなどでの業種・業態間での熾烈な販売競争も行われており、このような販売競争の中で生協は厳しい経営を強いられているところも多い。そうした状況下で生協の中には、生産履歴を消費者に開示し安全性を訴求した商品の品揃えの強化とともに、産地と消費者(生協組合員)との交流をさらに深めて産直取引活動を積極的に行っているところも見られる。

 本稿では北海道内で生まれたホルスタイン種のオス子牛(去勢)を素牛とし、鳥取県内で東伯牛ブランドとして肥育した肉牛を福岡県のエフコープ生活協同組合(以下、「エフコープ」)との産直取引を行っている事例を対象に、産直取引の経緯、生産・供給側であるほ育・育成牛と肥育牛の飼育方法、産直取引の実態および取引を推進していく上での課題を明らかにしたい。

*生産情報公表JAS規格とは、消費者の安心と信頼を確保するため、食品の生産情報を生産者が正確に記録・管理・公表し、消費者がその製品を買い求める際にその生産情報を確認できる食品の規格であり、平成15年12月に「生産情報公表牛肉」が、平成16年7月に「生産情報公表豚肉」が、平成17年7月に「生産情報公表農産物」がスタートしている(詳しくは【http://www. jasnet.or.jp/jigyou/tracejas/ index.htm】参照。)

1.東伯牛の産直取引

(1) 産直取引の経緯
    −22年間の実績−

 東伯牛の産直取引は1986年8月にエフコープと当時の東伯町農業協同組合(以下「JA東伯町」)との間で「協同組合間提携と産直活動に関する協定」を結び産直取引が開始された。それまでエフコープでは、大山乳業農業協同組合(鳥取県東伯郡)との産直取引を行ってきた経緯があり、生協担当者が大山乳業へ来訪した折りに東伯牛の存在を知ったのがきっかけである。

 一方、JA東伯町では、組合員の農家所得の確保と就業機会の確保の観点からいろいろな事業への取り組み展開を図ってきた。そうした中で、畜産部門については、1979年頃から畜産総合対策事業などの補助事業により、畜舎建設を行い肥育経営の導入を希望する農家に賃貸により畜舎を貸与し、一部は試験的に農協の直営牧場として肉牛肥育経営を開始した。こうして生産された肉牛は鳥取県内のエーコープ店舗などで販売され、生産・出荷頭数の増加により新たな販路の拡大が必要になった。そうした折りに販売先としてエフコープを紹介された。エフコープ側では「組合員の暮らしに貢献し、暮らしをより良いものにしていく」ことを商品購買の目的とし、その目的に添った商品を取り扱っていくことを基本原則としている。その中で産直取引商品については「産直3原則」(詳細は後述)を基本とし信頼できる生産者やメーカーとのつながりから供給される自信と責任がもてる商品を通じて安全・安心な食生活を守ることなどを目指している。そうしたエフコープの考え方に東伯牛が合致したことにより取引が開始された。

 その後、2007年1月に東伯牛の肥育生産は、JA東伯町から引き継ぎ、株式会社西日本ジェイエイ畜産(以下「ジェイエイ畜産」)が担うこととなった。

(2) 産直取引の担い手と取引ルート 
    −素牛から製品まで多くの関係者−

(1)委託による肥育牛生産

 以前は、JA東伯町が販売を担当し、県外向けはエフコープ、県内向けは鳥取東伯ミートへ販売し、そこから県内のエーコープ店舗などへ販売されていた。しかし、ジェイエイ畜産が肥育事業を引き継いだことから、販売先もJA全農ミートフーズ株式会社(以下「ミートフーズ」)へ全量販売することになった。このため、東伯牛の販売は鳥取県内向けと、県外のエフコープ向けともにミートフーズが販売を担うことになった。

 そこで、ジェイエイ畜産は、JA鳥取中央所有の4農場を賃貸により借り受け、JA東伯町から引き継いで、東伯牛の肥育生産を行っている。ただし、自社での直接肥育生産方式ではなく、11戸の農家と委託契約生産により肥育事業を行っている。

(2)肥育素牛は北海道から導入

  肥育素牛については、北海道のJA新得町管内の有限会社屈足肉牛牧場(以下「屈足肉牛牧場」)との契約により導入している。屈足肉牛牧場からの導入は1回に運搬用トラック1車当たり26頭から27頭、月間で4回(4車)の導入を行っている。導入した肥育素牛を生後21カ月齢、出荷目標体重830キロを目標として肥育する。ミートフーズへの出荷作業はジェイエイ畜産により行われ、出荷は日曜日、月曜日、火曜日にそれぞれ10頭の出荷が行われる

(3)鳥取県内でと畜

 と畜解体作業は、県内の株式会社鳥取県食肉センター(以下「食肉センター」)において、月曜日、火曜日、水曜日に行われる。と畜解体後に一時貯蔵保管を行い、その後冷と体での格付け作業とエフコープ向け振り分け作業が水曜日、木曜日、金曜日に行われ、その後に食肉センター内で部分肉カット作業が行われる。

(4)二つのルートで販売

 福岡への輸送は毎週月曜日と水曜日であり、輸送先は二つのルートになっている。店舗販売分のルートは福岡県二日市市にあるJA全農ミートフーズ株式会社九州支社太宰府パックセンター(以下「パックセンター」)へ搬送される。そこで、エフコープの店舗のうちインストアーパックの店舗分はそのままの形態で各店舗に配送される。それ以外のものについてはパックセンターにおいて、パック包装加工後に店舗に配送される。一方、共同購入分については福岡県豊前市にあるみやこハムに搬送され、そこでパック包装加工後に、エフコープの共同配送センターに送られ、各生協組合員へ配達される。一部は、パックセンターからエフコープの共同配送センターに配送されるルートも見られる。

 商流については、肥育素牛の取引価格にはホクレンとJA全農との話し合いによる交渉により「肉用乳牛素牛供給価格」を毎月決定しそれを基に取引価格を決定している。また、肥育後の東伯牛の取引価格については、ジェイエイ畜産、ミートフーズ及びエフコープによる3者の話し合いにより年間取引価格を決定している。

 このように東伯牛の産直取引には、北海道内のほ育・肥育農家、JA新得町、ホクレン、JA全農、東伯牛生産者としてのジェイエイ畜産、流通業者としてのミートフーズ、みやこハム、コープ九州、そしてエフコープが関わっている。

 以下では、東伯牛の産直取引の主要な担い手である屈足肉牛牧場、ジェイエイ畜産、ミートフーズ、及びエフコープについて、それぞれの果たしている機能と役割について実態を明らかにする。

図1 東伯牛産取引ルート

2 東伯牛生産の取り組み

 東伯牛の産直取引開始以来、肥育素牛を供給し続けているのが屈足肉牛牧場である。一方、当初、東伯牛の肥育生産はJA東伯町の乳雄肥育生産部門として行われていたが、2007年2月にJA鳥取中央との合併に伴い、乳雄肥育生産部門の事業はジェイエイ畜産に引き継がれることになった。そこで、以下では屈足肉牛牧場のほ育・育成とジェイエイ畜産の肥育事業について見てみよう。

(1) 屈足肉牛牧場のほ育・育成牛生産への取り組み

(1)新得町を中心にスモールを導入

  ジェイエイ畜産に肥育素牛を供給している屈足肉牛牧場は、北海道十勝地方の新得町で1972年からほ育・育成の生産を行ってきた。経営概況は、常時飼養頭数はほ育・育成牛約1万頭、肥育牛1,600頭であり、これを専従の従業員13名で飼養している。これ以外に肥育部門として光勇ファームがあり、常時肥育飼養頭数1,400頭を社長の小里氏とパート女性従業員の2人で飼養している。屈足肉牛牧場のほ育・育成牛舎は25棟(グラスサイレージなどの飼料貯蔵施設などを含む)、肥育牛舎2棟である。飼料畑は150ヘクタールにサイレージ用の飼料作物を栽培している。

 スモール(ヌレ子)の導入は新得町管内で生まれた全頭をJA新得町を通じ、またその他道内の釧路管内と根室管内で生まれた全頭をそれぞれの農協からも導入している。導入したスモールを生後6カ月から7カ月齢(平均約6.5カ月)、平均目標体重300キログラム(280〜330キログラム)まで育成して鳥取県のジェイエイ畜産や栃木県内の肥育牛生産者などへ販売している。

(2)3期に分けてほ育・育成

 ほ育・育成段階の飼養管理は、大きく3期に分けている。第1期は導入後から50日齢前後までであり、導入後1カ月間はミルクを与えると同時に粗飼料も給与している。育成段階で粗飼料の食い込みがよくなるように導入時から与えている。2期は50日齢から、3〜4カ月齢までであり、この期間に去勢を行うためストレスもあり、傷が治るまでの期間同じ牛舎で飼養する。3期が3〜4カ月齢から6〜7カ月齢までであり、この期間に濃厚飼料を多給するとその後の食い込みが弱くなるため、濃厚飼料の給与は極力抑えて、育成段階が終わるまでにいかに多くの粗飼料を給与していくかに注意を払って給与している。そのことが、その後の肥育増大量にも大きく影響を及ぼすためである。

(3)効率的飼養を追求

 屈足肉牛牧場の経営方針は多頭飼育で手をかけないでコスト削減を図り経営を行うことが基本とし、従業員1人当たりのほ育・育成牛は1,000頭である。そのため、導入後の飼養は従来のハッチ方式だけでなく、群飼いによる自動ほ育器(自動ロボット)によるミルクの給与を行っている。ほ育段階での個別管理方式ではなく群飼いでの飼養管理方式であることから、事故率を減少させ健康な肥育素牛を生産するためには、牛の日々の健康状態をきめ細かに観察し飼養していく高い飼養管理技術能力が要求され、そうした人材の確保が極めて重要となっている。作業上、牛舎ごと、あるいは牛群ごとに担当者を決め、牛への予防注射や健康状態などで気付いたことは手帳に記入することを義務付けている。また、導入後に通常の耳標のほか、牧場独自の個体識別の首輪をつけ、自動ほ育器でのミルクの飲む回数と頻度のチェックを行っており、ミルクの飲む量が少ないなど、異常が見られる牛は早期にハッチへ移して個体の飼養管理を行っている。このため、ほ育段階では、群飼いとハッチ方式と併用で飼養している。さらに、50日間のほ育期間が終わり、離乳舎に移された後に牛舎の敷きわらなどの全てを搬出し、消毒作業をその都度行っている。また、マニュアルに基づき、1日の作業終了時点で自動ほ育器の清掃、設置してある施設の掃除などを毎日行うなど、衛生に関して極めて厳しい管理が行われている。

図2 肥育素牛導入ルート


消毒中の牛舎


(有)屈足肉牛牧場代表取締役の小里氏(左)とJA新得町畜産部長の渡辺氏(右)

(4)肥育成績をフィードバックして改善

 子牛取引は、当初、旧JA東伯町とJA新得町の直接取引であった。JA新得町を経由しての屈別肉牛牧場から導入した肥育素牛の肥育成績が良いことから徐々に導入頭数を増やしてきた経緯がある。その背景には、当時JA東伯町は導入ルート別に肥育牛をと畜解体して年間の枝肉等級により肥育成績を整理し、JA新得町と情報交換を行ってきたことがある。肥育素牛を販売する側にとってこの情報の提示は、その後のほ育・育成牛の飼養の参考になり、成績が悪ければ飼養方法を見直し、検討する参考情報でもあった。

 ただし、JA東伯町と屈足肉牛牧場との間では出荷肥育牛の枝肉格付け成績の良かった肥育素牛については、牛1頭当たり導入価格に一定のプレミア料金をつけて支払い、肥育飼養中に特に問題がないにも関わらず枝肉の格付けの悪かった肥育素牛には、一定の値引きを求めるシステムがあった。このため、屈足肉牛牧場側でも質の良い肥育素牛の生産を行うよう努力を続け、飼養管理体制、衛生管理体制強化の見直しを図りながら牛の生産を行ってきている。さらに、JA新得町でも肥育素牛を販売した後も最後まで責任を持つとしており、担当者は東伯町へ出かけ、販売した素牛の肥育状況を確認するとともに、情報の交換を図っている。こうした交流により、相方の経営状況も把握できることから、取引価格の交渉も互いの経営が成立するよう相互が歩み寄り行ってきている。こうした信頼関係の構築が、取引が20年以上継続できている要因と考えられる。旧JA東伯町から引き継いだジェイエイ畜産との取引でも、相互交流が継続して続けられている。

(2) ジェイエイ畜産の経営概況と東伯牛生産への取り組み

1)ジェイエイ畜産の概況

(1)ミートフーズルートを確立

  東伯牛の肥育生産は、旧JA東伯町から2007年1月に養牛と養豚の生産事業を継承したことに始まる。そもそもジェイエイ畜産は、1998年2月に全農畜産施設サービス株式会社の出資により設立されたものであり、当初は養鶏農場、GPセンター及び黒毛和種去勢肥育牛農場での食肉・鶏卵の生産と加工販売事業を行っていた。さらに、2005年には旧JA東伯町の経営再建の一環として食肉事業の受け入れの是非についての検討が開始された。その後、先に述べたように2007年1月に生産事業を引き継ぐことになった。養豚肥育事業についての取引先としては京都生協であり、一方、乳用種去勢肥育牛の取引先としてエフコープとの取引が見られた。そこで、ジェイエイ畜産でも事業の継承を受けて、エフコープとの産直取引事業を進めることになり、販売窓口としてミートフーズを仲介とした取引ルートを確立した。

(2)4農場で飼養管理

 ジェイエイ畜産の事業展開としては、1998年から2001年にかけて、養鶏の施設としての育雛舎、育成舎、成鶏舎及び黒毛和種去勢肥育牛の牛舎の建設を行っている。そして、2007年1月に旧JA東伯町より養牛・養豚の生産事業を引き継ぎしたことにより、先の養鶏施設(賀露養鶏場)との他に、SPF養豚農場3農場(矢下農場、上馬場農場、名和農場)と乳用種去勢肥育牛農場4農場(矢下農場、大成農場、岩舟農場の他に、乳用種去勢肥育牛と黒毛和種去勢肥育牛を飼養している杉地農場)と黒毛和種去勢肥育牛の直営農場(岡益養牛農場)の5農場で肉牛肥育事業を行っている。ジェイエイ畜産の組織構成は図3の通りである。エフコープなどとの取引窓口は販売企画部が担当している。東伯牛の生産担当部署は養牛事業部が担当し、部長1名と社員2名が従事している。営業品目としては、鶏卵、黒毛和種肥育牛、乳用種去勢肥育牛、ハイコープSPF豚の他に牛糞などを堆肥化した特殊肥料を取り扱っている。現在、常時飼養頭羽数は、採卵鶏は320,000羽、肥育牛のうち乳用種去勢肥育牛は1,650頭、黒毛和種去勢肥育牛880頭であり、肉豚ではハイコープSPF母豚970頭、ハイコープSPF種雄豚38頭である。

 東伯牛の肥育生産は、4農場で飼養管理が行われている。各農場の常時飼養頭数と契約生産契約生産農家戸数を見ると、矢下農場の契約農家は2戸であり、常時飼養頭数規模は540頭、同様に大成農場は5戸、常時飼養頭数は1,000頭、岩舟農場は1戸、常時飼養頭規模は200頭、乳用種去勢肥育牛と黒毛和種去勢肥育牛を飼養している杉地農場は3戸、常時飼養頭数は636頭であり、その内乳用種去勢肥育牛は150頭であり、合計の常時飼養頭数は2,526頭である。

図3 株式会社西日本ジェイエイ畜産機構図

(3)委託生産とプレミアム

 ジェイエイ畜産の肉牛肥育事業における乳用種去勢肥育牛は、契約農家との委託生産方式による肥育事業である。契約生産農家と毎年委託契約取り決めを結び委託生産を行っている。そこで、肥育牛舎、肥育素牛、配合飼料については貸与し、契約農家は労働力を提供することになる。契約で一日1頭当たりの労働報酬を取り決めており、出荷段階において目標の830キログラムを上回っての出荷重量と3等級以上であればボーナスを支給することとし、一方、830キログラムを下回り、事故などによる死亡牛が発生すればペナルティを課す取り決めとなっている。


鳥取県(株)西日本ジェイエイ畜産と委託契約生産を結ぶ飼育農家の牛舎

2)飼養管理の特徴

(1)目標体重は830キログラム

 現在、肥育素牛は先に述べたように全頭、北海道の屈足肉牛牧場より導入している。それ以前は、いくつかのルートから導入していたが、肥育中の増体速度が不揃いで出荷に影響が出たことにより、ほ育・育成技術に高い飼養技術を有する屈足肉牛牧場一カ所から1983年より導入を開始した。生後6カ月齢から7カ月齢(280〜330キログラム)の肥育素牛を生後21カ月齢、出荷体重830キロを目標に肥育を行っている。肥育期間については大きく肥育前期(7〜10カ月齢)、中期(11〜15カ月齢)、後期(16〜21カ月齢)の3段階に分けて肥育飼養を行っている。

(2)飼料のコントロール

 東伯牛の飼料給与の特徴は、各段階での独自指定配合飼料(濃厚飼料)の給与と粗飼料の給与割合を変化させていることと、中でも肥育後期に美味しい肉作りのためのかんしょ粉末を含む「ビーフアップ」を添加して給与していることである。各肥育段階の飼料給与の特徴を見てみよう。肥育前期での特徴は、導入した肉牛肥育素牛が健康に育つため骨格や内臓、特に第一胃内の微生物の発酵・増殖が促進される環境を整え、胃を丈夫にして肥育中期の増体量の向上と採食量の増大の維持・継続を図るために粗飼料を中心に給与を行っている。そのため、肥育期間を通じて給与している独自指定配合飼料(東伯ホルス)の他に、大豆粕、チモシー、乾牧草スーダン、稲わら、バガスなどの粗飼料の不断給与とともに給与割合を高めている。肥育素牛導入時の7カ月齢では濃厚飼料6割に対して粗飼料4割であり、前期終了の10カ月齢でも濃厚飼料8割に対して粗飼料2割である。さらに肥育期間を通じて、フスマ、荒麦糖、とうふ粕、ビール粕などを原料とした「ガイナミックス」を給与しており、肥育中期・後期に比べ、肥育前期の給与量は約2倍である。肥育中期での特徴は、濃厚飼料と粗飼料の給与量の割合に気をつけながら、濃厚飼料の不断給与とともに、濃厚飼料の給与量を段階的に増やして増体量を大きくしていくことを狙いとしている。このため、肥育中期以降は濃厚飼料9.5割に対して、粗飼料は0.5割へと低下する。肥育後期での特徴は、美味しい肉作りのために「ビーフアップ」を添加して、融点の低い口の中でとろけやすい脂と肉の脂の旨味となるあまさを高めることを狙いとしている。そのために、濃厚飼料の給与量を段階的に低下させ、それに対して肥育後期の最後の仕上げ段階になるに従い「ビーフアップ」の給与量を段階的に増やしていることが大きな特徴である。こうして、東伯牛の特徴である特有の脂により、調理段階での旨味もよく、煮物には具も美味しく、また焼肉では焼いた時の脂の香りも良く塩とこしょうのみで食べてもらうことを提唱している。

(3)きめ細かな飼養管理

 次に、日々の飼養管理の状況を見てみよう。牛舎の構造や飼養頭数は各団地によりやや異なるが、見学先では1棟に50頭飼養し、5頭ずつ仕切って群飼による飼育方式である。東伯牛の飼育の特徴は、競いながら餌を食べ、好きな場所で寝られるようにして「たくさん餌を食べて、よく寝る牛ほど、良い肉牛に育つ」をモットーに飼養管理を行っていることである。そこで、肉牛が健康に育つ環境を整えていくことが最も大事であることから、以下のような点を中心に注意を払いながら飼養管理を行っている。

 ア 飼料給与は決まった時間に1日2回の給与を行っている。飼料給与量はバケツ一杯ぐらい残る程度に与え、さらに給与量が適正であるのか自動給餌機のチェックも行っている。また、水飲み場の清掃にも努め、きれいな水を与えるよう心がけている。

 イ おがくずの敷き料は定期的に早めに交換し、牛舎環境を整え牛の飼養環境状態を整え、よく休めるように配慮している。

 ウ さらに、夏場の防暑、冬場の防寒対策を講じて、過ごしやすい環境作りに努めている。また、ゆっくりと休めるよう牛舎に人がいない時間を作り、できるだけストレスを与えないよう配慮した飼養も行っている。

 エ 一方で個体ごとの糞の状態や飼料の食い込み状態などの徹底した健康観察を行っている。さらに、飼料給与時には先に粗飼料を与え、次に配合飼料を給与し、牛に多い鼓張症の発症を防ぐ気配りなど、きめ細かな飼養管理が行われ、「徹底した肥育管理のもと愛情を込めて大切に飼育」していることが大きな特徴である。

3)東伯牛の販売先とエフコープの位置付け −約6割がエフコープへ−

  ミートフーズは旧JA東伯町より東伯牛の販売を譲渡され、取扱いをしており、販売頭数の2007年度実績は1,527頭である。その内、エフコープ向けは57.8%(893.5頭)、県内向け販売の鳥取東伯ミートへの販売が37.3%(577頭)、その他(在庫を含む)の販売先は4.9%(76.6頭)である。県内向け販売は、従来は鳥取東伯ミートが販路ルートの拡大と販売促進などの活動を行っていたが、ミートフーズに販売担当が変わったことから、販売力が弱まったとの意見も聞かれる。そうしたこともあり、県外向けエフコープ販売シェアが6割弱と過半数を占めていることから、ミートフーズを経由してのエフコープとの産直取引ルートは極めて重要な販売ルートとなっている。さらに、東伯牛の販売拡大のためには卸売機能を担っているミートフーズの役割と機能強化を強めていくことが重要になっている。

(3) エフコープ生活協同組合の機能と役割

1)エフコープ生協の概況と産直取引の考え方

(1)組合員数44万人強

 エフコープは、1970年代に「本物の牛乳が飲みたい」との主婦の願いから、さらに「安心して食べられるウインナーを」と、消費者が力を合わせ育ててきた市民生協である。福岡県内の5つの市民生協が合併して1983年4月に現在の体制になり、福岡県内のエリア都市を中心に事業を展開している。安心と安全を望む消費者の加入が増大し、組合員数445,560名(2008年3月末)、共同購入組合員数238,485名、職員数は経営・専門スタッフ1,069人(それ以外に定時スタッフ2,329人)、供給高は533億1,200万円であり、九州では最も供給高が大きく、また全国的に見ても供給高の大きい生協である。近年の生協の店舗の推移は、2006年1店舗、2007年に1店舗それぞれ減少し、現在の店舗数は15店舗であり、共同購入支所は県内に22支所を設けている。

(2)産直3原則を追求

 エフコープの理念「ともに生き、ともにつくる、くらしと地域」の実現をめざして、「くらしと地域」、「食の安全」、「福祉と助け合い」、「環境」の4つの部会を設け、エフコープがめざす方向性として21世紀ビジョンをまとめた。食の安全に関する考え方は、2008年度の事業方針の中に「みんなで食の安全を守るために」として5項目を取り上げ、その中に

 ア 「私たちは、食べ物の大切さ、素材の活かし方、商品の良さとよりおいしく食べる工夫などを伝え合い、食生活の大切さを次世代へ伝えていく」、

 イ 「私たちは、商品について学び、意見を出し合い、要望していくことで「私たちの商品」と自信を持っていることを大切にする」、

 ウ 「私たちは、食料自給率の向上を視野に入れ、日本の農業を守るため産直品や生産者を大切にし、産直事業に取り組む」などの取り組み方針を設けている。

 このように日本の農業と生産者を守り、組合員への安心・安全なものを提供していこうとする姿勢が貫かれており、こうした考えの基にエフコープの商品基準には産直3原則に基づいて取り扱う農産、水産、畜産、卵などの産直品(エフコープ商品、日生協コープ商品・コープ九州コープ商品・九州共同開発商品、他生協コープ商品、モノ作り委員会開発など)を取り扱っている。畜産物の産直基準には、産直3原則である、

 ア 生産者・産地が明らかであること、
 イ 育て方・取引条件を互いに確認できること、
 ウ 生産者・産地との交流があること、を必須としている。さらに牛肉については、肥育全期間を通してホルモン剤・抗生物質・合成抗菌剤を使用しないことになっている。このようにエフコープの産直品は生産者と消費者が信頼関係で結ばれ、安心・安全、新鮮で美味しく、より利用しやすい価格で安定的に供給することなどを条件に、先の産直基準を遵守して取引が行われている。

2)牛肉販売に占める東伯牛の位置付け

−取扱いはやや減少傾向−

  エフコープにおける牛肉の共同購入向けと店舗販売向け構成比は、およそ1対1となっており、近年では店舗数が2店舗減少したこともあり、また共同購入における従来からの班配送での販売よりも、個別配送での販売が伸び、全体として共同購入での販売がやや伸びてきている状況にある。牛肉取扱いに占める産直品である東伯牛の占める割合は、共同購入向けは30%前後、店舗販売向けは70%となっている。その様な状況下において東伯牛の取扱い頭数は、2005年度968.5頭(エフコープ向けカット頭数)、2006年度950.5頭、2007年度893.5頭とやや減少傾向にある。このようにエフコープが販売する牛肉に占める産直品としての東伯牛の取扱い数量はやや減少してきており、今後の推移が危惧されている。減少の背景には、東伯牛の供給先が従来のJA東伯町からジェイエイ畜産に引き継がれたことから、組合員への普及啓蒙活動や学習会の取り組み活動がここ1年間停滞していたことが挙げられる。さらに、所得の伸びが見られない中で、低価格志向が強まり、産直品よりも他の国産牛や輸入牛肉の販売の伸びが見られることによる。東伯牛の取引価格の上昇もあり販売価格も値上げせざるを得ない状況にあり、販売の訴求効果を検討しなければならない時期に来ている。そこで、東伯牛の産直取引の実態を見てみよう。

3)取引価格の決定

 −生産原価積み上げ方式を採用−

 東伯牛の取引は、ジェイエイ畜産とエフコープ、さらにミートフーズの3者がたずさわり、取引価格などを決定している。取引価格の決定は、食肉卸売市場の取引価格を参考に決定するのではなく、生産原価積み上げ方式(素牛代金、購入飼料代金、固定資産の原価償却費、委託飼育料金など)による再生産価格を基準価格として年間取引価格を決定している。具体的な取引では、こうした基準価格を基に、B3は何円プラス、B2は何円マイナスなどでの取引価格を決定している。取引期間は4月から翌年の3月までの年間取引方式であり、具体的な取引協議は、前年の12月に生産者側から再生産価格の提示、エフコープ側から共同購入の企画商品の価格提示などを出し合い協議を行っている。その後も年度計画に基づく確認事項について、進捗状況を確認するなどの協議を踏まえて、翌年の要望事項についての協議も行われている。こうした協議を経て3月に翌年度の取引価格の最終決定が行われる。

4)東伯牛の販売ルートと部位別コントロール

(1)二つのルート

  食肉センターでと畜・解体され、部分肉にカットされた東伯牛は、先に述べたようにパックセンターへのルートとみやこハムの二つのルートがある。 みやこハムへは格付等級B2の東伯牛が送られ、共同購入向けの委託のパック包装作業が行われ、パック形態でエフコープの共同配送センターへ配送される。

 パックセンターへは、東伯牛の格付等級B3フルセットと、B2フルセットの一部が送られている。B3は店舗販売分であり、エフコープ店舗のうち店舗内でパックするインストアーパック形態としてそのまま各店舗に配送される。それ以外はセンターパック形態としてパックセンターでパック包装加工された状態で店舗に配送される。B2については共同購入向けであり、パック包装加工後に共同配送センターへ配送される。ただし、2007年度からはB2のセット(ロース、ヒレ、カタロースの部位を除いたセット)を利用した小間切れなどの小間材として販売を行っている。従来から値頃感のある価格で国産牛肉の「小間切れ」商品として、一部余剰部位の東伯牛も使用して販売していたものが、組合員からの東伯牛の「小間切れ」商品が欲しいとの要望を受けて、月のうち1週間に1回、月に4回の特売用商品として「小間切れ」の販売を実施しており、そのうち3回を東伯牛、残りの1回を他の国産牛で販売し好評を博している。


福岡県エフコープ店舗での東伯牛販売風景


福岡県エフコープ店舗での東伯牛の宣伝看板

(2)不需要部位への対応が課題

 各店舗から商品の発注は、センターパック形態で納入する店舗については、EDI(Electronic Data Interchange(電子データ交換);伝票や文書を電子データで自動的に交換)により各店舗の担当バイヤーがエフコープ本部からコープ九州を経由してパックセンターへ商品別数量の発注を行っている。また、インストアーパックする店舗については、月間での一応の取引数量を決めておき、FAXにより週に1回から2回の追加発注をしている。

 東伯牛の取引は月間発注による冷蔵形態のフルセット仕入であることから、インストアーパック店舗分については、毎週水曜日に店舗担当者と生協本部、及びミートフーズの3者の担当者が集まり、現状の部位別の販売状況と余剰部位の在庫状況を踏まえ、在庫調整分の処理・対応方法を含め今後の企画検討についての話し合いを行っている。インストアーパック店舗における販売対応での余剰部位が在庫として残るケースでは、共同購入販売のルートの持つ強みを発揮して、冷凍品の商品向けとして対応している。例えば、夏場にカタロースやリブロースが在庫として残るケースでは、冬場の年末需要に合わせてすき焼き用として共同購入商品として販売対応を図っている。

表 東伯牛の部位別構成

   東伯牛も従来はパーツ取引であったが、品質の格付等級ごとの取引とはなっていなかった。このため、品質にばらつきが見られたことから、2000年からフルセットでの取引に転換したことにより、グレードの高い肉牛からエフコープ向け販売を行うことになった。ただし、フルセット形態へ仕入形態が変わったことから、不需要部位への対応が問題となってきている。今後、東伯牛を納入するJA全農ミートフーズとともに、各店舗のバイヤーも含め新たな商品作りと販売促進活動を強化していくことが大きな課題である。

3. JA全農ミートフーズの機能と役割 ─部位別調整から販売促進まで重要な役割─

 これまで見てきたように産地側において旧JA東伯町が関わっていた時代には、エフコープとの直接産直取引であったが、ジェイエイ畜産が生産に関わるようになってからはミートフーズが産地側と消費地側でのエフコープとの取引窓口となってきている。そこで、本事例での産直取引を円滑に推進していく上でのミートフーズの機能と役割を見てみよう。

 産地側での対ジェイエイ畜産との業務窓口となるのはミートフーズ西日本営業本部鳥取営業所で、枝肉の仕入、牛部分肉カットの委託とともに、パックセンターへの出荷・販売業務、および産直取引事業の産地業務を担当している。一方、消費地側での業務としては、原料のパック包装製品製造、原料肉の仕入と販売、部位別調整と配送業務、さらには産直取引事業の消費地業務を担当している。エフコープにおいて東伯牛の取扱量構成割合が減少している状況下において特に重要な業務は、従来の旧JA東伯町駐在員が行っていた主要な業務である、組合員への学習会や試食会などの販売促進活動による普及活動の役割を担っていくことが求められる。また、産直事業におけるフルセット取引での大きな問題点である部位別の需給調整機能をいかに高めていくかが重要な役割である。特に、不需要部位について新たに売れる商材を開発しエフコープに提案し、組合員に試食提案を行い、販売促進を図っていくことが必要と考える。こうした活動は産地側のジェイエイ畜産とも情報交換を行いながら相互連携を深めて取り組むことが重要である。さらに、今日、食品偽装表示事件が多発して食の安心・安全への信頼が揺らぎはじめている。そのため東伯牛の安心・安全のためのトレーサビリティーシステムを推進していくために、産地側のジェイエイ畜産と鳥取営業所における産地側での個体識別番号の他に飼料給与など生産情報などの情報の収集と伝達、さらに消費地側におけるパックセンターでの加工日、商品名、規格重量などの情報を製造ロットナンバーとしてラベル表示するなど、商品のラベルに表示して組合員に対して生産・流通加工に関する正確な情報を提供していく役割を担っている。このように、ミートフーズは産地側と消費地側のそれぞれの立場で産直事業の担い手として関わることになる。そのため、今後、消費地側のエフコープや組合員の要望を産地側へ伝達していく一方で、産地側の対応状況などを消費地側に伝達していくなど産直事業の結節点として、ジェイエイ畜産とともに重要な機能と役割を果たしていくことが求められている。

まとめ

(1)互いの経営を尊重

 ジェイエイ畜産が肥育素牛を導入している、屈足肉牛牧場、JA新得町との取引では、先の述べたように相互の交流を図ることにより、お互いの運営状況を把握できることから互いの経営が継続できる範囲で歩み寄りながら取引を行ってきた。そこには、生産供給側では品質の良い肥育素牛の生産・供給への日々の努力が行われ、肥育を行う東伯町の信頼を得たことが挙げられる。さらに、相互交流による互いの信頼関係が構築されてきたことが取引継続に結びついたものと考えられる。そうした考えは、北海道新得町から鳥取県東伯町までの肥育素牛の輸送に従事する運転手にまで行き届いている。20年以上輸送に関わる運転手は、3日間をかけて輸送途中の肥育素牛への給水、給餌、休憩など健康状態に気をつけながら、輸送中に体調を崩さないようフェリーに乗り換える場所の変更など輸送ルートなどにも気配りしながら、東伯町まで輸送を行っており、これまでに輸送途中での事故は皆無である。こうして健康な牛を東伯町へ届けている。

(2)前提となる酪農経営の再生産

 ただし乳用雄子牛の安定調達は、ほ育・肥育素牛経営における重要な課題であるとともに、安定した酪農経営が極めて重要である。乳価の低迷と飼料価格の高騰により、酪農経営の存続は危ぶまれており、搾乳牛の減少はそのまま肥育素牛の減少につながることになる。このため、酪農経営の再生産の確保が重要であり、そのことによりほ育・肥育素牛農家、さらには肥育牛農家の経営も成立することになる。こうした畜産経営を取り巻く厳しい状況下において、ほ育・肥育素牛牧場でもコスト削減による再生産のために自動ほ育器の導入などによる多頭飼育でコストをかけないで生産する飼養形態を採用している。また、敷き料価格が高いため、一回使用後に牛舎から搬出して20日間程度再度発酵させ雑菌を死滅させて、これを3回から5回繰り返して敷き料として使用することにより、コストの削減を図っている。それでも、これ以上コストを削減できない最低ラインまで来ており、厳しい経営環境での肥育飼養が行われていることを認識した。

(3)経営環境の変化と検討の必要性

 東伯牛の出荷体重は830キロを目標に肥育されているが、2007年度実績では790キログラム、2008年度に入り820キログラムと、目標にまでは達していない。2年ほど前に出荷体重が大幅に落ち込みを見せた背景には、輸入粗飼料の品質低下が一つの要因であったとされている。その後、品質の良い粗飼料の給与と飼育管理の向上により徐々に出荷体重は増加してきている。そうした経緯もあり、肥育前期での粗飼料の品質向上と十分な不断給与が必要になっている。北海道の育成生産者側からは、「育成の最後の3期目に給与している粗飼料と、ジェイエイ畜産で導入後の肥育前期に給与している粗飼料が異なることから、導入後1カ月程度は馴れるまでに粗飼料の食い込みが悪くなることから、その後の肥育増大量に影響を及ぼす」との見解が聞かれる。今後、粗飼料の確保とともに、品質と種類についても課題となっている。一方、販売するエフコープ側からの要望として、納入される東伯牛のうちB3等級の割合が2割程度に落ちてきていることから、店舗供給分についてのB3等級の確保を要望している。その背景には、売場での見栄えが販売にも大きな影響を及ぼし、現に売上げに影響が出ているとエフコープ側は考えている。乳用雄去勢牛の肉質の低下は近年、特に乳牛の乳量重視への改良が進んだことから発生し、従来に比べB3等級の割合が低下傾向にあると一般言われている。このため、販売側からの求めに対応していくためには、これまで以上に飼養管理技術の向上と平準化、さらには現在の飼料給与体系についても再度検証していくことが課題となっている。

 エフコープにおける牛肉に占める東伯牛の取扱数量割合は4割と以前に比べやや減少してきている。その背景には第一に取引先が従来の旧JA東伯町からジェイエイ畜産に変わり、生協組合員への普及啓蒙活動や学習会などへの取り組みがここ一年間停滞していたこと、第二に産直東伯牛以外の国産牛肉と輸入牛肉の割合が高まりを見せていることがあげられる。

(4)重要な組合員への働きかけ

 第一の課題は、旧JA東伯町との産直取引では農協職員1名が福岡駐在員として常駐し、組合員への学習会などを通じて組合員や生協担当者の要望事項など生の声を聞き、そうした情報を産地側の農協へ伝達していた。さらに、生協組合員の要望を受けて、生協担当者とともに産地側では積極的に新たな商品作りへの取り組みを行ってきた。また、生協組合員が産地訪問の際には同行し、生協と農協との架け橋の役割も担っていた。こうした日々の地道な取り組み活動が、生協側の信頼を勝ち得て長期にわたり産直取引が継続できた大きな要因であったと考えられる。これらの取り組みが一時途絶えたことから、旧JA東伯町時代に産直取引に関わっていた人材を販売企画部長としてジェイエイ畜産が再雇用し、エフコープとの関係強化の再構築を進めつつある。第二の課題は、東伯牛の取扱いがここ2年から3年前頃から徐々に取扱量が減少してきていることである。この背景には国産牛肉の市場取引価格が値下がり傾向にあり、そのため産直取引価格との価格差が見られ、生協担当者によれば「2割以上の価格差になると販売しづらくなってくる」との声も聞かれる。生協組合員の一部には産直品の意義について関心が無く、価格のみで購入する者も見られるためとも言われている。そうした組合員への理解醸成のためにも、これまで進めてきた生協の販促活動である組合員向けと職員向けの学習会、産地側の取り組みの説明会、レシピやPOPの作成を含め試食販売などへの取り組み強化が是非とも必要であると考えられる。取引の維持拡大を図るためには、フルセットでの取引であることから、部位別バランスを出来るだけ少なくして販売していくかが大きな課題である。そのためには、季節ごとの不需要部位を利用した新たな商品作りを開発していくことが求められる。そうした対応を図らなければ、在庫が増大し取引拡大の足かせとなるためである。

(5)期待されるミートフーズの今後の役割

 こうした取り組みについては、エフコープと産地側のジェイエイ畜産の他に、新たに消費地側での東伯牛の販売に当たることになったミートフーズの役割は極めて重要である。本来の東伯牛を含めた食肉の受発注業務とパック包装加工業務、配送業務などの本来業務以外に、学習会を通じての普及活動や店頭での販売促進活動、新たな商品作りの提案などの業務も産地側のジェイエイ畜産と相互協力により対応強化を図っていくことが強く望まれる。こうした日々の取り組み活動により生協組合員の信頼を勝ち得ていくことが取引継続のカギと言える。そのためには、組合員への普及活動、販売促進活動、新たな商品作りなどに関わるミートフーズと生協担当者、さらに消費地側の要望に耳を傾けそれに対応していく産地側のジェイエイ畜産がそれぞれ緊密に連携しながら、組合員のニーズに対応を図っていくことが重要である。

 こうした問題点と課題はあるとはいえ、エフコープの牛肉売場で東伯牛を基本的な品揃え商品として位置付けて販売を行っている。さらには、22年間の長きにわたって産直取引活動と交流を図って、相互の協力と信頼の絆を築き上げて取引が継続してきたことは注目に値する事例である。今後の国産牛肉の販売戦略および産直取引を推進する上で重要な示唆を与える好事例である。


北海道新得町から鳥取、さらに福岡へと南北を絆で結ぶ産直取引

 


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